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2010年09月14日

晩夏の旅: イエローストーンとグランドティートン

Vol. 134

晩夏の旅: イエローストーンとグランドティートン

先日、イエローストーン国立公園と、南に隣接するグランドティートン国立公園を訪ねました。ざっくりというと、カナダからニューメキシコ州まで続くロッキー山脈(the Rocky Mountains)の真ん中あたりの山岳地帯です。

さすがに山の天気は変わりやすく、着いたときには真冬、出るときには真夏といった不思議な旅ではありましたが、今月は、そんな道中を3つのお話にまとめてみました。

<イエローストーン>


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イエローストーン国立公園(Yellowstone National Park)は、1872年、第18代大統領のグラント大統領の時代に設立されました。アメリカで、そして世界で最古の国立公園となります。
グラント大統領というのは、奴隷制をめぐってアメリカ国内が二分された南北戦争のときに北軍の将軍として采配を振った人物なので、ずいぶんと昔に自然の美と保存の大切さに気がついていたものだなぁと感心してしまうのです。

その頃は、ヨーロッパからやって来た「文明」は東海岸と西海岸に沿って分布し、アメリカの「真ん中」は昔のままだったはずですから、そんな時代に、よくもまあ真ん中あたりの広大な自然の美しさに気づいたものだなぁと思うのです。
だって、イエローストーン国立公園が位置するワイオミング州なんて、州としてアメリカに併合されたのは1890年だそうですから、国立公園の方が先(!)ということになるのです。(厳密にいうと、国立公園は北のモンタナ州と西のアイダホ州にちょっとだけ突き出ています。)

どうしてそんなことにこだわっているのかというと、サンフランシスコ空港からコロラド州デンヴァー経由でワイオミング州のコーディー(Cody)に近づいて来ると、最初に連想した言葉がこんなものだったからです。「in the middle of nowhere(何もない所)」。
そう、まさに30人乗りのプロペラ機が降り立とうとした先は、チョボチョボと畑の緑の混じった茶色い地面、乾燥しきった山々。こんな場所に美しい自然などあるのかなと、疑いを持ち始めたくらいでした。
 


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このコーディーという街は、イエローストーン国立公園の東の玄関となる小さな街で、ここから一路西へ小一時間ほど運転すると、国立公園の東ゲートにたどり着きます。道中、右に左に奇怪な岩の山々が登場するので、飽きるということはありません。
この他にゲートは4つあって、四方からのアクセスが可能です。たとえば、スキーリゾートに近いジャクソンホール(Jackson Hole)空港に降り立ち、南に隣接するグランドティートン国立公園から北上する方法もあります。両方の国立公園を訪問する場合は、このルートが効率的かもしれません。

ところで、アメリカでは「イエローストーンは素晴らしい、一度は行った方がいい」という言葉をよく耳にするのですが、何がそんなに有名なのかというと、まずは「オールドフェイスフル(Old Faithful)」という名の間欠泉(geyser、ガイザー)があります。
ご存じのとおり、間欠泉というのは、地中の熱水と蒸気が穴から勢い良く吹き出す現象を指しますが、こちらのオールドフェイスフルは、高く上がることと定期的に吹き出してくれることで有名になっています。
たとえば、前回の吹き出しが1分半続いたら、次回は50分後。2分半だったら65分後。5分だったら95分後と、かなり正確に噴出を予測できるのです。
 


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わたしが到着したときには、すでに間欠泉のまわりのベンチは観客でいっぱい。間もなく始まる雰囲気ではありましたが、そこにパークレンジャー(公園管理官)がやって来て、ちょっとした「余興」を始めます。
「最後にオールドフェイスフルに来たのは、いったい何年前ですか?」と観衆に問いかけるのですが、「10年前」「20年前」「30年前」と年数が増えていっても、挙手がなかなか減らないのです。しまいには、オークションのように一番多い年数の勝負となったのですが、「59年前に7歳のときに来た」という男性が一等賞となりました。
若そうなパパでも「30年前」で手を挙げていたので、このオールドフェイスフルという場所は、子供のときに家族でやって来て、親となって子連れで舞い戻って来る名所なのでしょう。
 


