Silicon Valley NOW シリコンバレーナウ
2015年05月28日

渡米35周年!: 日米の間(はざま)に暮らす

Vol. 190

渡米35周年!: 日米の間(はざま)に暮らす

 


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今月は、初めてサンフランシスコに渡って来て35年となりました。

出発の数日前、同じ西海岸ワシントン州のセントへレンズ山が大噴火となり、何やら不吉な渡航ではありましたが、サンフランシスコはひんやりとした穏やかな空気に包まれていたのを覚えています。

そして、先月はシリコンバレーに住んで20周年、年末にはライターに転向して15周年と、今年は「記念すべき一年」とも言えるでしょうか。

そんなわけで、今月は、アメリカと日本の間(はざま)に暮らすお話をいたしましょう。ひとつ目は「外国に行く」ことへのアドバイス。ふたつ目は、税制の話題です。

<外国に行きたいって相談されたら?>


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渡米35周年と言っても、神奈川県にある IBMの開発研究所に勤めていた時期があって、そのときに先輩社員からこんな相談を受けたことがありました。

「僕の娘が、高校を出たらアメリカに行きたいって言ってるんだけど、あなたはどう思う?」というもので、即座にわたしは「自分だったら、彼女を行かせない」と答えたのでした。

「どうして?」と怪訝な表情で尋ねる先輩には、ごく単純に「大変だから」と答えた記憶があります。

先日、そんなやり取りをふと思い出して、どうしてそんなことを言ったんだろう? と、我が事ながら不思議に感じたのでした。なぜなら、今だったら「それは、絶対に行かせるべきです」と答えるだろうから。

それで、何年か経ったら考えが180度変わった背景には、ふたつの要素が働いていると分析するのです。ひとつは、アメリカ自体の状況が変わっていること。もうひとつは、自分自身が変わったこと。

前者のアメリカの社会環境については後日お話しすることとして、自分のことに焦点を絞ると、きっと相談された時点では、良いことよりも、辛い記憶の方が心に鮮明に残っていたのではないかと推察するのです。

まあ、「辛い」とは穏やかな表現ではありませんが、天秤にかけてみると、楽しかったり、嬉しかったりしたことよりも、言葉も習慣も人も違う国で暮らすことに「戸惑い」を感じた記憶の方がずしりと重かったのでしょう。

やはり、異文化に慣れる同化(assimilation)のプロセスと社会の仕組みに慣れる社会化(socialization)のプロセスを同時に経験するのは、一個人にとっては、負担が大きいものなのでしょう。
 


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その一方で、今だったら「絶対に行かせるべき」と主張するのは、それなりに人生経験を積んできて、「進むべき道は右でも左でも、おのずと道は開ける」と、自分なりに悟ったからかもしれません。

右に進んで「失敗だったかな?」と察知したら、さっきの二叉まで戻って左に進んでもいいし、それがイヤなら、失敗した箇所から脇道にそれてもいいし、どのように進んでも大丈夫なのではないか、と。

それで、右に進んでも、左に進んでも「正解」というものが存在しないのなら、ちょっとくらいは冒険して、苦い経験をしてみた方が、のちの人生が楽しく感じるかもしれないでしょう。

だって、昔から「かわいい子には旅をさせろ」と言うではありませんか。
 


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先日も、知り合いの方が、「僕の娘が高校を出たらアメリカに行くと言い出して、困ってるんだよ」とおっしゃるので、そんなに困ることはないのになぁ、と心のうちでつぶやいたことがありました。

彼はアメリカには足を踏み入れたことがないので、噂だけに翻弄され「アメリカは鬼が棲む危ない場所」だと信じ込んでいて、わたしは「危険な区域に近づかなければ、日本と同じくらいに安全だ」と反論したのでした。
だって、アメリカにも赤ちゃんだって、おばあちゃんだって、いろんな人が平和に暮らしているではありませんか。

