Essay エッセイ
2021年07月11日

大変だった、この一年

<エッセイ その186>

前回のエッセイでちょっとだけご紹介しておりましたが、今年1月中旬、長年住み慣れたカリフォルニアから日本に引き揚げてまいりました。

テクノロジー業界の中心地「シリコンバレー」には26年、通算32年のアメリカ生活。やはり、長年暮らした場所を引き揚げるとなると大変でしたね。

そう、今の場所に落ち着くまでには、お引っ越しが3回。

まずは一年前、23年間住み慣れたサンノゼ市の一軒家を引き払って、サンフランシスコ市の小さなマンションへ。

この様子は、『自宅待機中にお引っ越し』というエッセイでもご紹介していますが、まあ、家の中には呆れるほど物があふれ返っていて、寄付したり、廃棄したりと、連れ合いが奮闘してくれました。それでも、日本向けに箱詰めした時には、家具はほとんどないのに、170個の大きな箱がトラックで運ばれて行きました。

2回目の引っ越しは、今年1月、いよいよサンフランシスコから日本へ引き揚げる時。ここからは家具もいくつか送ったので、狭い居住空間のわりに、箱詰めしてみると70箱。う〜ん、かなり絞り込んだはずなのに、出てくるは、出てくるは・・・。

けれども、日本に引っ越してから何もかも買い換えるのは、あまりにももったいない。愛着のあるダイニングテーブルや飾り棚は、十分にリサイクルできるのです。

日本にたどり着いたら、両親が住んでいたマンションに一時滞在するので、荷物は身軽にキャリーバッグ2つと小さな段ボールで済ませました。が、移住先への引っ越しが近づいてくると、「果たしてアメリカから送った荷物はすべて部屋に入るのか?」と、日々頭を悩ませます。

そして、いよいよ4月1日に新居へお引っ越し。いえ、わざわざ日本の「新年度」に合わせて引っ越したくはありませんでしたが、日本の新築マンションの引き渡しは、だいたい3月下旬。こちらの事情に関係なく、みなさんが年度替わりで「民族大移動」する時期と重なってしまいました。

我が家の場合は荷物が多いので、丸一日「引っ越し枠」を割り当ててもらって、なんとか午後5時には荷物を搬入。すべてを部屋に詰め込んだものの、荷解きは終わらないので、後日2回も箱を取りに来てもらいました(いえ、いまだに書斎には箱が積まれていますが・・・)。


というわけで、一年に3回の引っ越し、しかも国を超えての「移住」や、それに伴う日米両国の諸手続きは大変でした。加えて、サンノゼの一軒家とサンフランシスコのマンションを売り払い、新居となる日本のマンションを準備するのも、面倒なものでした。

だいたい、不動産業者でも投資家でもないのに、一年で家を3軒も売ったり買ったりする方は、あんまりいらっしゃらないのではないでしょうか。

驚いたことに、長年住み慣れたサンノゼ市郊外の自宅は、売り出して一日で買い手が現れ、翌月にはお金が振り込まれるという、とんとん拍子。新型コロナの蔓延でリモートワーク(telecommuting)が広まり、郊外の一軒家は大人気。我が家のように、築年数のわりに新築っぽい家に惹かれる人は、少なくありません(日本人はきれいに住みますから、その点は強みなのです。こちらは普通だと思っても、不動産屋さんには「きれい!」と驚かれました)。

インドからいらした若いご家族がすぐに我が家を気に入ってくださって、家の購入に加えて、入居時に買い揃えた家具一式も譲り受けていただいたのが、とても嬉しかったです。ご主人と坊やに一度だけお会いしたことがあって、中庭の八重桜を楽しみにしていらっしゃいました。きっと今ごろは、裏庭でバーベキューを楽しんでいらっしゃることでしょう(興味深いことに、我が家は玄関が北向きだったことも、インド出身の方々にアピールできた一因でした)。

ところが、これと正反対なのが、先月ようやく売却できたサンフランシスコ市のマンション。こちらは、ベッドルームひとつの小さなマンションで、たとえば、週末に街に遊びに来たいとか、週日に市内のオフィス街で働き、週末は郊外で過ごしたいという方に最適なもの。

ですから、これだけ「リモート」が徹底して、オフィスやレストランが閉まって街に活気が失われると、都会の真ん中に居住スペースを持つ意義がなくなってくるのです。

そんなわけで、こちらは売り出して半年もかかってしまいました。


今はすっかり以前の生活に戻っているようですが、カリフォルニアではコロナ禍をきっかけに、不動産業界をはじめとして「リモート」が徹底していましたね。

たとえば、「オープンハウス(open house、物件訪問)」もオンライン化され、写真やビデオで物件の詳細を知ることができるように工夫されています。最終的には、担当の不動産業者に予約をして現地に赴けるようにはなっていますが、ハウスハンティングの第1ラウンドは、バーチュアルツアーで十分です。

