Silicon Valley NOW シリコンバレーナウ
2001年07月31日

Webvanの撤退:食料品雑貨はインターネットでは流行らない?

Vol. 19

Webvanの撤退:食料品雑貨はインターネットでは流行らない?

先日、アメリカのインターネット業界で、またひとり姿を消しました。しかも、ドットコムの代表選手とも言えるプレーヤーです。サンフランシスコ空港のちょっと南、フォスター・シティーに本社のある、Webvan社(Webvan Group Inc.)というオンライン・スーパーマーケットです。
名前の通り、この会社は、一般家庭がWebサイトで注文した食材や日常雑貨を、冷蔵庫付きのトラック(van)で宅配してあげるという商売をしていました。不幸なことに、7月中旬、志なかばで資金が行き詰まり、お店をたたんで、倒産・債権者からの保護を裁判所に申請しました。その後は資産を売却し、事業を続けるつもりはないということです。
以前から資金繰りが難しいという理由で、会社の存続が危ぶまれてはいましたが、突然の店じまい発表に、解雇された従業員もこのサービスに頼りきっている顧客も、びっくりさせられてしまいました。それと同時に、来るものが来たかという感じも否めません。

Webvan社は、1996年12月、書籍・CD販売のチェーン店、Borders Booksで成功したルイス・ボーダーズ氏によって設立されました。翌年から2年半を資金集めと事業計画に費やし、実際の事業運営は、1999年6月にサンフランシスコ・ベイエリアから始まりました。
この年のドットコム・フィーバーに乗り、5ヶ月後には異例の早さでナスダック株式市場公開を果し、翌年6月には競合会社、HomeGrocer.comを買収するなど、前途洋々に見うけられました。ソフトバンク・ベンチャーキャピタル、ゴールドマン・サックス、Amazon.comなど名だたる投資会社や企業は言うに及ばず、インテル社創始者のひとり、アンディー・グローブ氏などの有名人が資金を出し、株公開までに実に1000億円が集まったと言います(1ドル125円換算)。また、株公開では、500億円ほどを調達しました。マーケットもベイエリアから大きく広がり、最盛期には、シカゴ、ダラス、アトランタと西海岸の合計10都市で事業展開していました。

しかし、昨年後半から経営に翳りが見え始め、今年に入りダラス、アトランタ、サクラメントでの事業撤退を余儀なくされ、千人の従業員を解雇しました。また、計画していたボルティモア、ニュージャージー州北部、首都ワシントンDCへの進出は、やむなく延期となりました。
株価は下がる一方で、公開時点で34ドルを記録した株も、昨年末には1ドルを切ってしまいました。下降線は更に続き、9セントまで落ち込んだ7月初め、ナスダック除名処分を回避すべく、25株を一株とする "逆スプリット" をしました。しかし、株価は復活することなく、新たな資金集めも困難な状況となり、今回の倒産宣言となりました。

ドットコム会社が失敗する時にいつも指摘されることですが、商売の仕方が堅実ではなかったことが、Webvan社の経営悪化・倒産の一因となっているようです。商売を始めた地域でも、まだ黒字になってはいないのに、早急に全米各地に手を広げすぎたということのようです。
特に、食料品雑貨を扱い、その品揃えと迅速な宅配を売り物とするとなると、近代的な配送センターを建て、巨大な在庫を抱えるだけではなく、冷蔵トラックを揃え、仕分けや配達のため人を待機させていなくてはなりません。シカゴ、アトランタ、そしてお膝元のオークランドに建設した配送センターは、それぞれ40億円以上かかったと言います。これだけ設備投資してしまうと、よほど顧客が増えなければ、健全経営は難しくなってしまいます。顧客数は、一番多かった今年初め、全米で76万人に昇りました。しかしそれも、経営が悪化し始めた昨年後半から急激に立ちあがったもので、それまでは、20万人にも満たない状態でした。

それでは消費者にとって、Webvan社のサービスは、いったいどうだったのでしょうか。お客様の立場から考えると、便利でもあり、またある意味で、不便とも言えるようです。圧倒的に便利と支持するのは、定期的に食料品や日常雑貨の買物に出にくい事情の人達です。赤ちゃんや幼児を持つお母さん達、長い時間会社に拘束される独身者や共働きの奥様方、車の運転を止めてしまった退職組、それに、視力や歩行に障害を持っている人などです。今まで、仕事と子供の学校の送り迎えで、時間の遣り繰りに苦労していたお母さんにとっても、前日にインターネットで注文するだけで、指定した時間帯にドアまで持って来てくれるなんて、こんなに便利なことはありません。それに、野菜やお肉は新鮮だし、値段も普通のスーパーマーケットと比べ決して高くはない、と来れば言うことはありません。これで、忙しいお母さん達の頭痛の種は、ひとつ解消です。

