Silicon Valley NOW シリコンバレーナウ
2007年01月23日

CES:今年のコンスーマ・エレクトロニクスショー

Vol. 90

CES:今年のコンスーマ・エレクトロニクスショー

アメリカは、元日を過ぎると、もうエンジン全開でお仕事です。そして、新年第二週目には、さっそくラスヴェガスでCES(コンスーマ・エレクトロニクスショー)が開かれました。
今年はCESも40回目を迎え、ますますパワーアップ。今ではすっかりCOMDEX(コムデックス)の代役として定着し、IT業界の祭典となっています。毎年膨れ上がる出展数に、会場もフットボール場30個分だそうな。
当初CESは、ラジオやテレビなど、昔ながらの家電製品のデビューの場だったそうですが、時代の流れは、恐ろしいくらいに速いものなのです。

さて、そんな巨大な、最新情報満載の「靴底が磨り減る」賑々しい祭典ですが、わたくしなりに気になったことを、5つの観点からお話いたしましょう。


<ユーザーインターフェイス>

先月号で、マイクロソフトの新しいMP3プレーヤー「Zune(ズーン)」のお話をいたしました。実は、前回書いたときは、実際に触る機会はなかったのですが、CES会場の休憩場にZuneコーナーが設けてあって、ちょっと触ってみたのです。
何やら、アップル(旧アップルコンピュータ)のiPodのような丸いダイヤルが付いていて、気が付いてみると、これを一生懸命まわしているのです。でも、iPodじゃあるまいし、ボリュームを大きくするには、丸いダイヤルの上の部分をポコポコと押していく方式になっているのですね。そして、曲を選択するには、ダイヤルを右左に押すといった感じ。
で、こんな間違いは、初めてZuneを手にした、ほとんどすべての人がやってしまうと思うのです。それほど、iPodのユーザーインターフェイスは、人々の脳裏に深く刻まれている。

そして、CESと並行して開かれていたサンフランシスコのMacworld(マックワールド)では、アップルの「iPhone(アイフォン)」が発表されました。長い間、噂されていながら、誰も詳細を知らなかった新型ケータイ。
いきなり、CESの話から逸れて申し訳ありませんが、わたしはラスヴェガスのホテルでこのニュースを観た時、「やられた!」と思ったのです。
何がって、電話なのに、キーボードがない。iPodのフェースがパカッとスライドしてキーボードが出てくるような、「スライダー式」なんかじゃない。そんな凡人が考え出すような代物ではなく、「キーボード?そんなものいらないよ!」とでも言わんばかりの、傍若無人な製品なのです。
タッチスクリーンの威力はすごいもので、たとえば、音楽を聴こうと思ったら、単に指先で画面をちょいちょいっとスクロールするだけ。そのメニュー画面のスクロールの速さは、目を見張るものがあります。マイクロソフトWindowsでメニューをスクロールするのとはわけが違う。

しかも、このデバイスを縦横に動かすと、自然と画面が縦向き、横向きに変わってくれる。サムスンが、両方向用にヒンジがふたつ付いたケータイ「SCH-u740」(写 真)を出していたけれど、その一歩先を行くようなデザインです。

この「iPhone」の2年に渡る製品開発については、裏話は何も漏れ聞いておりませんが、想像するに、スティーヴ・ジョブスさんの意向が、かなり濃く反映されているのだと思います。「君たちは、何のためにiPodを作ったんだ?ケータイにキーボードなんて、今まで培ってきたiPodのユーザーインターフェイスを壊してしまうようなものじゃないか!」とでも、部下に熱く語っていたのではないでしょうか。
まあ、確かに、ケータイにアドレス帳が入っていて、タッチスクリーン上にキーパッドが出てくれば、キーボードなんていらないのかもしれませんね。

「iPhone」発売は今年6月だそうですが、来年2008年の一年間で、世界携帯電話市場の1パーセント、つまり1千万台という大胆な売上げ目標です。実際、どこまで伸びるのか、お手並み拝見。
アップルが独占契約した携帯キャリアCingularでは、2年契約で500ドル(4GBモデル)と600ドル(8GBモデル)と、ちょっとお高いところが難点ではあります。なにせ、アメリカという国は、昨年売れたケータイの平均価格はわずか60数ドル、という渋い市場ですからね。


