Silicon Valley NOW シリコンバレーナウ
2010年02月28日

今月の話題:オリンピック、トヨタ、IP電話

Vol. 127

今月の話題:オリンピック、トヨタ、IP電話



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シリコンバレーは、だいぶ暖かくなりました。今年は、春が訪れるのが一段と早いようで、菜の花や桃の花は満開を過ぎてしまいました。もうそろそろ桜という季節でしょうか。
2月は旧正月のお祝いもありましたし、辺りは「新春」にふさわしい華やかな風景となっています。

そんな今月は、冬季オリンピック、トヨタのリコール問題と、今話題になっているトピックを選んでみました。そして、我が家で注目度満点の新型電話のお話も加わっています。

<いずこも同じ男心>
のっけから失礼いたします。「男心」のお話です。

バンクーバー冬季オリンピックをアメリカで観戦していて、ひとつおもしろいなと思ったことがありました。それは、なぜだか急にカーリングが人気となっていることなのです。アメリカは決してカーリングが強いわけではありませんので、それはちょっと不思議なことだと思うのです。
もしかすると、総当たり方式(round robin)の予選リーグで、アメリカの男子チームが一気によみがえったこともあるのかもしれません。最初の3日間で4連敗したところが、翌2日で2連勝と調子を上げてきたので、いきなり国民の関心度が倍増したようではあります。
けれども、何といっても、人気上昇の真の理由は、カーリング女子にあるのではないでしょうか。

アメリカでオリンピック放映権を持つNBCは、系列のMSNBCやCNBC、USAとケーブルチャンネルも総動員してオリンピック放送を行っておりますが、自国が出場していない試合でも、せっせとカーリングを放映しています。
もちろん、一回戦は総当たりである以上、他国の戦い方も観戦しておく必要はあるわけですが、通常アメリカ人は、そんなことは気にしないと思うのです。自国チームの結果さえわかればいいやと、そんなところがあるのです。
ところが、これだけ熱心にデンマークとドイツの試合を放映しているところをみると、やっぱりお目当ては女子選手にあるのではないかと、うがった見方をしてしまうのです。きっと「あの金髪のコがかわいい」だの「いや、こっちのブルーネットのコがいいよ」だのと、カメラの後ろ側で盛り上がっているに違いありません。
だって、デンマークの金髪の選手がひどくアップになっていましたよ。

実は、今回のオリンピックでちょっと話題になったことがありました。それは、アメリカの女子選手についてでした。
アルペンスキーのリンゼイ・ヴォーン選手を始めとして、アメリカにはかわいい選手が多いのです。そして、その魅力をアピールしようと、男性向けのスポーツ雑誌にちょっときわどい水着姿で登場したりしていたんですね。
もちろん、こういうのはオフシーズンに撮影されたものではありますが、オリンピックを目前に掲載誌が発売されると、「スポーツ選手でありながら、これは何たることか!」と、一部の方々の顰蹙を買ってしまったのです。スポーツ選手というものは、良い成績(メダル)を残すために全力を尽くすべきであって、その他のことに労力を使うべきではない!と。

当のヴォーン選手は、スキーなんて選手生命が短いので、引退後は、あわよくば「芸能界入り」したいと考えていらっしゃるともいわれています。が、そこがまた評論家の神経を逆なでしたらしく、こんな厳しいコメントを発するのです。
「ふん、もし今回のオリンピックでメダルが取れなかったら、そんな上等なもくろみもおじゃんになるのさ!」


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そういった巷のプレッシャーに負けることなく、ヴォーン選手は、女子滑降(Ladies’ Downhill)で見事に金メダルを獲得したのでした。そして、続くスーパー大回転(Super-G)でも、銅メダルを獲得しています。
けれども、精神的なプレッシャーや直前のスネの怪我と、最悪なコンディションで試合に臨んだこともあって、メダルが確定したときには、嬉しいよりもホッとしたのでしょう。ダンナ様を見つけると一目散に駆け寄り、首にしがみついてワンワンと子供のように泣いていらっしゃいました。
あんなにワンワンと泣く大人も珍しいものだと、こちらもつい、もらい泣きしてしまったのでした。(写真は、右がリンゼイ・ヴォーン選手。左が滑降と複合で銀メダルを獲得したジュリア・マンクーソ選手です。)

