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2010年07月20日

戦闘機とドローン: ただいまアメリカは戦争中

Vol. 132

戦闘機とドローン: ただいまアメリカは戦争中

 


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2010年も、はや7月。夏も本番となりました。

7月には独立記念日(Independence Day)もあることですし、この時期は、アメリカ人が自分を一番誇らしく思うとき。人々の「誇り」を具現化するかのように、記念日には、あちらこちらでパレードや花火大会が開かれます。

思うに、アメリカ人が自らを誇りに思うのは、自国の強さを認識したとき。アメリカが経済や政治でリーダーシップをとったとき。そして、軍事力を誇示したとき。

いうまでもなく、アメリカは今も戦争中でして、イラク戦争は終結に向かっているものの、2001年10月に始まったアフガニスタン戦争は派兵増強となり、戦火は激しさを増しています。そして、国境を越え、隣国パキスタンにもアメリカの攻撃の手は伸びています。
そんなご時勢には、ヒューヒューと威勢よく上がる記念日の花火も、空爆に聞こえてくるのです。

そこで、今月は、戦争に関連した「きな臭い」お話でもいたしましょうか。全部で三話となっておりますが、まずは、あるロボット会社の顛末から始めることにいたしましょう。

<一つ目小僧の変身>


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「一つ目小僧」というのは、以前ご紹介したことのあるロボットのことです。2003年にラスヴェガスで開かれたCES(コンスーマ・エレクトロニクスショー)に登場していた、かわいいロボットくんです。
2003年1月号の第2話でもご紹介していますが、エボリューション・ロボティックス社のコンパニオン(相棒)ロボット「ER 2」は、留守宅の監視をしてくれたり、子供に本を読んであげたり、別売りの「腕」を付けてもらえば、チェスの相手だってしてくれるという、なかなか多才な「一つ目小僧」くんでした。

この「ER 2」の生みの親であるエボリューション・ロボティックス社は、現在、アップルのiPhoneに向けてアプリケーションを販売しています。「ViPR(ヴァイパー)」という名で、端的に言って「見て、情報探しをしてくれる」アプリです。
たとえば、DVDやCDや本のカバーをiPhoneのカメラで撮ったとします。すると、その写真をもとに商品の詳しい情報をメールで送り返してくれるのです。そこには、画像サイトYouTubeやiTunesストア(アップルのメディア・アプリショップ)へのリンクもあって、ビデオクリップを観たり、音楽を試聴したり、簡単に購入できるようにもなっています。
そんなものは、世の中にたくさんあるでしょう。でも、これのどこがスゴイかって、写真を撮るのがヘタクソでも、ちゃんと認識してくれるところなのです。たとえば、逆さまに撮っても、斜めにゆがんで撮っても、遠くにあるものを小さく撮っても、情報の一部が指で隠れたまま撮っても、かなり正確に認識してくれるのです(デモの様子は、こちらのビデオでご覧になれます)。

「ER 2」ロボットの登場以来、エボリューション・ロボティックス社は、「ViPR」のような画像認識に力を入れてきたようです。その努力が実を結んだのでしょうか、昨年7月には、米海軍からお仕事をいただきました。
海軍の研究所が同社を気に入った理由は、戦地のようにコンピュータを持ち歩けない場所でも、携帯機器に搭載された画像認識技術で、敵方の飛行機や船、戦車などを的確に、素早く識別するところだそうです。どんな天候であろうと、どんな地形であろうと、敵の位置を確認することは、守備と攻撃の第一歩ですから。

なんでも、同社は、米軍とは先にいくつかの契約を結んでいて、ロケット弾(RPG、rocket-propelled grenade)の検知システムだとか、無人偵察機(UAV、unmanned aerial vehicle)の操縦システムだとか、そんな分野で軍隊と密にお仕事をしてきたそうです。(たとえば、現在は、戦車に向かって発射されたロケット弾を衝撃波で検知して反撃したり、戦闘機に向かってくるミサイルの赤外線検知能力を惑わすシステムなどが使われていますが、費用がかかり過ぎたり、精度が低かったりと、それに代わる新しい防御技術は常に求められているのです。)

