グーグルってどんなとこ?:グーグル本社に潜入!

Vol. 96

グーグルってどんなとこ?:グーグル本社に潜入!


先月号の第一話は、アップルの新製品「iPhone(アイフォン)」のお話でした。発表直前の、この辺の興奮状態をお伝えしてみました。
ですから、今月は、もうひとつのシリコンバレーの有名人、グーグルさんのお話にいたしましょう。

最後に、アップル iPhone 発売当日の大騒ぎを描いた、ちょっと長いおまけ話も付いています。ゆえに、今月号は長めですので、どうぞごゆるりと。


<グーグルさま>
先月末、マウンテンヴューにあるグーグルの本社で、「ジャパン・オープンハウス(Japan Engineering Open House)」なる催しが開かれました。グーグルが日本市場でどのような活動をしているのか、そんなことに興味のある人なら、誰でも参加できるというイベントです。パートナーセミナーなどではないので、内容的にも、肩ひじの張らないリラックスしたものなのです。

「世界で一番大きなコンピュータシステムを動かしている」とも言われる、グーグルさん。でも、個人的には、一度も足を踏み入れた事はありません。ですから、根城に「潜入」できることが、とっても楽しみなのでした。いったいどんな雰囲気なのかと、大いに興味がつのります。(建物内の写真撮影はご法度なので、写真はありません。あしからず。)

まず、玄関で受付を済ませると、笑顔で出迎えるエスコートのお兄さんに案内され、広い階段を登ります。吹き抜けになった頭上には、飛行機の大きなオブジェがぶら下がり、視界の端には、床に散らばる木製パズルがちらつきます。なるほど、ここがグーグルか!たしかに、普通の会社とはちょっと違う。
そして、会場になっている大きめの会議室に足を踏み入れると、そこでは、いきなり、ワインやビール、日本酒なんかでおもてなし。夕方6時45分からのイベントに遅れそうになったわたしは、何も手にすることなく、とにかく着席。お寿司やおつまみも出されていたようだし、こういうイベントには、早めに出席すべきなんですね。喉は渇くけれど、後悔先に立たず。

さて、時間通りにイベントは進行。4人の代表者が、動画検索、Googleマップ、日本向け製品の開発アプローチ、パートナー製品への取り組みと、4つの視点からプレゼンなさったのですが、とりわけ印象に残ったのが、「Googleマップ(地図)」。なぜって、世界に広がるグーグルの開発拠点の中でも、日本の存在を大きく感じるから。

Googleマップは、普段使われている方も多いと思いますが、住所から場所や道順を検索したり、近くにあるお店を探したりというのに、とても便利な機能です。でも、こんなに気軽に使えるマップにも、日本向けにするには、特別な配慮が必要となってきます。
アメリカの場合、住所さえあれば、知らない場所にも簡単にたどり着きます。なぜなら、アメリカの住所の表記は、道の名前に、ブロックを表す番号が付随するシンプルな形だから。たとえば、マウンテンヴューにあるグーグル本社だと、1600 Amphitheatre Parkway。
一方、日本では、ほとんどの都市で、道そのものには名前がありません。住所は、ブロック式になっていて、何町何番地といった形で表されます。「あねさんろっかくたこにしき(姉小路・三条・六角・蛸薬師・錦)」と、すべての道に名前が付いている京都の市街地などは、ごく例外ですね。

そうなってくると、同じGoogleマップの機能にしても、日本では検索の仕方が変わってくるし、ユーザにとっても、日本独自のもっとわかり易い表示の方法があるのではないか。
そこで、Googleマップの東京オフィスでは、こんなことを思い付きました。お店の検索データの中に、写真を入れてみよう。写真さえあれば、住所に迷っても、お店を探し易い。
まあ、「ぐるなび」を始めとして、膨大な写真のデータから適切な写真をフィルターするのに、独自の優れた技術が必要となってくるわけですが、思惑は大成功。
お店の写真を載せるアイデアは、日本からアメリカに逆輸入され、今では、アメリカでも便利に使われているのです。なんでも、これを発案したエンジニアの方は、大の「うどん好き」で、食べ物にはちょっとしたこだわりがあるんだとか。

このGoogleマップがいい例ですが、各国の事情が異なる場合、各々の国で出す製品開発をどうするのか?果たして、本国主導なのか、それとも、現地主導なのか。これは、全世界で製品を出す企業としては、永遠のテーマとなってきますね。
そこで、Googleマップの日本担当マネージャである上田学さんが、自らの取り組みを紹介してくれました。自分たちは、ハイブリッド型でやっていますと。

たとえば、本国主導のトップダウンで開発してしまうと、その後、現地語へのローカライズ(地域化)が遅れてしまうし、現地では足りない機能も出てきます。だからといって、現地のエンジニアを本国に常駐させ、いろんな国への対応をひとつのバージョンでやってしまおうとすると、開発に膨大な時間がかかるし、無駄も出てきます。
だから、同時並行でやっていこうという試みを、6ヶ月前から始めたそうです。Googleマップの日本グループは、東京とマウンテンヴュー本社に分散し、本国の開発エンジニアとのコミュニケーションを密にしているのです。

たとえば、本国のマップ開発チームのミーティングには、必ず日本人が出席し、日本の事情を伝える発言権を持っている。本社チームは、できるだけ時間を後ろにシフトし、東京チームがビデオ会議に参加し易くしている。会議で討議された内容は、きちんと文書化し、どこの誰でもアクセスできるようにしている。Googleマップに携わるみんなが、常に同じ理解でいられるための工夫なのです。
そして、やはり顔を突き合せる威力は否めない。おもしろいことに、東京にいる日本チームが本社に出張するときは、みんなでまとまって、やって来るのです。その方が、自分たちのビジビリティー(知名度)が高まるからです。「そうか、今、日本のチームが来ているから、ちょっと日本のことを考えてみよう」と、そんな思考回路にさせる作戦なのです。

この業界は、スピードが勝負。グーグルさんのような、エンジニア主導型の会社だからできる、優れたアイデアなのかもしれませんね。

ところで、地図検索といえば、個人的には、普段ヤフー(Yahoo!)を使っていました。最初に使い始めて慣れてしまったという理由もありますし、キーワード・ニュース検索はグーグル、地図検索はヤフーと、無意識に分散していたのです。
ところが、今回、ヤフーとグーグルの地図検索を比較してみて、びっくり。データベースの量が違う!

たとえば、サンノゼにある日本食レストランを探したいとしますよね。そこで、グーグルの検索欄に、「Japanese restaurant, San Jose」とインプット。すると、ひっかかった件数は、なんと16,855軒。
もちろん、サンノゼ市内に限らず、近郊のレストランも含まれているし、中には日本語サービスの会社までひっかかっているのですが、それにしても、おもな日本食レストランはすべて網羅されています(後ろの方になってくると、日本食に限らず、いろんな国籍のレストランが出て来るので、これだけ軒数が多いようです)。
一方、同じキーワードをヤフーで検索すると、出てきたのは、たったの37店舗。もちろん、サンノゼ市内に限っても、日本食レストランと暖簾を上げているお店は、これ以上はあるはずです。どうして、これだけしか出ないのか、ちょっと不思議です。
それに、このリストの中には、日系パン屋さん、子供向け動物園、おまけに霊園なんかも入っているし・・・

データが豊富なら、検索もまた楽し。四の五の言わず、次回からGoogleマップにしようと思います。


<グーグラーさま>
ご説明することもなく、「グーグラー(Googler)」とはグーグル社員という意味ですが、今回、グーグラーさんたちにじかに接してみて、思い描いていたのとは、ちょっと違った印象を受けました。みなさん、ずいぶんと楽しそうです。