まあ、「スポーツ選手は、スポーツ選手らしく振る舞え」という批判も十分に理解できます。アメリカではとくに、女のコは外見の美しさだけに気を取られ、やれファッションだ、ダイエットだと、中身を磨くことを忘れているともいわれます。そんな女のコたちのお手本となるためには、女子スポーツ選手は脇目もふらず目標に向かって邁進すべきであると。
けれども、個人的には、こうも思うのです。せっかく美しくお生まれになったのでしたら、それは天からの授かり物だと思って、ありがたく(健康的に)まわりのみなさんと共有なさったらいかがでしょうと。だって、周囲にどんな雑音があったにしても、最終的には、自分の人生は自分自身のものですからね。


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そうそう、あのカーリングって種目ですが、どうもわたしにはルールがわかり難いのです。それに、なにやら、人の邪魔をしなければならないというのが、肌に合わないかなと・・・。
そういう意味では、スケートのショートトラックもあまり好みではありません。なんであんなに肘鉄(ひじてつ)を使うのでしょうか。

でも、アメリカのアポロ・アントン・オーノ選手の試合は、欠かさずに観戦していますよ。なぜって、お父さんが日本人だから親近感が湧くのです。

それに、何といっても、アポロくんはかわいいですから!

<AT&Tさん、さようなら~>
話はガラッと変わります。最近、我が家が買ったスグレもののお話をいたしましょう。

今となっては、携帯電話ですべてを済ましてしまうので、固定電話(普通の電話)なんて家に置いている人も少なくなっているのでしょう。けれども、我が家はいろんな所に電話番号を登録しているので、なかなか手放せなくなっています。
ところが、先日コードレス電話機が壊れてしまったので、買い替える必要が出てきました。そんなに高いものではないし、量販店で買ってくればいい話ではあります。

でも、今どき、普通の電話機を購入するのも芸が無いではありませんか。だいたいオフィスでは、「IP電話」が花盛りとなっていて、安い上に芸達者とみなさんに喜ばれているくらいですから。家庭内にそんなIP電話があっても、おかしくはないでしょう。

IP電話の「IP」というのは、インターネット・プロトコル(Internet Protocol)という意味ですが、インターネットの上に声を乗っけて送りましょうという規格を利用したものがIP電話です。「IPの上に声(Voice)を乗っける」という意味で、VoIP(Voice over IP、ヴォイプ)とも呼ばれます。
従来の電話屋さんの電話回線ではなくて、ブロードバンド(高速インターネット)回線を使うので、安価にできる上に、いろんな優れた機能を付加できるのです。

そんなIP電話を購入しようとすると、いったい誰に連絡すればいいのでしょうか?

シリコンバレー辺りの北カリフォルニアで固定電話に加入しようとすると、電話会社のAT&T(旧・地域ベル電話会社SBC)か、ケーブルテレビ会社のComcast(コムキャスト)の電話サービスに加入することになります。


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以前、2007年1月号の「電話会社のテレビ放送」というお話で、AT&Tのテレビサービス新規展開をご紹介したことがありますが、今となっては、電話屋さんに加入してテレビを観られる時代になっています。同様に、ケーブルテレビ屋さんに加入して電話を使うこともできます。
電話屋だろうが、ケーブル屋だろうが、「電話」「テレビ」「ブロードバンド」は三種の神器として誰でも提供しているのですね。そして、その場合の「電話」には「IP電話」の選択肢もあって、普通の電話ではできない芸当がいろいろと付加されているのです。

当然のことではありますが、どの会社も、「電話」「テレビ」「ブロードバンド」に一括して入ると安くなるよと、宣伝を忘れてはいません。相手から顧客を奪い取ろうと、電話屋さんとケーブル屋さんの戦いは、年々熾烈になっているのです。
AT&Tの場合だと、2007年に新規展開した「U-verse(ユーヴァース)」というテレビサービスに、新たに「U-verse Voice」というIP電話サービスが付加されています。たとえば、テレビが300チャンネル、それにIP電話とブロードバンド(最大伝送速度12Mbps)が付いて、月々162ドルとなっています。

我が家の場合は、(普通の)電話はAT&T、テレビとブロードバンドはComcastと、別々に加入しております。それだと月々190ドルと、割高であることは確かですが、そんなことよりも、一社にすべてを牛耳られるのは嫌なのです。
それに、AT&Tのテレビだと、大好きなTCM(Turner Classic Movies、昔の映画の専門チャンネル)が高画質ではないので、それではダメなんですよ。

