Life in California
ライフ in カリフォルニア/歴史・習慣
Life in California ライフ in カリフォルニア
2010年03月21日

アイリッシュダンスとアイルランド料理

ちょうど一年前に「緑色のセント・パトリックス・デー」というお話を書きました。3月17日は、セント・パトリックス・デー(St. Patrick’s Day)と呼ばれる日で、みんなで緑色の服を着て、にぎやかにお祝いをするのですと。

もともとは、アイルランドの守護聖人・聖パトリックをお祝いする日ではありますが、それが、はるかかなたアメリカにも根付いていて、アメリカ人も心待ちにしている一日となっているのです。

どうしてって、カトリックの聖人をお祝いする日のわりに宗教色が強くないし、おまけに子供たちはパレードを観たり、大人たちはたくさんお酒が飲めたりと、いっぱい楽しめるから。


例年、わたしもちゃんと緑色の服を着てお出かけするのですが、今年はミーティングのお相手ももちろん緑色を着ていましたし、彼女のオフィスの受付には、緑色の鮮やかなカップケーキが登場していました(カップケーキは小さな丸い型に入れて焼いたケーキで、上には色鮮やかなクリームが乗っかっていて、子供たちが大好きなお菓子です)。

受付の人には「カップケーキいかが?(Would you like some cupcake?)」と勧められましたが、さすがに緑色のクリームには躊躇してしまいましたので、にこやかにお断りいたしました。

そして、その晩は、近くのクラブハウスでアイルランドのダンスを見せていただきました。

そう、アイリッシュダンスといえば、『リバーダンス』というショーで世界的に有名になりましたが、上半身はそのままで足を忙しく動かしながら、右へ左へ前へ後ろへと動きまわる、楽しげな踊りですね。

基本的には、タップダンスみたいに足で拍子を取りながら踊るのですが、上半身を固定しながら足だけ動かすのは、かなり難しいだろうと思うのです。

それに、体の向きをクルクルと変えながら踊るので、観るのも忙しいし、写真を撮るのも難しいのです。まるでミツバチのように動きまわって、片時もじっとしてくれないので、シャッターチャンスをすっかり逃してしまいます。

彼女たちは、きっと地元のアイリッシュダンスの学校に通っている子たちなのでしょう。「Golden Greene Irish Dancers」なんて立派に名前も付いています。

みなさん色鮮やかな衣装に身を包み、髪の毛もクルクルにカールしています。このように髪をカールするのは、もともとアイルランドの女のコは髪を「お嬢様カール」にしていたところから来ているんだそうです。
 おまけにピカピカのティアラも付けていて、最大限のおしゃれって感じですよね。(女のコにはとっても嬉しいことです!)

けれども、アメリカでもアイリッシュダンスの競技大会が開かれたりするようなので、本人たちにしてみれば、かなりシリアスな習い事なのかもしれません。

ダンサーのみなさんは、小さな子から大きな子まで年齢もまちまちでしたが、小さな女のコもおすましのポーズで、それがとってもかわいく感じられました。小さくても、踊りのステップはしっかりしていて、なかなかのものでしたよ。

アイリッシュダンスを間近に観るのは初めての経験でしたが、あの小気味の良いバイオリンの音に乗って、かわいい女のコたちが元気のいいダンスを披露してくれて、早春にふさわしい、すがすがしい気分になりました。

それに、観る方だってかなり気合いが入っていて、ほら、こちらの家族なんて、緑色の服だけじゃ足りなくて、首から光るネックレスを下げているでしょう。

このアイリッシュダンサーたちは、昨年とても好評だったので、今年ももう一度ご招待されたんだそうですよ。


そして、この晩のもうひとつのイベントは、アイリッシュビュッフェです。ビュッフェとは、日本で言う「バイキング形式の食事」のことですね。(英語ではbuffetと書き、後ろにアクセントが付く「バッフェ」と発音します。)

セント・パトリックス・デーにちなんで、アイルランドの地元のご馳走を再現して、みんなで食べられるだけ堪能しましょうよ!というイベントなのです。

もちろん、食べる方にとっては楽しみなイベントではありますが、レストランだって十分に楽しんでいて、飾り付けにもいろいろと凝っているのです。
 こちらの写真では、「Lucky Shamrock Pub」なんて小さな看板が見えていますが、僕たちは「ラッキーな三つ葉のクローバーのパブ」なんだよと洒落こんでいるのです。

さて、肝心のお料理ですが、わたし自身はアイルランドには行ったことがないので、アイルランド料理と聞いても、何も頭に浮かんできません。それで、いったいどんなお料理なんだろうと、興味津々でした。

そして、この晩ちょっとわかったことは、アイルランドのお料理にはジャガイモやキャベツが大活躍するのかもしれないな、ということでした。

たとえば、こちらのケーキ風のもの。これは、マッシュポテトをパンケーキ風に焼いたものですが、なんでも、アイルランドでは有名なお料理なんだそうです。
 「Boxty(バクスタイ)」というジャガイモのパンケーキで、鉄板でこんがりと焼くので「potato griddle cake(ポテト鉄板ケーキ)」とも呼ばれているようです。

マッシュポテトに小麦粉を混ぜて、それにバターミルクと卵を加えて、パンケーキのように両面を焼きます。
 こちらのレストランでは、わざと緑色にするために、バジルのペースト(basil pesto)を混ぜ込んでありましたが、それがなかなかいい香りを出していました。

いつかボストンでドイツ風のレストランに入ったとき、薄くカリカリに焼いたポテトパンケーキを食べたことがありました。そちらのものは、リンゴジャムが合わせてあったので、どちらかというと、おやつ風の食べ物だったようです。
 こちらのアイルランドのものは、タマネギのみじん切りを入れることもあるようなので、甘いパンケーキというよりも、ポテトでできた付け合わせといった感じでしょうか。
 表面のカリカリ感とは対照的に、中はふんわりとして素朴な味わいでした。

