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2013年01月15日

新しい模索: サンフランシスコ発信!

Vol. 162

新しい模索: サンフランシスコ発信!

新しい年がやって来ました。アメリカ人の大好きな一年の計は、「家族ともっと過ごしたい」と「スリムになるぞ!」ですが、毎年、同じことを唱えている人も多いのかもしれません。

というわけで、新年号は、「何か新しいこと」「模索」に焦点を当てて、3つのお話をいたしましょう。

<模索、Twitterの場合>
前回の年末号では、第1話「今年のビジネスパーソン」の終わりの方で、こんなお話をいたしました。
「端的に言って、(インターネットで生息するいろんなサービスの)みなさんは、どうやったら人が集まるのか、どうやったらお金が稼げるのか、まったくわかっていないのです」と。

ですから、ときには互いの真似をしながら、さまざまな試行錯誤を繰り返し、全体的に見ると、ネットの変化の速度は失速することがないと。

まあ、「まったくわかっていない」というのは少々語弊があるかもしれませんが、アメリカの有名なサービスの経営者たちが胸を張って自信満々に見受けるわりに、その心のうちはハラハラ、ドキドキというのは、当たらずといえども遠からずでしょう。
 


Twitter logo.png

たとえば、 Twitter(トゥイッター)を例にとってみましょうか。
ご存じのように、140文字で自分を語るマイクロブログ(ごく短いブログ)であり、人とつながるソーシャルネットワークの人気サービスです。(以下、日本語表記は同社の「ツイッター」という和訳に準じます)

まるで、長い詩編に対する俳句のように、簡潔な、凝縮された文章で、ストレートに心を語れるところが受けています。ときに「言葉足らず」の誤解を生み、セレブの間で気まずい雰囲気をかもし出したりしていますが、とにかく、思った瞬間にツイートできる(つぶやける)のが醍醐味でしょうか。
 


Pope Benedict XVI Twittering on iPad Dec12, 2012.png

昨年の暮れ、クリスマスを目前に、ローマ教皇ベネディクト16世がアップルiPadで初ツイートに挑戦したのも話題となりました。
そして、いまや『The Voice(ザ・ヴォイス)』のような視聴者参加型番組では、ツイッターで「20分後に歌うグループを決める」のが常識となりつつあります。
(Photo of Pope Benedict XVI by Vincenzo Pinto / Agence France-Presse)

ビジネス的に見ると、収益(revenue)は年々健全に伸びているようです(2011年の1億4千万ドルから2012年は2億6千万ドルと増収予測)。
が、その収入源をどうやって広げるかについては、経営陣は日夜頭を悩ませているわけです。
 


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もちろん、確実な収入源は「広告」ですが、どうやってみんなに広告をクリックしてもらうのか? については、いろんな工夫があるはずで、たとえばツイッターの新しい方策「プロモツイート(Promoted Tweets)」なども、そのひとつでしょう。
自分がフォローしていなくても、大型電器店や航空会社と、広告費を支払ったビジネスのツイートが出てくるというプロモーション機能ですが、バナー広告ほどあからさまではないものの、ユーザの好みを知った上でツイートをプロモーションしてくるので、宣伝効果は高そうです。

そして、もっと根本的なレベルで斬新なことはできないか? と模索していらっしゃるのが、共同設立者の方々。

ツイッターの共同設立者は4人いらっしゃいますが、絆の深いエヴァン・ウィリアムズ氏(前CEO、現取締役員)とビズ・ストーン氏(現クリエイティヴ・ディレクター)は、「Branch(ブランチ、枝の意)」と「Medium(ミディアム、媒体の意)」というツイッターの姉妹サービスをつくりました。
 


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年初、インタビュー番組に出演したウィリアムズ氏は、ふたつの新サービスが生まれた背景について、このような考察をなさっています。
ネット上のコミュニケーションを観察していると、近年、だんだんと二極化している。かたやツイートのような、瞬間的な、簡潔な自己表現が人気がある一方、トピックを深く掘り下げた、通常の報道よりももっと詳しい、分析的な自己表現も重宝される。(1月3日放映のインタビュー番組『チャーリー・ローズ』より)

この後者の「詳しく掘り下げた自己表現」を狙ったのが、新サービス、ブランチとミディアムのようです。

ブランチは、「円卓での会話」みたいなもので、新しいトピックを立ち上げた人がゲストを招待し、招待客がさまざまな意見を提供してトピックに関する見識を広げる、という会話の場です。
ツイッターからログインしますが、140文字の制限はなく、招待客しか発言できません。
 


