オバマ隊員出動!: アメリカの経済と外交策

2009年2月28日

Vol. 115


オバマ隊員出動!:アメリカの経済と外交策

 

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 先月号の冒頭で雨が少ないと嘆いていたら、ようやくシリコンバレーにも雨が降り始めました。今の時期に降ってくれないと、6月頃にはもう水不足であえいでしまうので、雨はまさに「天からの恵み」なのです。

 そんな恵みの2月は日数が少ないので、あっという間に終わってしまう感じがいたしますが、今月は、オバマ大統領のお話から始めましょう。
 就任から100日間は、新しい大統領にとっては最も大事な時期だとされていて、みなさん、オバマ大統領の一挙手一投足をギョロギョロと虫眼鏡で覗いています。やはり、主人公「オバマさん」抜きには、この国の今は語れないのです。
 

<蜆(しじみ)からオバマ隊員へ>
 今さらいうまでもなく、オバマ大統領が直面する大問題は、経済ですね。いったいどうして、こんなことになったのやら?

 考えてみると、問題の根っこは、すでに「ネットバブル」がはじけた頃にあったのでしょうね。アメリカでは、1990年代後半、インターネットの隆盛で世の中がえらく大騒ぎになったあと、2000年初頭になると、突然バブルがはじけてしまいました。
 そして、ブッシュ大統領が誕生して(2001年1月就任)、アメリカが世界の鼻つまみ者になって、その報復措置として、アフガニスタンとイラクで(要らぬ)戦争を始めました。

 そんな戦争と経済活動の停滞のダブルパンチで、国の財政が大きく傾いたわりに、ブッシュ政権下では、国や国民を食い物にしようという輩(やから)がどんどん出てきたわけです。戦争でパクッ、石油投機でパクッ、エンロンみたいなエネルギー供給術でパクッ。

 その「食い物」の中に、住宅ローンというのもありました。収入のない人でも誰でもいいから、変動制のローンを貸し出し、家を買わせ、そんな「サブプライムローン」をごそっと買い取って、ファンドにひとまとめにして、投資家に切り売りしようじゃないかと。
 2005年、2006年は、そういった不動産関連の投資で「行け、行け!」の頃でした。なんでも、投資リターンが年に30パーセントという嘘のような実話も耳にしたことがあります。
 結局、みなさん、世の中に「バブル」がないのは耐えられないらしく、「ネットバブルの次は、不動産バブルを作り出せ!」とばかりに、世界中で家の値段が急騰いたしました。

 けれども、やはりバブルはバブルであって、おいしい話はいつまでも続きません。2007年の夏頃になると、問題が露見し始めます。「えぇっと、ローンが払えないんけすけど・・・」という人が続出したのですね。
 そして、住宅バブルは崩壊し、家の値段はどんどん下がる。借金をしてまで、サブプライムローンをどっさりと抱え込んだ銀行は、「有毒な資産(toxic assets)」を保有するともいわれるようになりました。

 気がついてみると、毒はアメリカの銀行を広く深く蝕(むしば)んでいて、それが、昨年春の投資銀行ベア・スターンズの身売り、そして9月のリーマン・ブラザーズの倒産へと発展いたしました。
 今から振り返ってみると、ベア・スターンズを助け、その一方でリーマンを倒産させたのは、当時のポールソン財務長官とバーナンキ連邦準備理事会議長(現職)の過ちだったともいえるわけですが、そのときは、リーマン破綻が世界中を震撼とさせる「大事件」になるとは予測がつかなかったのでしょうね。
 まさか、住宅ローンに始まった金融界の問題が、すべてを覆い尽くすとは・・・そして、地球全体がそこまで密に繋がっていたとは・・・

 ちなみに、ポールソン前財務長官は、米投資銀行最大手のゴールドマン・サックスの最高経営責任者だった人で、その過去のしがらみがあって、ずっと「ライバル」だったリーマンを倒産させたんだという、うがった見方をする人もいます。
 そして、リーマンの方にも、「国は絶対に自分たちをつぶさない」というおごりがあって、身売りを頑として拒否したともいわれています。
 けれども、そんなことよりも、「銀行に手助けするなんて、アメリカは社会主義じゃないぞ!」との連邦議会の突き上げにポールソン氏自身が屈したことが、リーマンを見捨てる結果となったのでしょう。
 皮肉なもので、その後すぐに、「回復の遅れた日本の轍(てつ)を踏むな」と、議会は70兆円規模の銀行救済プランに合意しています・・・