今回の「ジャパン・オープンハウス」のイベントでは、プレゼンとQ&Aのセッションのあと、歓談という時間も設けられていて、ボランティアで参加する日本人のエンジニアの方々とも、親しくお話する機会がありました。
ごく最近、ソーシャルネットワーキングを通じてお友達となったグーグラーさんともお会いできたし、彼と一緒に仕事をしている方々ともおしゃべりができました。
たとえば、こんな話があります。以前ここでもご紹介したことがありますが、グーグラーさんたちは、就業時間の20パーセントを独自のプロジェクトに使ってもよいと許されていて、この20パーセントという時間が、実にいろんなアイデアを生み出しているのです。 たとえば、Gmail。ヤフーやマイクロソフトのメールと並び、アメリカでは人気の高い電子メールサービスとなっていますが、これなどは、あるエンジニアの方が、社内用に開発したものが原型となっているそうです。
メールなんて、星の数ほど溜まっているけれど、どうも目当ての物を捜し難い。グーグルの検索能力を持ってすれば、もっと便利なメールシステムができるに違いない。これが動機でした。
それから、地図検索で出てくるタイの地図。こちらは、タイ人のエンジニアの方が、自分の母国の地図が出て来ないのは寂しいと、20パーセントの時間で作り上げたんだとか。

この20パーセントの時間は、一日のうちに振り分けても、一週間のうちの一日としても、それは個人の自由だそうです。現行のプロジェクトが佳境でなければ、マネージャと相談して、数週間のうちの一週間と定義してもいいとか。
そして、みなさんとお話した限り、この20パーセントの時間を負担だと思っている方はいらっしゃらないようでした。なぜなら、もともと、自分の仕事は自分自身で決める文化が培われているから。
基本的に、今の仕事が完了すると、次はこういう物をやりたいという自己申告制になっているので、20パーセントの時間でやりたい事を見つけるのは、まったく苦にならないと。
目新しい物を見つけるモーティベーションと、それを実現するための自己管理。これが、キーワードでしょうか。採用に際しても、きっとそういう人が選ばれるのでしょう。

モーティベーションに関しては、こんなお話もありました。グーグルさんは、カフェテリアの食事が全部タダということで有名なんですが、一年半ほど前、それまでのランチとディナーに加え、朝ごはんも出されるようになりました。すると、朝早くから会社に来る人が、断然増えたとか。
それまでは、遅く来て、お昼と晩を会社で食べ、遅くまで仕事をするパターンの人が多かったそうですが、朝からバリバリお仕事する人が激増。だとすると、一日中、会社にいるってことですね!

まあ、女性のエンジニアの方だと、小さい子供をオフィスに連れて来て、自由に遊ばせている人もいるそうなので、一日中いても、問題はないのかも。ちょっと疲れたら、中庭でバレーボールをしたり、ビデオゲームやビリヤードをしたりって手もありますしね。


<元祖グーグラーさま>
これもモーティベーションの一環となるのでしょうか、こんな話も耳にしました。なんと、週に一回は、ラリー・ペイジ氏とサーゲイ・ブリン氏という両創設者を囲み、全体会議があるそうです。
ここでは、日頃感じていることを何でも質問してよいそうで、「カフェテリアの食事がまずいぞ」や「駐車場をもう少し増やしてよ」から、自分が携わっているプロジェクトに関するシリアスな質問まで、いろんな話題が飛び出すそうです。
ときには冗談でかわされる事もあるそうですが、真面目な検討事項となることも多いとか。直接的な対話。大きな会社なのに、これがしっかりと守られているのですね。

このように、グーグルでは、いまだに創設者の存在が大きな影響を与えています。単に、IT業界の大物というイコン的な立場だけではなく、実際の製品にお二方の意向が反映されることもあるのだとか。
たとえば、上記Googleマップの英語版に、「Street View(ストリート・ヴュー)」という新しい機能があります。これは、まるで自分が道(Street)を歩いているかのように、まわりの景色を眺められる(View)という機能です。住所をインプットすると、地図上に人のアイコンが出てくるので、これを道に沿って歩かせてみると、その擬似人間の視点で、街の景観をクルッと360度見渡せる、そんな機能なのです。 このおもしろい試みは、創設者のラリー・ペイジ氏が、6年前に発案したことから発展したものだとか。

この「Street View」がお目見えしたとき、アメリカのメディアや国民は、こぞってプライバシーの問題を指摘したのでした。どこかのアパートに泥棒が侵入しようとしていたり、自分の家の窓から、愛するペットの猫が顔を覗かせていたり。これは、まさに、プライバシーの侵害ではないかと。
そこで、ライターとしましては、Q&Aのセッションで、意地悪く質問してみたのでした。この問題に、どう対処するのかと。すると、その答えが、非常に気に入ってしまったのでした。
もちろん、グーグルとしても、プライバシーは大きな問題なので、現在、社内でもホットな話題となっている。が、もともとグーグルの文化は、「何にでも挑戦する(pushing-the-envelop的な)」文化なので、ユーザが便利だと思うようなことには、これからも、どんどん挑戦していくよと。

もともと、この「Street View」の元ネタは、実際に道路を運転しながら撮った写真なのです。車の上に10個のカメラを取り付け、360度の視野で、ビデオほどの連続写真を撮り、それを自然な形で再構成する方式で作られています。だから、たまたま泥棒がアパートに侵入しようとしていたり、猫が窓から顔を出していたりと、いろんな瞬間がカメラに収められているのです。泥棒さんや猫さんに限らず、車や歩行者が写っていたりもします。 けれども、考えてみれば、そんな光景は、普段道を歩いていれば目にするものであって、とりたてて、プライバシーの侵害だとは言えない面もありますね。ま、ずっと同じ写真が使われているとなると嫌ですけどね。

余談ですが、この元ネタの写真を再構成する上で、スタンフォード大学の人工知能グループの技術を借りうける独占契約も交わされていると聞きます。スタンフォードは、砂漠210キロをひとりで駆け抜けた、「スタンリー」というロボット車で有名なのですが、ロボットが目にした画像を判断する技術が、「Street View」の画像自動構築に役立つのだそうです。
グーグルとスタンフォードは、目と鼻の先。学生にとってもグーグルは憧れの会社でもありますし、産学協業がやり易い環境にあるのですね。そして、そのアカデミックな雰囲気が、この有名企業の強みともなっています。

何事に関しても、チャレンジ精神旺盛なグーグルさん。この会社の凄さは、実際に接してみて、初めてわかるものなのかもしれません。

今回のオープンハウスでは、モデレーターの方がこうおっしゃっていました。もしこれ以上グーグルのことを知りたかったら、グーグルに来てくださいと。
そうしたいのは山々ですが、わたしは、この手の頭脳はゼロです。いやはや、残念です。

 謝辞: ジャパン・オープンハウスにお招きくださって、ありがとうございました。この催しをプランされた方々、プレゼンをしてくださった方々、そしてボランティアで参加なさった皆様に、深く感謝いたします。


<ちょっと長いおまけのお話:アップルのiPhone>
グーグルさんと来たら、やっぱりアップルさんが気になりますよね。6月29日の金曜日、めでたく「iPhone(アイフォン)」が発売開始となりましたが、いったい、どんな反応だったのでしょう?


