Welcome aboard(歓迎します)!

英語ひとくちメモ その140



本題に入る前に、まずは、新型コロナウイルスに関する近況からどうぞ。



サンフランシスコ・ベイエリアでは、いまだに自宅待機(shelter-in-place、stay-at-home)の命令が解かれていません。



ベイエリアでは、カリフォルニア州全域に先駆けて3月17日に待機命令が発動されたので、もうかれこれ3ヶ月。



世の中の再開(reopening)に向けて、一段階ずつステップを踏みながら、ゆっくりと進んでいるところです。



今のところオフィスは閉まったままですし、お店の営業は、当初はスーパーマーケットやレストランのテイクアウトやデリバリーに限られていました。が、ここに来て、店頭(curbside)での商品の受け渡しが許されつつあります。ニューススタンドでは新聞や雑誌を指定して店先に持ってきてもらいますし、お花屋さんでも店頭から「あのお花ちょうだい」と指さして、花束にしてもらいます。



個人経営のお店にすると、少しでも営業が再開されたのはありがたいことですが、まだまだ店内に顧客を入れることは許されないので、衣料品店など商品を手に取って吟味したいお店は、「もう少し緩和されないと・・・」と不満も残ります。



こちらは、ペンキ屋さんの店先で、ご所望のペンキ缶を渡しているところ。面白いことに、家の修繕や引っ越し、家の売買と、住むことに関しては「essential business(必要不可欠な業種)」とされ、ペンキ屋さんやDIYショップなどの営業再開は早かったです。



一方、飲食・娯楽業界は、まだまだゴーサインは先のようです。



ワイナリーで有名なナパ(Napa)やソノマ(Sonoma)は、もともと人口が少ないし、感染件数も少ないので、ようやく今週からワインテイスティングのお客さんを受け入れることになりました。でも、あくまでもワイナリー内のテイスティングルームに限られ、市中のバーやパブは閉まったままです。



レストランでは屋外での営業(outside dining)が許されるようになってきて、ようやくサンフランシスコでも、今日から屋外営業が解禁となりました。前日は海沿いのレストランでも、パティオ席の準備に余念がありませんでしたが、この街で屋外飲食というのは、夏でも寒いことでしょう。



ショッピングモールはといえば、ほとんどの自治体で閉鎖されたままですし、遊園地の王様、南カリフォルニアのディズニーランドは、7月17日から営業再開するそうです。




そんなわけですので、今の唯一の娯楽といえば、海沿いまでお散歩することでしょうか。



外出禁止令の発動から我が家がサンフランシスコに引っ越してきた5月下旬まで、繰る日も繰る日も、23年間住んでいた家の片づけで多忙を極めていました。が、さすがに引っ越しが済むと、だんだんと落ち着いてきて、お散歩を楽しむ余裕も出てきました。



ここは、湾(San Francisco Bay)まで歩いて15分ほどの距離。観光地ともなっているフェリービルディング(the San Francisco Ferry Building、遠景の青い塔)を中心に、海沿いには大小さまざまな埠頭が並んでいて、今日はどこまで足を伸ばそうかとルート選びに工夫を凝らしています。



以前もどこかでお話ししましたが、サンフランシスコの埠頭(pier、ピア)は、フェリービルに向かって右側が偶数の埠頭、左側が奇数の埠頭と分かれています。



有名なベイブリッジ(the San Francisco-Oakland Bay Bridge)はフェリービルの右手になるので、こちら側は偶数。橋のたもとには「ピア26」「ピア28」そして大きな「ピア30」と、偶数の埠頭が並びます。



一方、フェリービルのすぐ左隣は「ピア1」。観光地として有名な「ピア39」は奇数ですので、フェリービルからかなり左(北西)に離れた場所になります。



「ピア1」の左隣は、「ピア3」。その左手には、お散歩や釣りで人気の長〜い「ピア7」があります。ここは歩行者だけ許されるので、のんびりとお散歩ができます。海に突き出た7番埠頭には、いつも風が吹いていて、ここから振り返ると、ダウンタウンの高層ビル群が近くに迫って見えます。



「ピア3」は、観光船が出る埠頭です。牢獄で有名なアルカトラズ島まで連れて行ってくれる小型クルーズ船や、趣のあるディナークルーズ船サンフランシスコ・ベル号を所有する、Hornblower(ホーンブロウアー)というクルーズ会社の拠点となっています。



もちろん現在は、観光はストップしているので、3番埠頭には出番を待つ何隻もの船が繋がれたまま。なんとなく寂しい感じもしますが、人気(ひとけ)のない静かな埠頭では、大きな船を間近で観察する絶好の機会ともなっています。




そんな中、ふと気がついた、こちらの看板。



Welcome aboard と書かれています。



これは、文字通り「乗船を歓迎します」という意味です。



看板では、「Welcome aboard the “California Hornblower”」「Welcome aboard the “San Francisco Spirit”」と船の名前を挙げて歓迎しています。



Welcome は、「ようこそ」「歓迎します」という意味の間投詞。「よくいらっしゃいました」という歓迎の気持ちをストレートに相手に投げかける言葉です。



Welcome という言葉は、Welcome home(おかえりなさい)という風にも使われます。



こちらは、どこかに旅していた家族を迎える時にも使いますし、ご近所さん同士でも「おかえりなさい」「戻ってくれて嬉しいです」と歓迎の意を表す時に使います。



そして、Welcome aboardaboard は、「(船や乗り物に)乗って」という副詞。



乗り物が出発する前には、All aboard! と掛け声がかかったりします。「間もなく出発するので、みなさん乗車してください」という意味です。



ですから、Welcome aboard というのは、「乗船していただいて歓迎の気持ちでいっぱいです」といった慣用句になります。



ここで思い出すのが、シリコンバレーの会社に勤め始めたころ。



複数のスタッフから Welcome aboard! と歓迎のお言葉をいただきました。



こちらは、会社を船に見立てて、「乗組員になったことを歓迎します」といった感じのポピュラーな表現。そう、誰かが新しく仲間となった時のオシャレな慣用句なのです。



べつに船に興味がない人でも使う言葉ではありますが、米海軍出身のガッチリとした上司に Welcome aboard と言われると、さすがに大きな船を思い浮かべて臨場感たっぷりなのです。




船を思い浮かべる表現には、こんなものもあります。



Tie the knot



「固く紐を結ぶ」ところから転じて、「結婚する」という意味になります。



中世の時代には、結婚の儀で実際に紐を結んで「永遠の愛」の象徴としたという説もあるようですが、わたし自身は、なんとなく船やヨットを岸に繋ぎ止めるロープを思い浮かべるのです。



紐が解けないように、いろんな結び方があると聞きますが、そんな文化から「二人を結びつける紐を強固なものにする」という意味に転じたのではないか? と勝手に想像してしまうのです。




それから、以前もご紹介したことのある uncharted territory という言葉もあります。



こちらは、「地図にもないような未知の(uncharted)領域(territory)」という意味になります。



「地図」というのは、陸地の地図なのかもしれませんが、わたし自身は、勝手に海図を思い浮かべてしまうのです。



大航海時代に、海図にも載っていないような未知の海原に乗り入れる、といった印象を抱く表現なのです。



まあ、言葉というものは、誰が最初にどんな環境で使ったのかという起源(etymology)は不明なことが多いです。ですから、自分自身の勝手な想像で言葉を覚えたって、バチは当たらないのかもしれません。




というわけで、本文である英語のお話が短くなってしまいましたが、今日のお題は、Welcome aboard



誰かが新しく仲間になった時には、Welcome aboard と歓迎してみてください。



それから、余分ついでに。



自粛命令で閉まったままの美容室(hair salon)や理容室(barbershop)。伸びた髪をどうやって切るか? が話題になったりしています。



州知事のギャヴィン・ニューサム氏も子供たちに切ってもらっている写真を公開していますが、カリフォルニアの人たちは、いたっておおらか。「少々変になったって、会社に行けるわけじゃなし、誰にも会わないから構わないよ」と、自分で切る人も多いです。



連れ合いなどは、こんな髪切り機をネットで購入して、「もう行きつけの美容室に通うこともない!」と豪語しています。わたしから見ると、後ろがぺったりとしていて、プロのカットには到底かなわないと思うのですが、「これでいいんだ」と満足しています。



ご近所さんのソーシャルサイトNextDoorが全米でアンケートを取った結果、西側のおおらかさに比べて、東側は「こだわり派」のよう。人に会えなくたって、変な髪型にはなりたくない、と自分では切らない人が多いとか。



西の人はいたってサバサバ、細かいことには、とらわれない。それが、常に新しいことにチャレンジする西部ゆずりの精神なのかもしれません。



プロテストとプロポーズ

<ライフ in カリフォルニア その162>



今日のお話は、プロテストとプロポーズ。「プロテスト」と言っても、ゴルファーや野球選手がプロになるためのプロテストではありません。



英語で protest と書く、街なかのデモンストレーション、つまり抗議行動のことです。



ご存じのように、今アメリカでは、「Black Lives Matter(黒人の命だって大切なんだ)」という人権運動が各地に広がっていて、連日路上や公園でデモンストレーションが行われています。



サンフランシスコやサンノゼのベイエリア各都市でも、5月末から毎日どこかで「警察組織を改善しろ!」「平等な社会を実現しよう!」とシュプレヒコールをあげながら、抗議の集会や行進が行われています。当初の大騒ぎや破壊行動はおさまってきたものの、道路閉鎖や警官の出動は日常の風景となっています。



新型コロナウイルスのせいで、路上のオフィスやお店は閉まったままのところがほとんどですが、デモ隊の行動を恐れて、「このお店に入ったって価値あるものは何もありませんよ(Everything of value has been removed from this store)」という張り紙も見かけます。



一時の破壊や窃盗はおさまったけれど、まだまだ抗議行動は怖い。銀行やオフィスをはじめとして、店舗の閉鎖中はガラス戸や窓を板で覆って(boarded up)、誰も入れないように保護してあるところも多いです。



こういった板を貼り付ける業者さんは、いつもの何倍もの仕事が入って連日大忙しのようです。そして、急に需要が高まった合板(plywood)も、価格高騰を記録しているとか。




そんな騒ぎが続く、6月最初の土曜日。サンフランシスコの観光名所ゴールデンゲート・ブリッジ(the Golden Gate Bridge、金門橋)でも抗議行進が行われ、いつもは車でいっぱいの橋は、人で埋め尽くされました。



土曜の午後2時ごろ、家でのんびりとしていたわたしは、「ゴールデンゲート・ブリッジと付近の19番街(19th Avenue)でデモンストレーションが。周辺には深刻な交通渋滞が起きているので気をつけて」と、スマートフォンに警告を受け取りました。



それに続いて、ダウンタウンに近いヴァンネス街(Van Ness Avenue)でもデモンストレーションが行われているとの警告が流れ、街じゅうで抗議行動が起きていることを知りました。



けれども、今となっては抗議集会や行進はごく平和的なもの。自分たちの主張を世に伝えたいという人々が集まっていて、道路の閉鎖や交通渋滞といった影響はあるものの、当初に起きたような抗議に便乗する暴動(riot)はすっかり影を潜めています。




そんな中、このゴールデンゲート・ブリッジの抗議行進で、珍しいことが起きました。



プロテスト(抗議)の最中に、プロポーズをした方がいらっしゃったのです!