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そして、ミディアムは「出版媒体」みたいなもので、ある人が気になっている話題に関してお話と写真を投稿し、広くみんなに読んでもらうという媒体です。
その方の投稿が時系列(最新のものがトップ)に並ぶ「Posts(掲載)」と、話題別に分類された「Collection(コレクション)」というページがあって、すっきりとしたデザインと美しい写真が、読む意欲をそそります。
自分でウェブサイトを立ち上げなくても、代わりに発言の場を提供してあげましょう、というアイディアにもとづいた新しい媒体です。(写真は、Michele Catalanoさんという音楽フリーライターの作品集)

ネットが広まり、みんながツイッターやフェイスブックで「ブロガー」や「ライター」となった今、読み手は何かしら新しいものが読みたいのではないか? そんな模索から生まれた試みのようです。

それと同時に、「まったりとした」質の良い会話には引き込まれる人も多く、人気が出て、うまく広告の媒体となった暁には、実入りもグンと増えるということではないでしょうか。

<サンフランシスコに集合!>
そんなわけで、ツイッターという会社ひとつとっても、いろいろと試行錯誤が見て取れるのですが、近頃は、新しいタイプの試行錯誤の中心は、サンフランシスコに移りつつありますね。

そう、ツイッターも本社はサンフランシスコにありますが、たとえば、Yelp(イェルプ:お店やサービスを利用者が推薦する人気サイト)や Zinga(ジンガ:フェイスブックやモバイルプラットフォームでソーシャルゲームを展開するゲーム会社)と、有名なネットサービスが次々と生まれています。
とくに、アップルのiOSやグーグルのアンドロイドOSといったモバイル環境のサービスは、起業はサンフランシスコというケースが多いようです。
 


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こちらは、フォルサム通り795番地(795 Folsom Street)。2009年から昨年6月まで、ツイッターが本社を構えていた建物です。
このビルに移ってからは業績も右上がりとなったので、「ツイッターの成功にあやかりたい」と、このビルに引っ越して来るスタートアップも多かったのです。

まあ、「縁起をかつぐ」という意味よりも、ロビーやエレベーターでツイッターの経営陣に遭遇して、話を聞いてもらったり、アドバイスをいただいたり、人を紹介してもらったりと、何かしら具体的な「発展」を期待してのことです。
実際に、ツイッターCEOディック・コストロ氏からベンチャーキャピタルを紹介してもらって、投資にこぎ着けたスタートアップもあったとか(この会社は、今も「ソーシャル」の分野で立派に続いています)。

そんな風評が広まると、「やっぱりサンフランシスコだよね!」と新しい会社が集まってきて、昨年初頭からは、貸しオフィスの物件が極端に少なくなったのでした。
ですから、近頃は、貸しマンションの一室に住み、同時に起業した会社の本社とする、というのが流行っているようです。そう、寝ても覚めても仕事、仕事!
 


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こちらは、やはりフォルサム通りにある貸しマンション。部屋は8割方、起業人で占められているとか。
そして、夕方ともなると、道を隔てて向かいにあるバーは、起業人たちでいっぱいになるのです。
自分たちの目指すところやアイディアの片鱗、ときには自慢話や苦労話も披露して、意見交換とともに、息抜きの場とするのです。
 


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やはり、いつの時代も、顔を合わせた「カクテルソーシャライジング(cocktail socializing、お酒を飲みながらの社交)」は、みんなが大事に思っているのです。
だって、新しい人に出会って、言葉を交わして、意気投合すれば、そこから新しいものが生まれたり、今まで頭を悩ませてきたことにも突破口が見えたりするではありませんか。

そんな風に、人が集まるというのは面白いもので、シリコンバレーもサンフランシスコも、何かが大きく爆発する可能性を秘めているのですね。

<白黒への回帰>
というわけで、最後は、ハードウェア製品のお話をいたしましょう。

世の中、使いにくいテクノロジーはたくさんありまして、「スマートテレビ(smart TV)」なるものも、立派に使いにくいモノのひとつだと思うのです。
 


SmartTV Menu2.jpg

昨年6月号では、我が家が購入したサムスン電子製のスマートテレビのお話をいたしましたが、まあ、そのときには黙っていたものの、実際に使ってみると、いろいろと不都合が出てくるものですよ。

まず、3D(3次元)の映像が楽しめるといっても、一度3D映画を観ただけで、「べつに、そんなモノ要らないんじゃない?」という結論に達しました(たぶん、人間は、自分の脳で相当量を補間できるのでしょう)。