追記:値段以外にも、アップルにとって、いくつかのハードルが出てきています。ひとつは、1月9日の「iPhone」発表の翌日に、さっそくネットワーク機器のシスコ・システムズが、"iPhone"という名は自分たちが商標登録していると法廷に訴えていること。同社によると、既に10年以上前に登録されていた名を、2000年の会社買収によって取得しており、昨年末、Linksys部門が、"iPhone"という名でVoIP(Voice over IP)製品を出しているのだというものです。

もうひとつは、1月15日から始まった"Cingular"というブランドの抹消(de-branding)キャンペーンです。共同親会社である電話会社AT&T(旧SBC)のBellSouth買収に伴い、携帯キャリアCingularは、"AT&T"となるのです。
2年前のAT&T Wirelessの吸収合併以来、Cingularは、若い層に向け「かっこいい(cool and hip)」イメージを作り上げてきたのに、それがいきなり、野暮ったい"AT&T"に替わってしまう。これは、アップルにとって、かなりのダメージだ、と個人的には思うのです。


<Windows Vista>
さて、いきなり逸れてしまった話題をCESに戻しましょう。わたしは、1月8日のCES開幕の前日にラスヴェガス入りしていたので、マイクロソフトのビル・ゲイツさんのキーノートスピーチを聞くことは可能でした。けれども、6時半からのスピーチのチケットは、5時半にはすでになくなっていたし、その晩、シルク・ドゥ・ソレイユの「O(オー)」というショーを観ないといけなかったので、ゲイツさんには失礼してしまいました。
そして、翌朝いきなり、「前夜のスピーチはつまらなかった」という風の噂を耳にして、マイクロソフトの新しいOS「Windows Vista(ヴィスタ)」とは、どんなにつまらない製品なのだろうと、かえって好奇の心をそそられてしまったのでした。

メイン会場の真ん中にでんと構えるマイクロソフト。そのステージで、Vistaの短いデモを観てみましたが、どうして、どうして、デモ自体はパッとしないわりに、こんなに便利な製品だったら欲しいと思ったのでした。

Windows Vistaの新機能は、ここではとても要約できません。けれども、特筆すべきは、今までの「お仕事向け」から、日常生活に影響を与える製品になって来ているということでしょう。
中でも、フォトギャラリー機能。今では、デジカメは誰もが持つものとなっていますが、自分で撮った写真を、簡単に扱えるようになっています。たとえば、それぞれの写真に、「家族」「旅行」といったカテゴリーや、お気に入り度といった情報を付けて保存。これで、膨大な写真の検索も自在になります。
色調や露出度の編集も簡単にできますが、間違って編集した写真を上書き保存してしまっても大丈夫。もともとの写真は、「デジタル・ネガ」として、ちゃんと保存されているのです。
それから、数人でグループ写真を撮ると、必ず誰かが目をつぶっているものですね。そこで、それぞれベストの部分を二枚の写真から選び出し、一枚に合成、なんてことも手軽にできるのです。
できた写真を、実家のお母さんに見せたいな。そんな時は、写真が入っているフォルダーのURLを教えてあげると、お母さんはネット経由で見ることができます。

と、こんないろんな技が使えるようになると、自宅にはパソコンではなく、サーバが欲しくなってきますね。そこで登場するのが、「Windows Home Server」と呼ばれる家庭用サーバ。先行機種のひとつとして、HP(ヒューレット・パッカード)の「HP MediaSmart Server」というのが、今年後半に発売されます。
このサーバを自宅に置くと、便利なことがたくさんできるようになります。たとえば、先ほどのフォトギャラリー機能。ネット経由で写真にアクセスできるので、実家に里帰りする際、わざわざ膨大な写真をラップトップに入れて持ち歩くこともなくなります。
そして、「ホーム・サーバ」という呼び名の通り、フェールセーフ機能も充実しています。毎日、ファイルのバックアップ保存を自動的に行ってくれるし、複数のハードディスクを内蔵し、ハードディスク間のバックアップも簡単にできます。これで、ハードディスクがひとつ壊れても大丈夫。
また、家庭内サーバとして、ネットワークに繋がっているパソコン、Xbox 360、Zuneといったデバイスへのファイル転送もできるし、データのバックアップ保存も自動的にやってくれます。