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そんな余興で盛り上がっていると、間もなく吹き出しが始まります。最初は小さく、そのうちに高く吹き上がるのですが、隣の男の子が「Is that it?(え、これだけ?)」と繰り返しパパに尋ねるのです。
いまどきの子供は刺激がないと満足できないのでしょうが、そんな彼でも、しまいには「Wow! So cool!(ワーッ、すごいね!)」と満足なさっていたので、オールドフェイスフルとしても自分の名を汚さなくて済んだのでした。

まあ、カリフォルニアから来た人間としましては、「ワインの名産地ナパ(Napa)の間欠泉だって負けてないゾ!」と思ったのですが、こちらのすごいところは、ひとつの間欠泉で終わらないところ。「オールドフェイスフル」という名は、間欠泉の固有名詞であり、付近一帯の間欠泉や温泉を総称する地域の名でもあるのです。
ですから、あちらこちらに間欠泉の吹き出し口があるし、赤や茶やブルーとカラフルな温泉が散在しているのです。
 


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そう、遊歩道をテクテクと歩いていると、思わぬ所から突然ゴーッと間欠泉が吹き出してくるので、こちらはびっくりしてしまうのです。たとえば、ここは噴出口が盛り上がっていないので、「なんだ、小さいな」と、気にせずに通り過ぎた箇所でした。
すると、突然に噴出が始まり、あわてて引き返したのですが、そういえば、一眼レフを構えた男性が脇に立っていたので、彼はもうすぐシャッターチャンスが巡ってくることを知っていたのでしょう。グシュグシュ、ボコボコといった蒸気の音がヒントとなるのかもしれません。
 


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そして、おもしろいことに、どうもひとつの間欠泉が吹き出すと、それが他と連動しているようなのです。
たとえば、こちらは「オールドフェイスフル」の近くの間欠泉ですが、上でご紹介した間欠泉が吹き出すと、こちらもすぐに活動を始めたのでした。そして、隣では「オールドフェイスフル」も負けずに熱水を噴射し、観客の喝采を浴びるのです。

なんでも、このイエローストーン国立公園には、地球上の間欠泉(約700)の半数以上が存在するんだそうです。ですから、噴出の仕方もよりどりみどり。「オールドフェイスフル」のように、律儀に定期的に吹き出してくれるものから、一度噴出したら、あとは何年も沈黙を守るものまで、さまざまなのです(「オールドフェイスフル」の「フェイスフル(faithful)」は、平均1時間半ごとに、律儀に噴出してくれるところからきています)。
ここには雨や雪がたっぷり降るので、地下水が豊富。それが2000メートルの地中で熱い岩盤に熱せられ、熱水や蒸気となって500年の後に小さな吹き出し口から噴出する。
この地上への長い道のりで圧力を保ってくれているのが、ガイザライト(geyserite)。ガラスの主成分である二酸化ケイ素(silicon dioxide)を多く含み、圧力を逃さないように熱水の通り道をしっかりと補強しているのです(ちょうど圧力鍋のパッキンみたいなものでしょうか)。
 


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そして、間欠泉の吹き出し口がない場合は、熱水は温泉(hot spring)となって地上に出て来るのです。たとえば、こちらは神秘的にブルーの温泉。水の透明度が水晶のように際立って見えるのですが、よく見ると、右側の浅瀬に肋骨(ろっこつ)が落ちているではありませんか!
かなり大きな肋骨で、とがった頭蓋骨の片鱗が残っているところを見ると、鹿か何かの動物が落ちてしまったのでしょう。深い雪に閉ざされた冬の間に、間違って足を踏み外したのでしょうか。
 


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こちらは、おどろおどろしいまでに茶色の温泉。なんだか誰かが絵の具をたらしたようですが、このように派手な色にしているのは、藻に似たバクテリア(algae-like bacteria)。
どうしてまた、こんなに熱い悪環境の所に住むのかは理解を超越していますが、そんな変テコな生物がいるからこそ、訪問者はいろんな色の温泉が楽しめるのです。

そして、温泉の中でも一番有名なのが「モーニンググローリー・プール」。モーニンググローリー(Morning Glory)というのは「朝顔」のことですが、その名のとおり、朝顔の花のような美しい形をしています。