そして、ジャガイモに加えて、キャベツも良く使うのではないかなと思ったのは、こちらのお料理でした。

こちらは、「corned beef and cabbage (コーンビーフとキャベツ)」ですが、アメリカでお祝いするセント・パトリックス・デーには、なくてはならない食べ物なんだそうです。

コーンビーフというのは、牛肉を塩水に浸して保存できるようにしたものですが、缶詰になったものは日本でもお馴染みですよね。

もともとアイルランドではコーンビーフを食べる習慣はなかったそうですが、アメリカに移住して来たアイルランド系の人たちが、「ベーコンとキャベツ」のお料理を作るときにベーコンをコーンビーフで代用したところから、コーンビーフ=アイルランド系=セント・パトリックス・デーの食べ物、というイメージができあがったそうです。

缶詰になったコーンビーフもおいしいですけれども、こちらの自家製コーンビーフはとってもおいしかったですよ。ちょっと辛みのある西洋わさびのクリームソース(horseradish cream sauce)で味付けしていましたが、ブラウンシュガーが入っているので、まろやかなお味になっていました。

我が家では、普段は牛肉を食べないのですが、おかわりをするほど気に入ったというのは、よほどおいしかったということでしょう。(上の写真ではキャベツがあまり見えていませんが、コーンビーフの下にたっぷりと入っているのです。)

ビーフと一緒に目を引いたのが、子羊でした。こちらの写真の一番手前に見えているのは、子羊を野菜と煮込んでシチューにしたものです。「Irish Lamb Stew(アイルランドの子羊のシチュー)」というと、やっぱりあちらでは立派な名物料理なんだそうです。

こちらのシチューは、「Guinness Braised Lamb Stew」という名前にしてあったので、地元のギネスビールで蒸し煮にした子羊をジャガイモやパールオニオン(真珠よりちょっと大きいサイズのタマネギ)と一緒に煮込んでいたようです。
 味は、こってりと香ばしいデミグラスソースと言えば、わかり易いでしょうか。

なんでも、アイルランドという国は、11世紀中頃にフランスのノルマンディー地方から隣国イギリスに攻めて来た、ウィリアム1世のノルマン王朝の影響を受けているそうなので、食事にもフランスとかイタリアの影響が色濃く残っているということです。
 デミグラスソースも、その頃から貴族たちの間で好まれていたのかもしれません。

でも、もともとアイルランドはケルト人の住んでいた国なので、牛や羊の放牧を生業(なりわい)としていたのでしょう。ですから、食事も肉や乳製品、そして小麦やカラス麦といった穀類や豆類が中心だったようです。

それが、16世紀後半にジャガイモが入って来て、農民たちがジャガイモ栽培に精を出し始めてからは、食事の内容も変わってきたようです。とくに隣国イギリスにジャガイモを輸出するようになってからは、国の一番大事な農作物となったので、庶民の食卓にも、乳製品や麦に代わって、ジャガイモが載るようになったようです。

けれども、このジャガイモが悲劇の引き金にもなったことがありまして、18世紀中頃には、冷害による飢饉(ききん)が起きましたし、19世紀中頃には、ジャガイモの病気が国中に広がって、大飢饉が起きたのでした。
 このときは、ジャガイモはたった一種類しか栽培されていなかったので、病気がヨーロッパ大陸から広がってきたときには、大部分のジャガイモが被害に遭って、庶民は何年も食べるものもなく、多くが命を失いました。
 この大飢饉をきっかけに、アメリカへ移住する人たちも増えたのですが、このとき国の人口は、いっぺんに2割から3割も減ったと言われています。

でも、やっぱりジャガイモに対する愛着は消えなかったようですね。長い間、主要作物として栽培してきた歴史があるので、今でもジャガイモが大事な食材であることに変わりはありません。


ちょっと話が脱線してしまいましたが、この晩のビュッフェで気に入った中には、こちらのスープがありました。ニラ(leek)のクリームスープだそうですが、クリームスープのわりにあっさりしていて、あまりニラくさくもなく、お食事の前菜としては最適なものでした。

こういうスープは庶民的ですし、体が温まるし、なんとなくホッとする食べ物ですよね。

さて、アメリカ人にとって絶対に忘れてはならないものと言えば、そう、デザートですね!
 鮮やかな緑色のクリームが乗っかったチョコレートケーキだとか、緑色の三つ葉のクッキーだとか、とっても甘そうなもののオンパレードとなっています。

まあ、正直に申し上げて、あんまりおいしいわけではありませんけれども、緑色がテーマのこの日を締めくくるには、もってこいの食べ物ではありました。


そうそう、このセント・パトリックス・デーには、ホワイトハウスでオバマ大統領主催の午餐会が催されたそうですが、こちらの下院議員の方は、その会に出席なさったのでしょうか。それとも、単に「おしゃれ」な方なのでしょうか。緑色のネクタイと三つ葉のクローバーを付けていらっしゃいますよね。

この方は、連邦下院議会の多数派リーダー(House Majority Leader)という要職に就いている、民主党のステニー・ホイヤー議員です。しっかりと緑色のおしゃれをしているので、もしかしたらアイルランド系の方かと思ったのですが、実は、お父さんがデンマークから移住して来たので、デンマーク系2世の方なんだそうです。

それにしても、アイルランドだの、デンマークだのと、アメリカにはいろんな人がいるものですよ。だから、住んでいて楽しいことも多いんですけれどね!


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