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この日、午後6時の発売開始。やはり、どうしても我が目で発売の瞬間を見てみたいと、パロアルトのユニヴァーシティー通りにあるアップルショップに出かけてみました。そこには、何百人かの長蛇の列。アップルショップから、グルッと裏通りまで続いています。一番乗りの親子は、二日ほど前から並んでいるとか。

 


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と言っても、並んでいる人以上に、わたしみたいな見物人も多かったようです。「この騒ぎを見に来たんだよ」とは、傍に立っていた男性の弁。テレビもCNBCにローカル局と、全員がスタンバイ。
お約束の6時が近づくと、道路には見物人があふれ出し、小さなユニヴァーシティー通りは、片側通行状態。警察が出ていなかったのが、ちょっと不思議なくらい。

 


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6時ちょっと前にショップを覆う黒幕がはずされ、直前になると、自然とカウントダウンが沸き起こります。
パンパカパーン!6時になると、ローカルテレビの生放送が始まり、一番乗りの親子が紙袋を空高く掲げショップから出てくると、ソレッとばかりにインタビューの嵐。 はっきり言って、半分狂気です。「スティーヴ・ジョブスが来ているよ!」という声が聞こえていましたが、興奮の渦の中、わたしにはまったくわからなかったです(実際、ジョブスさんは、奥方とお忍びで来ていたそうです)。

それで、一体全体、その日のうちに物はなくなったのか?どうも、さにあらず。翌日の新聞を読んでいると、その晩は夜中12時まで開いていたので、落ち着いて買えたそうな。
それを知って、連れ合いは、さっそくサンノゼのショッピングモール内のアップルショップへ。2時半に出て行ったわりに、3時半には戻ってきたので、やっぱり買えなかったのかと思えば、しっかり袋を手にしています。
さすがアップルさん。混雑を見越し、「アイフォン戒厳令」が敷かれていたようです。お店にはアイフォン専用のカウンターが設けられ、何人ものスタッフが配備されます。「どっちのモデルがいいの?」、質問はそれだけ。あとはクレジットカードで支払いを済ませる。店に入って、ものの15秒で、すべてが完了。
完売しているお店も多かったようですが、サンノゼのアップルショップは、4GBと8GB両モデルとも充分にストックされていました。ちなみに、このアップルショップ前には、物好きなスティーヴ・ウォズニアック氏(アップル創設者のひとり)がキャンプしていました。もちろん、一台もらったけれど、みんなと一緒に興奮を分かち合いたかったとのこと。


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購入するまで、いったいどうやって電話契約するのか、大いなる謎でした。アップルショップで買った後、独占キャリアのAT&Tショップに持って行くのか?
実際、箱を開けてみると、アイフォンをパソコンに繋いで、パソコンにはiTunesの最新版をインストールしてくださいと、書いてあります。なるほど、アイフォンは、iTunesを使ってオンラインで電話契約するのですね。だったら、AT&Tなんかと独占契約しないで、アップルのMVNO(仮想移動体サービス事業者)でもよかったのかも。
もちろん、この日は、みんながこぞって契約する日。AT&Tの処理に時間がかかり、完了まで3時間かかりました。電話番号も、完了時にメールで知らせてきます。でも、我が家の場合は、連れ合いのAT&Tの口座に追加する方式を採ったので、これだけ短かったのです。他のキャリアからスイッチしようとした人の中には、20時間かかっても、まだ待っている、という人もいたとか!

製品としては、どうなんでしょう?個人的には、これほど完成度の高い製品は、類を見ないと思っています。小さい、美しい、使い易い、画面がきれい、すべてがよくできています。


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発表前、評判が悪かったタッチスクリーンも、慣れれば問題はありません。横向きにすれば、画面も大きくなり、文字も画像も見易くなる。そこに電話番号が出ていれば、タッチするだけでOK。音楽を聴いていて電話がかかると、音楽は自然とフェードアウト。それが、いかにもクール。

それは、いくつか難はあります。次から次へといろんなメニュー画面に移れるので、会話が終わっても、知らずに電話が繋がりっぱなしになっていることもあるし、YouTubeやGoogleマップなど、ウェブサイトのアクセスがスムーズに行かないこともあります。我が家の場合、携帯ネットワークからWiFiにスイッチしても、そっちの方が遅いです。WiFiルータと相性でも悪いのでしょうか。
そうそう、YouTubeといえば、買ってきたその晩、不思議なことがありました。アイフォンで遊んでいた連れ合いが居眠りした後、突然、2時間半後にビデオが始まったのです。みんなが殺到し、ダウンロードにそんなに時間がかかったのでしょうか?

まあ、サービス開始直後は、いろんなことが起きるのは当然でしょう。けれども、今となっては、ほとんどの人が合格点を付けると思います。

 


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ところで、アイフォンで、こんなビデオを見つけました。"4th of July Mount Rushmore"というもので、ラシュモア山に刻まれた4人の大統領が、カーペンターズの「Sing」を口ずさみ、美しいハーモニーを奏でるのです。

彼らの平和なコーラスに、思わず拍手喝采してしまったのでした。

追記:先月号で、アイフォンの価格は、携帯キャリアAT&Tの補填が付いて499ドル(4GB)と599ドル(8GB)とお伝えしましたが、実際は、AT&Tの補填はありません。
ちなみに、599ドルのモデルだと、製品コストは266ドルとのこと(調査会社iSupplyの分析結果)。なかなか、おいしい製品なのです。
近いうちに、iPod Nanoをベースに、アイフォンの廉価版が出ると言っているアナリスト(投資銀行J. P. Morgan)もいますが、信憑性は定かではありません。


夏来 潤(なつき じゅん)

夏のひとこま

7月4日の独立記念日も終わり、お祝いムードも、そろそろ落ち着いた頃です。

独立記念日は、パレードに花火大会、裏庭のバーベキューにパーティーと、何かと、かしましい時期なのです。

ちょうど子供たちも、夏休みでほっとひと息ついている頃なので、大人も一緒になって、バケーションを取る時期でもあるのです。

今週は、そんなお休みの人も多いみたい。昼時に通りかかったハンバーガー屋さんには、あんまりお客はいないようでした。いつもなら、ドライブスルーは、長蛇の列なのに。


「かしましい時期」と言えば、アメリカ人って、ほんとにノリがいい人たちですよね。たとえば、野球場に試合を観に行ったとき。

もちろん、試合に夢中になるのはわかるんだけど、お休み時間のこのゲーム。みなさん、これに向かって、キャーキャー、ギャーギャーと、異常な盛り上がりを見せてくれます。

いえ、大したゲームじゃないんですよ。ただ単に、赤と青と白のコマが、どれが一等賞でゴールインするか、それを当てる。たった、それだけ。

みなさん、「ブルー!」だの、「レッド!」だのって、うるさい、うるさい。

ご贔屓のコマが勝とうものなら、さあ大変。大きな、大きな歓声を上げて喜ぶのです。別に、賞品なんてないんですけどね・・・。


盛り上がりと言えば、近頃、この辺の景気も、なかなかいいみたいですね。

なんだか、どこへ行くにも、道が混んでいて困ってしまいます。

まあ、夏のドライブシーズンということもありますが、これは、ビジネスが上向きになっている証拠かもしれません。

2000年にインターネットバブルがはじけて以来、長い間、景気が低迷していたので、そろそろ、盛り上がりを見せてもいい頃ではあるけれど。


こちらは、シリコンバレーの幹線道路、フリーウェイ101号線の写真。

午後3時ともなると、シリコンバレーを南に向かう方向は大渋滞。工場など、3時にシフトが終わる人たちも多いので、とたんに混み始めるのです。
 3時以降は、夜までずっとこんな感じです。

ところで、ここに見えている、トヨタのハイブリッド車・プリウス。前回お話した「特権階級のステッカー」が貼ってあるので、堂々とダイヤモンドレーンを走行中です。

ところが、このハイブリッド車の特権制度に、ケチが付きました。

この制度は、カリフォルニア州独自の制度なのですが、お国のハイウェイ統括部門が、文句を言い始めたのです。

「あんたたちねぇ、一人乗りのハイブリッド車を走行させるから、ダイヤモンドレーンが混んでしまうんだよ」と。

国が充分に検討した後、お達しを出すからね、とのこと。

そうなると、かわいそうに、プリウスさんたちは、ひとりでスイスイ運転できなくなるのですね。


これを耳にしたとき、こう思ったのでした。これは、背後で誰かが糸を引いているなと。

プリウスやホンダのハイブリッド車人気に嫉妬して、誰かが国に圧力をかけているのだなと。

こんなお話もあるんですよ。

あるとき、お国の運輸省が、上院と下院の連邦議員数十人に対し、こんな電話やメッセージを送りました。

「あなた方の選出された州には、車を作る工場があるでしょ。その工場がつぶれないように、みんなで、環境省に対し、プレッシャーをかけましょう」と。

実は、今、カリフォルニア州や、いくつかの先進的な州では、自分たち独自の厳しい大気汚染基準を設けていて、環境省に対し、国のゆるい基準ではなく、自分たちの基準を施行させてくれと、例外申請が出されているのです。

もしカリフォルニアなどで厳しい大気汚染基準が認められると、こういった州内では、車のメーカーは厳しい基準に沿った車しか売れなくなります。そうなってしまうと、困る人たちがたくさんいるのですね。

車屋さんだけではなく、政治家も。


それにしても、国が先頭を切って、環境問題に取り組むならまだしも、真面目に取り組もうとしている州にプレッシャーをかけるとは、本末転倒ですよね。

こんなことだから、いつまでも技術が進まず、世界のメーカーに置いてきぼりになってしまうのに。

アメリカのお役人って、やっぱり長い目で物が見られないのかもしれませんね。今、自分の代さえ良ければ、それでいいやみたいな感じ。

ま、アメリカの場合、国のトップがあれですから・・・。

マリナーズ、オークランドに現る!