うーん、「ER 2」みたいなロボティックスの分野は、まだまだ未成熟なのはわかります。研究・開発にはお金がかかるし、消費者向けにはなかなか売れないし、ロボットを販売しているだけでは食べていけないのもわかります。


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そして、軍事産業と民事産業の間では、互いにテクノロジーを共有しているのもわかります。
あの愛すべきお掃除ロボット「Roomba(ルーンバ)」くんのiRobot社だって、せっせと軍事ロボットを作っているくらいですから(2005年10月号、おまけのお話「ロボット好きの方へ」でご紹介)。

けれども、だからって、「一つ目小僧」の生みの親には、そっちに行ってほしくないのです。

ひょんなことからロボット屋さんの進化過程を知ったわたしは、「一つ目小僧」の変身ぶりに、落胆すら感じたのでした。

<サンノゼを震撼とさせた晩>
6月のある晩のこと、まだ薄明るい夏の一日を楽しんでいたサンノゼ市民を仰天させる出来事が起きました。米軍の戦闘機二機が、轟音を響かせながら頭上低く飛んで行ったのです。
今まで街の真ん中を、しかもあんなに低空を戦闘機が飛んだことはなかったので、サンノゼ市民は、もうびっくり。街をそぞろ歩きしていた人たちや、リトルリーグ野球を楽しんでいた家族たちは、「いったい何が起こったの?」と、目を白黒。

あまりの騒音に、窓ガラスはブルブルと振動するし、車の(盗難防止)警報音は鳴り出すし、びっくりして足を踏み外す人はいるし、その後、報道機関各社には市民の苦情がわんさと寄せられたのでした。
 


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大騒ぎの原因は、ひとつに航空事情を取り仕切るFAA(Federal Aviation Administration、連邦航空局)が戦闘機の飛行について何も知らなかったこと。そして、明らかにFAAの規則を破るような飛行だったことがあります。
民間の飛行機は、高度1万フィートより低い所を飛ぶときには、250ノット(時速約460キロ)以下の速度でなくてはならないそうです。が、その晩は、たった2千フィートの高さを355ノット(約660キロ)ですっ飛んで行った。市の中心を突っ切って、北端のミネタ・サンノゼ空港を超えたときなどは、わずか1300フィート(約400メートル)を520キロでかすめて行った!

この戦闘機二機は「F/A-18 ホーネット」だとわかっているので、犯人は海軍か海兵隊しかありません。でも、内陸のフレズノ近くにある海軍航空基地に聞いても、「わたしは知らない」と言われるし、「あれはいったい何だったんだ?」と騒ぎはどんどん膨れ上がります。

そして、騒ぎが起きて数日後、ようやく海軍の別の基地が「自分たちがやったものだ」と白状しました。飛行訓練のために、南カリフォルニア・ベーカースフィールド近くの施設からミネタ・サンノゼ空港までホーネット二機を飛ばしたと。
「着陸訓練の一部として、こんな演習飛行はよくやる」ということですが、「どうしてサンノゼが選ばれたのかはわからない」とのスポークスウーマンの回答でした。
ちなみに、こちらのチャイナ・レイク基地は、海軍のために兵器開発をしている部署(Naval Air Warfare Center Weapons Division)がいる所で、兵器の陸上演習場がある施設のようです。

まあ、いかに連邦機関であっても、FAAは軍隊の行動についてはコントロール外となるので、戦闘機の空路だとか演習目的だとかは皆目わかりません。ゆえに市民に説明することもできずに、騒ぎが広がったのでした。

それにしても、わたし個人としましては、「どうしてこれしきのことで騒ぐのか?」と、サンノゼ市民の暢気さにあきれてしまったのです。なぜなら、日本の米軍基地周辺の方々は、ほぼ毎日これを経験しているのですから。