 そんなこんなで、アメリカの金融危機は、あっという間に世界の津々浦々まで波及効果を与え、あんなに熱かった中国や中東のドゥバイの経済活動まで麻痺させてしまいました。
 なんでも、ドゥバイには、はるかレバノン(イスラエルの隣国)から大学の新卒者が職を求めてやってくるそうですが、今年はきっと、彼らの就職活動はかなり厳しいだろうとの憶測も聞こえています。
 新卒者が氷河期を迎えているのは、イギリスも同じことで、かの地では大学院進学者が急増しています。スペインでは、14パーセントとヨーロッパで一番高い失業率を記録し、ロシアでは、欧米風の宅地開発が頓挫(とんざ)し、もともと不安定な労働市場に不安が広がっています。
 そして、アイスランドは、1月末に国が「倒産」してしまいましたね。アイスランドの通貨クローネは、もはや世界に対しては紙くず同然! この国は、たった一年前は、世界で最も豊かな国といわれていたのに。
 

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 そんな危機的状況の中、スクッと立ち上がったのがオバマ大統領。彼はとても賢いので、事の緊急性は十分に理解しています。「一刻の猶予もならぬ」と、就任わずか1ヶ月で、アメリカ史上最大となる経済刺激策(stimulus package)を誕生させました。
 先に可決されていた連邦下院法案からは1,100億ドルほど低くはなりましたが、両院が合意した額は、2年間で7,870億ドル(約76兆円)。
 「とにかく素早く、そしてケチらずに」をモットーに、経済が少しでも安定するようにと願をかけた救済措置です(こういうのは、チビチビ出すと、かえって効果が望めないのだそうです)。
 

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 さすがに実行派のオバマ氏は、下院の法案通過後、上院がモタモタしていると、すかさずインディアナ州、フロリダ州、イリノイ州を行脚し、早く法案を通すようにと国民の支持をあおぐのですが、そうやって就任わずか3週間と3日で勝ち取った刺激策は、実に1,000ページに上る法案なのです!

 まず、失業保険を延長するでしょ、職業訓練を充実させるでしょ、ハイウェイや公共交通機関などのインフラに投資するでしょ、未来の大人たちにも教育で投資するでしょ、医療保険に充当するでしょ、クリーンエネルギーにもうんと投資するでしょと、国民生活のほとんどすべてに策をめぐらせてあるのです。
 うまくいけば、3百万人分の仕事が生み出される予想で、なんとか、不景気に入る前のレベルまで持っていきたい考えなのです。

 まあ、この巨額の法案に、「国は金を使い過ぎだ!」とか「小さな政府を目指してきたのに、またもや巨大な政府に逆戻りだ!」と、共和党陣営はギャンギャン文句を言っています。
 けれども、オバマ大統領の信条は、「ここまで悪化した社会・経済情勢を救えるのは、連邦政府のみである」というもの。
 今まで8年間の「やりたい放題」で国が崩壊の危機にあることを考えると、大統領を信じて、黙って付いていくしかないと思うのです。なぜなら、事の深刻さを一番身にしみてわかっているのは、オバマ大統領自身だから。

 そこのところを、うまく描いた風刺漫画がありました。
(by Tom Toles – Washington Post, published in San Jose Mercury News on 2/5/’09)
 

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 消防署に詰めているオバマ隊員。
 ジリリリリ、「経済が火をふいています!(Economy on fire !)」と、緊急出動です。

 2階からポールをすべり下りるオバマ隊員、行けども行けども地面にたどり着きません。
 そして、心中こう叫んでいます。
 「これは、思ったよりも長い降下だぞ(Longer drop than I figured)」


 そして、巨額の経済刺激策にオバマ大統領が署名すると、こんなシナリオが登場しました。(by Tom Toles, published on 2/27/’09)
 

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 木から下りられなくなった太った猫を助けようと、はしごを持って出動したオバマ隊員。
 猫ちゃんの保護者に向かって、こう説明するのです。

 「僕はあなたの猫を救出するだけではなく、彼女(猫ちゃん)に職を見つけ、彼女のエネルギー消費量を減らし、彼女を大学にやり、彼女に安価な医療保険を与え、彼女の借金を減らし、そして、彼女と隣の犬の戦争を終わらせてあげましょう(I’ll not only rescue your cat, but I’ll get her a job, decrease her energy use, send her to college, get her affordable health care, decrease her debt, and end her war with the neighborhood dog.)」