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7月4日は、アメリカの独立記念日。この週は、子供たちももう夏休みですし、合わせて、会社のお休みを取る人も多いです。ですから、みなさんウキウキムード。

その独立記念日の翌日から、シアトル・マリナーズは、オークランドA’sと4連戦。

サンフランシスコでのオールスターゲームを前に、イチロー選手もオークランドにやって来るということで、急遽、この日は野球観戦。

イチロー選手を観るのは初めてではありませんが、やっぱり彼が出場するとなると、こちらもワクワク、ドキドキ。

試合前、マリナーズの選手も、A’sの選手も、フィールドに出て来て準備運動なんかをしています。でも、どこにもイチローの姿が見えない!

「え~、今日は、お休み~?」と落胆したのも束の間、いざ試合開始となると、そこには、イチロー選手がスクッと立っています。

いつも思うのですが、彼が出てくると、あたりの空気がキリリと凍て付くような感じがします。やっぱり、彼は、特別なオーラを持っている人ですね。

まるで、夜空の星と同じ。熱く燃えたぎる若い星は、青白く光を放ち、反対にエネルギーが衰える赤色巨星は、鈍い赤い色に輝く。もちろん、イチローは青白い光。

そんなことを考えていると、いきなり一打席目で、シングルヒットを打ってくれます。これが、引き金となって、マリナーズはあっさりと1回表に1点を入れます。

でも、残念ながら、イチロー選手の活躍はここまで。この日、五打席一安打と、ちょっと不調。

一方、この試合では、城島選手を観るのも楽しみでした。今まで観た事がないからです。どうも、彼の実家は、わたしの母の実家のすぐそばのようで、なんとなく親しみが湧きます。

アメリカ人にも負けない、しっかりとした体格のケニー城島。この日は、四打席一安打と、まあまあの成績でした。それでも、毎回マスクをかぶって、投手を助けてくれるので、存在感はたっぷりです。

この日は、バケーションシーズン真っ只中のせいか、観客も普通の半分くらい。だから、いつもよりも、学校のお休みを利用した子連れの親子が目立ちます。

そんな子供の多い日は、応援の歓声も、ちょっと慎みましょう。

実は、わたしたちの真ん前の席には、4人の大きな若者が座ってきたのですが、なにせ口が悪い!

まあ、もともとオークランドA’sのファンは、あんまり品がよろしくない嫌いがあるのですが、前の座席の若者たちは、相手チームの選手の呼び名をいろいろと考え付いては、大声で怒鳴る。
たとえば、マリナーズのロペス選手に対しては、「ジェイ・ロー(J-Lo、女性歌手ジェニファー・ロペスの愛称)」。

「や~い、ジェイ・ロー!そこで踊ってみろ~!」みたいに、好き勝手に野次を飛ばす。

彼らの前に座っていた老夫婦が、一度たしなめたのですが、それでも治らないので、この夫婦は別の席に移って行ったくらい。

でも、そこで登場するのが、お子様パワー。一番うるさかったお兄さんの隣には、両親に連れられた、かわいい女の子。どうしたわけか、この子は、うるさいお兄さんがとっても気に入ったようで、パチパチと写真を撮ってあげています。
それを見ていたお母さんは、あんまり変な言葉を子供に教えないでねと、やんわりと注意します。

すると、このうるさいお兄さん、すっかり発言を改めるのです。相手の選手をこき下ろすのは辞め、味方の応援に終始します。

「君ならできるよ(You can do it)!」

そして、女の子も一緒になって、You can do it!
それにしても、うるさい観客だこと。

わたしたちも、しばらくして、この四人組の若者から離れた場所に避難いたしました。

さて、試合の方は、1回表に1点入れたマリナーズを、A’sがホームランなどで逆転し、終わってみると、3対2でA’sの勝ち。

その後は、金・土・日と、マリナーズの3連勝でしたが、イチロー選手は、4試合通算20打席4安打と、あんまり振るいませんでした。アメリカンリーグ打率一位の座も、明け渡してしまいました。

もしかすると、イチロー選手は、A’sがお得意ではないのでしょうか。

それにしても、前回、ボストン・レッドソックスが来たときは、最後はA’sを応援していたわたしですが、今回は、A’sを応援する気にはまったくなれませんでした。相手がマリナーズともなると、話が違うみたいです。

やっぱり、わたしは、A’sのファンにはなれませんね。

追記: 本日(7月10日)サンフランシスコで開かれたオールスターゲームでは、イチロー選手が魅せてくれましたね。球宴史上初のランニングホームラン(inside-the-park home run)。それに、3打席連続ヒット。
7回目のオールスターで、見事 MVP を獲得したイチローに、とにかく脱帽です!

Blabbermouth (おしゃべり)

日頃、よく言われますよね。女性は、おしゃべりだって。

まあ、そういうのって、よく言えば、「話好き」。

She’s talkative.

それから、「率直に物を言う」。

She’s outspoken.

でも、悪く言うと、「とめどなく喋る、おしゃべり」。

She’s a blabbermouth.

この blabbermouth というのは、「おしゃべり」という名詞です。変てこな単語ですが、「ブバマウス」といった感じで発音します。

最初の blabber は、おしゃべりをする(しゃべりまくる)という動詞。これに、「口(mouth)」がくっ付いた名詞で、さしずめ「おしゃべりする口」。いかにも、「おしゃべり屋さん」といった印象を受けますよね。


こんな表現もありますね。

She’s chatty.

この chatty は、上に出てきた talkativeoutspoken と同じく形容詞で、「おしゃべりな」という意味ですが、chat という部分は動詞であり、名詞ですね。

いうまでもなく、インターネットで会話を楽しむ「チャット」は、この英語の chat(歓談)から来ているのですね。


それにしても、ほんとに女性は男性よりも、おしゃべりなのでしょうか?

それを科学的に検証しようと、テキサス大学やアリゾナ大学の研究者が、共同調査に乗り出しました。

結果はどんなものでしょう? 

なんと、「男も女も、同じだけおしゃべりだった!」


この研究は、アメリカの有名な科学雑誌『サイエンス』に載ったくらい、れっきとしたもので、アメリカとメキシコの大学生400人の調査に基づいているそうです。

今までこの手の調査は、聞き取り調査や自分で書き込むタイプのものが多かったんです。でも、そういった方法だと、必ず漏れが出てくるし、自分で情報を曲げたりする恐れもあります。

だから、今回の調査は、みんなに小型録音機を持ち歩いてもらって、12分置きに30秒間、会話を自動録音するという方式を採ったんですって。

そして、みんなの発した単語を数えて、一日平均を推測してみると・・・

女性は、16,215 語。 男性は、15,669 語だったとか。

ちなみに、この546 語の違いというのは、統計の上では、誤差の範囲なのですね。だから、女性と男性は、同じだけおしゃべりだということ。

今まで、女性は2万語、男性は7千語なんて言われていたのは、どうも嘘っぱちだったみたい!