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けれども、長年の観光のせいで、「花」の根元に人が投げ入れたコインやゴミがたまり、熱水がうまく出て来ないようになってしまいました。
湯の温度が下がると、鮮やかなアクアブルーが、濁った緑や茶によどんでくるのです。そこで、この「オールドフェイスフルの顔」ともいえる温泉では、年に一回湯をくみ出して掃除をするようになったそうです。
(温泉が高温だとバクテリアが繁殖しにくいので透明度の高いブルーになるのですが、温度が下がってくると茶色、オレンジ、黄色のバクテリアが繁殖して、カラフルに見えるのです。)

観光と自然保護のバランスをとるのは難しいことではありますが、自然の美しさや不思議さを大衆に知らしめるのも国立公園の大事な役目。このイエローストーンが万人に愛される理由は、いくつもの違った表情を持っているからなのです。
上でご紹介した「オールドフェイスフル」は一番有名な地域ではありますが、公園内は全部で5つの地域に分かれていて、それぞれにまったく違った趣(おもむき)を呈しているのです。
 


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こちらは、「イエローストーンのグランドキャニオン(the Grand Canyon of the Yellowstone)」。深い谷間で有名なグランドキャニオンにも負けないくらいの険しい谷間となっています。
溶岩の谷が間欠泉や温泉の活動によって色鮮やかな壁となったそうですが、深い谷底には川が流れ、上流と下流にふたつの美しい滝があるのです。写真は、「アーティストポイント」と呼ばれる展望台から眺めた下の滝。
雨もよいの真冬のように冷たい朝でしたが、それがかえって墨絵のような味をかもし出しているのです。
 


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そして、こちらは、「マンモス(Mammoth)」の温泉地帯。ここでは山の上から滝のように温泉が流れ出るのですが、それが白いテラスのように段々になって、おもしろい形状の丘をつくっているのです。
白いのは温泉に含まれる石灰分だそうですが、その中にもピンクの結晶が混じったり、ブルーや茶や赤の池ができていたりと、見る者を退屈させない自然の演出となっているのです。
この日は、真夏のように太陽が照りつける午後。光が当たると、白いテラスもピカピカと輝きを放つのです。

こんな風に、いろんな楽しみ方のあるイエローストーンですが、やはり全部をグルッとまわるには2泊くらいは必要でしょう。
たとえばマンモスの温泉に一泊したら、海みたいに大きなイエローストーン湖のほとりに一泊。そんな行程も乙なものかもしれません。

<バイソン>


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いやはや、今回の旅行では、いきなりスピード違反で捕まってしまいましたよ。連れ合いの運転するレンタカーが下り坂で加速したと思ったら、どこからともなく国立公園の警察が現れて、違反チケットを切られてしまいました。
カリフォルニアでは、交通違反は州の高等裁判所の管轄となるので、ワイオミング州の高等裁判所から連絡があるのかと思えば、なんでも、国立公園内の違反は、連邦政府の裁判所に罰金を支払うことになるそうです。

まあ、スピード違反といっても悪質ではなかったので、罰金50ドルと保釈金・手数料55ドルを払えば、連邦地区裁判所に出廷しなくても許してくれるそうです。けれども、園内では公園警察のパトカーをたくさん見かけましたし、パトカーに止められた車も何台か見かけましたので、ここではとくに気を付けた方がいいでしょう。

それで、どうしてそこまで取り締りが厳しいのかといえば、もちろん、スピードを出すと自分が危ないこともありますが、動物がノソノソと道路に出てきて、そんな動物たちと衝突する危険性が大きいからなのです。
ですから、公園内の速度制限は45マイル(時速72キロ)。ピクニックエリアや展望台の近くは、35マイルや25マイルまで減速する箇所もあります。(我が家のケースは、45マイルゾーンを61マイルで運転していたのですが、58マイルまでだったら許してもらえたはずなのでした。)
 


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この辺の道路で見かける動物といえば、まずは、アメリカン・バイソン(American bison)。バッファローとも呼ばれる、牛に似た大きな動物ですが、あんなに大きな生き物に車が追突したら、あちらもこちらもタダでは済まないでしょう。

え、道路にバイソンが? そんなバカな! と思われる方もいらっしゃるでしょうが、これは誇張でも何でもありません。イエローストーンでは、道路を横切るバイソンのご一行様というのは日常の風景なのです。
ご一行様が現れると、道路は彼らに占拠され、彼らが何事もなく通り過ぎるまで「バイソン渋滞」ができるのです。
 


