Essay エッセイ
2019年06月18日

日本人、ありがとう!

5月の後半は、日本で過ごしました。



元号が変わったばかりで、何かしら新しいことが起きているのかと警戒しつつも、いつもと同じ空気が流れていてホッといたしました。



日本から戻って来て息つく間もなく、連れ合いは、テキサス州に出張となりました。



州都でもあるオースティン(Austin)という街で開かれた、石油業界のコンファランスに出席するためです。



いえ、我が家は石油業界には縁のない人生を歩んできましたが、昔ながらの産業もテクノロジー化が求められていて、そこで連れ合いが目新しいアイディアを披露し、お客さんを探してみようということになったのです。



エリザベス・テーラーの主演映画『ジャイアンツ(Giant)』(1956年公開)などでも克明に描かれているように、テキサスという州は、牧畜と石油の採掘で豊かになった広大な土地。歴史的に石油関連企業が多いものの、近年はテクノロジー産業に従事する人も増えてきて、新しい文化も生まれているようです。



そんなテキサスの会議には、地元企業ばかりではなく、他州からも参加します。



たとえば、「あなたの裏庭が油田の上に乗っかってるんだったら、うちの掘削機で原油を掘り出してあげましょう」と、1億円ほどで原油採掘の設備をお膳立てしてくれる会社もありました。掘り出した原油は、石油会社に売る手筈(てはず)も整えてくれるそうなので、素人でも自宅で石油が掘れるようになるのです。



なんでも、イエローストーン国立公園で有名なモンタナ州などは、原油の埋蔵量がとても多い土地だそうで、行政の許可さえ下りれば、「裏庭の油田で石油王!」というのも夢ではないのです。



でっかいアメリカの真ん中の北あたり、モンタナ州から南北ダコタ州、カナダにかけてはウィリストン盆地(Williston Basin)という広大な盆地が広がっていて、アラスカやテキサスと並んで、原油の埋蔵量がアメリカでもっとも多い地域。



もちろん、街中では採掘はできないでしょうけれど、「裏庭の石油王」は、なにも映画のお話とは限らないそうです。(地図の上部中央、大きな丸印がウィリストン盆地: Data by US Geological Survey)




と、石油で成功することを夢見る人々の会議で、連れ合いはテキサス州出身の若者に出会いました。



彼は、大手石油会社に勤めたあと、今は大学の教員をしながら自分で会社を起こして、業界での成功に向かって邁進中。



連れ合いが日本人だと知って、「僕の日本観」を披露してくれました。



何年か前、まだ大手石油会社で研究職に就いていた頃、若手の彼は、日本の石油会社に出張を命じられました。



が、なにせアメリカの真ん中で育った彼には、初めての日本は右も左もわからないし、言葉も習慣もまったくわからない。



結局のところ、頼りは英語の通じるホテルと、行き帰りに使うタクシーとなるのですが、ある日、タクシーに乗って相手先の石油会社に向かう途中、カバンから何かを取り出す拍子に、命の次に大事なパスポートを落っことしてしまうのです。



ところが、本人はそれには気づかず、無事に会議を終え、ホッとしてホテルに戻って来ると、フロント係に呼び止められて「あなたのパスポートが届いていましたよ」と手渡されたではありませんか!



びっくりした彼がホテルスタッフから事情を聞いたところによると、彼の次にタクシーに乗った人が、パスポートを拾って運転手さんに託します。大事なものだと承知する運転手さんは、急いで彼を下ろした石油会社に引き返すのです。



が、この会社は、一日に何百人も訪ねて来るような大企業。パスポートの持ち主が、どこの課の誰と会議をしているのか受付ではわからない。「うちでは預かりかねます」と断られた運転手さんは、次に彼を拾ったホテルへと向かいます。そこでパスポートを見せると、「この方はご宿泊のお客様です」と、身元が割れたという顛末。



驚いたご本人は、もう冷や汗をかいたり、記憶の中の運転手さんに感謝したり。




初めての国で、これほどの親切をしてもらった彼にとって、日本は「好感度バツグン」の地となったことでしょう。



そんな好印象が功を奏したのか、彼は、連れ合いの会社の製品を自分が売り込んであげましょう、と汗を流しているところです。



そして、このエピソードを耳にしたわたしは、自分自身の経験を思い出しました。



以前「イギリス人、万歳!」というエッセイでもご紹介したことがありますが、イギリスの大都会ロンドンで同じような親切を受けて、わたしの中のイギリス株がグングンと上がっていったのでした。



イギリスも日本も島国の農耕民族ですので、似たような部分が多いというのが我が家の持論なんですが、「一般的に人に親切」というのも立派な共通点だと信ずるのです。



こう考えると、外国人と接する機会の多いホテルスタッフやタクシードライバー、そして来年のオリンピック・パラリンピックでボランティアを務める方々などは、国を代表して重い任務を背負っている! と言えるのかもしれませんよね。



でも、気取らず、気負わず、「普段通り」にやっていれば、案外それがいいのかもしれません。



<写真のご説明>

アジサイの写真は、「卑弥呼(ひみこ)」という珍しい品種です。

最後の写真は、東京・晴海(はるみ)に建設中のオリンピック選手村の遠景。着々とできているのです。




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