わたしも、アメリカに住んでいて、とってもおしゃべりな男性を、たくさん見かけましたよ。なんで、こんなにおしゃべりなの?って呆れるくらい。

きのうも、野球場で試合を観ていて、後ろの男性がうるさくってしょうがなかったです。

「僕は、君とデートするようになって、生活パターンがすごく変わったよ。」
 (あぁ、そうですか、それはよかったですね)

「僕の家は代々、家族をきちんと守るタイプの男性たちなんだ。男はしっかり稼いで家族を養い、女性は家で子供をちゃんと育てて・・・」
 (え、ちょっとあなた、何時代に生きてるの?そんなことを言ってると、ガールフレンドに逃げられるよ!)

ま、女性の方は、明らかに試合の方に興味があったみたいですけど。


ところで、日本の怪談を世界に広めたラフカディオ・ハーン。彼の奥さんは日本人ですが、英語はまったくわからない人でした。

そんなふたりの間では、日本語とも英語ともつかない、独特の言葉が生み出されていたと聞きます。

多分、その裏には、テレパシーみたいなものが手伝っていたのかもしれません。

そう、人間って不思議なもので、ある程度一緒にいると、そのうちテレパシーが通じるようになるみたいですね。

そうなってくると、あんまりたくさん言葉を発しなくても、充分に意志が疎通する。

意思疎通の鍵って、言葉の数ではないんですよね。

追記:最初の写真は、函館港に停泊し記念館となっている、青函連絡船「摩周丸」のものです。これは、甲板に据え付けられているコミュニケーションの道具なんです。しっぽのような部分に話しかけると、下の階にいる人にちゃんと聞こえるそうな。なんとなく、おしゃべりの道具って感じですね。

3枚目の野球の写真は、7月5日のオークランドA’s対シアトル・マリナーズの試合です。イチロー選手も城島選手も出場しましたが、マリナーズは、惜しくも3対2で破れてしまいました。

庭園の写真は、島根県松江市にある小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の旧居です。庭も屋敷もきれいに手入れされ、観光客に公開されています。

最後の写真は、函館の市街地に飾られる銅像のひとつです。市内のあちらこちらには、かわいらしい銅像が置かれ、観光客の目を楽しませてくれるのです。

A piece of me (わたしの一部)

普段、生活していて、いろんな名言を耳にしますよね。偉い人の言葉だったり、有名人の言葉だったり。

でも、わたしにとって、記憶に鮮明に残っている名言といえば、すべて普通の人の言葉なんです。

何気なく口にした言葉に、その人の暮らしや考えがずしっと詰まっている。そんな重みのある言葉。


いつか、テレビで、こんな言葉を耳にしました。

You always have a piece of me that I never get back.

ちょっと長い文章ですが、直訳すると、「わたしが取り返すことのできないわたしの一部を、あなたはいつも持ち続ける」。

つまり、「わたしの大事な部分を、あなたの中に置いて来たわ」。

これは、ある女性が失恋してしまったときの言葉なのですが、相思相愛だと思っていたにもかかわらず、相手が別の女性を選んでしまった悲しみを表現したものなのです。

わたしの中に、ぽっかりと大きな穴が開いてしまったわ、といった感じでしょうか。


a piece of me(わたしの一部)」という表現は、よく使われるものでして、上の文章のように、恋愛のときに使われることもありますし、ケンカをけしかけるときに使ったりもします。

You want a piece of me?(俺の体の一部が欲しいとでも言うのか?)

つまり、やれるもんなら、かかって来い!

これなどは、殴り合いのケンカの前に聞こえてくるような表現ですね。


似たような表現で、「a piece of my heart(わたしの心の一部)」というのもあります。

You will always occupy a piece of my heart.

これは、ある女性を振ってしまった男性が口にした言葉なのですが、「あなたは、僕の心の中に、いつまでも存在し続けるでしょう」といった意味ですね。

あなたはとっても素敵だから、いつまでも僕の記憶に留まるでしょう、といった感じ。

でも、そんなことを言われても、振られた女性としては、ぜんぜん嬉しくないですよね・・・


ところで、わたしが感動した最初の文章というのは、あるテレビ番組で耳にしたもので、発言した人は一般の女性。

いわゆる、「リアリティーテレビ(reality TV)」と呼ばれるジャンルのもので、一般視聴者から参加者を募り、台本なしで、収録を進めるといったタイプの番組です。

日本でも知られているところでは、過酷な条件で生き抜く「Survivor(サバイバー)」なんかがありますし、賞金が大きなクイズ番組「Who wants to be a millionaire(ミリオネア)」なども、このジャンルに入りますね。

アメリカでは、近頃、台本のあるドラマなんかよりも、こちらのリアリティーテレビの方が人気を博していて、いろんな毛色のリアリティー番組のオンパレードとなっています。思いもよらないような展開が、みんなを釘付けにするんですね。

恋愛物あり、アイドル物あり、クイズ物あり。ダンサーやコメディアンや映画監督の腕を競う、というものもあります。


そんな中に、リアリティーテレビの草分け的存在である「Bachelor(バチャラー、つまり、独身男性)」というのがあって、まさに絵に描いたような条件の独身男性が結婚相手を選んでいくという、超人気番組となっているのです。

独身男性の方も、25人の女性の方も、もちろん一般人なのですが、女性の方は、ひとつ屋根の下で共同生活を送りながら、ひとりの男性のハートを掴むという、ちょっと過酷な番組なのです。

女性は、ひとり、またひとりと、週を追うごとに彼にカットされて行く・・・

冒頭の文章は、最後の最後まで残ったふたりのうち、モアナちゃんの言葉。

ごく最近、失恋を乗り越えたモアナちゃん。長いプロセスを経て、ようやくお相手のお医者さんに心を開けるようになったのに、最後に自分が選ばれるかと思えば、もうひとりのサーラが選ばれてしまった・・・

一方、お医者さんの姪っ子ちゃんは、断然、モアナちゃんのファン。

「わたし、モアナちゃんの絵を描いてあげたの」と、長身でハンサムな、アウトドア派のおじちゃんにご披露します。

わたしも観ていて、モアナちゃんの方が人間的にいいなと思っていたのに、当の彼氏は、お手頃なところで、同じ街に住む小学校の先生、サーラを選んでしまったんですねぇ。

でも、あのお医者さんとサーラ、絶対に続かないよ!

(写真は、お花にゾッコンの、ミツバチくん)


ところで、恋愛に関する珍しい表現って、英語にはいろいろあるのですが、ひとつだけご披露いたしましょうか。

I’m head over heals for him.(わたし彼に首っ丈よ)

これは、もともと、「頭の上にかかとがある状態」、つまり、「逆立ちや側転をした恰好」を指すのですが、それほど、心が興奮状態にあるといった意味なのですね。

18世紀に使われ始めた頃には、側転をするほど興奮する、といった意味だったそうですが、そのうちに、恋愛で心がドキドキする、という意味に変わっていったようです。


ところで、あんまり言われたくない表現に、こんなものがありますね。

She’s high-maintenance.(彼女って、お金がかかってしょうがないよ)

She’s needy.(彼女は、いつも構って欲しいタイプだね)

ふたつとも、男性が嫌だなぁと思っているタイプの女性を表現するものなので、決して褒め言葉ではありませんね。

アップル旋風:間もなくiPhone登場!

Vol. 95

アップル旋風:間もなくiPhone登場!