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忘れもしない、わたしが生まれて始めてバイソンを見たのは、フロリダのサファリパークでした。コカコーラの空き缶を持って行けば入場料を割り引いてくれるという、なんとものどかなサファリパークでしたが、園内をのんびりと車で散策していると、道路のはるか向こうにうごめく巨大な物体がいるではありませんか。あんなに大きな動物は見たことがない! と度肝を抜かれたのでした。
それは、象さんやキリンさんに比べたら小さいですよ。でも、牛みたいな形をして、あれほど大きいと、「畏れ(おそれ)」の念すら抱いてしまうのです。(それもそのはず。現存する北米大陸の陸上動物の中では一番大きいそうですから。)
 


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バイソンは社会動物なので、多くは群れを成して生活しています。そして、たぶん気質はおとなしいのでしょう。ですから、道路に現れたとしても、お行儀よく列を成して横断して行くので、むやみに怖がる必要はありません。ウー、ウーと鳴き声をたてながら、そのうちに通り過ぎてしまいます。
けれども、やはり野生の動物なので、近づき過ぎたり、刺激を与えたりというのはご法度なのです。突然、ゴロゴロと地面に転がって土煙を上げたり、何かに触発されてダッと走り出したりすることがあるので、遠くから静かに観察するのが無難なのです。

イエローストーンでは、ヘイドゥン・バレー(Hayden Valley)という平地で頻繁にバイソンを見かけます。ここは険しい山々に囲まれた草原となっているので、草食のバイソンが好んで集まって来るのです。近くにはイエローストーン川も流れ、水浴びにももってこい場所となっています。
そして、平地なので道路からの視界も大きく開けていて、バイソンが群れている姿を望遠レンズでおさめるには最適なスポットなのです。路上にひとりが止まっていると、必ず大人数が集まって来るので、バイソンがいる場所は誰にでもすぐにわかるようになっています。
 


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現在、アメリカにいるバイソンは、1万年ほど前にベーリング海峡を渡ってユーラシア大陸から移って来たバイソンの子孫だそうです。その頃から、アメリカ大陸には先住民族が暮らしていて、食料や衣料や祭事の生活の糧としてバイソンが狩られました。
19世紀になって、アメリカの「真ん中あたり」にも白人が住むようになると、今度は、白人たちの大量殺戮が始まります。肉を食していたばかりではなく、毛皮が高値で売れたからです。毛皮はヨーロッパに輸出されたり、国内の工場に工業用として出荷されたりと、強靭なバイソンの皮はいろんな場面で重宝されたそうです。
 


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この時代には、それこそ何千、何万という単位でバイソンが殺されていったわけですが、そのうちに人間が牧場で飼育し始めたり、牛と掛け合わせて食肉としたりと、少しずつ数を戻していきました。
こちらは、ワイオミング名物のバイソン・ハンバーガーです。牛肉と比べて脂肪分が少ないので、若干ジューシーさに欠けますが、ヘルシーな肉といえるのかもしれません。(もちろん野生ではなくて、飼育されたバイソンの肉が使われています。そして、バイソンの肉だけではパサパサした感じなので、牛のひき肉を混ぜて使うこともあるようです。)
 


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そんな風に絶滅の危機は脱したものの、野生のままのバイソンとなると、ごく少数が残されているだけなのです。イエローストーンにいる3千頭を含めて2万頭のみが、遺伝子的に純粋な野生のバイソンだといわれているようです。(写真中央の薄い茶色は、春に生まれた子供のバイソン)
そして、近隣の牧場主と野生のバイソンは必ずしも友好関係にあるわけではなく、イエローストーンで保護されている3千頭のバイソンですら、公園を出て隣のモンタナ州に舞い込むと、撃ち殺される危険にさらされているのです。
なぜなら、「バイソンは危ない菌(brucellosis、ブルセラ症)を持っているから、牛と接触されたら菌がうつる」と牧場主は恐れているからです。(実際には、最初にブルセラ菌をバイソンにうつしたのは、家畜牛の方だそうです。そして、バイソンから家畜に菌がうつったケースは報告されていないそうです。)

