English Words 英語ひとくちメモ
2023年07月08日

LGBTQ+(プライドのつまった言葉)

<英語ひとくちメモ その162>

本題に入る前に、前々回の復習をしておきましょう。


前々回の英語のお話では、略語をご紹介しておりました。


もともと英語には、TV(television、テレビ)といった略語が多いですが、新しいものも日々どんどん誕生しています。


たとえば、IRL


In Real Life の略で、「リアルな世界で」という意味。


なんでもネットがあれば済んでしまう今の世の中、たまにはリアルな世界でお付き合いしてみましょう、といったニュアンスのある言葉です。


ソーシャルネットワークの隆盛とともに生まれた言葉で、ネットばかりに頼らずに、対面でのコミュニケーションも大事にしようよ、といった反発を表したもの。


このほかにもいくつか略語をご紹介しましたが、中にはこんなものもありました。


FYEO


 こちらは For Your Eyes Only の略で、「あなたの目だけのために」つまり「あなただけに情報共有しておりますので、他言無用です」という意味。


スパイ映画に出てきそうな言葉ですが、実際、映画「007シリーズ」の中に『For Your Eyes Only』という作品もありました。


すると、先日イギリスのドラマを観ていたら、似たような表現が出てきました。


For Your Ears Alone (Only) というもの。


「あなたの耳だけにお聞かせします」と、内密にすることをお願いする表現ですね。


For Your Ears Only は、For Your Eyes Only に比べて一般的ではない印象はありますが、耳元で秘密をささやく光景が浮かんでくる慣用句ですよね。


「あなたの目だけ」に触れる機密文書に対して、「あなたの耳だけ」にささやく内密のお話。目と耳には、そういった違いがあるのでしょう。



ちなみに、eyes and ears(目と耳)を使った慣用句には、こんなものもあります。


I’ll be your eyes and ears

わたしがあなたの目と耳となります


「あなたの目と耳になる」ということは、あなたに代わって情報を集めてご報告しますという意味ですね。


たとえば、自身では現場に足を運べないのか、それとも現場に集まった人たちが意図的に情報を隠そうとしているのか、そんなとき、わたしが代理で情報収集して逐一報告しましょう、と提案しています。


それから、eyes and ears を使った慣用句では、こんなものもあります。


He was all eyes and ears as the professor explained the laws of physics

彼は、教授が物理の法則を説明しているのを注意深く聞いていた


この (be動詞) all eyes and ears というのは、「注意深い」「全神経を集中して」といった意味です。


「彼のすべてが目と耳だった」というわけですから、まさに感覚が研ぎ澄まされて、何ももらさないぞ! と集中した様子になりますね。


人の五感(sight、hearing、smell、taste、touch)の中でも、目と耳は、情報収集の上で一番大事な器官。


自然と eyes and ears を使った表現も多くなってくるのでしょう。



というわけで、すっかりお話がそれましたが、今日の話題も、略語です。


近ごろ、世間でよく耳にする LGBTQ+


6月は Pride Month(プライド月間)でしたから、日本でも、海外でも、なにかと取り沙汰される話題でした。


いやはや、わたし自身は、1980年代からサンフランシスコという街を知っているので、この言葉には親しみがあります。


そう、サンフランシスコは昔から、同性カップルの方々がたくさん移り住み、肩身の狭い思いをしないでいい場所として有名でした。


最初は、男性同士のカップル、いわゆるゲイの方々がカストロ通り(Castro Street)やポーク通り(Polk Street)のまわりに移り住んできて、コミュニティーを築き始めました。


そのうち、女性同士のカップル、いわゆるレズビアンの方々も近くに移り住んできて、サンフランシスコの街は同性カップルの多い都市として名を馳せるようになりました。


この頃は、同性カップルの方々を gays and lesbians と呼ぶのが一般的でした。


LGBTQ+ のうち「L(レズビアン)」と「G(ゲイ)」だけが存在した時代です。


そのうちに、男性や女性と区別することなく、いろんな方とお付き合いする「B(バイセクシュアル)」という呼び方も一般的となりました。


また、生まれたときの生物学的な性別がしっくりこないという「T(トランスジェンダー)」の呼び名も加わりました。


トランスジェンダーという言葉は、しばしば性別を転換する治療や手術を受けた人と認識されがちですが、医学的処置の有無にかかわらず、生まれたときの性別が自分の中でしっくりこないという方々を呼ぶそうです。