そう、結婚を申し込む、プロポーズ。



クインさんとキャリーさんのカップルは、仲間たちと一緒にシュプレヒコールをあげながらゴールデンゲート・ブリッジを渡っていました。



一行が橋の真ん中に来たところで、クインさんは片ひざを地面につけて、キャリーさんに指輪を差し出します。



まったく予想もしていなかったキャリーさんは、びっくり仰天! え〜っと叫びながらも、満面の笑みで指輪を受け取り、クインさんに抱きつきます。



これを見守っていた周りの方々も、ウォ〜と歓声をあげて二人を祝福。一連のハプニングをスマホで撮っていた仲間がソーシャルメディアにアップして、広く世に知られることになりました。




翌日のローカル番組にビデオでリモート出演した二人は、こんなことをおっしゃっていました。



実は、この抗議行進に出る前に、二人でじっくりと討論して、仲間とも議論したんだ、と。なぜなら、クインさんは南部の州の出身で、いつもお父さんから「自分たちが目立った行動に出ると、格好のターゲットとなる。だから、絶対に目立ったことをするんじゃない」と言い含められてきたから。



いかに正当な主張であっても、自ら進んで抗議行動に出たくはない、というのが正直な気持ちでした。



これに対して、キャリーさんはアラバマ州バーミングハムの出身。1950年代・60年代は公民権運動(the Civil Rights Movement)の中心地とも目された南部の都市。その頃は白人至上主義者による爆破事件も相次ぎ、爆弾(bomb)をもじって「ボミングハム」とも呼ばれたところ(写真は、1963年四人の黒人の女の子が犠牲となった16番通りバプテスト教会(16th Street Baptist Church); Photo by John Morse, from Wikimedia Commons)



この土地柄で育った彼女は、「自分が信ずるところはきちんと主張して、人々に伝えていかないといけない」という主義のお方。



No Justice No Peace(正義のない社会には平和はない)」というのも、彼女たちが伝えたい大事なメッセージなのです。



そんな二人ですから、抗議行動をめぐっては意見が対立したのも当然の流れ。けれども、最後にはクインさんが説得されて、思い切ってデモに参加し、自分の声をあげたのです。そして、彼女にも指輪を差し出すことができた。



めでたく婚約した二人に向かって、テレビキャスターは尋ねます。「どうしてまた、あんな騒ぎの中でプロポーズなんかしたの?」と。



すると、クインさんは答えます。「実は、2ヶ月前に日本に旅行することになっていて、その時にプロポーズをしようと考えていたんだ。でも、新型コロナウイルスのせいで旅行できなくなって、そろそろプロポーズしなきゃと思っていたところ、ちょっとした勢いで行進の最中になっちゃったよ」と。



いつも穏やかなクインさんと、かわいい笑顔ではっきりと主張するキャリーさん。とってもお似合いの二人は、時には議論を交わしながらも、ずっと仲良く過ごされることでしょう。




周りの皆さんに「さわやかな風」を吹き込んだお二人。彼らが参加した人権運動が、世の中の仕組みや力関係、そして人々が抱く偏見や固定概念をも払拭してくれれば良いと願うのです。



だって、公民権運動から半世紀たった今でも、「people of color(有色人種)」という言葉が日常的に使われるアメリカ社会です。



わたしはこの言葉を聞くとゾッとするのですが、「白人とそれ以外の人種」という対比は社会の隅々まで行き渡っていて、それが不思議なことだと思っていない人が多いのも現実です。



百数十年前には、奴隷制をめぐって、アメリカが南北に分かれて戦う南北戦争(the American Civil War)がありました。その際に使われた南部諸州の旗印(Confederate flag)が、いまだに誇らしげに議事堂ではためいている街だってあるのです。



もうそろそろ、「Black Lives Matter」なんてシュプレヒコールをあげないでいい社会になっても良いのに・・・。



そう願いながら、今日も声をあげる人たちがたくさんいるのも事実です。



自宅待機中にお引っ越し

<エッセイ  その182>



そうなんです、23年も住んだ我が家から引っ越しました。



25年前にサンノゼ市に引っ越して来て、その2年後には新築の我が家に入居。



これまで何回か手を入れたり、あちこち修繕をしたりと、いろいろと手をかけてきた愛着のある我が家です。が、そろそろこの場所にもサヨナラしようということになりました。



家を売りに出そうと決心して、わずか3ヶ月後。5月下旬には、なんとかサンフランシスコに引っ越して来ることができました。そう、ベイエリアにはまだ新型コロナウイルスの自宅待機命令(stay-at-home order)が発動されたまま。その最中の「離れワザ」です!




どなたも同じことと思いますが、お引っ越しで何が一番大変だったかというと、いらなくなったモノの処理。



わたしは20年ほどせっせと書き物をしていたので、これまでためこんだ資料が家の中にあふれています。自分の資料に加えて、金融機関の書類などもすべて保管してあったので、「紙モノ」は半端な量ではありません。



この「紙の山」に加えて、使わなくなった服や家電製品と、これまできちんと整理しなかったツケが一気に回ってきた感じです。「忙しい」というのを言い訳に、ためこむだけためこんで、引き出しや戸棚を開くと、「え、ここにもモノが!」といった具合に、ごちゃごちゃと(忘れ去られたモノが)詰め込まれているのです・・・。




そんなわけで、最終的には「ゴミ(junk、trash)」として処理すればいいわけですが、やはりもったいない。中にはほとんど使ったことのないモノもありますので、使えそうなものは誰かにあげたい気分になるのです。



アメリカでは、不要になった服や家具、さまざまな小物と、ありとあらゆるものを寄付する習慣があります。



いつもだったら、慈善団体に連絡をして、たとえばソファーのような大きな家具だって、家に取りに来てもらえます。



以前も、居間の大きなソファーを慈善団体 The Salvation Army(救世軍)に取りに来てもらったお話をいたしました。ソファーなどの大型家具は、受けて付けてくれない団体も多いですが、救世軍ではシミや破損がなければ受け付けてもらえます。



ところが、ここで問題が。新型コロナウイルスのせいで、救世軍は寄付の回収をストップしているんです!



そこで、連れ合いがほうぼうを探した結果、地元の慈善団体のメンバーで、欲しいものを探している家庭と寄付者の間を取りもってくれる方を発見。彼女にテレビやオーディオ製品の家電や、机やベッドの家具類が欲しいかとお伺いをたてると、ぜひ欲しいということになりました。



けれども、このウイルスのご時世、重たいものを運ぶために家の中に人を入れたくはありません。そこで、数回に分けて、自分たちで物品を家の前まで運んで、彼女とダンナさんにトラックで取りに来てもらいました(日本から持ってきたダイニングテーブルは、ずっしりと重かったです!)。



彼らだって、我が家の新品に近い物品は欲しいので、文句も言わずに何回でも取りに来てくれました。逆に、「引っ越す人は良い寄付者になる」と味をしめたみたい。



いつの世も大型テレビは大人気ですが、こんなご時世なので、空気清浄機(air purifier)も人気でしたよ。大型テレビは3台、空気清浄機も3台寄付して喜んでもらいましたが、意外なことに、ゴルフクラブなども人気だとか。プラスティック製のクリスマスツリーやデコレーションも喜んで引き取ってもらいました。




残念なことに、彼らは衣服やキッチン用品は受け付けていないので、こういったコマコマとしたモノは、数回に分けて慈善団体 Goodwill(グッドウィル)に車で持って行きました。



Goodwillは、あちらこちらにショップを構えていて、寄付された物を安価に消費者に売り出して、利益は慈善事業に使っています(現在ショップは閉鎖中)。



そういったショップの裏側にはドライブスルーの寄付ステーションを設けていて、「衣服(clothes)」「家庭用品(household goods)」「大型物品(big items)」と分けられたコンテナーに寄付したい物をドロップオフできるようになっています。



ところが、この新型コロナウイルスの自宅待機のせいで、家の中の整理を始めた人がたくさん。どの慈善団体も寄付された物品であふれ返っていて、「もう家具は受け付けません」とか「今日は、整理のため寄付ステーションはお休みです」という場所が出てきました。



我が家もギリギリで希望通りに寄付できた状態でしたが、タイミングが悪ければ、近隣の街に遠出をしなければ寄付できなかったかもしれません。



そんな状態ですので、今は「廃品回収(Junk removal)」のコマーシャルがテレビで幅をきかせています。寄付するのもはばかられるような物品は、廃品回収の業者さんにお金を払って取りに来てもらうしかありませんよね。



我が家も、ゴミやリサイクルの容器は毎回満タンでしたし、便利屋さん(handyman)に有料で持って行ってもらった物もたくさんあります(写真は、サンノゼ市が契約しているリサイクル会社のトラック。ゴミ出しは週に一回なので、とても間に合いません!)。



こういった「ゴミ運び出し(trash hauling)」の業界は、ウイルス蔓延には関係なく、今は商売繁盛なのかもしれません(いえ、かえってこの業界には「コロナ景気」が訪れているのかもしれません・・・)。



というわけで、サンノゼからサンフランシスコに引っ越して2週間。



もう我が家の買い手も見つかって、ほっとしたところです。



家を売るお話は、また次回ということにいたしましょうか。



カリフォルニアのケース:州知事のリーダーシップ

Vol. 235



カリフォルニア州では自宅待機生活も5週間と、新しい暮らしのリズムにも少しずつ順応してきたところです。今月は、州の対策を中心にカリフォルニアの近況をお伝えいたしましょう。

<州政府の迅速な対応>

先月号では、すでに3月17日にはサンフランシスコ郡や「シリコンバレー」と称されるサンタクララ郡で自宅待機命令(Shelter-in-Place order)が出され、2日後には州全体にも待機命令(Stay-at-Home order)が発動されたことをお伝えしておりました。