このため、毎年春になると、「牛追い」ならぬ「バイソン追い」の行事が始まるのです。イエローストーン国立公園は柵で囲われているわけではありませんので、バイソンの中には、草を求めて自然と園外に出るものもいます。そこで、隣のモンタナ州に侵入したバイソンたちを、ジープやヘリコプターや馬で追って、園内に戻すのです。
その過程で菌の検査をされ、陽性反応が出ると殺されるバイソンもいるのだとか。(参考文献: Ray Ring, Yellowstone bison: Hazed and confused, High Country News)。
 


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こちらのバイソンは、珍しく首輪を付けているのですが、もしかすると「バイソン追い」の過程で捕らえられて、陰性反応だったので許してもらえたのかもしれません。

19世紀後半、イエローストーン国立公園を設立したのは、グラント大統領でした。けれども彼は、絶滅の危機に瀕するバイソンの保護法案は棄却したそうです。
この頃、広大なアメリカの中央部では、さまざまな先住民族が昔ながらの狩猟採集の生活を営んでいましたが、バイソンを保護するということは、バイソンを糧とする先住民族を保護することになるからです。白人社会にとっては、先住民族には目の前から消えて欲しかったのです。

イエローストーン周辺にも、クロウ(the Crow)、ショショーニ(the Shoshone)、バノック(the Bannock)、ネズ・パース(the Nez Perce)といった先住民族が暮らしていました。豊かな自然を求めて、シャイアン(the Cheyenne)、アラパホ(the Arapaho)、スー(the Sioux)といったグループも遠くから訪れていたそうです。
けれども、イエローストーンが国立公園となったとき、政府はこう宣言していたそうです。「彼らは、勢い良く吹き出す間欠泉が恐いので、この辺には近寄らない」と。

当時は、そうでもいわないと白人の観光客が来てくれないと思ったのでしょう。今は誰もが訪れる、平和な国立公園となっています。

<グランドティートン>


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困ったことに、今回の旅に出かける前は、まったく気乗りがしませんでした。なぜなら、イエローストーン周辺は、標高平均2500メートルの山岳地帯。高山病で確実に具合が悪くなるとわかっている旅には、なかなか気乗りがしないのです。
けれども、そんな心を変えてくれたのが、こちらの切手。アメリカからの航空便98セントの切手ですが、美しいグランドティートンの山並みをモチーフにしています。こんなにきれいな所なら、行ってみたいではありませんか。
 


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グランドティートン国立公園(Grand Teton National Park)は、イエローストーンのすぐ南にあって、車でほんの15分の距離です。ティートンの名が示すとおり、公園の西側には壮大なティートン山脈がそびえ立ち、公園のハイライトとなっています。
園内のいたる所から山脈が望めるのですが、角度や天候や時刻によって微妙に表情を変えるので、それがまた、この公園の大きな魅力となっているのです。
前日に降り積もった雪で、頂きは白いお化粧をしていますが、そんな山並みの中で、わたしが「エヴェレスト」とニックネームを付けた山がありました。このとがった山こそ、グランドティートン山(標高4197メートル)だそうです。(写真では左にそびえる山。右側の高い山は、標高3484メートルのセイント・ジョン)
 


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冬場は、公園の南に位置するスキーリゾート、ティートンビレッジ(Teton Village)でウィンタースポーツを楽しむ手もありますが、夏場は、なんといってもドライブやハイキング。
ここの道路はイエローストーンよりも幅広いですし、遠くに山を望む平原の視界は開けているので、イエローストーンよりも快適なドライブを楽しむことができるのです。付近にはキャンプ場も多いので、でっかいRV(寝泊まりできる大きな車)もたくさん見かけました。

こちらもイエローストーンと同じく、車でグルッと一周できる構造となっていて、西側のティートン・パークロードと東側のジャクソンホール・ハイウェイ上には、観光スポットが点在しています。


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たとえば、トランスフィギュレーション礼拝堂(Chapel of the Transfiguration)。なんとも田舎風の素朴な礼拝堂ですが、草原にポツンと建っているところがいい絵になるのです。実際、キャンバスに絵筆を走らせる画家をふたり見かけました。
この礼拝堂は、1925年、近くの牧場の従業員やゲストのために建てられましたが、現在はジャクソンにある英国国教会派(Episcopal)教会の支部となっているそうです。
西部クラフツマン様式(Western Craftsman)の建物の中も、ごくシンプル。木でできたベンチが何列か並んでいるだけです。ここには金銀の宝飾なんて似つかわしくありません。
 