6月も中旬を過ぎると、子供たちもそろそろ夏休み。子供たちが浮かれ出すと、大人たちもつられて浮かれ出す。そんな季節の到来です。
6月末には、大きな行事を控え、この辺りもソワソワ、ウキウキ。今月は、そんなお話をいたしましょう。


<アップルさま>


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なにはともあれ、今のこの辺の関心事第一位は、アップルの「iPhone(アイフォン)」でしょうか。ご存じ、アップル初の携帯電話ですね。
6月に入り、いよいよテレビでもコマーシャルが流れ始め、発売開始も29日と明らかになりました。今は、その日まで、秒読み段階です。

実は、1月のマックワールドでお披露目されたiPhoneは、いまだ厚いヴェールに包まれた製品でして、手に取ってみた人はおろか、30メートル以内に近づいた人すら少ない代物。わたしも、コマーシャル以外だと、アップルのCEOスティーヴ・ジョブス氏とインテルのCEOポール・オテリーニ氏が手にしている映像しか見た事がありません。

そのわりに、いろんな前評判が巷をめぐっています。アップルにとって、iPodと同じく、大成功となるのか、それとも、Newtonと同じく、泣かず飛ばずとなるのかと、意見が大きく分かれるところです(Newtonとは、1990年代にアップルから出された、Newton OS搭載のPDA、つまり携帯情報端末です)。

当のアップルは、年間10億台世界で売れる携帯電話の1パーセント、つまり、年間1千万台でも売れれば良しとしましょうと言っています。
その一方で、2009年末までの2年半で、世界で4千5百万台は売れるだろう、と言う強気のアナリストもいるようです。

アメリカで世論調査をしてみると、「興味はあるけど、高いから買わない」という人が6割だったそうですが、それでも、金に糸目を付けず、真っ先に新製品を手にしたい人はたくさんいるわけですよね。我が家でも、「ぜひ買いたいね」と話しています。

そんなさまざまな前評判の渦の中、アップルのコマーシャルが実に良くできていて、iPhoneはいったい何ができるのかという疑問点を、はっきりと消費者に答えてくれています。

まず、メールができるでしょ、ネットサーフィンができるでしょ、iPodみたいに音楽が聴けて、ビデオが観られるでしょ、それから、もちろん携帯電話だから、お友達とお話もできるでしょ。YouTubeにだって、アイコンひとつで繋がってるんだから。
しかも、それが、指先でちょいちょいっとできてしまう。メールをスクロールするのも、ウェブサイトの写真をズームするのも、ページをめくるのも、音楽のメニューを選ぶのも、何でも指先。立体的に出てくるメニューは見易いし、指を速く動かせば動かすほど、スクロールは速くなる。
そして、キーボードは付いていないので、メールや電話のときも、画面に出てきたキーを指先で軽くたたくだけ。スタイラスなんて紛失しそうなものは要らないし、特殊加工ガラスの表面も、傷つき難いのです。
そうそう、iPhoneを横向きにすると、画面も自然と横向きになる。頭を90度かしげる必要なんてありません。

5つほどあるコマーシャルのバージョンでは、こんな使い方もアピールしていました。たとえば、3.5インチのゆったりしたスクリーンで、映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』のひとシーンを観ていたとしますよね。すると、友達が、大きな海の怪物を見て、「あ~、カラマリ(イカのフライ)食いてぇ」と言ったとします。
そこで、さっそく、指先でチョチョイと、ネットを検索。近くのシーフードレストランが出てきて、即、お店に電話。めでたく予約もできたので、あとは行くだけ。
日常の一連の動作が、シームレスにできる点を猛アピールなのです。

今まで、アナリストの中には、こんな批評をする人もいました。バッテリー駆動時間が短いので、iPhoneは実用的じゃないと。
アップルは、そんな批判に対し、「iPhoneは、他のどのスマートフォンに比べても、バッテリー時間が長いのだ」と、詳細を発表しています。通話8時間、スタンバイ250時間。たしかに、わたしのPalm Treoなんかよりも、ずいぶんといいですね(他に、ビデオ鑑賞7時間、音楽鑑賞24時間、ネットアクセス6時間ということですが、いろんな機能を混ぜて使ったときのデータは出されていません)。

まあ、いいことばかり並べてみましたが、もちろん欠点もあります。まず、何といっても、高い。
以前、マイクロソフトのCEOスティーヴ・バルマー氏が、「世界一高い電話だよ~」とテレビインタビューで叫んでいましたが、携帯キャリアAT&Tの補填が付いて499ドルと599ドルと、非常にお高い。メモリーは、それぞれ4GBと8GBなので、生産の問題がなければ、599ドルの方がお得でしょうか。
それから、AT&T(旧Cingular Wireless)の独占提供なので、わたしのように他社のサービスを使っている人は、躊躇せざるを得ないです。いくら番号ポータビリティー制度があるとはいえ、個人的には、Verizon Wirelessのネットワークから離れるのは嫌だなあと迷っています。
また、AT&Tの提供ということは、ネットアクセスが遅いということですね。いまだに2.5GのEDGEネットワークを使っているので、VerizonやSprint NextelのEVDOに比べて、かなり遅いと思われます。
そして、今のところ、会社のメールには繋がらないので、お仕事向きではありませんね。リサーチ・イン・モーションのBlackBerry(ブラックベリー)を愛用する人は、iPhoneにはスイッチしないでしょう。


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ま、最終的には、多少不便な点があっても、クールなカッコイイ製品を手に入れるかどうか、ということでしょうか。
思ったよりも小さくて、かわいいピンク色もあるようなので、女の子も充分に使えます(インチから逆算すると、縦11.4センチ、横6センチ、厚さ1.2センチで、色は黒と銀のコンビ、白、ピンクがあるようです。写真は、新聞記載されたサイズとの比較ですが、大きさはPalm Treo 700wとほぼ同じくらいで、厚さは半分ほどのようです)。

あくまでも、iPhoneは、ケータイとiPodの融合マシーン。お遊び用なのです。
ケータイで音楽やビデオを楽しむ人は、まだまだ、アメリカにはほんのちょっとしかいないそうですが、iPhoneの登場で、その行動パターンも激変してしまうのかもしれませんね。

6月に入りiPhone熱が過熱する中、ネットでは、もう詐欺行為が横行しているらしいです。「僕は、発売前に、密かにiPhoneを手にしたんだ」と。
スティーヴ・ジョブス氏の甥っ子でない限り、そんなことはできないんだから、くれぐれも注意しなさいよと、巷には厳重な警告が出されているのです。

 


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そして、ちょっと驚きなんですが、世に出る前のiPhoneが、もう客引き用のプロモーションに使われているのです。
こちらは、ある新興住宅地の広告。サンノゼから東に、直線距離で50キロの場所。でも、サンノゼの東にはディアブロ山脈が広がり、山を突っ切ることはできません。だから、グルッといろんな都市を周遊し、ようやく現地にたどり着くという、辺鄙な場所なのです。
きっと、値下げだけでは不十分と思ったのでしょうか、現地に来てくれたら、iPhoneが当たるかもしれないよと、関心を引こうとしているのです。

さて、iPhoneの効果や、いかに?


<新しい車>


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先月、長年愛用していた車を買い替えました。何の事はない、以前の車の後継モデルにしただけの話なので、買うものは最初から決まっていたし、買う場所もセールスマンも決まっていました。だから、車を買う楽しみなんて、最小限度。

何の問題もない愛車を交換するなんて、ちょっと抵抗がありましたが、間もなく年間登録料を支払う時期でしたし、タイヤも交換する時期に来ていましたし、タイミングとしては悪くなかったのです。
それに、まるでこちらの心を読み取るかのように、「そろそろ買い替えてはいかがですか」と、車の会社がカタログを送ってきたのです。そのペイントや内装の色見本なんかを見ていると、ふらっと暗示にかかってしまうのですね。

まあ、それに、7年も前に買った車には不足している部分もあります。車輪の回転半径(steering radius)が大きくて、Uターンがし難い。カーナビもないし、携帯電話のハンズフリー機能(hands-free device)も付いていないので、不便でもあります。
そう、カリフォルニアでは、来年の7月から新しい法律が施行し、車内での携帯電話はハンズフリーで行うことが義務付けられます。違反者には、一回目は20ドル、それ以降は一回50ドルの罰金が科せられます。日本にだいぶ遅れを取っていますが、これでもアメリカでは先進的な場所なんです。