事前に売主が記入する物件の申告書(Real Estate Transfer Disclosure Statement)や売買契約書(Purchase Agreement)なども、サンノゼの自宅を売りに出した時には紙面のものもありましたが、数ヶ月の間に事情がすっかり変わっていて、サンフランシスコの際は、書類はすべてオンライン化されていました。

まあ、オンライン化されて便利になったか? というと、必ずしもそうではなく、たとえば申告書類の中で「周りには新築工事計画があり、今後うるさくなりそうですか?」といった質問に対して、「何もない」などと答えようものなら、「本当ですか? あなたは近隣のことが何もわかっていませんね」と逐一警告が発せられる始末。

実際に工事計画があったにしても、コロナ禍で着工が先延ばしになることも多かったわけですが、「機械」の方は、そんな事情はお構いなしに警告を発してくるのです(カリフォルニア州の場合は、専門家による査定の前に、売主が紙面で15ページにわたる自己申告を行う義務があって、購入時から現在までの修理・リフォームの経歴や屋内外のコンディションに加えて、たとえば「近所で犬が吠えないか」とか「安全な場所か」「災害の危険はないか」といった周辺の環境も正直に「白状」することになっています)。

「リモート」といえば、日本の新居となるマンションもリモートでした。そう、部屋の設計変更やインテリアの詳細を決めるのは、アメリカから「リモート」で行いました。今の時代、設計図などはメールで送信できますし、建材のサンプルは国際郵便ですぐに届きます。細かい点の打ち合わせは、テレビ会議で行えます。

たぶん、設計やインテリアを統括された方は、そのぶん大変でご苦労なさったのだと思いますが、やってやれないことはないのです。


そんなわけで、一年で3回のお引っ越しと家の売買を3回。それに伴う諸手続きや、家を売却したアメリカでの納税と、やることが山積みの日々。

さらに、これらをすべてコロナ禍でやり遂げるのは、神経がすり減る思いでした。よくまあ、乗り越えて来たものだと、我ながら感心しています。

そして、昨年9月には闘病中の父が他界し、緊急帰国してお見送りをしたのですが、「あと少しで日本に戻るところだったのに・・・」と、そばにいてあげられなかったことが悔しくもありました。

やはり、海外に暮らしていると、緊急事態の際に機敏に身動きが取れないことも多く、それは覚悟の上とはいえ、後悔の念を味わうこともあります。

「巨星落つ」とも報道していただいた父の旅立ち。せめて、長年がんばってきた父の思想を大事にしていきたいものです。

シリコンバレーの親友は、「今まで大変だったと思うけど、これからは日々良くなっていくばかりだからね(Life will only get better for you each day)」と励ましてくれて、それが心に染み入るのでした。

ところで、日本の移住先はどこかというと、九州最大の都市、福岡市。

食べ物は美味しいし、気候も穏やか。「人もおおらかで、住みやすい」と、どんどん人口が増えている、活気のある街。

数回しか訪れたことはありませんが、とにかく住んでみよう! ということになりました。

新居のマンションからは、志賀島(しかのしま)や能古島(のこのしま)の浮かぶ、万葉の時代から愛でられた穏やかな海が見えています。

地元の方は、あまり頓着していないようですが、訪れたい旧跡もいっぱいあります。今はまだ、コロナ禍で閉まっている場所も多いですが、そのうちに「福岡通」になって、ご紹介できればいいなと思っております。

そうそう先日の夢には、地元プロ野球チーム「ソフトバンク・ホークス」の主砲、柳田悠岐(やなぎた ゆうき)選手にも登場していただきました。まだまだ熱狂的なファンとは言えないものの、だんだんと地元っこの色に染まってきたのかもしれません!

追記: 最後の写真は、今まさにホークスの地元球場PayPayドーム前に展示される、博多祇園山笠の「飾り山」。祭り自体は、コロナ禍で昨年・今年と延期になっていますが、街のあちらこちらには、美しい飾り山が展示されているのです。

PayPayドーム前の十三番山笠は、表がホークスゆかりの題目となっていて、工藤監督、エースの千賀投手、キャッチャーの甲斐選手、主砲柳田選手が登場しています。実際の身長より10センチほど小さく作られているそうですが、人形師の方は「もうちょっと大きくても良かったかな」とおっしゃっていたとか。なんでも、こちらの十三番山笠は他よりもちょっと背が高いそうですが、初めて見たわたしは山笠がこれだけ大きなものとは、つゆ知らず。

来年こそは、山笠が街中を走り回る勇壮な「舁き山(かきやま)」を見てみたいものです!


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