つまり、外観はどうであれ、「自分の体がしっくり感じられない」という違和感を持つこと。


ちなみに、似たような響きで、transvestite(トランスヴェスタイト)という言葉があります。


こちらは、異性の格好をすることを好む方々のことで、内面の葛藤をさすトランスジェンダーとは無関係の場合も多いです。



LGBTQ+ の「Q」には、時代ごとに変化が見られます。


昔は、同性を愛することは「どこかおかしい」という偏見があって、同性カップルの方々を侮蔑的な queer という言葉で呼んでいたことがありました。


この形容詞は「おかしな、怪しい」という意味ですが、「理解できない人々」とひとくくりにしていたのでしょう。


それが今は、「Q」は Questioning(クエスチョニング)となっています。


つまり、自身の gender identity(ジェンダーアイデンティティ、性自認)や sexual orientation(性的指向)に疑問を持っていることを表しています。


自分はちょっと人と違うかも、自分とはいったい何だろう? と考えていらっしゃる状態でしょうか。


これに加えて、近ごろは、昔の Queer(クィアー)という呼び名を復活させようという方々もいらっしゃるようです。


人と違うことは恥ずかしいことではない。胸を張って「わたしは何者でもないのよ、自由人なのよ」とおっしゃっているのでしょう。


自分に対してよほどの自信がなければ、「変わり者で結構よ」なんて言えませんよね!



そして、LGBTQ+ 最後の「+」の部分。


そう、LGBTQ+ という言葉には、いろいろと追加できるようになっていて、近ごろ耳にする中には、LGBTQIA+ というのがあります。


「I」というのは、Intersex(インターセックス、中間の性)のこと。


こちらは難しい概念ですが、生まれたときに男性とも女性とも判断が難しいことがあります。たとえば、体の内外の生殖器や染色体において、両方の性質を併せ持っているなど、生物学的に男性とか女性とか決められない場合。


生まれたときにどちらかを選ぶ例もあるようですが、長い間、自分でも知らなかったということもあるのでしょう。こういったケースでは、自分はLGBTQコミュニティーの一員であるという自覚はないのでしょう。


ですから、インターセックスという言葉は、ジェンダーアイデンティティや性的指向といった認識の問題に加えて、生物学的にも複雑ないろんなケースがあることを示唆している、という風に理解しておけばいいのではないかと思います。


たぶん、ひとりひとりに自分のジェンダーに対する認識の違いがあるではないでしょうか。


そして、「A」は Asexual(エイセクシュアル、無性の)方々をさす言葉です。


つまり、恋愛感情とか性的関心には無縁ということ。


いつの時代も、世の中にはこういった方々が一定数いらっしゃるのではないでしょうか。



このほかに、LGBTQ+ の「+」の部分には、Nonbinary(ノンバイナリー)という言葉もありますね。


Binary は「二つの」という意味で、「男と女の二つの性別」でもあります。これに打ち消しの Non がついて、「男とか女の二元分類では表せない」という意味になります。


つまり、「わたしのジェンダーは男でも女でもないのよ」と、なにものにも縛られない自由な考えの方々をさします。


生物学的に性別が割り振られていたとしても、どんな人間にも、心の中には両性の性質が備わっているものなのでしょう。ですから「ノンバイナリー」と自分を称しても、なにも不思議ではないような気がいたします。


だって、男(オス)と女(メス)両方の性質を持つことは、植物界でも動物界でも、そんなに奇異なことではないではないでしょう。


たとえば、植物のシダ類。オスとメスを併せ持つ雌雄同体の例として、まっ先に挙げられる植物です。


動物界では、かわいらしいお魚のクマノミ。両性の生殖腺を持っていて、生まれたときには性別はありません。まわりにオスが多いとか、メスが多いとかの環境によって、あとで性別が決まるそうです。


人間界にも、そういった人がいたとしても、なんの不思議もないのかもしれません。



というわけで、LGBTQIA+


時代が進めば、もっと多様なあり方が世の中に認められるようになって、そのつど新しい呼び名もどんどん追加されていくことでしょう。


人は、社会動物です。


この意味は、人は「ひとり」では生きていけない、ということ。


ですから、もしもまわりの家族や友達にサポートしてもらえない人がいたら、社会全体がその人を理解して、見守る必要があるのです。


ことさらに6月を「プライド月間」と定めてあるのは、せめてこのときだけでも人々に「人間のプライドや尊厳(dignity)」について考えてもらいたい、そんな意味があるはずです。


本当は、LGBTQ+ とかプライド月間という言葉は、当たり前すぎて、社会から消えてしまわないといけないんですけれどね。



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