新しい車にしてみると、まあ、それなりに便利ではありますね。リアハッチ(後部ドア)は遠くから開けられるし、ボタンを押すと、自動的に閉まる。買い物のときに便利です。
暗くなると自然とヘッドライトが点くし、雨が降ると自動的にワイパーが動く。5月以降、一滴も雨の降らない乾季のシリコンバレーでは、まだワイパーを試したことはありませんが。


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Bluetooth接続のハンズフリー機能も、思ったよりも実用的なものですね。ハンドルに付いたボタンで電話に即出られるのが、まずいい。
家のガレージで実験しているときは、相手と近過ぎてハウリングしてしまいましたが、ちょっと離れると、問題なく使えます。相手も車でハンズフリーを使っていると、若干ノイズが乗りますが、使えないというほどではありません。

 


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それに、カーナビ(car navigation system)。2年前に買った、連れ合いの車のカーナビからは更に進化していて、なかなか解像度がいいです。フリーウェイの下り口なんかも、立体的に表示してくれるし、リアルタイムの交通情報に直結していないまでも、かなり便利に使えます。
こちらの写真は、シリコンバレーの幹線道路・フリーウェイ101号線を下りて、我が家へ向かう途中です。ヘビみたいな道路がニョロっと一本出ているだけで、他に何もないところが、のどかで気に入っています。

まあ、強いて言うなら、衛星ラジオの配線がなされていないのが、不満な点でしょうか。今度、車を替えたら、XMとSiriusのどっちにしようかなと楽しみにしていたので、「SUV(スポーツ多目的車)には、衛星ラジオの配線はないのです」と言われたときは、かなりショックでした。
それから、車が自分で縦列駐車するオプションもあればよかったのですが、これは、まだ実用的ではないと聞くので、別になくてよかったです。それに、縦列駐車が必須の場所は、シリコンバレーには極めて少ないのです。

そうそう、この辺で絶対にいらないのは、後部座席のマッサージチェアでしょうか。どんなに偉い人でも、自分で運転するからです。アップルのジョブスさんだって、ヤフーの新CEOジェリー・ヤンさんだって、きっと愛車を好きなように運転していることでしょう。

ところで、以前、自分の車を「お姫様」と呼んでいると書いたことがあるのですが、今度の車には、まだ名前がありません。前の車はお尻が丸っこかったので、四輪駆動のSUVのわりに、女の子だったのです。だから、この子は大事にされ過ぎて、スキーにも一度しか出かけたことがありませんし、舗装なしの道路なんて、とんでもありません。
でも、今度はモデルチェンジしていて、お尻はあんまり丸くないのです。それが、最初のうち気に入らなかった理由だったんですが。

  新しい車には名前がないよという話を連れ合いにしたら、「じゃあ、王子様にすれば」と言うのです。まあ、近頃日本では、「ハンカチ王子」だの「はにかみ王子」だのが流行っているそうなので、王子様でもいいかもしれませんね。

う~ん、でも、今度の車は、男の子でも女の子でもないような気もするし・・・

だったら、薄い金色だから、「C-3PO」でもいいかもしれない。けれど、あの映画『スターウォーズ』の名脇役は、男性ロボットでしたよね。じゃあ、いったい何でしょ?


追記: アメリカでは、自分の愛車に名前を付ける人は、結構たくさんいるそうです。愛情を持って話しかけるという人も、少なくないとか。 もしかしたら、自分の奥さんよりも車が愛しい男性なんて、意外とたくさんいるのかもしれませんね。ちょっと恐いですが。


<かっこいいでしょ>


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こんな切手出ましたよ。なんと、『スターウォーズ』切手です。ちょっと見は、おもちゃのシールのようですが、正真正銘、アメリカの切手なんです。
アメリカでは、5月中旬に普通郵便の切手代が上がって、39セントから41セントになったのですが、ちょうどそのタイミングを見計らって、この切手が発売となったのです。
折しも、今年5月は、『スターウォーズ』第一作目のリリースから30周年でもありますし。

この記念切手が売りに出された5月25日の金曜日、郵便局に行ってみると、いつもよりもガラガラ。長蛇の列を期待していたのに、ちょっと拍子抜けしてしまいました。みんながこの切手を買いに走り、売り切れているかと思ったのに。

 


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ま、そんな不満はあったものの、実際に切手シートを手にしてみると、おもなキャラクターや名場面がズラリ。なかなか芸が細かいのです。
主役ともいえるダース・ヴェイダーや、ジェダイ・マスターのヨーダやオビワンはいるし、レイア姫がロボットのR2-D2にメッセージを託す名場面もあります。
写真ではわかりにくいですが、全部で15枚の切手が、うまく組み込まれているのです。

それにしても、最初に映画館で『スターウォーズ』を観た時は、つまらないもんだと思いましたね。
今は昔、第二作目(エピソード5)がリリースされた1980年の夏、わざわざレッドウッドシティーに出かけて行って観たんですが、一作目を観ていないと、ストーリー展開が追い難いし、尻切れトンボで終わっているし、「なんでこんな映画が人気なの?」と思ってしまいました。
けれども、一作目を観賞し、二作目を復習してみると、ようやく話の大きさがわかってきて、三作目(エピソード6)が出る頃は、とっても待ち遠しかったですね。まあ、映画館の前にテントを張る事はしなかったですが、今でもサンフランシスコのゲーリー・ストリートの映画館をよく覚えています。

あの頃は、『スターウォーズ』って、全9作だと言われていたのですが、いつの間にか全6作になってしまいましたね。きっと作る側も疲れてしまったのでしょうね。それに、あれ以上作ってしまうと、逆に話がぶち壊しになる恐れもあるし(エピソード6のあとに、あと3作あると言われていました)。

最終話(エピソード3)が出されて、はや2年。多くのアメリカ人にとって、今回の記念切手の発売は、ようやく完結した壮大な叙事詩を祝うに、まさにふさわしいものなのでしょう。


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ふふっ、これで、わたしの『スターウォーズ』コレクションも、またひとつ増えました。一番古いものでは、1980年代の黄金期に作った、R2-D2のプラモデルっていうのがありますから。
一方、こちらの写真は、みなさんご自慢のコレクション。老いも若きも(ダース・ヴェイダーも)、それぞれに、思い入れのある品々なんです。

まあ、いつの時代も、「May the force be with you!(フォースよともにあれ)」でしょうか。

 夏来 潤(なつき じゅん)

おいしい再会

先日、久しぶりに、外で食事をしました。

何度か行っているレストランなのですが、ごく最近、経営者が代わり、スタッフの顔ぶれも代わっていました。

いつもワインを選んでくれるベテランのお姉さんも、この晩は姿を見かけませんでした。

もしかしたら、シェフも交代しているのでしょうか。

前菜のキハダマグロ(Ahi tuna)のたたきには、めずらしい泡状のワサビソースがかかっていたし、ロブスタービスクは、いつもよりもトマト風味が強くなっていました。

この晩のスペシャルは、ふたつ。貝柱(scallop)のソテーか、バッファロー(buffalo)のロースト。

そう、バッファローって、本物のバッファローだそうです。あの広大な草原をのしのしと歩く、巨大な牛。

まさか、野生のバッファローではないのでしょうが、なんだか肉が硬そうなので、わたしは好物の貝柱にしてみました。

バジル風味のリゾットとチェリートマトがアクセントになっています。

さて、デザートは、何でしょう。ここでは、いつも、チョコレートムースケーキと相場が決まっています。あの、中からチョコクリームがとろ〜りと出てくる、焼きたてのチョコケーキ。

