Essay エッセイ
2006年10月29日

身近なゴーストストーリー

ごめんくださいましな。

ある日の早朝、誰ぞやが玄関口にたたずんでおります。

連れ合いが扉を開けると、お向かいさんが不安げな面持ちであいさつをし、こう言うのです。

突然、風もないのに階下の物入れの扉が閉まってしまい、賊でも潜んでいるのではないかと不安なのです。連れは出張中でおりませんので、申し訳ありませんが、家の中を調べてはくれませんかと。

そこで、連れ合いはお向かいさんの家に出向き、音のした扉の中を調べます。

恐る恐る扉を開けると、向こうには誰もいません。あるのは、ただ静けさ。

そこで、ひと通り家の中を検分し、侵入者のいないことを確かめ、いくぶん安堵したお向かいさんは、ご足労でしたと、連れ合いを送り出したのでした。


このお話をお向かいさんから聞いたのは、ごく最近のこと。連れ合いからは聞いていたかもしれませんが、なにせ十年ほど前のことです。越して来たばかりで、よくお互いを知らない間柄だったので、じきに忘れてしまったのかもしれません。

当時を振り返り、彼女は言うのです。今でもあれは、単なる偶発ではなかったと信じていると。

あれは、この辺りに住んでいた先住のインディアンの魂だったのだと。彼(か)の戯事(ざれごと)だったのだと。

この辺りの丘陵には、何千年の昔から、オローニ族(The Ohlone)というインディアンの種族が住んでおりました。豊かな自然に恵まれ、小動物を獲る簡素な狩猟や、たわわに実る木の実や果実の採集で、食をまかなっていたのでした。

今は、オローニ族の末裔はひとりもおりませんが、この辺りには、その頃の幸せな魂が徘徊していて、後世の暮らしを見に、ときどき訪ねてくるのだと、そう言うのです。

そういえば、こんなことがたまにあるのですと。視界の端に、まるで蜃気楼のような空気の乱れが見え隠れすることが。これは、目の錯覚とは、到底思えないのだと。


我が家のまわりだけではなく、シリコンバレーの一帯は、オローニ族の領域でした。そして、彼らの穏やかな生活の場でした。

今でも、新たに住宅や公園を整備しようとすると、当時の遺物が出てきます。

先日も、サンノゼの住宅街で土を掘り起こしていたら、人骨が出てきたそうです。そうなると、考古学者が詳細に調査をし、まず血縁を探すことが法律で定められているのです。

血縁など、到底見つかるはずもないのに。

そんな土地に住んでいると、まれに過去と現在が交錯する場面があるのやもしれません。遠い昔の御仁が、後世の輩(やから)の顔でも拝んでやろうかと、ふっと現れたりするのかもしれません。

追記:さて、もうすぐハロウィーン(10月31日)。日本のお盆の頃と違って、アメリカでは、このハロウィーンの時期に怪談を楽しみます。お化けたちのお祭に向け、心を高めようというものなのですね。

そして、ハロウィーンの翌日には、メキシコからやって来た「死者の日」となります。メキシコ系住民の多いカリフォルニアでも、近頃、よく知られるようになったお祭りですが、これは、まさに、日本のお盆のようなもの。
 そんな風変わりなお盆について、以前書いたことがあります。興味がありましたら、こちらへどうぞ。


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