あえて申し上げれば、「自分のことは自分で守れ」というモットーが骨の髄まで浸透しているので、本能的に危険(もしくは危険が生まれそうな状況)を察知しているわけですが、そういった「感覚」は必須条件になるでしょうか。

たとえば、こんな状況を思い浮かべます。よくショッピングセンターなどで、「わたしは車の中で待っているわ」と車内で人待ちをする方がいらっしゃいますが、実は、これは非常に危険な行為だと危惧するのです(人待ちをしていて「強盗」に出会うケースもありますので)。

そして、「自分は自分で守る」ことと同じくらいに大事なのは、「自分の行動には責任を持つ」ことかもしれません。海外では自己主張が大事だと言われがちですが、それは、ひとたび主張が通って自身で納得したら、最後まで責任を持って行動をやり遂げる、という含蓄を持ちます。

それが、真の意味での個人主義(individualism)であり、単なるわがまま放題の自己主張とは大きく異なります。そこのところが、日本では大きく曲解されているように感じるのです。

そんなわけで、知り合いの娘さんも、先輩の娘さんも、せっかく「外国に行ってみたい」と決意したのだったら、事情が許す限り、希望の芽をつむことは避けなければならない、と今だったら断言してみたいのです。

現地の風に吹かれてみたり、石畳をコツコツと歩いてみたり、そんな目に見えないことが、いつか元気の源となることもあるのではないでしょうか。
 


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2年ほど前、「海外で働きたい」と相談を受けた青年のお話をしたことがありました。熱い夢を語ってくれた彼は、大学2年が終わる3月末、留学先のフィジーへと旅立って行きました。

なんでも、最初の6ヶ月は英語留学、残りの半年はワーキングホリデーだそうですが、もともとサッカーと駅伝で日焼けした顔は、もっと真っ黒になって満面の笑みで帰ってくるのではないでしょうか。

 

<アメリカの税金免除と日本の出国税>
近頃、自分が「終(つい)の住処」とするのはどこだろう? と、よしなし事が頭をよぎることがあります。

まあ、そんなことは成り行き次第で、考えたところで計画通りには行かないのが世の常ですが、少なくとも、銀行口座は最終的にどう処分するのか? くらいは考えておいた方が良いかもしれません。

そんなわけで、ずっと前に(何も考えずに)作成した法的書類を見直すことになったのですが、その過程でひどく驚いたことがありました。それは、アメリカのお金持ちに対する優遇措置。
 


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なんでも、連邦政府(国)が認める遺産税の免除(federal estate tax exemption)というのがあって、今年は、543万ドル(6億5千万円:120円換算)に引き上げられたとか。

ここで「遺産税(estate tax)を免除する」というのは、ひとりが一生涯のうちに課税なしに誰かに相続できるという意味で、それが今年(亡くなる方)は6億5千万円と定められた、ということだそうです。

ということは、夫婦ふたりで一生涯に13億円が非課税!!

と、まずは、その額の大きさに耳を疑ってしまったのでした(それ以上お金を持っている場合は、最高40パーセントの課税対象となるとか)。
 


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さらに、国の方針として、贈与税の年間免除(annual gift tax exclusion)というのがあって、一年にひとり1万4千ドル(168万円)を何人にでも(!)贈与できる制度があるそうな。

つまり、お金持ちの夫婦だったら、かわいい孫4人に対して、年間11万2千ドル(168万円 x 4 x 2 = 1,344万円)を非課税で贈与できる!
しかも、学校や病院などに直接支払ってあげる場合は、この免税額には加算されないとか(educational and medical exclusions)!

