Essay エッセイ
2006年11月24日

ワイルドターキーはいずこへ!

皆さん、ワイルドターキーって知っていますか?

いえ、あの有名なバーボンのブランドではありません。生きたワイルドターキー(wild turkey)です。野生の七面鳥のことですね。

実は、我が家のまわりには、ワイルドターキーがいっぱい。数年前にはまったく見かけなかったのに、2、3年前から大量繁殖しているのです。日がな一日、みんなの裏庭をのっそのっそと、徒党を組んで歩き回ります。

なんでも、天敵のコヨーテが少なくなったので、辺りは「ターキー天国」となったんだとか。

最初のうちは、ご近所さんも珍しがって、「見て、見て、ワイルドターキーよ!」と大騒ぎしていましたが、そのうち慣れてしまって、ただの風景の一部となってしまいました。


いつか、朝早く起きたとき、度肝を抜かれたことがありました。我が家にも出現したのです!

数羽のターキーが大きな体をゆっくりと動かしながら、裏庭のフェンスのあたりを歩いています。

そのうち、一羽がヒョイッとフェンスの上に飛び乗ります。

首をもたげ、まるで勝ち誇ったかのような、その顔!

近くで見ると、とっても大きくて、びっくりです。それに、あの鋭い爪!
 あんなのに襲われたら、さぞかし大変だろうと思うのです。

彼らは、真剣に走ると、時速30キロも出せるらしく、どことなく、ヒッチコックの映画『鳥』を彷彿とさせるのです。

それにしても、まさか、ワイルドターキーのご一行様が、我が家にも訪れていたなんて。まさに「知らぬが仏」です。


コミュニティーにすっかり同化してしまったワイルドターキー。でも、不思議なことに、ここ一週間、姿を見かけないのです。たったの一羽も。

あんなに何羽もいたのに、ご近所さんの一帯から、まったく姿を消してしまったのです。

そこで、みんなは、こう噂します。「もうすぐ感謝祭だから、食べられないように、どこかに隠れているんじゃないの?」と。

そう、11月23日の木曜日は、感謝祭(Thanksgiving)。

1620年、メイフラワー号に乗って新世界アメリカに着いた清教徒たちが、初めての収穫を記念し、みんなで集まって食事をしたのが始まりとされています。

いつしか、感謝祭の食卓には、収穫した穀物とともに、七面鳥が乗るようになりました。
 なんでも、ヨーロッパでは、1500年代から七面鳥を飼育していたそうです。だから、イギリスからやって来た清教徒たちも、七面鳥を飼育するすべを知っていたのだと言われています。

それ以来、毎年、感謝祭に七面鳥を食べるのは、アメリカのお決まりとなっているのですね。


ここでちょっと、七面鳥のトリビアをどうぞ。

七面鳥には、「トリプトファン(tryptophan)」と呼ばれるアミノ酸が、たくさん含まれています。
 何がいいかって、このトリプトファン、脳内のセロトニンやメラトニンの分泌を促進し、ぐっすり眠れるようになるのです。

ご存じの通り、セロトニン(serotonin)は人をリラックスさせ、メラトニン(melatonin)は眠らせる効果のあるホルモンですね。

普通は、たんぱく質の中のトリプトファンは、含有量は少ないんです。でも、七面鳥は例外。たっぷり入っているそうです。

だから、感謝祭の晩は、たらふく食べて、早いうちから寝てしまう人が多いのでしょうか。


食卓でしかお目にかからない七面鳥。その大きな図体(ずうたい)からか、なんとなくお馬鹿さんな鳥だと思われているのです。

でも、その七面鳥を信じきった男がいます。

「建国の父」とも呼ばれるベンジャミン・フランクリン。彼は七面鳥が痛くお気に入りで、「国章」にもふさわしいと考えていたとか。

七面鳥ではなく、ハクトウワシ(the bald eagle)が国章になったときは、ひどくがっかりして、娘にこう書き記しました。

「七面鳥こそ、品の良い鳥であり、真のアメリカ原産の鳥なのだ」と。


七面鳥は、成長すると、約3800本の羽が生えているそうですが、食用の七面鳥は、真っ白な羽のものに限られます。ちょうど、こんな感じ。

どうしてかって、白じゃないと、羽が生えている毛根(?)が黒っぽいのです。黒い斑点のある七面鳥の皮なんて、おいしそうじゃないですよね。

だから、人間様のお気に召すように、真っ白なスベスベのお肌に品種改良されたんでしょうね。

今年の感謝祭は、アメリカ中で、実に1千6百万羽の七面鳥が動員されているのです。


カラリと晴れ上がり、穏やかだったシリコンバレーの感謝祭。その雲ひとつない空を見ていると、自然と空の上に向かって感謝したくなるのです。

それから、食卓に乗った七面鳥さん。彼らにも、大きな感謝です!

そういえば、我が家のまわりのワイルドターキー様ご一行。明日あたりから、また姿を現すのでしょうか。

追記:4年前に、感謝祭にまつわるお話を書いてみました。小さなお話がふたつありまして、上から4つ目の「七面鳥悲話」というのと、その次の「メイフラワー号」というものです。
 「悲話」の方は、七面鳥の恩赦(!)のお話で、「メイフラワー」の方は、アメリカ建国にたずさわった、友人の祖先のお話です。興味のある方は、どうぞこちらへ

それから、我が家のまわりのワイルドターキーですが、感謝祭の翌日の金曜日、しっかりとその姿を目撃されています。


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