実は、わたし自身、神奈川県の厚木基地(海軍飛行場)近くに住んでいたので、飛行演習の騒音は痛いほど経験しています。空路の真下にあたる大和市では、パイロットの顔が認識できるのではないかというほど低空を戦闘機が飛び、頭上を通り過ぎるたびに空をつんざくようなバリバリとした轟音をたてます。
市は騒音対策として、窓を二重構造にするなどの援助をしていますが、地下の無響実験室でない限り、二重窓なんて何の意味のないことも経験済みです。

しかも、航空母艦が横須賀基地(海軍施設)に入港したときは、もっと悲劇です。なぜなら、夜間飛行訓練が始まるからです。
海軍の戦闘機は、基本的に空母から離着陸する艦載機ですので、空軍の戦闘機よりも小型で、短距離で離着陸できるものとなっています。けれども、離陸はまだ良いものの、空母に着陸するのは至難の業のようで、「最初のうちは、失禁するほど恐いものだ」と聞いたこともあります。艦上の滑走路(飛行甲板)が短いだけではなく、着艦のときに戦闘機後部のフックを艦上のワイヤに引っ掛けて停止するようになっているからです。
フックがうまく引っ掛からないと、とっさに飛び立たなければ駐機中の艦載機に激突したり、海に落ちたりと大事故を起こしてしまいます。少ないながらも、そういう事故は起きていますし、命を落としたパイロットもいます。
ですから、着陸してすぐに飛び立つ「タッチ&ゴー」と呼ばれる飛行訓練を何度も行うのですが、厚木基地の場合は、これを夜間に、しかも繰り返し、繰り返し行うのです(実際の着艦時には、フックを引っ掛けるタイミングでエンジンを全開にして着艦失敗に備えるそうなので、訓練だってエンジン全開、つまり、地上の騒音もすごいのです)。

戦闘は昼夜を問いませんので、夜間訓練も必須となるのですが、明けても暮れてもこれをやられる側は、たまったものではありません。厚木基地だけではなく、沖縄の普天間基地(海兵隊飛行場)周辺でも、「騒音で難聴になった」「赤ちゃんがミルクを飲もうとしない」といった悲鳴が上がっています。これは決して大袈裟に物を言っているわけではありません。
 


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日頃、わたしは、サンノゼ市民の暢気さが気に入っています。やはり農村社会だっただけのことはあって、争い事を嫌い「和」を尊ぶ鷹揚さがあるのだと思っています。
けれども、戦闘機が頭上を飛んだくらいで「日常の平和を壊した!」と大騒ぎするのは、あまりにも暢気の度が過ぎると憤りを感じたのでした。
それと同時に、もし米軍が自国民に嫌われるとわかっている飛行訓練を好んで海外の米軍基地で行っているとしたならば、それは大いに筋違いだと思うのです。もしアメリカ国内の海軍、空軍、海兵隊基地周辺で騒音に悩まされている市民がいないとしたならば、どうして日本の人たちが代わりに苦しまなければならないのかと、堂々と問題提起をすべきでしょう。その実態を調べる義務は、日本政府にあるのだと思います。

日本はアメリカの属国などではなく、「対等」の立場にいるわけですから、調査の結果如何によっては、「どうしてあなたたちは日本人を差別するのか?」とアメリカ政府に問いただすべきでしょう。アメリカ人は「あなたは差別をしている」と言われるのが一番心外なので、あちらだって何かしらの対応を考えることでしょう。

もし正当な自己主張をせず、問題をうやむやにしようとしているのなら、それは、日本国全体が、基地周辺の人々を人身御供に差し出しているのと同じことなのでしょう。
 


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今年5月、沖縄に旅したとき、現地の方と親しくお話しする機会がありました。その方は、昨年話題になった映画『Avatar(アバター)』を観て、自分たちと同じ「征服される姿」を見出したとおっしゃっていました。
映画はハッピーエンドで終わっていますが、現実も同じような結末となって欲しいと、無言で主張なさっているようにも感じたのでした。