というわけで、AT&Tの電話をIP電話に乗り換えたいけれど、大手に首根っこをつかまれたくないという我が家は、Ooma(ウーマ)のサービスを選びました。
Oomaとは、シリコンバレーのパロアルトにあるベンチャー企業で、家庭用のIP電話サービスでは、草分け的な存在ともいえるでしょう。


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ベンチャーキャピタルから資金を受け独立の会社である上に、サービスの評判も上々。ユーザ数も、そろそろ10万人に達すると聞きます。そこで、さっそくアマゾンのオンラインショップでOomaの機器を購入いたしました。

仕掛けはごく単純なもので、こちらの写真にある「Ooma Telo」という名のハブ(ネットワーク装置)をブロードバンド・モデムにつなぎ、Oomaに連絡すれば、IP電話が使えるようになります。
我が家の場合は、アップルのWiFi(無線LAN)ステーションを使っているので、モデムとハブの間にWiFiステーションを入れてみたりと、若干の試行錯誤が必要でしたが、基本的にはすんなりとつながるもののようです。


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お金をセーブしようと思ったら、自分が使っている電話機をハブに差し込めば、今まで通りに使えます。けれども、我が家の場合は、もともと電話機が壊れてしまっているので、ハブと相性の良い「Ooma Telo Handset」という子機を2台購入しました。
子機1台はキッチンに、ハブともう1台の子機はちょっと離れた仕事部屋に置きました。ハブと子機はWiFiでつながっているので、互いに離れていても大丈夫です。
ハブは、250ドルの定価を200ドルで、子機は2台100ドルで購入しているので、それほど高い投資ではありません。

よし、これで準備万端。

ここで、Oomaに連絡して、今使っている電話番号をAT&Tからポーティング(サービス間の持ち運び)してもらいます。これには2週間ほどかかるので、その間、AT&Tの電話番号とOomaのIP電話番号を持つことになります。
けれども、Oomaの場合は、最初にハブや子機を購入すれば、サービスは基本的には無料です。ですから、料金の点では、あまり神経質になることはありません。
そうなんです。月々にサービス料を支払うこともありませんし、アメリカ国内の通話は無料です。(ユーザとの紳士協定で、月83時間まで無料と定められてはいるようですが。)
国際電話は、前払いしておいて、そこから分単位で料金を徴収される方式になっています。この点では、インターネット電話のSkype(スカイプ)と同じ方式ですね。

我が家の場合は、いろいろと追加機能のあるプレミアサービスに加入しましたので、毎月9ドル99セントのサービス料を支払うことになります。
プレミアだと、たとえば子機ごとに電話番号を割り振り、まるで2台の電話を持っているように単独で使うこともできます。これで、家に誰かおしゃべり屋さんがいても大丈夫!

そんなOomaを実際に使ってみて、一番ありがたいと思ったことは、誰かが残した留守番メッセージが毎回メールで送られてくることでしょうか。
もちろん、普段は家に戻ると、すぐに留守録をチェックするでしょうが、出張や旅行をしていると、家に戻るまでメッセージを聞かないことも多いではありませんか。電話の機種によっては、出先から聞けるものもありますが、海外に行っていると、なかなかそんなこともしないでしょう。
けれども、Oomaのプレミアサービスだと、声のメッセージをそのままメールに乗っけて送ってくれるのです。これをアップル iTunes などのメディアプレーヤ・ソフトウェアで再生すれば、海外旅行をしていても、緊急の連絡を逃すことがありません。
この手の機能は、オフィス用のIP電話には一般的なようですが、家庭向けには提供されていない場合が多いようです。


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そして、留守録のメールと同じくらいありがたいのは、「コミュニティー・ブラックリスト」という機能でしょうか。何やら怪しい名前ですが、要するに、宣伝のためにかけてくる企業の電話をほとんどすべてブロックしてくれるのです。
以前、2003年10月号の「憎まれっ子、テレマーケター」というお話で、アメリカの電話を使った販売戦略は消費者からひどく憎まれていると書いたことがありました。そのため我が家でも、電話が鳴ってもすぐには出ない習慣ができあがっておりました。
それが、Oomaに乗り換えた途端、テレマーケティングの電話がかかってこないのです! それは、Oomaがテレマーケターの電話リストを持っていて、その番号をブロックしてくれるからなんですね。
もちろん、ユーザ自身が特定の電話番号をブロックする機能も付いていますが、みんなが嫌なものは、最初からわたしたちがブロックしてあげましょうと、気を利かせてくれているのです。
これまで一回だけテレマーケターの電話がありましたが、それだって、子機の画面に「1-800サービス」と表示されていたので、出ることもありませんでした。(1-800というのは、日本の0120と同じで、企業のフリーダイヤル番号ですね。近頃は、1-888、877、866といろいろあるのです。)