 今年は「年男」のオバマ隊員。これから先、経済刺激策が吉と出るか、凶と出るかは、オバマ隊員の今年のがんばりにかかっているのでしょう。


追記: 表題となっている「蜆(しじみ)からオバマ隊員へ」の「蜆」って、いったい何だ?と思われた方もいらっしゃるでしょう。いうまでもなく、蜆とはブッシュ前大統領のことですね。「蜆貝で海を測(はか)る」、つまり、小さな貝殻で海を推し量ることなんてできないでしょう、という格言からきています。海は、あまりにも大きいのです。
 振り返ってみると、ブッシュ大統領のもとでは、「金の亡者(もうじゃ)」はやりたい放題でしたね。バナナの叩き売り同然、国、国民、国民の幸福と福祉、それから科学や自然と、そんな大事なものすべては、「もってけドロボー!」とばかりに、亡者たちに売りさばかれていたのです。


<わたしのオバマ像>
 「わたしのオバマ像」なんて、おだやかな題名ではありませんが、オバマ大統領のお話は続きます。

 いろいろと深刻な問題を前政権から引き継いだオバマさんですが、経済と同じく、危機的状況にあるのが外交問題です。

 ブッシュ大統領が2001年9月の同時多発テロ直後に侵攻したアフガニスタン、続く米軍侵攻で国中をひっくり返すほどの内乱に発展したイラク、そして、アフガニスタンの隣国で、イスラム教原理主義のテロリストが多く潜伏するというパキスタン。
 さらに、それだけじゃ足りないよといわんばかりに再燃した、イスラエルとパレスチナ・ガザ地区の衝突。新人大統領の洗礼にしては、あまりにも重い問題が山積しているのです。

 たとえば、アフガニスタンには、「さらに1万7千人の米軍を派兵しよう」とオバマ大統領は計画しているのですが、この国では、単に兵隊の数を増やせばいいという生易しいものではないようです。なぜなら、派兵増強が功を奏したイラクに比べると、アフガニスタンはまったく違う国だから。

 石油という恵みのおかげで都市に住む中流階級が多いイラクと比べて、アフガニスタンという国はとても貧しく、人口の7割は、道路も電気も水道もないような、まるで「中世」の村に住んでいます。
 そんな都市部のない国では、集落はあちらこちらに散在していて、たとえば、イスラム教原理主義組織「タリバン」の拠点のある南の平野部などは、とにかくだだっ広くて、兵隊が何人いても足りません。
 国境はとてつもなく長く、ここを超えてタリバンは麻薬のアヘンを運び出し、武器を運び入れるのです。ケシの実からつくるアヘン(ヘロインの原料ともなる)は、この国では、大事な換金作物となっています。

 もうひとつのタリバンの拠点がある東の国境地帯では、村は険しい山間に点在していて、兵隊が奥地の集落にたどり着いたにしても、誰が「敵」なのかも判別しにくいのです。現地には協力者も少ないし、もともと米軍はゲリラ戦には慣れていません。
 しかも、現地の抵抗に遭って、唯一の舗装道路が破壊されたり、変わり易い山の天気では、ヘリコプターが飛べない日もあったりと、物資補給すらままならないこともあります。

 そして、アフガニスタンという国自体、上から下へと腐敗した組織となっていて、たとえば、7年間大統領の座にあるハミド・カルザイ氏の弟は、アヘン密売組織に深く関与すると噂されているし、現地に派遣された外国人特派員などは、役人に賄賂(わいろ)を払わなければ、空港を利用することもできないのだそうです。
 そんな崩れかけた政府が、自国の軍隊を組織し、国を統率することができるのだろうか?と、見通しはかなり暗いようです。

 それゆえに、アフガニスタンでの「戦い」は長引くことが懸念されていて、こんなことを言う人もいるくらいです。「ヴェトナム戦争はリンドン・ジョンソン大統領の戦い、イラク戦争はブッシュ大統領の戦い、そして、アフガニスタンはオバマ大統領の戦争である」と(元アフガニスタン・パキスタン統括のCIA要人のコメント)。