データのバックアップという点では、世の中どんどん便利になってきて、こんなサービスもお目見えしています。「あなたのデータを、私たちがバックアップしてさしあげましょう」。これは、自分のパソコンのデータを、業者が運営するバックアップセンターに保管してもらうサービスです。ファイルの更新があると、自動的に暗号化して、ネット経由でバックアップしてくれるのです。
この手のサービスは、何も目新しいものではありませんが、「容量にかかわらず、料金は月額5ドルだよ!」とうたっているCarboniteという会社も登場しています。
Dellも今年、似たようなサービスを始めます。そして、バックアップしたデータは、新しく購入したDellのパソコンにインストール。真新しいパソコンを箱から出せば、もうその場で自分の環境が整っているのです。

さて、Windows Vistaに話を戻すと、こんなクールな新製品もCES会場にお目見えしていました。その名も、「OQO Model 02(オー・キュー・オー、モデル2)」。CESの開幕前日に発表されたばかりです。
これは、知る人ぞ知るという超コンパクトなパソコンで、「Ultra-Portable(ウルトラポータブル)」とか「Ultra Mobile PC(ウルトラモバイル・パソコン)」と呼ばれる分野の製品です。2004年10月に、先代のOQO Model 01がアメリカ市場に登場し、マニアの間で大きな話題となりました。こんなに小さいのに、機能は普通のパソコンに劣らない。
今回のModel 02は、更に一歩進んだもので、Windows Vistaを載せられるそうです。モバイルなビジネスマン向けで、WiFi機能(IEEE 802.11a/b/g)を内蔵し、組み込みオプションでEVDOネットワーク対応にもなります。
先代の Model 01は、予定よりも2年も遅れて市場に登場した苦労の結晶であったわりに、2千ドルという高い値段がたたって、あんまり売れませんでした。だから、もう一機種で打ち止めなのかと勝手に思っていたのですが、どうやら、開発者であるサンフランシスコのOQOは、水面下で地道に活動を続けていたのですね。こういうのを見ると、旧友にばったり出会ったような感じがしますね。

ところで、CES開幕前のビル・ゲイツさんのキーノートスピーチですが、我が家に戻って来て、1時間10分に渡るビデオをネット上で観てみました(部下のデモも間に入っているので、これだけ長いのです)。
なるほど、「つまらなかった」という噂通り、残念ながら、心躍るようなスピーチではありませんでした。「来年は、僕は伝染病の話なんかしているだろうから、もうCESさんが呼んでくれるかどうか・・」とご自身が言っていた冗談も、案外、的を射るものなのかもしれません(まあ、ご本人はあくまでも、「僕が死ぬ一週間前まで、CESでスピーチし続ける」と宣言してはおりますが)。

けれども、ゲイツさんさんが力説していた「Connected Experiences(繋がる体験)」という概念は、マイクロソフトや協賛各社のブースのそこここで、実感することができました。
次のセクションは、そういったお話です。


<電話会社のテレビ放送>
今回、CESに行くにあたって、とっても見てみたいものがありました。それは、電話会社AT&T(旧SBC)がロールアウトしつつある、テレビ放送です。
これは、"U-Verse(ユーヴァース)"と名付けられたIPTV(Internet Protocol Television)で、光ケーブルを介し画像を各家庭に高速配信します。IPサービスの三種の神器である「ネットアクセス」、「電話サービス(VoIP)」、「テレビサービス(IPTV)」のひとつとなるものですね。デジタル放送なので、通常のテレビ番組の配信に加え、ビデオ・オンディマンドが可能となります。
今のところ、このU-Verseは、シリコンバレー界隈ではクーパティーノ、サラトガなど一部の都市でしか展開されませんが、25の高画質チャンネルを含め、300のテレビチャンネルが準備され、なかなか魅力的です。併せて提供されるブロードバンドサービスでも、最大6Mbpsの速度が約束されています。間もなく、IP電話サービスもパッケージに加わります。
これに備え、AT&Tは今年、光ケーブルの付設など、カリフォルニアだけで、10億ドル(約1千2百億円)に上る投資を計画しているようです。