基本的には、買い出しとお散歩に出る以外は、家から外出してはいけない、との命令です。街中ではスーパーマーケット、薬屋、クリーニング店、ガソリンスタンドと、ごく限られた業種しか営業できませんし、レストランはデリバリー(宅配)かテイクアウトのみの営業となります。通勤・通学を含めて、ほとんどの日常行動が「不要不急」と定められています。

このお達しは「今日の真夜中から施行!」というほどの緊急発令で、ちょうどサンノゼ市の日本街にある日系スーパーに買い出しに行っていたわたしは、これが最後の街中への外出となりました。感染リスクを減らすために、買い出しは連れ合いに代表してやってもらっているので、わたし自身が外へ出るのは、近所のお散歩のときだけなのです。



それから5週間が過ぎ、カリフォルニア州の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染症例(COVID-19)は、まだまだ少しずつ増加しています。が、感染拡大が著しいニューヨーク州など東海岸の州に比べると、カリフォルニアの増加率は実に緩やかに収まっています。いわゆる「拡大のカーヴを緩やかに保つ(flatten the curve)」ことに今のところ成功しているのです。

それはひとえに、州政府の新型ウイルス対策が迅速だったからだと思っているのです。



上記のように、3月中旬には州全域に自宅待機命令が出されていたわけですが、これに甘んじることなく州政府は地道に対策の拡充に努め、4月に入って、州知事は次から次へと具体的なプランを州民に向けて発信し続けています。

「州民には知る権利がある」との根本姿勢に基づき、毎日正午には、州都サクラメントからギャヴィン・ニューサム州知事のテレビ会見生中継が定番となっています。

まず手始めに、感染対策プランを「フェーズ1」と「フェーズ2」に分けて、病床と人工呼吸器の確保に努めていることを発表。「フェーズ1」では州内4千万人に対し5万病床と4250台の人工呼吸器を目標とし、さらに「フェーズ2」では6万6千病床と1万台の人工呼吸器に拡充すると明示。

この中には、大規模な商品見本市が開かれるコンベンションセンターや州立大学の寮などにベッドを運び込み、急ごしらえの病棟として軽症・中等症の患者を入院させるプランも含まれます。

すでに4月初日には、サンフランシスコの有名な『モスコー二・コンベンションセンター』や周辺のイベント会場は、前線病院として受け入れ態勢が整っています(写真は、「サージセンター(surge center、急ごしらえの前線病棟)」に指定されたサンマテオ郡のコンベンションセンター)。



また、人工呼吸器の手配には州の予算をふんだんにつぎ込み、4月第2週には「フェーズ2」の目標値だった1万台を超え、11,747台を確保したと表明(4月9日州知事テレビ会見)。

わずか2、3週間で7千台から1万台超に増えた背景には、新たに購入した機器に加えて、州内の工場で修理したもの(refurbished ventilators)が含まれるとのこと。

この時点では3割ほどの人工呼吸器のみが使用されていたので、500台はカリフォルニアから国に貸与。国からニューヨーク州、ニュージャージー州、イリノイ州、その他4州に貸与され、重症患者の治療に役立てられています。

人工呼吸器に加えて、手袋や防護服など医療従事者を守るPPE(personal protective equipment、個人用防護具)の確保にも努めていて、「N95マスク」は2億枚超を確保。すでに4200万枚は医療関係者に配布されたそう。

先を見越して、1月の時点から中国からの輸入を拡大しPPEの確保に努めていたことに加えて、FDA(アメリカ食品医薬品局)の認可を受けた南カリフォルニアの工場でマスクを洗浄・再利用することで枚数の確保が可能になっているとのこと。



病床やPPEが確保されたとしても、医療従事者が足りなければ感染患者の治療はできません。そこで、カリフォルニア州はボランティアを募るウェブサイトを作成。4月6日には、わずか数日で8万1千人の応募があったと発表。これは退職した医師や休職中の看護師と医療専門職の方々ですが、州内の病院の状況を鑑み、順次採用を始めるとのこと。

遠く海外や州外から赴任する方々には、航空会社ユナイテッドをはじめとして、主要な航空会社すべてが往復航空券の負担に協力してくれるそうです。



「病床、PPE、人」と三本柱をしっかりと整えて、初めて感染拡大に立ち向かうことができる。それが州知事の初期のメッセージでしたが、日を追うごとに対策の話題は変化していきます。

家でじっとしているとストレスがたまる。子供や家族に辛く当たることもあるし、ドメスティックバイオレンス(DV)の被害も増える。自殺を考える人も増えてくる。そこで州は、24時間対応の電話相談ホットラインを開設。電話ができない状況にいる人々のために、通話を必要としないスマホのショートメッセージやパソコンのチャットでも対応しています。

「自宅待機というのは、ひとりぼっちで生きることではない」と力説する州知事は、家族や友人だけではなく近所の高齢者にも声をかけてくださいと住民に促します。



そして、失業の問題。自宅待機命令が出て、カリフォルニア州だけで実に310万人の人たちが失業保険の申請をしています(4月17日現在)。

オンラインで申請しても、手続きには役所の担当者との電話インタビューも必要。ですから、州政府の他部門から担当者の配置換えをして、失業者の対応にあたらせているとのこと。担当者の側も緊急性は十分に認識していて、復活祭(イースター)の休日にも、500人が休日出勤を申し出て処理にあたったとか。電話相談窓口も時間を延長して、朝8時から夜8時まで12時間対応しているそう。

また、カリフォルニア州は登録されていない移民(いわゆる「不法滞在者」)が労働者の1割を占めています。ですから、表立って申請できない労働者への援助も必要となっていて、一人当たり500ドル(約55,000円)、一家族1000ドル(約11万円)の手当てを確約。これは州の予算と寄付金で賄われ、上限は約140億円となっています。



州全体では、すでに5.3パーセントの失業率となっていて、これは、過去数年にわたり平均年率3.8パーセントを記録した州の経済成長を脅かす勢いです。

また、全米では2200万人が失業保険を申請。加えて連邦小企業庁では、小規模ビジネス向けローンの申請書は過去14年分(およそ160万件)を処理、と厳しい状況が続きます。



<住民の反応は?>

どこを向いても厳しい状況が続いていますが、心の根っこの部分はずいぶんと明るく、余裕すらあるアメリカ人です。

たとえば、感謝の気持ちは忘れていません。サンフランシスコでは、ダウンタウン地区のマンションやヴィクトリア朝の家々が並ぶ住宅街で、午後7時から医療従事者に謝意を示して拍手をする動きが広がっているよう。ご存じのように、これは現場で大変な思いをされている医療従事者に対して感謝を伝えようとヨーロッパから広まったものですが、サンフランシスコ・ベイエリアでも拍手を習慣化しようじゃないかという動きが出ています。

また、州内のあちらこちらでは、警察官や消防士の方々が病院の前にパトカーや消防車を待機させて、医療従事者が目の前を通るたびに拍手とピカピカ光る赤や青の回転灯で謝意を伝えるイベントを開いています。(写真は、ロスアンジェルス近郊の病院で開かれた感謝イベント。こんなにお腹が大きい看護師の方も働かれているんですね:Photo by Robert Gauthier / Los Angeles Times)



アメリカでは、医療従事者や警察官、消防士などの緊急対応者(first responders)は、社会の「ヒーロー」としてリスペクトされています。ですから、一般市民の側でも、病院に詰めて治療に専念している方々や、緊急対応で感染リスクにさらされている消防士や警察官の方々に食事をタダで届けるレストランもあります。こういったレストランには、寄付やクラウドファンディングを通して自然とお金が集まってくるので、レストランの側でも「資金が続く限り」がんばっていらっしゃるようです。

サンフランシスコで始まったこのような動きは、『フロントライン・フーズ(Frontline Foods)』として組織化され、全米各地へと広まっていて、今では46都市で累計700万食(うちサンフランシスコ近郊では200万食)を届けたとのこと。

また、自分たちが仕入れた食材を無駄にしないためにと、路上生活者の施設にタダで食事を届けるレストランもあります。普段は有名シェフの料理など口にしたことのない方々も、味の違いに気づいていらっしゃることでしょう。

こういった慈善事業を行う余裕のない小さな飲食店も、デリバリーやテイクアウトに特化して、なんとか営業を続けようとがんばっています。

サンフランシスコの三つ星レストラン・ベニュー(Benu)でも、テイクアウトを始めたそうです。こちらは、韓国系アメリカ人シェフ、コリー・リーさんのアジアンテイストのコース料理で有名な店ですが、三つ星のテイクアウトってどんなものだろう? と興味津々なのです(写真は必見のデザート、箸で食べる折りたたみ式ミルクアイスクリーム)。



そう、どこにいても食べることは欠かせません。ですから、学校に行けなくなった子供たちがちゃんと食事にありつけるようにと、自治体も昼食の援助を始めました。学区によっては毎日のランチ(school lunch)だけではなく、朝食と合わせて1日2食を配布しています(写真は、各学区のランチ配布情報を英語、スペイン語、ヴェトナム語で伝えるサンノゼ市のパンフレット)。

加えて、プロバスケットボール(NBA)ウォーリアーズの人気選手ステッフ・カリーさん夫妻のように、地元オークランドの子供たちと家族を対象に100万人分の食事を寄付した著名人も出ています。やはり、しっかりとした栄養は学校でしか摂れない子供たちも多く、学校に行けなくなった生徒の教育のみならず、食育のことも考えなければなりません。



子供たちといえば、毎日家でオンライン学習(distance learning)を余儀なくされていますが、高速インターネットやパソコンには縁のない世帯も多く、デジタル格差(digital divide)が浮き彫りになっています。これに対し、企業側からもWiFiホットスポットを10万箇所に設置(グーグル)、タブレットパソコンを1万台寄付(アップル)と、援助の手が差し伸べられています。

また、これを良い機会として、社会貢献を学ばせる親もいるようです。たとえばこちらは、宅配の配達員やスーパーの店員と最前線で活躍する方々にマスクを作ってあげるプロジェクトを立ち上げた子供たち。ご近所さんが紹介していたものですが、ちゃんとミシンも上手に支えているようです。

マスクといえば、欧米人にはマスク着用の習慣はないので、着用が義務付けられつつある今は、カラフルな布製マスクやバンダナ、スカーフで鼻と口を覆っている人も多いです。日本と同様、N95マスクはおろか普通のマスクも手に入らない状態なので、手作りマスクがおしゃれの自己表現となっているようです。