 さらに不気味なのは、パキスタンでしょうか。アフガニスタンとは、西に国境を接するイスラム教国ですね。
 このアフガニスタンに近い国境付近では、日々イスラム教原理主義組織の抵抗が激化していて、パキスタン政府も先日、停戦とひきかえに、北西部のスワット渓谷をタリバン勢力の支配下に置くことを合意しています。
 ここは、「パキスタンのスイス」と呼ばれるほどの風光明媚な高原で、ガンダーラ古代王国の頃には、仏陀ゆかりの場所でもあったという由緒正しい観光地です。今となっては、観光客は絶対に足を踏み入れてはいけない地域となっています。生きて出られる保証などありませんので。

 パキスタンといえば、もともとは、この辺りの仏教徒やヒンドゥー教徒を改宗させた「スーフィ(Sufi)」と呼ばれる穏健派のイスラム教徒が勢力を持っていたわけですが、1958年に起こった軍事クーデターの頃から、だんだんと軍部の勢力が強くなってくるのです。隣国であり、そこからパキスタンが分裂したヒンドゥー教国のインドとも、にらみ合いを続けていかないといけませんしね。(そして、そのインドのお隣さんである中国は、インドとは国境問題でもめているので、せっせとパキスタンの手助けをしています。)

 現在、パキスタンでは、軍事クーデターで政権の座についたムシャラフ前大統領の対抗勢力となる、パキスタン人民党のザルダリ氏(暗殺されたブット元首相の夫)が大統領となっていますが、実際、この国には、ふたつの政府が存在するようなものだそうです。
 そう、「スーフィ」の流れをくむ穏健派と、厳しいイスラムの戒律(シャリア)を押す武装派。

 そんなわけで、ややこしいことに、アメリカはこのふたつの勢力と対話していかなければならないわけですが、ここで道を踏みはずしてはなりません。なにせ、この国には、核兵器があるのですから! ひとたび武装派が世を制圧し、核兵器を手にしたら・・・。
 

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 そして、核兵器といえば、イランだって忘れてはなりません。パキスタンの核物理学者の手助けに端を発し、今はロシアが技術や核燃料を提供していて、今年末までには、イラン初の原子力発電所が本格的に稼働するだろうと予想されています。
 つい先日(2月25日)、テスト運転も完了しています。(写真は、公共放送局WNETニューヨーク制作のニュース番組『WorldFocus』より)

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 さらに、不気味なことに、今月の初めには、イラン革命30周年を記念して、自国の技術を使った衛星打ち上げにも成功しています。
 ロケットはあるし、核燃料はあるし、イランが核武装する日もそんなに遠くはないともいわれています(先日、国連の国際原子力機関IAEAは、「イランは濃縮ウランを1トン保有する」と発表しています)。

 前ブッシュ政権で諜報機関のトップとなる国家情報長官を務めたマイク・マコーネル氏は、こう語っています。「確証はないけれど、僕の推測では、イランは2013年には核兵器を持つことになるだろう」と。(退官をひかえた今年1月のインタビュー番組『Charlie Rose』より)

 長距離ミサイルといえば、テポドン2号の北朝鮮もありますしね・・・もう十分に、アラスカまでは到達するといわれていますよね。

 と、ここまで書いてくると、ふと、あることに気がつくのです。外交問題を熱く語っている自分は、まんまとオバマ大統領にのせられているんじゃないかなと。「大統領のつもりになって、自分自身で考えてみるように」と、自然とオバマ氏にしむけられているのではないかと。

 そう、ブッシュ大統領からオバマ大統領に替わってみると、刻々と変化する世の中の進展を、来る日も、来る日も、律儀に観察している自分に気がつくのです。
 短い間にも、さまざまな情報が明るみになって、実に多くをお勉強いたしましたし、今までは、あるのかないのかもわからなかった「お国の政策」が、とても身近に感じるようにもなりました。そして、そう思っているのは、わたしだけではないはずなのです。
 

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 オバマ大統領の就任後、ほとんど毎日のように彼の顔を見るようになったわけですけれども、就任前とは打って変わって「すっかり大統領になった、厳しい表情」を見ていると、なぜかしら、「自分も大統領のために何かできないのかな」という気分になってくるから不思議です。

 連日、彼が国民に向かって発言する内容は、すべてよくプランされ、練られ、タイミングも決して逸しない。パンパンと、間髪を入れずに出される新しい案に、聞く側は(とくに支持層は)、まんまとのせられてしまう。そして、自分の問題として、任務の片棒を担ってみようかという気にもなる。
 これが、全米に広がる草の根運動で大統領の座を勝ち取った、オバマ氏の「カリスマ」なのでしょうか?

