Essay エッセイ
2017年03月28日

お散歩ソング

人って、何かをするときに好きな音楽を聴いている方が、気分が乗ってくるものではないでしょうか。



たとえば、お散歩をするとき。



歩くときには、軽快なリズムに乗って、足が軽くなる歌が欲しいですよね。



わたしの場合、自分の歩幅に一番合うのが、久保田 利伸(くぼた としのぶ)さんの「ちょっとそこまで」という歌なんです。



もう20年前に出た『LA LA LA・LOVE SONG』というアルバムの一曲目。



一曲目なのでインパクトがありますし、仲間たちの楽しげな笑い声から始まって、オープニングから気分が軽くなってきます。



歌詞の方も、「ちょっとそこまでお出かけしようよ」「何も見つからなくてもいいじゃない」みたいな、ごく気楽な内容になっています。



ちょっとそこまで「履きなれた靴で」お出かけするには、最適な歌かもしれません。




そして、お掃除ソング。



お掃除をするのって、ときに気分が重くなりますよね。



ですから、わたしの場合は、平松 愛理(ひらまつ えり)さんの『fine day』というアルバムが、とっても助けになるんです。



お掃除にはちょいと時間がかかるので、アルバム一枚を聴いてしまうことが多いんですが、掃除機を持つ手を動かしながら、頭はじっと歌の中身に聞き入っています。



やっぱり失恋の歌とか、恋する女のコの歌が多いんですが、「絶対そうよねぇ」とうなずきながら、いつの間にやら、(面倒な)お掃除が片付いています。



「(あなたに)熱が出たと電話したら、ふたつもつぶれた目玉焼き、サンキュー。今は、愛する人につくる卵失敗したら、その日は風邪をひく」という歌詞が、ひどく印象的なんです。



それぞれの人生に待つ人のいる男女を描いた、「この街のどこかで」というオトナの歌。短い歌詞にも人生経験が織り込まれていて、まるでドラマを観ているようです。



こちらのアルバムも20年前(1997年)にリリースされたものですが、実は、平松 愛理さんを教えてくれたのは、アメリカ人男性。



「僕は日本語がわからないから、歌詞はよくわからないんだけれど、エリ・ヒラマツって日本人の歌手がいてさ、僕は大好きなんだよ。だって、リズム感がスゴいんだよね」と、べた褒めでした。



この方は、彼女のCDを何枚か持っていたようですが、一番のお気に入りは、こちらの『fine day』。



わたしも日本に戻ったときに、真っ先にCD屋さんで探して買ってみました。



それ以来、彼のコメントどおり、愛理さんのリズムに乗って、お掃除がスイスイと片付いています。




それで、ふと思ったんですが、いろんなお仕事の人って、それぞれに「自分ソング」を持っているんでしょうか。



ドラマで観たんですが、水道局の職員で、土中の水道管の「水漏れを聞き取る」お仕事の人がいて、残念ながら、こういう方って音楽を聴きながら仕事するわけにはいかないですよね。



だって、音楽が邪魔になって、かすかな水漏れの変化を聞き逃してしまいますもの。



コンピュータに向かって仕事をしている人はどうでしょう。



たとえば、ソフトウェアのエンジニアの中には、ヘッドフォンで好きな音楽を聴きながらコードを書いている人もいます。

でも、なんとなく音楽が考えを邪魔しているような感じもするんですけれど・・・。



コンピュータ画面で絵を描いているような人は、音楽で想像がふくらんで、いい作品ができるのかもしれませんね。




それから、外科医の方って、どうなんでしょう。



ドラマでは、手術室でクラシック音楽を欠かさない人がいましたが、それは、「これからメスを握るぞ」ってときに心が落ち着くからなんでしょうか。それとも、アップテンポなリズムで、作業がはかどるからでしょうか。



わたし自身は、人生で6回手術を受けたことがあるんですが、そのうちの3回は局部麻酔だったので、手術室の会話が聞こえていたんですよ。



すると、「楽しく」会話されていることがあって、不謹慎だなぁと思ったこともありました。



もちろん、それは整形外科の手術で、命にかかわる大手術ではなかったので、みなさんリラックスされていたんでしょう。



 看護師の方が、「先生は手術に慣れていらっしゃるでしょうが、動物の手術ってできますか?」と問えば、



「いやあ、僕は人間には慣れているけれど、動物は無理だと思うよ」と若手の外科医が答える、といった感じ。



ま、とりたてて患者の血圧が上がるような話ではなかったですが、「腱や筋膜と5枚も縫い合わせないといけないので、大変なんだよ」と、患者のためになるような話もされていました。



そういえば、この手術のときには、先生が部屋に入ってくるなり、看護師の方が音楽をかけ始めたような気もします。



強烈な印象は残っていないので、激しいロックなんかではなく、穏やかなクラシック音楽だったのでしょう。



それ以降は、全身麻酔の手術だったので、まさに「まな板の上の鯉」。



手術室で「自分ソング」が流れていたかどうかは、知るよしもありませんでした。




というわけで、わたしの「お散歩ソング」と「お掃除ソング」。



音楽って、たとえ気分が乗らないときにも、軽快なリズムや旋律に救われる感じがしますよね。



タキシードなんか着込まなくても、思い立ったら、その場で「音を楽しめる」ところもいいんです。



生まれ故郷で入院した母を見送って、四ヶ月過ごした日本から戻ってきたところですが、



カリフォルニアの雨季も終わりに近づいたことだし、



そろそろ「お散歩ソング」の出番かもしれませんね。





追記: 演奏の写真は、サンフランシスコの小さなテクノロジー会社が集まるオフィスで開かれた、ミニコンサート。



ギターを弾くのは、路上で暮らした経験を持つ、スティーヴン・ノーマン・ロングさん。ヴァイオリンを奏でるのは、グラミー賞を2回も獲得した(!)ジャズヴァイオリニストのマッズ・トリングさん。

スティーヴンさんが『Panhandler(物乞い)』という新曲で、「人は僕を物乞いと呼ぶけれど、音楽がわたしを自由にしてくれた」と歌えば、マッズさんが飛び入りで参加する、というジャムセッションとなりました。



ふたりの後ろには、なにやらクッションの棚が見えていますが、それは、インテリアショップの2階にテクノロジーの人たちが間借りしているから。






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