ちなみに、この贈与税の免除は庶民にも関わるケースがあって、それは、誰もが確定申告に計上する「慈善団体への物品や金銭の寄付」。慈善団体として税務署に認められていれば、限度額内の物や現金の寄付は、所得控除(tax deduction)となるのです。

(注: 贈与税は、一般的に贈与する側(donor)が支払うものなので、贈る側が税金の心配をすることになります。そして、遺産税免除などの国の優遇措置は、米国市民権の有無で違ってくるようです)
 


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まあ、アメリカの場合は、さまざまな税金を「国」と「州」両方に支払うものなので、国が良くても、州にひっかかるケースが多々あります。
現在、19州と首都で遺産税または相続税(inheritance tax)または両方が課せられますが、いずれにしても、免税額を引き上げたり、税自体を撤廃しようとしたりというのが、近年の動向だそうです。

なぜなら、「うちの州に移り住むと税金が少ないよ!」と、成功して財を築いた人たちを自州に呼び寄せたいから。

そう、「自分の力で成功したのに、どうして税を取られるのさ?」といった不平不満は、いつの時代もくすぶり続ける社会の命題なのです。
(Map of State Estate Tax/Inheritance Tax from Forbes, September 11, 2014)

そこで思い浮かべるのが、日本で7月1日から施行される「出国税(Exit Tax)」。

ざっくり言うと、日本から移住目的で海外に出て行く人には、株式などの含み益に所得税を課すぞ、という制度。

税や会計の門外漢には細かいことは理解できませんが、素人考えで言うと、「あんた、日本で財を築いたんだったら、たんまりと税金を払わなければ、この国から出て行かせないよ」と、半ばペナルティーを科しているようなものでしょうか。

個人的には、アメリカのような「成功者」に対する過度の優遇措置には疑問を持ちます。が、その一方で、日本のようにペナルティーを科すのもいかがなものかと思うのです。

日本政府は、出国税は大国ならどこでもやっていると説明しているそうですが、少なくともアメリカでは、上記の遺産税免除のように、税をクリエイティヴに(合法的に)下げる方策はいくらでもあるという現実が、日本の税制とは根本的に違うところでしょうか。
しかも、アメリカの税務署は、少しでも税金を払って欲しいので、税金の割引やローン支払いの相談にも応じるようですし。

人は国境を越えて、自由に経済活動を行うのが理想型なのでしょう。先日、中国企業がアメリカに拠点を置くことで8万人の雇用を生んでいることが報道されましたが、それに対して、日本企業の米国での雇用創生は70万の規模に達するとか(5月20日ビジネス専門チャンネルCNBCの報道)

日本人が世界に散らばった先では、ひとりひとりが歯を食いしばって、ときには悔し涙を流しながらも奮闘しています。
 


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何年か前の初秋、東京・銀座の三つ星割烹『小十(こじゅう)』にてオーナーシェフの奥田 透氏とお話ししたことがあって、パリに姉妹店『Okuda』を開くのは「アウェイで、あちらのルールで勝負してみたいからだ」と、クリクリとした目を輝かせながら語られたのが印象に残りました。

「料理人には、グワッと火の勢いを制する力が求められる」ともおっしゃる奥田氏は、日本の本拠地はそのままで海外に進出したケースではあります。
が、「移住」を決意する方にしたって、「自分の可能性を試したい」とか「世界に恩返ししたい」という前向きな動機に突き動かされているのではないかと想像するのです。

「日本で成功できたから、これからは世界の人々の役に立ちたい」と高尚な理想を掲げて出国する人にも、ペナルティーを科すべきでしょうか?

とは言うものの、日本と比べてアメリカの方がシビアな点もあるのです。

それは、国籍離脱または永住権放棄して出国税(expatriation tax)を払わない限り、世界のどこに行っても、(全世界所得の)申告と納税の義務がついてまわること(日本の場合は、国内に住んでいるかどうか「居住性」で判断)

う〜ん、となると、長い目で見ると、日本の出国税というのは(行き先によっては)安上がりなんでしょうか?

そんなわけで、税の素人に言えることは、「日米の税制は、ひどく違いそうだぞ」ということでしょうか。

References cited: “IRS Announces 2015 Estate and Gift Tax Limits”, October 30, 2014; “Where Not To Die in 2015”, September 11, 2014, both written by Ashlea Ebeling, Forbes

夏来 潤(なつき じゅん)

 

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