いったい画質はどんなものなのか?CES会場では、一目散にAT&Tブースに向かい、デモを観てみました。会場で体験する限り、画像はケーブルテレビのデジタル放送に劣りません。しかも、チャンネルを換える速度も速い。チャンネルを転がす前に、次のチャンネルでは何を放送しているのか、小さい画面で確認なんて芸当もできます。
IP電話サービスとテレビ放送が融合する利点もあります。たとえば、テレビを観ている時に、電話がかかってきたとします。すると、画面に、誰からの電話なのか文字情報が出てきます。「あ、嫌なヤツ!」と思ったら、居留守を使えるのです。

なんとなく、心ひかれるIPTV。実は、バックエンドのソフトウェアを担当しているのが、マイクロソフトです。 2年前に"Microsoft TV"と銘打ってデモをしていたものが、今では、AT&Tを筆頭に、ドイツ・テレコム、ブリティッシュ・テレコムなど、ヨーロッパ4社もサービス展開を開始しています。そして、BellSouth、SingTel、Slovak Telecomといった世界各地の7社も、間もなく追従するとのこと。

今は、専用のセットトップボックス(写真)を介し、画像を受信しますが、間もなく、マイクロソフトのゲームコンソールXbox 360でも受信できるようになります。
すると、こんな構図が見えて来るのです。現在、ケーブルテレビのComcastは、デジタル放送の受信と録画を兼ねたセットトップボックスを、契約者に無料配布しています。我が家も真っ先にこれに飛びついたクチですが、それに対抗し、AT&Tの方も、Xbox 360を無料で各家庭に配布するようになるのではないか。
Xbox 360は、IPTVの番組を受信するばかりではありません。来月市場に出てくるアップルの"Apple TV"(昨年9月の発表時は"iTV")よろしく、パソコンにダウンロードした映画やご自慢の写真を大型テレビに映し出すのにも使えます。HD DVDプレーヤーにも接続可能です。Xbox 360がリビングルームの真ん中にでんと据え置かれ、デジタル生活の中心となる。そういったシナリオも充分に考えられるのです。

何年も前から取り沙汰されている「デジタル・リビングルーム」。どんな形で実現するのか、まだまだ混沌とした部分がありますが、マイクロソフトと電話会社各社の協業体制は、有力な候補となるポテンシャルを持っています。
先代のXboxでは、40億ドル(約4千8百億円)を失っているマイクロソフト。それだけの犠牲を払って、ようやく人々のリビングルームに入って来たのです。そう簡単には、邁進(まいしん)をあきらめないでしょうね。


<モバイルWiMAX>

マイクロソフトブースのお隣に陣取ったインテル。ここで、ハッとしてしまいました。おっと、WiMAXが展示されている!

これは、正式には"モバイルWiMAX(IEEE 802.16e)"と呼ばれるもので、韓国では"WiBro(ワイブロ)"という名称でソウルを中心にサービス展開されている高速移動通信の規格ですね。次世代の通信ネットワークが確立するまで、高速通信を実現する規格として期待を集めるものです。

アメリカでは、携帯キャリアSprintがモバイルWiMAXの導入を発表していて、CES会場でも、その説明要員の多くは、Sprintの社員でした。 Sprintの計画では、今年7月以降、首都ワシントンDC、シカゴ、ボルティモアの3都市で順次テスト導入され、来年には、全米の主要都市でサービスが皮切りとなる見込みです。

インテルのブースでは、パソコン用の通信カードが展示されていましたが、そこでSprintの説明要員と話そうと行列を作っていたら、後ろからおじさんが話しかけてくれました。彼は、オレゴンに住むインテルの社員だそうですが、「このCES会場では、実効速度下り2.4Mbps、上り1.2Mbpsもあるんだよ」と教えてくれました。
でも、彼は、しきりにこう言うのです。「これだけスループットがあったにしても、いったい何に使うんだろうね?」と。なるほど、これは、真髄を付いた疑問かもしれません。パイプは準備したけれど、いったいどんなサービスが提供されるのか?