一方、不便とされるのは、ミルクやパンなどの必需品が、すぐに手に入らないということです。遅くとも前日の夜までに注文しないと、翌日宅配はできません。それに対し、消費者の間では、"朝ご飯のシリアルに入れるミルクとバナナがなくなったから、今日は帰りにスーパーでお買物しなきゃ"、という "思いつき型" の人が少なくないはずです。一週間分のお買物を、パソコンの前で綿密に計画できるという人は、案外少数派なのかもしれません。また、"手に取ってみないとイヤ型" の消費者も多いようです。バナナはガス室から出したばかりの緑のもの、トマトは真っ赤に熟したものなどにこだわる人は、他人様の事情でそのポリシーを左右されたくはありません。

自分でお買物すればタダなのに、配達にお金を払うことが気に入らない消費者も結構いたようです。"一定金額以上の購入は無料宅配" が当初からの売り物ではありましたが、経営不振に伴い、100ドル以上の買物は無料のままですが、100ドル以下では5ドル、更に75ドル以下では10ドルの配達料金を徴収するようになりました。決して高い料金ではありませんが、時間を取るか、お金を取るかの選択になった時、よほどのお金持ちは別として、かなりのアメリカ人はお金を取るようです。日本人とは異なり、少々質が悪くても、より安価なものを好むアメリカ人気質が、ここに如実に現れているようです。

お金より時間の節約を取った人でも、自分で指定した時間帯に家にいなくてはいけないのが、お気に召さなかったお客様もいるようです。時間帯は60分未満と短く、電話・ケーブルテレビ会社が設置サービスに指定する4時間と比べれば、何でもありません。それでも、度重なってくると、拘束されているような気分になるらしいです。インターネットで注文しているのだから、すぐに持って来てほしいという希望もあったのかもしれません。

Webvan社にとっては、こういったわがままな消費者を納得させ、顧客層を広げるという難題に立ち向かうことになりました。また、実務レベルでは、配達をいかに効率的に行なうか、などの頭の痛い課題もありました。マンハッタンやサンフランシスコの住人は別として、都会で働いていても郊外に住んでいる人達がかなりいます。特に、家族を持っていると尚更です。こういう郊外の住宅地に配達するとなると、広い地域をカバーするため、時間当たりの配達が少なくなり、配達コストがかさんできます。物流のプロ、フェデラル・エキスプレス社が時間当たり30件ほどの配達をするのに比べ、Webvan社はその10分の1しか宅配できていなかったようです(FedEx社の創設者、フレデリック・スミス氏とサンノゼ・マーキュリー紙記者との懇談)。これでは、よほど高い配達料を取らないと、運転手の給料はおろか、ガソリン代も出なくなってしまいます。

結局、Webvan社のビジネスには、初期投資や顧客拡大のマーケティング活動などの莫大な支出を補うため、事業運営の思いきった効率化が求められていました。ところが実際は、お膝元のオークランド配送センターは、常に最大能力の25%ほどの稼動率で、他の地域でも、黒字運営は、ロスアンジェルス近郊の倉庫だけだったと言います。おかげで、昨年一年間の実績は、全米で325億円の売上に対し、517億円の赤字だったそうです(HomeGrocer.comの買収を含む)。
投資や株式公開で潤沢にあった資金も、昨年末には、銀行に265億円しか入っていなかったらしく、よほど出費を切り詰めないと、今年一年を乗り切るのは難しいという経営状態でした(奇しくも、前述のスミス氏は、2年前の株公開時点で、既にWebvan社の倒産を予言していたそうです)。

創始者、ルイス・ボーダーズ氏にとって、Webvan社の成功は、更に大きな夢を実現させる第一歩でしかなかったようです。インターネットで、ありとあらゆる物を家庭に配達する仕組みを作る、という夢です。パソコン、洋服、ドライクリーニングなど、消費者が日常必要とする物は何でもです。
ミシガン州のたったひとつのお店から、書籍・CD販売の全国チェーンを築き上げたノウハウを活かし、ボーダーズ氏は自ら、Webvan配送センターや在庫管理のプロセスを計画しました。また、理論派の彼は、何をどのくらい、トラック何台で配達すると一番効率的かなど、数式を使って研究していたそうです。しかし現実は厳しく、間もなくプロのコンサルタントに経営を譲り、今年初めには、取締役会からも退陣しました。そして今回の倒産で、"100兆円産業である食料品雑貨販売の、旧態依然とした仕組みを切り崩す!" というひとつめの目標すら、実現できない結果となってしまいました。

大多数の消費者にオンライン・ショッピングをさせるまでには至らなかったWebvan社ですが、それでも、熱烈なファンは、ひとりやふたりではありません。そして、いつかはきっと戻ってきてね、というラブコールもたくさん聞かれます。
でも、一番のファンは、解雇された二千人の従業員ひとりひとりに、900ドルのプレゼントをした奇特な人かもしれません。今回の倒産では、従業員は全員、退職金もなく突然解雇されてしまいましたが、誰かが名乗りもせず、合計2億円をポンと寄付したそうです(誰が寄付したのか、未だに謎だそうですが、少なくとも、ボーダーズ氏、会社の重役達、取締役会のメンバー、投資会社など、会社の身近にいた人ではないようです)。

この謎の人物にとって、Webvan社の閉店は、仲良しの友達が遠くに引っ越してしまったような出来事だったのかもしれません。
それにしても、とっても大きな "ありがとう" ではありました。

夏来 潤(なつき じゅん)

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