<ドローンはお好き?>


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先日、新聞を取りに外に出たら、家の壁にこんな蛾が止まっていました。この辺りでは初めて見るような蛾ですが、上品なベージュ色ですし、葉脈みたいな羽が美しくて、ふと足を止めてみたのでした。

でも、これって、なんとなく「ステルス」のようではありませんか? 三角形ののっぺりとした感じが、どことなくステルス機を彷彿とさせるのです。それに、息を殺してじっと壁に止まっているところが、ステルスの持つ不気味さをかもし出しているのです。

まあ、蛾がステルス機なんて、朝っぱらから平和な連想ではありませんが、ご存じの通り、「ステルス」というのは、軍用機が敵から姿を消す技術の総称となりますね。
細かいことはわかりませんが、敵のレーダーに感知されないようにと、電波を反射したり、赤外線を放射したりして、まんまと敵の目をくらます技術です。
たとえば、米軍の例でいうと、1980年代に登場した「F-117 ナイトホーク」、その後継機種で、現在、空軍の主力戦闘機である「F-22 ラプター」といったステルス攻撃機・戦闘機があります。
西側諸国と共同開発中の最新ステルス戦闘機「F-35 ライトニングII」も、間もなく実用段階に入ります(ライトニングIIには、海軍・海兵隊用に短距離離陸と垂直着陸できる機種もあって、今年3月、垂直着陸実験に成功しています)。
そして、もっと大きな爆撃機の中では、冷戦時代末期に登場した「B-2 スピリット」もステルス技術を備えています。

けれども、人間のやることですから、ステルスは完璧ではありません。ということは、いくらステルス機で戦っていても、地対空や空対空で撃ち落とされる可能性があるわけです。そして、操縦していたパイロットは、尊い命を落とすかもしれない。

だとすると、自国軍の被害を最小限に抑えるためには、ドローンが欲しい!

ちょっと変な名前ですが、「ドローン(drone)」というのは、無人航空機のことです。パイロットがいないので、英語では「UAV(unmanned aerial vehicle)」とも呼ばれています。
高高度の飛行と長時間の滞空が可能なので、偵察(reconnaissance)には最適な航空機です。発電機を搭載しているので、数十時間の長い滞空も可能なのです。

ドローンの歴史は意外と古く、第一次世界大戦の頃には、すでに開発が始まっていたそうです。その後、少しずつ改良を重ね実用的なものになりましたが、実際に戦争で使われたのは、1982年のレバノン戦争の頃。
この戦争は、レバノンで激化していたPLO(パレスティナ解放機構)のテロ活動を抑えようと、イスラエルがレバノン南部に侵攻した戦いですが、このときは、イスラエル軍が無人偵察機を使って、レバノンに駐留していた敵方シリアの防御網を突破しています。
この偵察能力に魅せられたイスラエルは、それ以来、事あるたびにドローンを多用するようになったのでした。

それで、どうして薮から棒にドローンの話をしているのかというと、新聞を読んでいて、ひどく驚いたことがあったからです。
それは、2006年に起きたカラチ(パキスタン)の米領事館爆破事件の犯人が、パキスタン北西部のアフガニスタン国境近くでCIA(米中央情報局)のミサイル攻撃で殺されたというものです。なんでも、CIAのドローンが3発のミサイルを発射して、領事館爆破の中心人物を含めて少なくとも13人を殺したというのです。(2月25日付The Associated Press社の報道を参照)

この人物はアルカイダ関連組織であるパキスタン・タリバンのリーダー格で、アメリカが最も捕まえたかった中のひとりだそうです。が、そんなことよりも、何よりも、ふつふつと疑問が湧いてくるではありませんか。
ドローンって偵察機じゃなかったの? どうしてCIAが「人殺しドローン」を持ってるの? スパイ映画じゃあるまいし、CIAは今でも人を殺す免許(license to kill)を持ってるの? そもそも、軍隊じゃない組織がミサイルを発射することは許されるの? と。

