Life in California
ライフ in カリフォルニア/日常生活
Life in California ライフ in カリフォルニア
2011年03月17日

アメリカ人って神経質?

東北沖の大地震・大津波の余波は、遠くアメリカにも確実に届いているようです。

最初の週末が明けた月曜日。シリコンバレーのローカルニュースでは、こんなことを報道していました。
「街じゅうの薬屋さんから、Potassium iodide(ポタシウム・アイオダイド)が消えている」と。

最初わたしは、何の話だろう? と首をかしげていたのです。

けれども、あとから日本の報道などを考え合わせると、どうも potassium iodide というのは、日本でも話題になっている「ヨウ化カリウム」のことで、甲状腺が放射性ヨウ素を吸収するのを防ぐために、放射線を被曝した直後に服用するものらしい、ということがわかったのでした。

それにしても、どうしてアメリカでヨウ化カリウムが売り切れたり、値段がつり上がったりするのかと、ちょっと呆れてしまったのでした。だって、日本よりも先に、ヨウ化カリウムの錠剤や液体が激しく売買されていたと思われるからなのです。

アメリカ人って、何でも先延ばしにする「先延ばし屋さん(procrastinator)」の傾向があるのに、どうしてこんなときだけ行動が素早いのだろう? と、ちょっと呆れてしまったのでした。


この巷の大騒ぎに関して、翌日のローカルニュースでは、こんな取材をしていました。

カリフォルニア大学バークレー校の原子力の専門家に話を聞きに行ったのですが、この日本出身の韓国系アメリカ人の先生は、こう断言なさっていました。

「カリフォルニアに放射性物質が到達したにしても、ヨウ化カリウムを服用するほどの放射能が含まれているとは考え難い。ヨウ化カリウムの副作用を考えると、勝手に服用するのはかえって危険である」と。

なんでも、ヨウ化カリウムが効果的とされる「放射性ヨウ素(radioactive iodine、iodine-131)」は、米国西海岸に達する頃にはかなり減衰しているということで、核の惨事が起きたときには、かえってヨウ化カリウムの効果のない「セシウム137(cesium-137)」の方が恐い、ということです。


そして、世の中のほとんどの専門家も「ヨウ化カリウムを買うことはない」と、警告を発しているのでした。ただひとりを除いて。

ちょうどサンフランシスコ・ベイエリアを訪問していたアメリカ政府の高官が、この日「問題発言」をしたのです。

米国公衆衛生局長官(the U. S. Surgeon General)のレジーナ・ベンジャミン医師は、この日ベイエリアの病院を訪れていたのですが、バークレーの先生に取材した記者が同じ質問を彼女にすると、意外にも、こんな答えが返ってきたのでした。

「(ヨウ化カリウムでも、何でも)準備するに超したことはないんじゃない? だって、(2001年の)同時多発テロとか、(2005年の)ハリケーン・カトリーナとか、そして今回の大地震とか、いろんなことがあったでしょ。(ヨウ化カリウムで)たったひとつの命が救われたとしても、それはいいことよね」と。


いえ、わたしはこれを聞いて、「ちょっとまずいんじゃない?」と思ったのです。だって、普通、政府の高官だったら、一般市民を安心させるようなことを言うでしょう。多少ウソをついてでも。

そして、案の定、翌日の水曜日には、公衆衛生局の属する米国保健福祉省(the U. S. Department of Health and Human Services)のスタッフが、対応に追われたのでした。

「いえ、彼女は『準備することはいいことだ』と言ったまでのことで、決して今の時点でヨウ化カリウムを買いに走ることを勧めているわけではないのです。心配な住民は、州や自治体の医療専門家の言うことをよく聞くように」と。

そして、急遽、バークレーにも原子力の専門家たちが集い、「ベイエリアで放射線が測定されたとしても、それがすぐに人体に影響を与えると考えてはいけない」と、騒ぎの沈静化に努めたのでした。

う~ん、なんとなく、日本の政治家の問題発言を思い浮かべるようではありますが、それにしても、ベンジャミン長官はお医者さんのくせに、軽はずみな発言をしたものだと、なかば感心してしまったのでした。

ちなみに、この方は、オバマ大統領が就任した一昨年、オバマさんによって長官職に任命されたのですが、なんでも、ハリケーン・カトリーナのときに、現地の人々を献身的に助けた医師として名をあげた方のようです。

まあ、カリフォルニアでヨウ化カリウムの「買い占め現象」が起きているなんて、まったくご存じではなかったそうなので、お気楽な問題発言も理解できないことはないのですが・・・。


今は、世界中が「福島第一原子力発電所(the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant)」に注目しています。

現時点では、現地でがんばっていらっしゃる方々に頼るしかないわけですが、「どうか大惨事が防げますように。ヨウ化カリウムの買い占めが笑い話となりますように」と、心の底から祈っているところです。

そして、一刻も早く被災地の方々に支援物資が届き、少しでも安心して避難生活が送れますようにと、切に願っているのです。


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