確かに、時代の流れはどんどん加速していて、サムスンのブースでは、誇らしげにモバイルWiMAX仕様のデバイスが展示されていました。Windows Mobile 5.0搭載のモバイル端末「SPH-M8100」と、Windows XPベースのウルトラポータブル「SPH-P9000 Deluxe MIT」です。

「SPH-M8100」は、次世代の通信規格と目されるIMS(IP Multimedia Subsystem)をサポートする端末で、モバイルWiMAX経由でさまざまなコンテンツにアクセスするだけではなく、VoIPによる電話サービスや、ビデオ会議、ウォーキートーキー機能(プッシュ・トゥー・トーク)も備えます。
デザイン的にはコンパクトなスライダー式になっていて、韓国の地上デジタル放送(T-DMB)用のアンテナもすっきりと収められています。

「SPH-P9000」は、折りたたみ式の風変わりなデザインのポータブルデバイスで、モバイルWiMAXとEVDOを内蔵します。Windows XP搭載なので、ビジネスにも立派に耐えうるし、30GBのハードディスク内蔵なので、音楽やビデオも充分に楽しめます。
両者とも、サムスンが「モバイルWiMAX MIT」と銘打ったシリーズの製品となります。

けれども、ここで、先の質問が頭をよぎるのです。モバイルWiMAXでアクセスするコンテンツって、いったい何?

サムスンのブースでは、Sprintの社員がこっそりと(?)教えてくれました。モバイルWiMAXは、小型パソコンや携帯端末に組み込むだけではなく、デジタルカメラやビデオカメラにも内蔵する計画があるんだよと。
そうなって来ると、街角で撮った写真や旅先のビデオを、その場で送信できるようになります。友達や家族に送ったり、動画サイトYouTubeにもアップしたり。可能性は広がります。

いったい、モバイルWiMAXは一部の新し物好きの流行に終わってしまうのか、それとも、全世界に広く派生するのか?

先述のインテルブースのおじさん。彼は、T-Mobileの最新のケータイとともに、いまだに、ソニーのPDA「クリエ」を愛用しています。さすがに、業界に長く生きているだけあって、ちょっとやそっとでは流行に翻弄されないのです。
どうやら、彼に見習って、じっと動向を見据える必要がありそうですね。


<こんなケータイ欲しいかな>
日頃、アメリカに暮らしていて、なんとなくケータイの野暮ったさに引け目を感じています。だから、CESでは、どんなにカッコイイものが出るのかしらと、とても楽しみにしていました。

正直に言って、やっぱり韓国の会社は元気がいいですね。LGやサムスンは、ブースの目立つ所に、ご自慢の最新モデルをずらっと陳列していて、アメリカの消費者の目には、見るもの、見るもの、すべてが洗練されて映ります。

LGブースには、外側が鏡みたいなピッカピカの銀色のケータイがあって、その名もずばり「Shine(シャイン)」。「アメリカではいつ出すの?」という質問に、「そんなプランはないよ」という、つれない答え。同じ質問をした後ろのお兄さんは、「オー、ノー」と、落胆を隠せません(落胆したついでに、わたしも写真を撮り忘れました)。
計画がないのだったら、CESで出すなよ、と言いたいところですが、これもきっと、LGやサムスンの策略なのでしょうね。「あんた、こんなのを出さないと、アメリカのユーザーに恨まれるよ」と、高飛車な携帯キャリアに無言のプレッシャーをかけているのかもしれません。

珍しく、ヨーロッパのケータイも目を引きました。ソニーエリクソンの「W950i」です。「ウォークマンフォン」と呼ばれるシリーズの最新版で、4GB(約4千曲分)のメモリーを内蔵しています。ステレオBluetoothやスピーカーフォン、FMラジオが付いていて、GSM/GPRS/UMTS対応なので、ネットアクセスも大丈夫。
機能満載なのに、小さくて軽い。しかも、小柄なわりに、画面が大きい。見た目はシンプルですが、なかなかいいケータイなのです。
でも、あとで調べてみると、ちょっと問題が。これはヨーロッパ向けのモデルだそうで、アメリカではSIMロック解除のものが売られているのですが、オンラインショップで600ドルから700ドルと、かなりお高いのです。これだと、アップル「iPhone」の 4GBモデルの方が、500ドルとまだお安いですね。