そして、「声やジェスチャーで指示を出せる」と言っても、実用レベルにはほど遠いです。
たとえば、声でチャンネルを切り替えることにしましょう。「チャンネルを替える(change channel)」と声で指示したあとに、「1216番(twelve sixteen)」などと指示するわけですが、これが、なぜか「116番」に切り替わったりするのです。
ま、英語のネイティヴじゃないからしょうがないのかもしれませんが、それよりも、最初の音声をきちんと認識できないような気がして仕方がないのです(ひとつずつ「one two one six」と言うと、何も理解してくれません)。

そして、スマートテレビは、おバカさんでもあります。自分でガンガンとテレビ番組の音を出しておきながら、「あなたのまわりは、騒がしくありませんか(Is it noisy around you?)」と愚問を画面に表示し、それ以外は何も応答してくれないのです。
 


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そのわりに、妙に気を利かせて、ボリュームを勝手に操作するところも気に入りません。
我が家は、サムスン製のサウンドバーをテレビの下に設置し、これを主たる音源としているのですが、インターネットラジオのパンドラ(Pandora)や iPhone・iPodに入っている音楽をWi-Fi経由で聴こうとすると、自分勝手にボリュームを操作するのです。
つまり、音楽が盛り上がってきてクライマックスになると、音を小さくしてしまうのですが、こういうのって、1970年代の渋いロックを聴いているときには許せないでしょう?

スマートテレビは、「Apple TV」や「Google TV」といったデバイス無しにネットにつながりますので、その部分は画期的と言えます。まあ、一台余分な機械を入れただけでフラストレーションがつのるのは世の常ですから、それだけでも、ありがたいのは確かです。
けれども、「ユーザとのやりとり」や「ユーザを満足させる」という部分では、まだまだ稚拙に感じられます。

そう、「技術的にできる」ことと「消費者が欲している」ことは、まったく別物なのです。消費者が期待しているのは、お茶の間のテレビように、使いやすく、信頼性の高いもの。

というわけで、そろそろ凝ったモノはやめにして、シンプルで行こうと思い立ち、自分へのクリスマスプレゼントは「白黒版」にしました。
 


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いえ、テレビではなくて、アマゾンのタブレット製品「キンドル(Kindle)」です。
「ペーパーホワイト(Paperwhite 3G)」という白黒の小さな電子書籍(e-booke-reader)で、第3世代の携帯ネットワークにつながるモデルです。

電子書籍ですので、ゲームもできませんし、ビデオも観られません。ただ「本を読む」ことに特化した製品です。
でも、携帯ネットワークにつながるということは、空港の待合室でも公園のベンチでも、どこでも瞬時に本がダウンロードできるのです。(そして、購入した本は全部、無料でアマゾンのクラウドにも保存しておいてくれるのです。)
 


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いまさら、どうして電子書籍なのか? というと、とにかく、アメリカの本は重いから。ペーパーバックはまだしも、ハードカバーになると、サイズは大きく、ページ数がかさむ大作も多い(写真一番上の歴史本などは、本文だけで667ページ、注釈や参考文献も入れると753ページ!)。

それで、どうして白黒なのか? というと、キンドルの中で一番軽いから。
キンドルには、白黒版の「ペーパーホワイト」とカラー版(アンドロイドOS)の「ファイア」シリーズがありますが、当然のことながら、電子書籍に特化した(一番頭が単純な)白黒版が一番軽いわけですね。

普段使っているアップルのiPadだって、本を読もうとすると、だんだんとズシリ感を感じてきて、腕がだるくなってしまうのです。
 


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ちなみに、我が家の古いハカリで計ってみましたよ。

どれもケース付きの重さですが、「ペーパーホワイト(写真右端)」が360グラム、「ファイア(右から2番目)」が535グラム、参考までに、iPadが800グラム、iPhoneが165グラムでした。

そんなわけで、(ピンク系の)フューシャ色の皮ケースをおべべにして、見違えるほどかわいらしくなったキンドルを手に取ると、どこにでも連れて行きたくなるのです。
 


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そして、夜中の読書も楽しくなるのです。そう、電気を消してみんなが寝静まったあとだって、ボ〜ッと明るい画面は、十分に読書に堪えられる光度を放つのです。

暖かいベッドにもぐり込み、大好きなジョン・グリッシャムの最新作を読む。

ふふっ、これって極上の「ミータイム(me time、自分の世界にひたれる時間)」ではありませんか!!

夏来 潤(なつき じゅん)



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