<リーダーシップと人間味>

自宅待機が続いても、感染拡大は完璧には防止できていないし、社会問題は日々深刻化しています。が、カリフォルニアは州政府のリーダーシップのおかげで、住民はひとつにまとまっている感があります。

そのリーダーシップに州民が改めて気づいたきっかけは、NBAサクラメント・キングスのオーナー、ヴィヴェック・ラナディヴェ氏のテレビ挨拶かもしれません。

4月6日、いつものようにニューサム州知事はテレビ会見を開きましたが、背景はだだっ広いアリーナ。どうやらキングスの旧アリーナを前線病棟に指定して、患者の受け入れ態勢を整えようという光景。オーナーのラナディヴェ氏は、「この国の移民として、カリフォルニア州民として、あなたが州の代表者で本当に良かった」と、州知事が感染対策をうまくリードしていることに謝辞を述べました。



わたしも連日のテレビ会見で州知事のリーダーシップを漠然と感じていましたが、同時に人間味も垣間見たような気もします。

自身がシングルマザーに育てられた経緯から、早い段階から「世の中のお母さんたちに感謝します」と明言し、家庭をやりくりしながら時には教育者となり、時には介護者にもなる世の女性たちに熱い謝意を伝えています。

また、「うちの娘がかんしゃくを起こして、ベッドをひっくり返しちゃったよ」と、厳しい状況下では誰もが精神的ストレスに陥りやすいことを吐露しています。(写真は、娘の母である州ファーストパートナー、ジェニファー・ニューサムさん。ジェニファーさんも遠隔教育の話題で会見に参加しています)



記者団の質問にも、頭に叩き込んだ数値でよどみなく答える州知事ですが、こういった身近なエピソードが、単なる数字の羅列に終始することなく、リーダーとしての才覚を表しているのかもしれません。

ニューサム知事は、サンフランシスコの市長(郡長)に就任した2004年のバレンタインデー、全米に先駆けて同性カップルの結婚式を執り行ったことで有名な御仁。その後、同性婚が法的に認められるまでには法廷での争いが続きましたが、なにかしら違ったことを「やらかしてくれる」のがニューサム氏かもしれません。(写真は、州最高裁が同性婚を認めた2008年6月、市庁舎で結婚パーティーを開くニューサム市長(当時))



というわけで、自宅待機はなかなか解除されない今日この頃。わたし自身は、近くのゴルフ場の散歩が許されるようになって、毎日3キロは歩くようになりました。いつもよりもかえって運動量が倍増し健康管理に役立つという、ちょっと皮肉な展開でしょうか。



連れ合いは、うっかりパジャマ姿でテレビ電話会議に出席してしまって、「そこまで心を許していただいて光栄です」と、お相手からオトナの対応をしていただきました。



そんなエピソードも、早く過去の笑い話になってほしいと願っているところです。



夏来 潤(なつき じゅん)



Stay Home. Save Lives(家にじっとして命を救おう)

英語ひとくちメモ その139



2020年が明けたと思ったら、もう4月。



日本は「新年度」の季節ですが、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で、世の中が停止したような状態ですよね。



アメリカでは、日本に遅れて2月末からウイルスが広がりはじめましたが、ひとたび感染者が確認されると、東海岸のニューヨーク州を中心に都市部で猛威をふるっています。



「3日で倍になっている」と言われてきましたが、あれよ、あれよと言う間に感染者は34万人! ここ2日で10万人も増えています(4月5日現在)。



が、そんな中でも、カリフォルニア州はニューヨークほどひどくはありません。いわゆる flatten the curve(感染増加のカーヴをゆるやかにする)ことに、今のところ成功しているのです。



我が家が住むサンノゼ市のあるサンタクララ郡やサンフランシスコ郡(市と郡を兼ねる)は、3月17日から Shelter-in-Place(自宅待機)の命令を出して、お買い物や散歩に行く以外は、外出が許されなくなりました。



これに違反すると misdemeanor(軽犯罪)とみなされるそうですが、今のところ注意されるだけで、逮捕されたケースはひとつ、ふたつ。それでも、外出しづらいのは確かです。

(ちなみに、軽犯罪を表す misdemeanor(ミスディミーナーと発音)には、「非行」という意味もあります。もともと demeanor は「振る舞い、態度」といった意味ですが、これに「誤った」を表す接頭辞 mis がつくと「非行」とか「軽犯罪」という意味になります)




そんなわけで、もう3週間近く自宅待機の生活を送っていますが、せっかくですから、近頃よく耳にする英語の表現をご紹介いたしましょう。



まずは、日本でもよく紹介されている social distancing



もともとは social distance(ソーシャルディスタンス)という表現があって、「社会的な距離、隔たり」を意味します。



これに 〜ing をつけて、「互いに距離を保つ」という意味合いになっています。



たとえば、スーパーマーケットに買い出しに行っても、人との距離を6フィート(1.8メートル)以上空けましょうと、こんな模様が床に描かれています。いつも cashier(レジ)には人が並ぶものですが、単に「人に近づかないように」と言われるだけではダメなので、パッと目でわかるように工夫しているのです。



人との距離を空けるという点では、自宅待機をして外に出ないのが一番。



ですから、Stay home(家にいましょう)の命令になっています。



サンフランシスコ・ベイエリアに続いて、2日後の3月19日にはカリフォルニア州全土にも Stay-at-home order(自宅待機命令)が出されました。



そんなわけで、今のカリフォルニアの標語は、Stay Home. Save Lives.



つまり「家にいて、命を救いましょう」というもの。自分が家にじっとしていることで、他の人々の命を救っていることになる、という戒めなのです。




それから、social distance を保つということは、オフィスや学校も閉鎖されてしまって、仕事やお勉強の場が遠のいてしまうこと。



この distance(距離、隔たり)から生まれた、こんな言葉も耳にします。



大人向けには、telecommute(テレコミュート)。自宅のパソコンを使って、自宅からオンライン通勤。日本では、一般的に「テレワーク」と言いますが、アメリカでは「仮想通勤」という意味合いで「テレコミュート」と表現されます。



そして、子供向けには、distance learning(遠く距離を隔てた学習)



今はテクノロジーが整備されているので、先生がインターネットを使って自宅にいる生徒たちに教えたり、「我こそは!」と自信のある方々がソーシャルメディアでお勉強の動画を放映したりと、いろんな斬新な学び方が可能になっています。



先生やクラスメートと一緒にパソコンのウェブカムを使っていると、互いの表情が読み取れて、みんなで学習しているような気分にもなります。教室にいるよりも、かえって親近感がわくこともあるのかもしれませんね。



ここで問題になってくるのが digital divide(デジタル格差)と呼ばれる社会的な不公平さ。多くの家庭では、最新のパソコンや高速インターネット接続は常識とも言えるものですが、家にパソコンもネット接続もない世帯が多いのも事実です。



そんなわけで、このコロナウイルスの自宅待機が始まったころから、ネットが行き渡らない地域に WiFiホットスポットを設置したり、パソコンのない家庭にラップトップパソコンを寄付したりと、企業側からも動きが出ています。




日常生活では、スーパーや薬屋、クリーニング店やガソリンスタンドなどは営業していますが、それ以外のお店はほとんど閉まっているので、みなさん髪の毛は伸び放題。レストランは、宅配やテイクアウトだけ許されるので、着飾ってレストランに行くこともありません。



信仰のある人は教会にも行けません。今は、復活祭を控えた大事な時期。他州では、教会を閉めたくないから、自宅待機命令を出さない場所もあるようですが、これはかなり危ない措置。ベイエリアでは、屋外に立つ神父さんに車の中から懺悔(ざんげ)する信者も話題になっていました。



そう、サンノゼ市の市長さんも言っていましたが、今はみんなが我慢すべき時。



まさに、shared hardship and moment of sacrifice(互いに困難を分かち合い、自分を犠牲にする時)なのでしょう。




カリフォルニア州の自宅待機は、少なくとも5月3日まで続きます。状況によっては、もっと延長されるのかもしれません。



買い出しに加えてお散歩も許されますが、自治体によっては近隣の公園まで閉鎖している場所もあるので、なかなかお散歩もままならないようです。「自宅の中庭しか歩く場所がない」とおっしゃる方もいらっしゃるくらいです。



幸いにも、我が家はゴルフ場に近いので、州内でゴルフなどの娯楽施設が閉鎖されている間は、ゴルフコースを散歩したりジョギングしたりできるようになりました。



普段はゴルファー以外は足を踏み入れることのできないゴルフ場。広々としたフェアウェイと春に芽吹く木々がやわらかな緑を輝かせ、絶好のお散歩コースとなっています。



お散歩する人とすれ違ったりすると、互いに距離を空けて注意深く歩き、ごあいさつも「ハ〜イ」と声を掛け合うよりも、片手を上げてにっこりというのがローカルルールになっているようです。



わたし自身は、いつものお散歩よりも長距離を歩くようになったので、自宅待機になってかえって運動量が増えた気もするのです。




というわけで、今日のお題は、



Stay Home. Save Lives.(家にじっとして命を救いましょう)



Stay Home. Stay Safe.(家にいて、安全に過ごしましょう)



そして、こんな言葉も耳にします。



We’re all in this together(みんな一緒にこれを乗り切ろう)



「みんなで一緒になって感染を克服しよう」というスローガンになっています。



誰も経験したことのない自宅待機。それでも、お誕生日の友達がいると、その子の家の前に車で連れて行ってもらって、車内から手を振って、お祝いの気持ちを伝えてあげる。そんな余裕もあるアメリカ人なのです。



たぶんこの国には、Make the best out of it (状況が困難な中でも、最善を尽くす)といった精神が、脈々と受け継がれているのでしょう。



世界じゅうの感染が早くおさまりますように、早く普段の生活に戻れますようにと、ただただ願うばかりなのです。



そんな願いが伝わってくるかのように、ご近所さんの裏庭にも、こんなハートマークが飾られていました。



自宅待機:その展開に目がまわる!