 先日、近所のスーパーマーケットに行くと、顔見知りの従業員が世間話のついでに、「日本は今(GDPもマイナス成長で)、たいへんだよねぇ」と心配してくれました。
 ここはローカルなお店なので、日本と取引があるわけではありません。日本に行ったことがあるわけでもありません。それでも、直接関わりのない国のことだって、よく把握しているのです。

 もともとシリコンバレーには世界中から人が集まってくるので、人々の目が世界に向けられていることもあります。けれども、それにも増して、オバマ大統領の政策のひとつひとつや、世界への波及効果に対して、アメリカ国民として、ある種の責任感みたいなものを感じているのかもしれませんね。

 まったく、みなさん、オバマ氏のアドバイザーでもないのに・・・。


<おまけのお話:地球のずっと上>

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 先日、びっくりするようなお話がありましたね。シベリアの上空、高度800キロで、ロシアの人工衛星とアメリカの人工衛星が大衝突したと。
 あちらさんは、12年間運転が停止していた軍事衛星「コスモス2251号」。そして、こちらさんは、世界のどこでも使える携帯電話イリジウム(Iridium)の通信衛星「イリジウム33号」。どちらもでっかい衛星で、こんなにでかい衛星同士の衝突は初めてのことでした。

 地球に破片が落っこちてくる心配よりも、地球の上空600キロの軌道にいるハブル天体望遠鏡や、もっと高いところにいる気象衛星なんかへの影響が心配なんだそうですが、ハブルちゃんのいる辺りにどんな影響が及ぶのかは、3月中旬にならないとはっきりわからないそうです。だから、スペースシャトルの宇宙飛行士には危ないからと、ハブルちゃんの修理ミッションは、5月に延期となりました。

 衛星といえば、ちょうど一年前、物騒なお話がありましたね。2008年2月号でもご紹介しておりますが、アメリカのスパイ衛星「USA193号」が間もなく地球に落っこちてくるから、みんな気をつけるようにと、アメリカが警告を発しました。
 その後、すぐに前言を撤回し、「燃料が人に有害だから、衛星を撃ち落とす!」と、イージス艦レイク・エリーから「SM-3(Standard Missile 3)」をぶっ放し、見事衛星を破壊したのでした。
 ふふっ、もともとは弾道ミサイルの迎撃用であるSM-3を衛星迎撃にも使えるなんて、アメリカにとっては、おいしい予行演習になったのでした。
 

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 今回は、ロシアはそういう手を考えなかったのでしょうかね?

 それにしても、地球のまわりには、こんなにたくさん衛星やら何やらが浮かんでいるのに、ミサイルで撃ち落とすのも大変な作業でしょうねぇ。
 「あっ、間違って隣のを打っちゃった! エヘヘッ」というわけにはいかないですものね。

 しかも、これだけ地球のまわりは「ゴミ」だらけとなると、これ以上、ゴミを廃棄してはいけません!といった感じですよね。

 まあ、そんな物騒なお話は置いておいて、火星にいるスピリットくんのことを覚えていらっしゃいますか。そう、2004年1月に、双子のオポチュニティーちゃんと相前後して打ち上げられた、火星探査ロボットですね。
 そのスピリットくんが、1月下旬にちょっとした不調を訴えました。火星日1800日目、地球から「歩け」と指示を出したのに、歩こうとしない。しかも、その日一日、自分が何をしたのか記憶がまったくない!
 かわいそうに、「僕は誰? いったいどこにいるの?」と、一時的な記憶喪失になったのでした。

 どうやら、宇宙線(cosmic ray)が影響して、不揮発性メモリ(電源がなくても記録保持できる記憶回路)が、一時的におかしくなったのではないかとのこと。翌日も、太陽の方向を間違えたりと、ちょっとした勘違いが続きました。

 現在は、また元気にお仕事を続けているようですが、ちょっと心配な出来事ではありました。

 火星日(sol)というのは、地球の一日よりも40分くらい長いので、1800日といっても、スピリットくんは、5年以上も火星の探査を続けています。双子のオポチュニティーちゃんは、テクテクと14キロも歩きまわりました。

 火星に到着したのは、スピリットくんが2004年1月3日、オポチュニティーちゃんが1月24日。最初は、90日の命といわれていましたが、ふたりともまだまだ元気です。

 どうか長生きしてくださいね!


夏来 潤(なつき じゅん)

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