このように、IP電話の利便性を挙げればきりがないのですが、ひとつだけ毛色の違った利点を挙げるとするならば、それは電波干渉がないことでしょうか。
我が家が使っていたコードレス電話機は、2.4GHzの周波数帯を使うわりにアナログ方式だったので、電話で話していると、WiFi経由のネットアクセスを妨害するという、極めて原始的な問題があったのでした。ちょうど電子レンジがノイズを出して、WiFiが使えなくなるのと同じ原理ですね。
でも、IP電話だと、大丈夫。きちんとデジタル化のお作法が行き届いているので、人のコミュニケーションをぐちゃぐちゃに邪魔することがありません。

というわけで、めでたくIP電話に変身してみたのですが、残念ながら、電話会社のAT&Tとは、完全に「おさらば」できたわけではないのです。
実は、Oomaのサービスではファックス機能が不安定なので、ファックス機をつなげていたAT&Tの電話回線はそのまま続行となったのでした。
(ちょっと乱暴な言い方をすると、ファックスは、ピーヒャラピーヒャラと電話回線でデータを送っていた昔の「音響カプラー」みたいなもので、そんな大量のアナログデータを高画質でIP電話に乗っけるのは、技術的にいろいろと大変なことのようです。)

まあ、技術は日進月歩。Oomaのハブや子機にはネット経由でどんどん改良を加えることができるので、何か進展があれば、新機能をサクッとダウンロードできるのです。

それだって、普通の電話にはできない芸当ですよね!

<トヨタとアメリカ>
またまた話はガラリと変わりまして、今アメリカ中を騒がせている、トヨタの大規模リコール問題についてです。

申し上げるまでもなく、現地時間2月24日、トヨタ自動車の豊田章男社長が連邦下院監視・政府改革委員会の公聴会でリコール問題について証言いたしました。
前日には、下院のエネルギー・商業委員会が米国トヨタ自動車販売のレンツ社長に対して公聴会を開いており、二日目の監視・政府改革委員会の公聴会は、第1部がラフード運輸長官の証言、第2部が豊田社長の証言、第3部が遺族の証言と3部作で行われています。(そして、3月2日、今度は上院の商業・科学・運輸委員会が、3回目の公聴会を開きます。)


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この日、豊田社長と北米トヨタの稲葉社長が出席する公聴会第2部を生中継で観ておりましたが、ようやく、アメリカでの大騒ぎの本質がわかったような気がいたします。

それは、この公聴会で見られた各委員のフラストレーションは、「本国の日本は、アメリカの市場をないがしろにしているのではないか?」という疑念に発しているのではないかということです。
たとえば、アメリカで部品を調達し、アメリカで組み立てられた車が問題を起こした場合、本国の日本では知らんぷりをしていたのではないか? その結果、三十数名の尊い命が奪われてしまったのではないか? そんな懐疑心があるのだと思うのです。
ですから、ヨーロッパで最初に急発進の問題が起きたとき、いつ頃からこの問題を知っていたのかとか、米運輸省の道路交通安全局(NHTSA、通称ニッツァ)が日本を訪れたときに事の仔細は聞いていないのかとか、問題をうやむやにしようと弁護士に相談したのではないかと、ギリギリと豊田社長を責め立てていたのでしょう。

こういった疑念やフラストレーションは、一消費者としての各委員の不安の表れであるのかもしれません。ある女性議員は、「わたしはアメリカ車を買いたかったけれども、わざわざカムリのハイブリッドモデルを買ったのよ。だから、わたしのカムリがずっと安全かどうか保証してちょうだい」と、まるで子供のような質問をなさっていました。
車は人の命を乗せるものですから、連邦議員であろうが何だろうが、安全を保証してもらいたいことに変わりはないでしょう。