Vol. 234



先月に引き続き、今月も新型コロナウイルスに関する話題です。刻々と変化するカリフォルニアの状況をご紹介いたしましょう。



<シェルター・イン・プレイスってなに?>

いやはや、日本に遅れて、アメリカでも新型コロナウイルスの蔓延が懸念される日々となりました。中国からアジア、ヨーロッパ諸国と感染が広まる様子を見てきたアメリカですので、少しは人々の心にも「警戒心」というものがあったのか? と問われれば、いや、そうでもなかった、というのが答えでしょうか。



2月号でもご紹介したように、2月末からちらほらと感染者が出てきたサンフランシスコ・ベイエリアですが、3月5日にはサンフランシスコ(郡と市を兼ねる)に初めての感染者が確認され、その4日後には「シリコンバレー」と称されるサンタクララ郡で初めての死亡例が報告されました。

この時点では、サンタクララ郡には43人の感染者がおり、半数は感染経路が不明のコミュニティー感染。東海岸のニューヨーク州では140人に達し、全米では600人を超えている。この日、ベイエリアのオークランド市にはクルーズ船「グランド・プリンセンス号」が着岸し、船内感染は20例ほど報告されている。船内にいたカリフォルニア州民は、全員が近くのトラヴィス空軍基地に連れて行かれて14日間の隔離生活となり、軽症の感染者は、近隣のホテルで隔離されることになる。

そんな急展開に危機感を持ったサンタクララ郡は、1000人以上が集まるイベントの中止を勧告。翌日の真夜中から施行され、サンノゼ市を本拠とするアイスホッケーチーム・シャークスの試合は即中止となりました。(写真は、郡の公衆衛生局長を務めるサラ・コウディー医師)



これは、3月9日頃の話ですが、11日になると、WHO が COVID-19を世界的な「パンデミック」と宣言。トランプ大統領は、全米の1000人以上のイベントとヨーロッパからの渡航を禁止。これを受けて、スポーツ界ではプロバスケットボール NBA、プロゴルフ PGA、プロ野球 MLBなどが、シーズンをキャンセルしたり、順延したりしています。

そして、13日にはトランプ大統領が「国家緊急事態(National Emergency)」を宣言。前日には、サンフランシスコ・ベイエリアの多くの学区が学校の閉鎖を発表していますし、79例目を確認したサンタクララ郡では、全米に先駆けて100人以上のイベントを禁止。さすがに、この頃になると、巷にも危機感を抱く人たちが増えるのです。

大型量販店 Costcoには、開店前に人が殺到して長い行列をつくり、トイレットペーパーやボトル飲料水が棚から消えてしまいます。

iPhoneで有名なアップルが「スマートフォンを除菌シートで拭いても大丈夫ですよ」とバイキンに対する注意を促したせいなのか、ドラッグストアからは消毒用ジェルがなくなり、少々入荷しても、1時間もしないうちに棚は空っぽ。

「Costcoからはトイレットペーパーがなくなっているらしい」と人から聞いて「まるで日本みたい!」とびっくりしましたが、必需品を求めてサンノゼの店からサンフランシスコの店へと100キロ近くドライブして、何も買えなかった人もいる、との報道もありました。



ところが、関心ごとは消毒ジェルやトイレットペーパーにおさまりません。学校が休みに入った3月16日には、「シェルター・イン・プレイス(shelter-in-place)」なるものが発令されたのです。

これは郡(county)が発令したもので、郡内の住民に対して「自宅待機」を勧告するもの。病院や銀行、役所、公共交通機関、スーパー、ガソリンスタンドと生活に不可欠な業種は営業するものの、レストランやバー、ショッピングモール、スポーツジムやゴルフ場、遊園地等の娯楽施設など、人が集まる場所はすべて営業停止(レストランの場合は、テイクアウトは許されます)。

企業もオフィスを閉鎖し、従業員は自宅からのテレワーク(telecommute)となります。アップルやグーグルと、通常は機密保持のためにテレワークを許さない企業も例外ではありません。

食料や薬を買いに行ったり、通院したりする以外は、不要不急の外出とみなされ、警察官に見つかると軽犯罪(misdemeanor)となります。営業停止の店も隠れて営業していると、摘発の対象となります。最初のうちは注意されるだけと報道されていますが、なんとなく外に出づらい雰囲気に包まれています。

もちろん、散歩で外出するのは許されます。屋外でバスケットボールをして気分転換する人もいます。が、ニュースチャンネルCNNはサンフランシスコの海沿いで散歩やジョギングを楽しむ住民の映像を流して、「無責任な行動だ」と声高に批判していました。屋外のエクササイズは許されるはずなのですが、「自宅待機」イコール「戒厳令」なのか? と、おおげさな報道に疑問を感じるのです。



ベイエリアにある9つの郡のうち、まずはサンフランシスコ郡、サンタクララ郡、アラメダ郡と、6郡で17日の真夜中から「自宅待機」が施行されました。が、3日もたたないうちに、ワイン産地で有名なソノマ郡やナパ郡も加わり、ベイエリア全域に行き渡っています。

そして、カリフォルニア州の感染者が980名となった19日、真夜中から州全土にも「自宅待機」が発動されました。「ステイ・ホーム(Stay home、家にいてね)」とやわらかく表現されていますが、ベイエリアの「シェルター・イン・プレイス」と同じ措置です。

米連邦政府はいまだ自宅待機命令は出していませんが、ニューヨーク州やシカゴのあるイリノイ州、フィラデルフィアなどの都市部でも同様と聞き及んでいます。



わたし自身が自宅待機命令を受け取ったのは、車の中。近くのスーパーに肉がないからと、サンノゼ市の日本街にある日系スーパーに向かう途中、他郡のサンフランシスコから緊急発令を受信。

「へ〜、サンフランシスコでは家から出られなくなるんだよ〜」と暢気に連れ合いと話していたら、間もなくサンタクララ郡からも同様の警告を受信。なんだ、我が家のあるサンノゼ市も同じなんだ、と落胆。

そのせいか、小さな日系スーパーにも買い物客がひっきりなしに訪れ、お肉のパックはひとつも残っていませんでした。



そう、何が困るかって、食べ物がスーパーから消えてしまったこと。とくに自宅待機の発令日から2日ほどは、肉や卵、牛乳、パン、缶詰と数日間しのげる食品が棚から消えました。

が、自宅待機の2日目ともなると、だんだんとスーパーにも食品が戻ってきます。大型スーパー Safewayの責任者は、「アメリカの食品流通網は驚くほど優れていて、棚から食品がなくなってもすぐに補充できる態勢にある。だから、重要なことは、買いだめをして他の人の食料を奪わないこと」と、消費者に向けて理解を求めます。

家におこもりするとなると、誰もが「買いだめ(hoarding、stockpiling)」の行動に走るもの。パニック状態をやわらげる喚起も必要になってきます。

そんな中、サンノゼ市は大型スーパー各社と協力して、火曜日と木曜日の営業前1、2時間を高齢者専用のショッピング時間帯に指定(店によっては、週日ずっと実施)。地元の食料銀行(food bank)とも協力して、高齢者家庭や子供のいる世帯への食品宅配も拡充。同時に、コロナウイルスの影響を受けやすい高齢者に代わって、若い人に向けて食品配達などのボランティアに参加するように呼びかけています。

やはり、食料調達は不可欠。巷でも、自主的に高齢者家庭のために買い出しを申し出る住民も見られます。



<対策とスピード>

もちろん、世の中には良い人ばかりではありませんので、コロナウイルスにかこつけて、人をだまして金儲けをたくらむ話も耳にします。マスクや消毒ジェルを買い占めて、高く転売するなんていうのは、なにも日本に限ったことではありません。

防護服を着て数人で住宅地を回り、消毒をしてあげましょうと家に入り込んで強盗を働く、なんて例も実際にあったそうです。

けれども、アメリカの一連の動きを見ていて感じるのは、そのスピードでしょうか。

サンノゼ市では、コロナウイルスの社会への影響を鑑みて、いち早く家賃の滞納による「立ち退き勧告(eviction)」を禁止しました。経済の停滞によって失業率が上がり、家賃すら払えない人が増えると予想されるからです。

サンフランシスコ市では、ホテルの部屋の確保に努めています。これまでに3500もの部屋を確保したそうですが(3月19日現在)、こちらは、軽症患者の隔離部屋、医療従事者や緊急事態要員の安全な滞在先、そして路上生活者の収容施設として利用されるそうです。以前もご紹介しましたが、近年サンフランシスコ・ベイエリアでは路上生活者の増加が目立っていて、シェルターでの集団感染を防ぐために、個室に収容する必要があるのです。

看護師などの医療従事者の補充にも努めています。サンフランシスコ市だけで、これまでに70名の看護師を新規採用したそうですが、週末にはジョブフェアを開いて、その場で看護師に対して内定を出す、とのことです。(写真は、緊急会見を開くサンフランシスコ市長ロンドン・ブリード氏)

オークランド市では、救済基金を立ち上げ、低所得層や高齢家庭、身体的に制限のある住民に向けた食事宅配サービスを充実します。市当局がファンドの記者会見を開く前に、すでに3億円弱の寄付金が集まっていたとか!



こういった英断が迅速にできるのは、郡や市といった自治体の「長」の権限が明確に定められていること、感染症などの疾病に関して郡の公衆衛生局長である医師に決定権があること、組織の「長」の決定に従って組織が迅速に動ける態勢にあること、などが挙げられるのではないでしょうか。

このような自治体の動きを援助するため、カリフォルニア州政府も、ホテルや州立大学寮の借り上げやトレーラーの確保に努めています。また、路上生活者対策の支援として、約170億円を各自治体に分配すると発表しています。



いえ、アメリカ式がなんでも良いと言っているわけではありません。アメリカのやり方に疑問を持つこともたくさんあります。けれども、ことスピードに関しては、組織の上から下への意思伝達が素早く、目標に向かって一丸となって突き進む心構えのあるアメリカの方が、問題解決には向いているのかもしれません。

合言葉「We’re in this together(みんな一緒にこれを乗り切ろう)」に表れているように、ひとつになると、アメリカ人も隠れた力を発揮するのです。



いやはや、40年前に初めてアメリカにやって来て、30年以上この国に住んでいますが、「自宅待機」を命じられたのは初めてのこと。カリフォルニア州知事は、もしかしたら学校は秋まで再開しないかも・・・と言っているので、先は極めて不透明です。

けれども、「木曜日にはスーパーに肉が入るらしいよ」とか「あっちのスーパーには卵が入荷したらしいよ」と人に教えられながら、なんとか日々を送っています。

まあ、どうせ人とは会えないのだから、テレビでやっていた、ニンニクたっぷりの鶏肉料理でも作ってみましょうか。



夏来 潤(なつき じゅん)