調べてみると、どうもドローンが単に偵察機だった時代はとっくに過ぎているようで、近頃はミサイルを搭載し、敵方に静かに近づいてミサイル発射! というのが常套手段のようなのです。高い所にいるので姿が見えないし、風向きによってブーンという羽音がするだけなので、相手は心の準備なんてできないのです。
そして、アフガニスタンの戦地で戦う米空軍だけではなくて、スパイ集団であるCIAも、そんなドローンをこよなく愛しているのです。現に、CIAの任務の中には、殺傷能力を持つドローンの活用作戦があって、昨年8月にも、上空3000メートル(!)の高さからパキスタン・タリバンのリーダーをミサイルで狙撃するという「大手柄」を立てているそうです。

いやはや、この手のドローン作戦は、まさにスパイ映画そのものでして、狙撃する張本人は、はるかかなたアメリカのヴァージニア州ラングリーにあるCIA本部で、大きな液晶画面の前に座っているそうですよ。
ドローンは、ラジコン飛行機のように人間が離れた場所から操縦するものですが、離着陸は、現地の秘密の飛行場から操作するそうです。けれども、ひとたび空に浮かぶと、操作はアメリカ側に渡され、CIAのスタッフ(多くの場合、民間委託会社の社員、つまり民間人)が液晶画面を観ながら、ビデオゲームのようにジョイスティックでドローンを操作するのです。ドローンにはビデオカメラが付いていますので、現地の様子はしっかりと衛星生中継されているわけですね。

昨年8月のミサイル狙撃の実例では、3000メートル上空から赤外線カメラをズームインし、ターゲットとなる人物が妻の実家の屋上でゆったりと長椅子に横たわり、看護師から持病の糖尿病の治療を受けているところがつぶさに観察されたそうです(赤外線カメラだと、夜間でも「透視能力」がありますし、今は3千メートル離れていても使えるそうです)。
そして、頃合いを見計らって、ドローンからミサイル2発を発射し、ターゲットを含めて12人を抹殺。この中には、ターゲットの奥さんと奥さんの両親も含まれていました。蒸し暑い8月の晩のことで、実家の屋上が格好の狙撃舞台となったのでした。(参考文献: Jane Mayer, “The Predator War: What are the risks of the C. I. A.’s covert drone program?”, The New Yorker, October 26, 2009)

このミサイルの名は、「< a href="http://en.wikipedia.org/wiki/AGM-114_Hellfire">AGM-114 ヘルファイア(Hellfire)」。もともと攻撃ヘリコプター用の小型ミサイルだったところからヘルファイアと呼ばれているようですが、まさに「地獄の火」にも聞こえます。
そして、発射したドローン攻撃機は「MQ-1 プレデター(Predator)」。こちらは「略奪者」なのでした。(MQ-1の「Q」は無人航空機、「M」は多目的、つまり偵察と攻撃を表します。)

この「略奪者」の後継機種には「MQ-9 リーパー(Reaper)」というのがいて、戦闘爆撃機級のミサイルを積めるので、もっとすごい殺傷能力があるそうですよ。リーパーというのは、あの大きな鎌を持った「死神」のことです。
先日、サウスダコタ州のエルスワース空軍基地が地上管制施設に選ばれたことでもありますし、今後、この「死神」は、空軍の攻撃戦力として活用されていくようです。

そして、近頃は、ドローンにもステルス技術が使われていて、空軍の「RQ-170 センティネル(Sentinel)」というステルスドローンが、中央アジアで秘密の活動を行っています。今のところ「R(reconnaissance)」となっているので、おとなしく偵察任務を負っているようではあります。(参考文献: David A. Fulghum, “USAF (U. S. Air Force) Confirms Stealthy UAV Operations”, Aviation Week, December 4, 2009)

最新ドローン機の中には、ボーイングが開発中の「ファントム・アイ(Phantom Eye)」というのがあって、こちらはフォードの水素燃料エンジンを搭載し、高度6万5千フィート(約2万メートル)、滞空4日間(!)の偵察飛行が可能となるそうです。(7月13日付英BBCの報道を参照)