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こちらの朽ち果てそうな家は、1885年にジョン・カニンガムという男性が建てた小屋。彼は他州からジャクソンホールにやって来て、わな猟師(trapper)を営んでいた人物(わな猟師とは、毛皮をとるためにわなを仕掛けて動物を獲る猟師のこと)。
その後、首尾よく自分の牧場を設立したそうですが、それまでの間、この小屋を住処(すみか)としていたようです。
まあ、事情はどうであれ、きっと彼はここの景色がいたく気に入ったことでしょう。「よしっ、ここにしよう!」と即決したのではないでしょうか。(冬の寒さは半端じゃないでしょうが・・・)
 


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そして、グランドティートンで逃してはいけないのが、ラフティング(rafting)。10人ほど乗れるゴムボートでのんびりと楽しむ川下りです。船頭を兼ねるガイドさんがラフトを操ってくれるので、自分で漕ぐ必要はありません。
急流を行く「ホワイトウォーター・ラフティング」と違って、大きなスネーク川(Snake River)をゆったりと下って行くのですが、それでも時折波が木の葉のようにラフトを揺らし、ピシャッと冷たい水がかかることもあります。それも、晴れていればすぐに乾いてしまいますが。

一緒にラフトに乗り込んだ中には、これを何年も楽しみにして来たという方がいらっしゃったので、ラフティングはグランドティートンの花形行事なのでしょう。この日は、前日までの冷たさがウソのような暖かい日差しで、まわりの緑も山並みの岩肌と雪のコントラストも際立って見えます。


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そして、アメリカの国鳥でありシンボルでもあるハクトウワシ(the Bald Eagle)が、わたしたちのボートを静かに見守っていました。半ば翼を広げ、高見からあたりを見据える姿は、まさに威厳に満ちています。

ここは、思う存分、自然を楽しむ場所。ガイドさんがいうに、もしも北からジャクソンホール空港に入るフライトに乗った場合は、右側の窓際に座るのがコツなんだと。
飛行機はティートン山脈を右手に南下して来るので、美しい山並みが手に届くくらい間近に見えるそうです。
インディアナ州からやって来た彼は、「ここで仕事ができるなんて、自分の人生に何の不満もない」と断言していたのが印象に残りました。

生き物とふれあい、刻一刻と変化する景色を愛で、日々すっかりと忘れていた時間を取り戻す。それができるのが、このワイオミングの自然なのかもしれません。

<後記>


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イエローストーンもグランドティートンも、9月になるとチラチラと雪が舞い始め、10月初頭には、ホテルやロッジも閉じてしまいます。わたしたちが到着した8月末日には、前夜から早朝にかけて雪が降り、公園内の道路は朝8時まで閉鎖されていたそうです。
けれども、そんなに短い夏の間にパッと輝くからこそ、堪能できる自然の美というものがここにはあるのでしょう。

カリフォルニアにも、ヨセミテ(Yosemite National Park)という有名な国立公園があります。こちらも山あり、滝あり、湖ありと雄大な自然を誇り、ロッククライマーに人気の切り立った絶壁「エル・キャピタン(El Capitan)」や、昔ながらの名門ホテル「アワーニー(the Ahwahnee)」で世界中に名を馳せています。
けれども、もしもヨセミテとイエローストーンどちらをお勧めするかと問われれば、個人的には、イエローストーンと答えるでしょう。もちろん、それは人それぞれの好みの問題ではありますが、厳しい冬を乗り越えた夏の緑が、イエローストーンの方が繊細で美しいと思うからです。
そして、星が美しい。グランドティートンの夜空は、人生最高の星空でした。あれほど鮮明に天の川を見たことはありませんでしたし、星々があれほど大きなものだったとは・・・。

もし機会がありましたら、アメリカの「真ん中あたり」の大きな自然を味わってみてください。ひょっとすると、人生観が変わってしまうのかもしれません。

夏来 潤(なつき じゅん)



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