この如月:世界に広がる不安

Vol. 233



今月は、この話題です。

<対策のマニュアル化>

なんといっても、今の最大の関心事は新型コロナウイルス(the novel coronavirus)でしょうか。「COVID-19」とカッコよく名づけられていますが、ウイルスは目に見えないし、どこでどうやってヒトからヒトにうつったのかもわかない、しかも感染は世界じゅうに急速に広がっているという、人類の手強い敵です。

日本は発生国・中国に地理的に近いので、当然のことながらアメリカよりも感染が進み、日常生活への影響が大きいです。状況は刻々と変化する中、さまざまな報道に接してみて痛感するのは、政府による対応の違いでしょうか。

日本ではウイルス検査の徹底など対策が後手に回った一方、突如として全国の小中高を春休みまで休校とするなど、まるで「思いつき」ともとれる政府の対応です。学校の閉鎖は米株式市場にも多大な影響を与えていますが、とくに印象に残ったのは、初動の対策の違いでしょうか。



中国でコロナウイルスの感染が拡大する中、アメリカも、日本とほぼ同時期の1月末から米国民をチャーター機で武漢から「救出」し、乗る前と経由地のアラスカでウイルス検査や健康チェックを行ったあと、カリフォルニアとテキサスの空軍基地に全員を運び14日間の隔離を行なっています。

どうやら当初は、搭乗者は72時間しか隔離されないと言われていたところ、アラスカに到着すると、さらに軍の施設で14日間隔離されると告げられ、落胆した方も多かったようです。

と、ここまでは日本と同じ状況ですが、違ったのは隔離生活。プライバシーの観点から詳しくは報道されていませんが、中には自ら情報発信をする方もいらっしゃって、毎日体温チェックは欠かさぬようにと命じられていたものの、部屋から外に出ることを許されていた、とのこと。また、各個室も毎日防護服を着た担当者が掃除してくれていたし、あまり不便さは感じない、ということでした。

この方は、シリコンバレー・パロアルトにお住いの女性で、娘ひとりと中国旅行をした際に騒ぎに巻き込まれ、夫ともうひとりの娘を自宅に残したまま隔離生活を余儀なくされています。けれども、表情はまったく明るいもので、「助け出してくれたアメリカ政府に深く感謝しているわ(I’m grateful to the US government)」と、自撮りの映像では満面の笑み。



中国や日本のクルーズ船からのチャーター便が続く中、サンフランシスコの北東約70キロにあるトラヴィス空軍基地では、敷地内のホテルでの隔離がルーティン化され、帰還者はここか、テキサス州の空軍基地で14日間過ごすことになりました。加えて国防総省は、全米10箇所以上の基地施設を隔離のために準備しています。

武漢から戻ったある男性は、14日間の隔離が終わり、自宅に戻ろうと国内便に乗り込む前にテレビインタビューを受けていましたが、彼は快活にこんなことを言っています。

「CDC(アメリカ疾病予防管理センター)は、隔離生活をとても過ごしやすく(hospitable)してくれて、まったく隔離だと感じないほどに快適だったよ」と。



いえ、一般市民としては、どうして隔離生活が耐え難いものになったり、逆に快適なものになったりするのかはわかりません。

けれども想像できることは、さまざまな感染症(infectious diseases)や慢性疾患(chronic diseases)といった疾病対策の専門集団であるCDCは、未知の感染症への対処も徹底的にマニュアル化していて、感染症発生の際には、軍の施設を隔離施設に指定するなど、政府や各省庁と協力してマニュアル通りに事を進めていくだけ、といった段取りが明確になっているのでしょう。

たとえば、隔離施設となったトラヴィス空軍基地のホテルをとらえた航空映像では、敷地内に「ServPro(サーヴプロ)」のトラックが2台停まっている光景が映し出されました。この会社は、住宅やオフィスの水漏れや火災といった災害の後始末を専門に行いますが、近頃は事業を拡大して、病原体によるバイオハザード(生物災害)の処理も行なっているようです。

実は、我が家も水漏れの際に、保険会社から紹介されて ServProにお世話になったことがありますが、水害への対処方法も従業員の段取りも顧客との連絡網もすべてがきっちりと整備されていて、まさに「災害復旧のプロ」といった印象を持ちました。

こういった専門会社がバイオハザードの後処理を請け負っているので、隔離者の部屋も毎日きれいにお掃除してくれていたのではないかと想像するのです。



日本では、武漢からのチャーター便で帰還した方々を、一時的に千葉県のホテルに収容していました。これは、事前に対策が講じられていない中、まさに民間のホテルのご厚意があったからこそ可能だった措置です。

このホテルは現在、3月1日の営業再開に向けて施設内の消毒を徹底されているそうですが、風評被害で今後の営業に差し障りのないことを願うのです。



<病院の検査体制>

海外にいると、日本とやり方が違うと痛感することも多いです。その最たるものが、医療現場かもしれません。

先日の土曜日、病院に血液検査をしに行きました。これは、術後に診てもらった眼科医に「一年に一回くらいは血液検査をした方がいいわよ」と勧められたからですが、さっそく、その旨を内科の主治医にメール。

彼の返事はいつも決まって「元気にやってるかい。血液検査をオーダーしといたからね(I hope you are doing well. I ordered your blood tests)」と、いたって簡素なもの。

病院システム内の施設だったら、どこの病院の検査室(laboratory)に行っても構わないので、主治医のいる病院からは離れた、自宅近くの病院を選びます。

ここはちょっと大きな総合病院で利用者も多く、土曜日も3時までは血液検査をしています。3時ギリギリに行くと、さすがに待合室はいつもより空いていて、みなさんコロナウイルスが怖いのか、互いに1メートル以上は離れて座っています。通常は10人ほどいる採血担当者は、土曜の午後ともなると2人だけ。ちょっと待ったされたものの、ベテランの担当者で、針の痛みも感じないくらいでした。



いつもは、採血日の夕方になると、完了した検査項目ごとに結果が舞い込んでくるのですが、さすがに土曜の夕刻は検査員がお休みだったのでしょう。それでも、翌日の日曜日になると、「結果が出たので自分のアカウントで確認してください」と順次メールが届きます。

まあ、検査内容はコレステロール値やヘモグロビンA1Cと一般的なもので、遺伝子検査のように時間がかかるものではありません。が、中にはC型肝炎の抗体検査などもあったので、検査に着手して数時間で結果を教えてもらえるのは迅速なものだと感心するのです。

しかも、病院のウェブサイト上の自分のアカウントでは、過去数年の検査値の推移グラフも出てくるので、自分の健康状態が認識しやすくて便利です。

結果が出揃った月曜日、主治医からは簡素なメールが届きます。「検査は良かったよ、ノーマルだったよ。元気でね(Your labs look good. Your labs were normal. Warm regards)」

要点のみですが、彼が見て良いと判断したのですから、それ以上付け加えることなどありません。(いえ、実際はこのあと「A型肝炎やB型肝炎の検査はしないの?」と質問したところ、「A型とB型の検査は一般的にはやらないものだ」と、これも簡素な返事がありました。)



日頃、この主治医の口グセは、「とくに冬場は、病気がうつるから病院に来ないように」というもの。わたし自身は体のあちこちを8回手術していますが、基本的には健康体。主治医もそれを心得ていて、何かしら薬が必要となると、メールでやりとりして、主治医が病院システム内の調剤薬局(pharmacy)に処方箋を送り、あとで薬を取りに行く、という流れで済ましています。リフィル(再診の必要がない繰り返しの調剤)は、オンラインで注文して、自宅に郵送してもらうことも可能です。そんなわけで、もう何年も彼に会っていません。

以前、明け方に心房細動が起きて、14日間心臓モニター(Zioパッチ)を取り付けて心電図をとったというお話をご紹介しました。が、この時の診断も、電話で済みました。

事前に主治医が心臓の専門医(cardiologist)に心電図を見てもらって、「心配するような症状ではない」とお墨付きをいただいた、とのこと。「電話診断(telephone appointment)」は初めての経験でしたが、わざわざ離れた病院にいる主治医に会いに行って、面と向かって聞く内容でもなかったと割り切っています。

もしも緊急に治療が必要なことだったら、主治医がそう言うだろうし、彼が「心配ない」と判断したのだったら、もっと深刻な症状を持つ患者さんの相手をすべきだと思うのです。



我が家が利用する病院システムは、医療保険と総合病院システムが合体した非営利団体(non-profit organization)の形態になっています。メンバーが保険料を払い込んで、病院システム全体をまかない、余剰金があったら翌年度にまわす、という制度です。

もともとは、アップル本社で有名なシリコンバレー・クーパティーノ市にあるセメント工場の労働者のために建てられた医務室から発展し、今ではカリフォルニア全土を超えて、遠くハワイやジョージアなど8州で病院を経営しています。

本社機構の置かれる北カリフォルニアでは、とくにメンバーが多いので、病院はいつも患者でいっぱい。そんなわけで、近頃は、メンバーを病気にさせない予防医学(preventive medicine)と、無駄を省くオンライン化に力を入れています。

たとえば、各種予防接種や血液検査、乳がんを見つけ出すマンモグラフィーや検便による大腸がん検査などは病院システム内で行い、無料で提供されています。前述の14日間の心臓モニターも、外部の専門会社の機器とノウハウを利用するものですが、無料でした。

そして、オンライン化の一環として、定期検診の予約など緊急性のないものはメンバーがオンラインで行いますし、一度診てくれた専門医や主治医とはメールで直接やりとりできます。また、わざわざ顔を合わす必要もない場合には、お医者さんとの電話やビデオ会話を推奨しています。

ちなみに、上述の心臓モニター後の電話診断も、診察室で主治医に会ったわけではないので、無料でした。電話やメールはお医者さんと顔を合わさないので、原則として無料提供となっています。

この病院の形態はアメリカでも特殊なもので、必ずしも他の病院で展開できるものではないかもしれません。けれども、合理的に制度を構築すれば、こんなこともできるんだよ、という一例ではあると思います。



2月中旬、ワイン産地で有名なナパ郡で初めての新型コロナウイルス感染者が出ました。このとき、ナパ郡の健康管理責任者である医師は、「この方は日本から戻って感染が確認されましたが、日本のウイルス検査制度が信用できないので、こちらで検査をしてみたら陽性反応でした」と発言しています。

それを聞いて、「隔離病床が2つしかないような田舎の医師に日本は好き勝手言われている!」とムッとしましたが、ウイルス検査が厳しく制限される日本の現状を照らし合わせると、ムッとしている場合ではないのかもしれません。