いやはや、どこまでもスパイ映画のようではありますが、そもそも、どうしてCIAはドローン攻撃機を愛用しているのでしょうか。
それは、パキスタンの山岳地帯に潜むテロ組織を壊滅させるためには、地上での諜報活動に平行して、はるか上空から敵を偵察する作戦が効果的だからです。ひとたび標的が現れたとあらば、即ミサイルで狙撃する。リーダー格が狙撃されたとなると、敵も息をひそめてテロ活動を中断するでしょう。

けれども、これはCIA側の論理であって、そもそもCIAがミサイルを発射して、人を殺すことは許されるのか? という根本的な問題が残されています。1976年、フォード大統領(当時)によってCIAは「暗殺行為(assassination)」を禁じられているのに。

ここで特筆すべきことは、CIAは自分で勝手にミサイルを発射しているわけではなくて、後ろには、大統領という「黒幕」がいることでしょうか。
当初、イスラエルのドローン作戦を「非人道的」と批判していたアメリカですが、ひとたび2001年の同時多発テロが起きて「テロと戦う」大義名分が生まれると、コロリと立場を変え、攻撃型ドローンを活用するようになります。

そして、ブッシュ前大統領からオバマ大統領に代わり、時代は大きく変わったと見えたにもかかわらず、いまだにドローン攻撃機は大活躍しているのです。
それどころか、オバマ大統領はよほどドローンがお好きと見えて、昨年1月、大統領就任わずか3日後には初のドローン攻撃を命じています。そして、ブッシュ前大統領よりも、はるかに頻繁に愛用なさっているのです。(参考文献: Peter Grier, “Drone Aircraft in a Stepped-up War in Afghanistan and Pakistan”, The Christian Science Monitor, December 11, 2009)

一般的に、ドローン攻撃は、現地の罪の無い犠牲を最小限に抑えることができると言われます。軍隊用語で「副次的な被害(collateral damage)」と呼ばれますが、要するに、ドローンのミサイルは小型なので、現地の民間犠牲者が少ないというのです。
そして、近頃CIAは、重量45キロの「ヘルファイア」よりも小さいミサイル(バイオリンケースほど小さい、16キロのミサイル)を愛用していて、これだと巻き込まれる民間人は少ないとしています。(4月28日付The Washington Post紙の記事を参照)

昨年1月から130回以上行われたCIAのドローン攻撃では、敵方500人を殺したわりに、民間の犠牲者は30人ほど、ともされています。(6月2日付CBSニュースの報道を参照。攻撃回数はBrookings Institutionの推定、犠牲者数は非公式の政権発表による。)

けれども、犠牲が無いわけではありません。現にパキスタンでは、CIAのドローン作戦に対する大規模な抗議行動も起きていますし、アメリカ国内でも物議をかもし出しています。宣戦布告していない国パキスタンで、しかも国際法でがんじがらめになっている軍人ではなく、スパイ組織が秘密に兵器を使っている事実が許されるのか? と。
さらに、国連でも問題視されていて、6月初頭、アメリカはパキスタンで行っているドローン攻撃を即刻中止すべきであると、報告書を出しています。

これに対して、オバマ政権は言及を避けています。というよりも、CIAにドローン作戦が存在すること自体を認めていないのです。だって、わざわざCIAを使っているということは、すべてを隠密裏に済ませたいということですものね。

そう、誰もが知っている、大きな秘密。

上等なホワイトハウスに住んでいるオバマさんには、こんな村人の嘆きは届かないのかもしれません。
「地面に落ちている肉片を家に持ち帰って、我が息子と呼んでいるんじゃ。」

突然、身内を奪われた痛みはなかなか消えないどころか、時間が経つにしたがって大きな暗雲となり、やがては天を貫く稲妻を生むことになるのかもしれません。

夏来 潤(なつき じゅん)

 

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