そして、いろんな報道が伝えているように、この公聴会には、今年11月の中間選挙を控えた政治的なパフォーマンスがあることも否めないでしょう。
なにせ、連邦下院議員は、435人全員が11月2日の選挙で選び直されるのです。再選を目指す委員にとっては、生中継の公聴会で見せる姿勢は、そのまま選挙キャンペーンにつながると考えた方が無難でしょう。
当然のことではありますが、トヨタと深い関わりを持つ選挙区とそうでない選挙区では、委員の態度の違いは歴然としています。実際、トヨタが工場を持つケンタッキー州選出の議員は、トヨタが地域経済にどれだけ貢献しているかを手持ちの5分間で力説し、「この問題を政治の道具に使うのはよろしくない」と、豊田社長には一切質問しませんでした。

このような政治の世界の思惑と、それをあおり立てるメディアの大騒ぎに比べると、アメリカの消費者はいたって冷静な気もいたします。
これには、「自分は長年トヨタに乗っていて、一度も問題に遭遇したことはない」という忠誠派もあれば、「どうせトヨタで起こったことは、他社でも起きるんでしょ」という悟り派もあります。「だいたい、車の事故なんて大部分はドライバーの過失で起きるんだから、車がほんとに悪いのかな?」という懐疑派も若干ながら存在するようです。
そして、「トヨタなんて、もう二度と買わないわ」という見切り派だっているでしょう。

けれども、消費者がどんなに好意的であろうと、懐疑的であろうと、トヨタはあることをすっかり忘れていたのではないかと思うのです。それは、アメリカが圧倒的な車社会であること。
もちろん、そんなことは誰でも頭ではわかっているでしょう。しかし、「車はレジャー用の贅沢品なんかではなく、車がないと何もできない」という、車がアメリカ社会に与える影響力の大きさを忘れてしまっていたのではないかと思うのです。
だから、安全性への配慮に欠け、問題の取り組みと対応が遅れてしまった。そして、対応が遅きに失した結果、メディアに叩かれるだけ叩かれ、連邦議会でも「血祭り」に上げられた。

確かに、アメリカのメディアも議会も、公正さに欠ける部分は大いにあるでしょう。けれども、外国の企業がアメリカで問題を起こしたとあらば、誰も助けてはくれないでしょうし、それは、当然至極のことでしょう。
これに抗するためには、包み隠さず、電光石火に問題に対処するしかないと思うのです。問題を起こしたことよりも、「状況が見えない」というのが、アメリカ人にとっては一番辛いことでしょうから。

豊田社長は、下院公聴会の翌日、ラフード運輸長官と会談したあと、ケンタッキー州レキシントンにある自社工場に向かいました。この工場には6千6百人の従業員が働き、主力のカムリを生産しているそうですが、ここで豊田社長は生産ラインを見学し、従業員と身近に接したあと、全員の前でスピーチをしています。
この中で、「昨日の公聴会では、わざわざケンタッキーから首都まで出向き、わたしを応援してくれたスタッフがいたことが、どれだけ心強かったことか」と、涙ぐむ場面もありました。
少なくとも、現地の関係者には、この涙の意味は十分に伝わったのではないかと思います。
そして、はるばる日本からやって来て公聴会に出席してくれたことは、連邦議会だって評価していると思います。(たぶん外国から証人を召喚する法的拘束力はないはずですから、「自ら進んでやって来た」という理解なのでしょう。)

かく言うわたしは、過去10年間トヨタ製の車を運転していて、ただの一度も問題に遭遇したことはありません。おまけに、今回のリコールにはまったく無関係ときているので、トヨタの問題を語る上で、これほど不適切な人間もいないでしょう。
けれども、あえて言わせていただけるなら、トヨタは「黙っていても売れる」事実にあぐらをかいていたのだと思いますし、それを黙認する風潮が社内にもあったのではないかと思います。そして、世界のどこであろうと、お客様の声に耳を傾ける姿勢を忘れていたのだとも。

一ユーザとしましては、一日も早く、問題の根本的な原因と対策を見つけ出してほしいと願っているところです。だって、こんな風刺漫画は二度と見たくないですからね。


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(by Mike Lukovich – Atlanta Journal-Constitution, published in the San Jose Mercury News on February 25th, 2010)

場所は、トヨタの研究所。安全性の試験をしようと、衝突実験用ダミーを呼んだら、ダミーがこう言うんです。

Hell No(絶対に嫌だよ)って。

まったく、ダミーにまで嫌われたとは・・・

夏来 潤(なつき じゅん)

 

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