そして、2月26日、アメリカで初めて感染経路の不明な症例が確認されました。カリフォルニア州都サクラメント近く、カリフォルニア大学デイヴィス校の大学病院に入院する女性患者で、4日間入院した地元の病院から容体の悪化で転院した際、中国からの帰還者でも濃厚接触者でもないと CDCからウイルス検査を拒否され、再三再四要請して5日目にようやく検査に踏み切り、確認に至ったとのこと。

彼女の地元には、帰還者を隔離するトラヴィス空軍基地があり、現在、州を挙げて感染経路と彼女との濃厚接触者の判明に努めています。さらには、8400人以上の海外からの渡航者を経過観察していることもニューサム州知事が表明しています。(Photo by Justin Sullivan / Getty)



感染が広まる深刻な状況下、一般市民としては、疾病対策のマニュアルや国の音頭取りにほころびが出ないようにと願いつつ、今後の展開を注視していくしかありません。



夏来 潤(なつき じゅん)



新年号:サンフランシスコは 49ersで大騒ぎ

Vol. 232



新年早々、アメリカでは大統領の弾劾裁判が始まり、中国ではコロナウイルスが猛威を振るい、なにかと騒がしい世の中です。が、今月は、のんびりと車とスポーツのお話をいたしましょう。



<第1話:テスラはアップル「Siri」とお友達>

たいしたお話ではありませんが、電気自動車テスラ(Tesla)の話題です。なんでも、アップル iPhoneの音声コマンド機能「Siri」を使うと、テスラ車に向かって指示が出せるとか。

これは2年前(2017年11月)から地味に存在する機能だそうで、「ドアをロックして」とか「トランクを開けて」とSiriに話しかけることで、駐車するテスラに向かって指示が出せるのです。



手元の iPhoneに必要なのは、「Siri ショートカット(Shortcuts)」と「スタッツ(Stats)」というアプリ。

「スタッツ」は、サードパーティ製のテスラ車向け有料アプリで、もともとは電池残量や走行の効率性をグラフで明確に示す機能を持ちます。駐車中にドアが開けられると手元に警告がくるという防犯機能もあります。

「Siriショートカット」は、お好みのコマンド(フレーズ)を追加できる iOS上の機能ですが、「スタッツ」アプリが Siriのコマンド設定を自動的にやってくれるので、「ドアをロックして」とか「車内を暖めておいて」と Siriに話しかることで、テスラ車を操作できるようになります。

たとえば、「トランクを開けてよ(Open the trunk)」と iPhoneから「スタッツ」クラウドに向かって指示があると、そこから「テスラ」クラウドにある個人ユーザアカウントのAPI(アプリケーションプログラミングインターフェイス)を経由して、自分のテスラ車に指示が飛び、トランクが開く仕組みになっています。

アメリカの場合は、「テスラ」クラウドとテスラ車間のコミュニケーションは通信会社 AT&Tのネットワークを利用していて、このような Siri音声コマンドやテスラ車の状態チェックに使われるだけではなく、ドライブ中の道路状況検索や音楽ストリーミングなどにも使われます(通信料金は事前に車体価格やリース料に含まれます)。



実際に連れ合いが使ってみて喜んだのが、このトランクを開ける機能。両手に大きな荷物を抱えていても、ポケットの中の Siriに指示をするだけで、パカッとトランクが開いて便利です。

テスラはモーター搭載の電気自動車ですので、車体の前後にトランクがあります。なんでも前方トランクのことを「フランク(frunk: front trunkの略)」と呼ぶんだとか。「Open the frunk」とは、立派なテスラ用語なのです。

ドアロックの開け閉めなどは、キーを持っているとテスラ車が自動的にやってくれますが、たとえば誰かを先に乗せたい時には「ドアを開けて」コマンドを使うといいのかもしれません。

ちょっと便利な「スタッツ」アプリ。類似のサードパーティアプリはいくつか存在しますが、「スタッツ」は初期設定が簡単で、使いやすいとか。



いえ、トランクやドアの開け閉めというのは、なにも Siriを使わなくてもいい話です。けれども、テスラ車には「遊びごごろ」が満載。ディスプレイ画面にはゲーム機能が付いていたり、「サモン(Summon、呼び出し)」機能で iPhoneをリモコンにしてテスラ車を狭いスペースに駐車させたりと、運転とは直接関係のない機能も充実しています。

ディスプレイ画面に映る暖炉の映像(写真)に至っては、「う〜ん、これで心まで温めてくださいということなのかなぁ?」と疑問にも感じます。が、これがテスラ社のクルマづくりに対する心意気というものなんでしょう。



そういえば、先日連れ合いの「モデルS」が、「タイヤの空気漏れ」警告を頻繁に出すようになりました。タイヤに空気を入れようと立ち寄ったガソリンスタンドでは、「テスラのロードサービスに連絡した方がいいよ」と整備員にアドバイスを受けます。

そこで初めて利用したロードサービスですが、便利なことに「テスラ」アプリからサービステクニシャンを呼べるようになっています。すぐにディスパッチャーから確認のメッセージがあり、1時間後には自宅前にテクニシャンが現れます。

面白いことに、iPhoneのビデオ機能を使って拡大映像でタイヤをぐるりと検査した彼は、「あ〜、ここにビスが刺さっているよ」と、すぐに問題を発見。20分もしないうちにタイヤを修理して、すぐに帰って行きました。タイヤ交換ではなかったので、料金も60ドル(約6500円)で済みました。



なんとも便利な世の中になったものだと感心する立派なサービス網ですが、アメリカでテスラ車が人気なのは、電気自動車用のチャージ(充電)ステーションがたくさんあることも一因でしょう。

大きなショッピングモールには、テスラ社が運営するスーパーチャージャーが併設されているし、街角にも「EVgo」や「ChargePoint」といった民間のチャージステーションが多数存在します。

企業のオフィスやマンションのような集合住宅でも、駐車場にチャージステーションが置かれていて、一軒家に住んでいなくても、電気自動車を充電できるインフラが整っています。マンションの「共用部分」に設置する高電圧コンセントはいったい誰が負担するのか? と問題視される日本とは、かなり違った状況です。



先月のクリスマスシーズン、遠くからシリコンバレー周辺に電気自動車でドライブしてきた人たちが、チャージステーションに殺到して何時間も待つハメになった、と報道されていました。

わたし自身は、絶対に電気自動車では遠出しないと思うのですが、そこのところが実におおらかなアメリカ人です。「なんとかなるさ」の精神がないと、新しいインフラもなかなか整わないのかもしれません。



<第2話:サンフランシスコ 49ersがスーパーボウルへ!>

ガラリと話題は変わって、スポーツ界のお話です。ずっと待ち望んでいた夢が、ようやく実現しそうなんです。NFL(アメリカンフットボール)のサンフランシスコ 49ers(フォーティーナイナーズ)が、いよいよスーパーボウルに進出するんです!



毎年2月に開かれる スーパーボウル(Super Bowl)は、アメフトにおける天王山。まさに「世界一」の名誉を手に入れられるのか、運命の分かれ道。

自称「三度のメシよりもアメフトが好き」というわたしにとって、地元チームがスーパーボウルに出るというのは、歴史に残る一大事。

初優勝を果たした1981年のシーズン、地元サンフランシスコで大騒ぎした思い出を胸に秘め、あの感動をもう一度! と、ずうっと待ち続けていたのでした。

(写真は、スーパーボウル初出場を決めた運命の「ザ・キャッチ」。ドゥワイト・クラーク(故人)が、ジョー・モンタナのパスを受け逆転勝ちした瞬間。「王朝時代」の幕開けでもありました:Photo by The Mercury News)



49ersといえば、日本でも「強いチーム」という印象が強く、ファンの方もたくさんいらっしゃることでしょう。1981年のシーズンを皮切りに、スーパーボウル優勝を5回果たしています。

けれども、最後に勝ったのは、25年前の1994年のシーズン。我が家がシリコンバレーに引っ越してくる直前のことで、それ以来、優勝がないのです。今はスポーツ解説をしているスティーヴ・ヤングが、現役で活躍していた頃でした(Photo by The Mercury News)

それからは、いろんな選手を雇い、監督を雇ってはクビにして、2012年のシーズンには、ようやくスーパーボウル出場に漕ぎつけます。が、惜しくもロンバルディ優勝杯を逃してしまい、人々の脳裏からは「スーパーボウル出場」の記憶すら消えてしまいます。



翌2014年のシーズンは、心機一転。49ersはチーム65周年を記念して、シリコンバレー・サンタクララの新スタジアムに移るのです。が、そんな一大イベントをもってしても、長い「低迷の時代」を抜けきれません。

前年にはスーパーボウルに出場した勇姿は影を潜め、シーズン8勝8敗で終わります。

次の年には、頼みの綱だった監督も司令塔のQB(クウォーターバック)キャパニック選手もチームを去り、シーズン5勝11敗と成績はますます悪化。

監督とQBをとっかえひっかえ、次の年(2016年)には、シーズン2勝14敗と最悪の結果を残すのです。そう、開幕試合で勝って以来、ファンがホームスタジアムに応援に行っても、負け試合しか見られない! という悪夢が訪れるのです。

もしかすると、新スタジアムを建てると、チームは弱くなるのでしょうか。今シーズン新アリーナが完成し、オークランドからサンフランシスコに引っ越してきた NBA(バスケットボール)のゴールデンステート・ウォーリアーズも、これまでの連続優勝がウソみたいに落ち込んでいるし、「立派なスタジアムにお金を使い果たして、選手に手が回らない事情があるのか?」と、勘ぐりたくなってしまうのです。



そんなこんなで、次の年(2017年)に就任したのが、カイル・シャナハン現監督。父親は、デンヴァー・ブロンコスの名将とうたわれたマイク・シャナハン。49ersが最後に優勝したときのオフェンスコーディネーターでもあります。

そんなお父さんの影響で、小さい頃からアメフトに親しんできたカイルさん。彼のミッションは、ドラフトやトレードを駆使して、チームを一から立て直すこと。シーズン途中には、攻撃の要となるQB ジミー・ガロポロを獲得します。

ガロポロは、強豪ニューイングランド・ペイトリオッツでトム・ブレイディのバックアップを務めた控えのQB。ファンが期待するデビュー戦はシーズン後半の12月第1週に訪れ、敵地シカゴで僅差の勝利を獲得。そこから最終ゲームまで5連勝という「魔法」のような実力を見せ、シーズンを6勝10敗と盛り返します。そんな新QBの到来に、来期にかけるファンの期待はどんどんふくらむのです。