さて、あまたある携帯端末の中で、一番印象に残ったのは、"Modeo(モデオ)"というスマートフォンでしょうか。どうしてって、目新しいサービスをサポートしているからです(Windows Mobile 5.0搭載の端末は、HTCがOEM供給しています)。
この"Modeo"とは、会社名であり、サービス名なのですが、地上デジタル放送をケータイで観られるサービスなのです。

現在、ヨーロッパやアメリカでは、日本のワンセグや韓国の地上波DMBと違って、DVB-H(Digital Video Broadcasting-Handheld)という方式を採用する動きがあり、Modeoもその一翼を担うものです。この方式だと、消費電力を抑える利点があるとか。
Modeoサービスは、自社のDVB-Hネットワークを介し、テレビ番組や音楽、ポッドキャスティングなどのコンテンツをデジタル放送するもので、2005年にピッツバークで行った試験放送を経て、いよいよ、今月末からは、ニューヨークでベータ版のテスト放送を開始するそうです。
いよいよ、アメリカでも地デジが手元に!そんな時代が、目の前に来ているようです。

今まで、アメリカのケータイ向けテレビといえば、MobiTVがありました。携帯ネットワーク経由のストリーミング放送としては、先駆者と言えるものです。
こちらも、テレビやラジオ番組のライブ配信は可能ですが、CES会場で体験した限り、画質があまり良くないチャンネルもありました。やっぱり手元で再生するのには、限りがあるのでしょうか。
MobiTVは、今後、モバイルWiMAXもサポートする計画で、CES会場でもデモをお披露目しています。携帯キャリアSprintともサービス提供の契約を済ませたそうで、来年以降、SprintのモバイルWiMAXネットワークが本格的に立ち上がると、全米の主要都市で利用できるようになるようです。

ModeoやMobiTVで、どこでもテレビ! まあ、「ほんとにケータイでテレビなんか観るの?」といった疑問は残りますが、少なくとも、おもしろそうなサービスであることは確かです。
これから、「モバイル・ブロードキャスト」という言葉は、アメリカの消費者にどこまで受け入れられるのでしょうか。

 
<物好きな方のために、おまけのお話>
マックワールドでの「iPhone」の発表。そして、1月末に迫る、Windows Vistaの一般向け販売。ここへ来て、アップルとマイクロソフトの攻防が白熱しています。

iPhoneお披露目の翌週、ビジネスニュース専門チャンネルのCNBCが、マイクロソフトのCEOスティーヴ・バルマー氏にインタビューしました。iPhoneをどう思うかと。
そこで、バルマー氏、開口一番にこう答えます。「高いよ~。(キャリアの)補填がフルに付いて、500ドル? 世界一高いケータイだよねぇ」と(勿論、"世界一高い"というのは誇張ですが)。
そして、こう続けます。「キーボードがない?それじゃ、メールがしにくいから、ビジネス向けじゃないよねぇ」。
彼によると、そんなキーボードのないiPhoneよりも、モトローラ「Q」(写真)の方がよほどいいケータイらしく、「今なら99ドルで、しかもメールができるから」優れた機種だとのこと(日本と違って、アメリカでは、ケータイメールはビジネスマン向けの機能だという固定概念があるのです。バルマー氏の頭の中は、ビジネスマンの比重が大きいので、キーボードがないなんて致命的に思えるのですね)。

一方、アップルは、こんなテレビコマーシャルを流します。若くてカッコイイ「マックくん」と、なんとなく野暮ったい「Windows搭載PCくん」の二人が登場する、シリーズ物CMの最新版です。

PC「マックくん、僕は今日、健康診断に行ってくるよ。」
マック「おい、PCくん、どうしたんだよ?」
PC「僕は、Windows Vistaにアップグレードするんだけどさぁ、メモリーをアップグレードするだろう、ビデオチップだろう、プロセッサーだろう。もしかしたら、大手術になるかもしれない・・・もし、僕が戻って来なかったら、僕の周辺機器を全部君にあげるからね。」
マック「え、周辺機器って言われてもねぇ・・・」

という二人の会話の後に、すっきりとしたマックが画面いっぱいに。

シリコンバレーのアップルと、ワシントン州レッドモンドのマイクロソフト。規模は違うけれど、まだまだ激しい攻防は続きます。乞うご期待!


夏来 潤(なつき じゅん)

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