ガロポロは、ギリシャ彫刻のような甘いマスクの持ち主。女性ファンの熱い視線を集め、ファンの裾野も一気に広がります。



ところが、「今年はいけるぞ!」と誰もが信じていた昨シーズン、第3試合目でガロポロはヒザの大怪我を負い、シーズンを棒に振るのです。残念ながら、控えのQBはパッとせず、気がつくと4勝12敗。が、「来年こそは!」とファンは望みを捨てません。

そして、迎えた今シーズン。シャナハン監督も3年目となり、怪我から復帰したガロポロをはじめとして、オフェンスとディフェンスのバランスの取れた若いチームが誕生。勢いに乗って開幕から9連勝、シーズン13勝3敗と好成績でファンを魅了するのです。

とくに、強敵シアトル・シーホークスとアウェイで戦った最終試合では、残り9秒、敵の逆転をわずか数センチで食い止め、NFCコンファランス一位の座を獲得。

おかげで、プレーオフ2試合はホームゲームとなる有利な展開に。地元ファンの絶大な声援に支えられながら、スーパーボウルへのチケットを手に入れました(全米フットボールリーグ NFLは、NFCと AFCの二つのコンファランスに分かれ、それぞれのチャンピオンがスーパーボウルに出場します)。



強いチームには、ファンがつく。変な話、ファンがどれほどチームに「faithful(忠誠心がある)」かは、観客席で見かけるジャージで判断できるのです。

シリコンバレーの新スタジアムで観察したところ、最初のうちは、背番号「16」「8」「80」といった過去の名選手の番号が主流でした。

そう、「16」は49ersを初めての優勝に導いた QB ジョー・モンタナ。「」は見事に後継を果たした QB スティーヴ・ヤング。そして「80」は彼と名コンビだった WR(ワイドレシーバー)ジェリー・ライスです。

が、新スタジアム6年目となる今シーズン、さすがに現チームで活躍する背番号が増えてくるのです。やはり「10(QB)ジミー・ガロポロ」が多いですが、ルーキーとして華々しいデビューを果たし、全米にその名をとどろかせた「97(DL:ディフェンスライン)ニック・ボーサ」もたくさん見かけます。

QB を守る大事なポジション「74(T:タックル)ジョー・ステイリー」も根強い人気です。アメフトではQBやレシーバー、ラニングバックが注目されがちですが、雪崩のように押し寄せるディフェンス陣を前線で食い止めるオフェンスラインの存在も大きいです。試合中ボールに触らない彼らですが、オフェンスラインが弱いとゲームが成り立たないという、縁の下の力持ちなのです。

そして、これまでチームジャージには無関心だった連れ合いも、今期は「85(TE:タイトエンド)ジョージ・キトル」の真っ赤なジャージをまとい、同じく「85」を着込んだ後ろの席のおばさんと大の仲良しになりました。キトルも、今期大活躍したひとり。「ベスト・タイトエンド」として、全米の注目を浴びています。



そんなわけで、まだまだ若い 49ersのチーム。過去の栄光にすがることなく、自分たちの歴史を築くまでに成長しています。

ラッキーなことに、我が家もプレーオフの2試合をホームフィールドで観戦し、1試合目はミネソタ・ヴァイキングスを、2試合目はグリーンベイ・パッカーズを破って NFCチャンピオンとなり、スーパーボウルへのチケットを手にした瞬間を味わうことができました。

紙吹雪が舞い、フィールドの選手たちや観客席のファンが熱狂する中、「昔はテレビでしか観戦できなかった試合を、今はスタジアムで見ているんだ」と我に帰って、ありがたくも感じたのでした。



スーパーボウルは、2月2日にマイアミで開催されます。50年ぶりにスーパーボウルに出場するカンザスシティ・チーフスと、25年ぶりの優勝を目指す 49ers。

両チームの選手もファンも「相手には絶対に負けないぞ!」と思っているはずです。が、やっぱり 49ers は負けないぞ! と固く信じているのでした。



夏来 潤(なつき じゅん)



2020は「20/20ビジョン」の年

<エッセイ その181>



時が流れるのはあっと言う間で、いよいよ2020年の幕開けとなりました。



12月中旬まで三週間を日本で過ごし、アメリカに戻ってバタバタしていたら、もう年が明けた、という感じでした。



サンフランシスコで迎えた新年は、ピリッと肌寒くも穏やかなもの。元旦は、おせち料理を重箱に詰めて、お屠蘇で乾杯。お酒が入ると食欲も増して、パクパクといただきました。



意外なことに、我が家のおせち料理は、連れ合いが作るのが慣例となっています。



こちらの写真は、そんな連れ合いの力作ですが、「かまぼこ」とその左の「おつまみ」、そして「昆布巻き」以外は、すべて自作なんです。そう、「伊達巻」や「錦玉子」、「黒豆」や「たづくり」、「煮しめ」や「角煮」にいたるまで、すべて手作りです。



とくに、毎年「黒豆」にかける情熱は大変なもので、まず、材料となる黒豆は日本で購入してアメリカへ。そして、豆は前日から水に浸け込んで、翌日は半日かけて細心の注意を払いながら、コトコトと煮る。



今年は、黒豆300グラムといつもより量が多く、水や砂糖の加減が違って感が鈍った! と不満顔。でも、お店で買ってくるよりも甘さ控えめで美味しいし、お正月が過ぎてからも何日も楽しめました。あのトロッとした蜜のような汁が、また絶品なんですよね。



いえ、わたしもおせち作りは手伝いますが、なかなか重要なパートは任せてもらえません。自分では料理はまあまあだと思っているのですが、それよりも、連れ合いの料理に対する情熱に負けてしまって、「わたしに作らせて!」と包丁や鍋を奪い取ることができないのです。



そんなわけで、わたしの元旦のお仕事は、父方の祖父母が大事に使っていた重箱にできあった料理を詰めること。「料理は目でいただく」とも言われますので、それも重要なミッションなのです!




お腹もくちくなり、夕方にはお散歩に出かけました。前夜は「New Year’s Eve(大晦日)」のお祝いで、海ぎわからこの辺まで賑わっていたのに、この日はまったく静かなもの。



道すがら、こんなものを見つけました。こちらは「Happy New Year(新年おめでとう)」と書かれた、髪飾り。



道端に落ちていたものですが、なんとなく「兵もの(つわもの)どもが 夢の跡」という芭蕉の句を思い出して、栄華が過ぎ去ったあとのわびしさすら感じます。



ちょっと静か過ぎるなぁ、いつものサンフランシスコとは違うなぁと思いながら海ぎわまで歩いて行くと、ベイブリッジが美しく輝いています。



この日はサンフランシスコ湾も穏やかで、対岸のオークランドやバークレーに向かうベイブリッジのライティングが、水面に映ってきれいです。前夜に上がった花火とは対照的な、音も動きもない静けさなのです。



フェリービルディングの近くまで行くと、いた、いた! 元日もシャカシャカと走っている人が。



そう、毎年アメリカ人も「新年の抱負(New Year’s resolutions)」というのを掲げるんですが、その中でもっとも人気があるのは、「今年は痩せるぞ!(lose weight)」。



でも、ジョギングをするにしても、ジム通いをするにしても、だいたいは三日坊主で終わってしまいます。そんな中、元日に走っているこの青年は、ずっと行けそうな予感ですよね。




そして、今年は「子(ねずみ)」年。



昔から日系、中国系、ヴェトナム系とアジア系住民が多いカリフォルニアでは、旧暦の正月(Lunar New Year)も大事に守っていて、街のあちこちで今年の干支「ねずみ」の飾りを見かけます。



こちらは、昨年いったんお店を閉じたものの、年末になって別の場所で再開した老舗の小売店。おもに輸入家具やテーブルウェア、服や宝飾品を扱う高級イメージのお店で、歳末商戦のショーウィンドウには、とくに力を入れています。



今年は、ねずみのバレリーナが左右のショーウィンドウを飾っていて、明るいスポットライトを浴びながら、満足げなご様子。踊ったあとは、シャンペンで乾杯よ! とばかりに気取った表情が、道ゆく人たちの目を引きます。



「ねずみ」と「バレエ」といえば、チャイコフスキー作曲のバレエ『くるみ割り人形』を思い浮かべますが、「あんな悪いネズミたちとは関係ないわ!」と、すまし顔の彼女。



そして、こちらは、サンフランシスコに本社のある銀行のネオンサイン。



Welcome to the Year of the Rat(子年にようこそ)」と書かれています。



中国語で「喜迎鼠年」とも書かれていますが、サンフランシスコは、旧暦の正月を祝う中国風パレードでも有名な街ですね。そう、「この街にはお正月が二回やってくる」という、おめでたい現象なのです。




お散歩から戻ってくると、ビルのフロントデスクの方が、こんなあいさつをしてくれました。



今年は2020年だから、「20/20ビジョン」の年。だから、しっかりと目を見開いて、物事をちゃんと見通さなければいけないね! と。



この「20/20ビジョン(20/20 vision)」というのは、視力に関する表現。「トゥウェンティー・トゥウェンティー ヴィジョン」と発音しますが、なんの問題もない「標準視力」のことです。



日本語の「1.0」の視力らしいですが、目が悪い方でも、ここまで矯正すると問題のない見え方。



ですから、彼は「20/20ビジョンの年」と表現することで、しっかりと物を見据えて、物事の本質までちゃんと見抜いていこうよ、と言いたかったのです。



2020年は、アメリカでは4年に一度の大統領選挙(Presidential Election)があります。共和党は、現職のトランプ大統領の出馬が決まっていますが、対する民主党は、現在複数の候補者がしのぎを削っているところ。いよいよ2月に入ると、アイオワ州を皮切りに、本格的な候補者選びのプロセスが始まります。



全米最初のアイオワ州は2月3日に党員集会(Caucus)を開きますが、カリフォルニア州では、3月3日に予備選挙(Primary Election)が行われます。例年は6月の予備選挙でしたが、その頃にはもう候補者が決まっている。今年はカリフォルニア州の意見が主導権を握れるように! と、3月に早めたのでした。



そんなわけで、フロントデスク担当の彼は、「今年は大事な年だよね!」と、あいさつがわりに確認しておきたかったのです。



視力といえば、わたし自身は、新年に入ってすぐ目の手術を受けました。まだ回復中ではありますが、以前よりも、ずっと良く見えそうな予感がしています。



この2020年は、「20/20ビジョン」の年。



アメリカ人がみんな、ちゃんと目を見開いて、物事を見極めて欲しい! と願っているところなのです。



© 2005-2024 Jun Natsuki . All Rights Reserved.