でも、この日はちょいと暑い日。担当のウェイトレスの女の子が、冷たいストロベリーショートケーキを勧めるので、こちらに初挑戦。

たしかに、彼女が言うとおり、クッキー風のケーキは甘味をおさえてあるし、イチゴのフィリングもたっぷり。

けれども、このボリュームには、閉口ですよね。


さて、食事が終わる頃、パティオにつながるガラス扉が開け放たれます。

「よかったら、お外へどうぞ」とスタッフも勧めてくれるので、かたとき、外の風景を楽しむことにしました。

もう午後8時をまわっているのに、外はまだまだ明るいです。

隣では、団体さんのために、遅めのディナーの席が設けられています。

ふと気が付くと、すぐ近くに、鹿が何匹もお散歩しています。

どうやら、鹿の散歩道があるのでしょうか、みんな前後に連なって、のんびりと歩いていきます。

見ると、あちらの方にも鹿さんが一匹。

きっと、夕方は、エサを探して歩き回るのでしょうね。


そんな鹿さんご一行に気を取られていると、隣のテーブルから、ふと聞き慣れた声が聞こえてきます。

息子を連れたご夫婦。

こちらに背中を向けていたので、まったく気が付かなかったのですが、なんと、彼らは親しい友人。

もう何年かご無沙汰していましたが、我が家がシリコンバレーに引っ越して来たときは、一番お世話になったご夫婦。

声をかけると、あちらも初めて気が付いた風で、やあ、やあと、話がはずみます。

奥方は、まったく変わることなく、優しい雰囲気もそのまま。

その一方で、ダンナさんの方は、ちょっと太ったみたいです。髪をオールバックにし、アロハシャツをカジュアルに着こなす様は、ジャズピアニストのチック・コリアみたい。

今はリタイアして、悠々自適の生活を送る彼は、昔ほど早口ではなくなっていました。
 シリコンバレーで会社を立ち上げ、成功させた余裕が感じられます。

けれども、なんと言っても、一番大きく変わったのは、息子くん。

彼は間もなく15歳半で、仮の運転免許も手に入れられるそうです。講習を受けたあと、親が一緒にトレーニングすると、16歳以前に、運転できるようになるんですって。

最後に会ったのは、彼がまだ小学生の頃。その「やんちゃ坊主」が、スラッと長身の「青年」に変わっていました。

子供は成長が早いといいますが、まさに、その通りですよね。

ちょっと見ない間に、顔まで変わっている。だいぶお母さんに似てきたみたい。あれじゃ、隣のテーブルにいたって、まったくわからないですね。

それにしても、このご夫婦に今までご無沙汰していたのは、ちょっと悪かったかなと、反省してしまいました。

あの頃は、身内みたいにお世話になっていたのに。
 ふたりともシカゴ近郊の出身で、とっても暖かい人たちなんです。

話は尽きないけれど、お腹を空かせた彼らのメインディッシュが運ばれて来たので、こちらも潮時と席を立ちました。

もちろん、またすぐに会いましょうと約束して。

食べ物についての追記:最初の写真は、いったいなんだろう?と思われた方もいらっしゃるでしょうね。
 パンと一緒に出されているものは、ひとつはガーリックの風味付けされたオリーブオイル、もうひとつはブラックオリーブをペースト状にしたものです。
 見かけはちょっと悪いですが、このオリーブペーストも、なかなかのものなのです。

お次の写真、キハダマグロのたたきには、ごく日本的に、大根とガリ(甘酢しょうが)の薄切りが添えられています。

このレストランでは、ランチに、キハダマグロのあぶりをハンバーガーにして出すのですが、これがまた、ガリが効いていて、さわやかでいいんですよ。
 なかなかのメニューで、アメリカ人にも人気があるんです。

レッドソックス (松坂投手をミスった!)

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6月の第1週、ボストン・レッドソックスがベイエリアにやって来るというので、野球を観に行きました。同じアメリカンリーグのオークランド・アスレティックス(通称 A’s)と対戦するのです。

6月4日から7日と、2チームの対戦は4試合あったのですが、松坂大輔投手がどこで投げるのか? これがキーとなりますよね。

ちょうど、その直前、連れ合いが日本に出張していたので、「松坂は6日に投げる」と情報をキャッチ。そこで、さっそく、日本にいながらにして、A’s のウェブサイトでチケットを購入します。

3塁側の前から14列目。なかなかいい席です。

試合の直前になると、シーズンチケットを持っている人がウェブサイトで売りに出している場合があるので、結構いいチケットが手に入るのですね。一度、ネット裏で、マリナーズのイチロー選手を観戦したこともありました。

何年か前、ニューヨーク・ヤンキースに松井秀喜選手が加わったときは、我が家も、オークランド A’s のシーズンチケットを買ったものでした。
1塁側のちょっと遠い席でしたが、同じリーグの松井選手やイチロー選手が見られるので、魅力的です。

けれども、オークランドは車で小一時間と、我が家からちょっと遠いし、サンフランシスコ・ジャイアンツと比べて、ファン層がなんとなく違うかなという理由で、自然と足が遠のいてしまいました。
とくにオークランドのファンでもないし、シーズン中、何回も通うのが、結構おっくうにもなるんです。

というわけで、久しぶりの野球観戦。

ベイエリアで初めて登板する「Dice-K (ダイスケ)」も、前評判がかなり高いようだし、大物の登場に敵も味方も緊張しています。

でも、悲しいかな、「松坂は6日に投げる」という情報は日本時間のお話で、実は、現地時間の5日だったんですね・・・

それで、5日は、寂しくテレビで松坂観戦 (彼は2点を取られ、味方の援護もなく、負けてしまいました)。

けれども、球場に行くと、それはそれで、とっても楽しいものなんです。

マカフィー・コロシアムの駐車場では、何時間も前から、ビールを片手にバーベキューに舌鼓を打って、お祭りムード。球場に入ると、みなさんビールやハンバーガーやホットドッグを買いに、売店に長蛇の列を作ります。

そして、席に着いたら、ひっきりなしに、いろんな物を売りに来る。ピーナッツにアイスクリームにカラフルな綿菓子、焼きたてのピッツァにスターバックスのコーヒー。

アメリカ人にとっては、「イベント=食べ物」なんですね。

ピーナッツの袋をホイッと客に向かって投げるのが、いやにアメリカらしい。代金は伝言ゲームみたいに、右から左へと手渡したりして。

それにしても、球場って、明るいですよね。午後7時の試合開始のときは、まだまだ辺りは明るかったですが、いつの間にか夜になっているのに、フラッシュなんて必要ないですもの。
まあ、当たり前のことですけれど、改めて感心してしまいます。

さて、肝心の試合の方ですが、松坂投手は出なかったわりに、なかなかおもしろかったですよ。

テンポの早い試合運びの中に、オークランド A’s に一回、レッドソックスに一回チャンスが巡って来て、A’s が4回裏に3点を入れたのに対し、レッドソックスは、7回表に2点を返し、ググッと詰め寄ります。

さあ、7回裏2アウト。ここで、レッドソックスは、岡島秀樹投手を出してきます。

どっちも応援していない連れ合いが、「レッドソックスよ、2点くらい返せ」としきりに言っていたので、なんでだろ?と思っていたら、抑えに岡島が出てくるかどうか、そんな大事なことがかかっていたのですね。

彼はそのユニークなフォームで、抑えの役を立派に果たしましたよ。ヒットは一本しか打たれませんでしたもの。

途中、アンパイアの判定に対し、レッドソックスのフランコナ監督が食って掛かり、監督自身が退場させられるシーンもありましたが、それが、逆に観客を沸かせるのです。
後ろの人なんか、「いやぁ、おもしろいねぇ(Wow, that’s entertaining)」などと楽しんでおられました。
「退場させろ~!(Get him out!)」といった叫びのコーラスも聞こえてきましたね。

その間も、脇で試合を見据える松坂投手は、微動だにしません。

その後、岡島も、A’s のカシーリャ投手も点を取られなかったので、結局、試合は3対2で A’s の勝利となりました。
かわいそうに、レッドソックスは、もう長いこと、A’s のホームグラウンドで勝ったことがないんですって。(翌日は、辛くも1対0で、レッドソックスが勝っています)

ふと時計を見ると、たった2時間半で試合終了。おまけに、帰りはすんなりと駐車場から出られたし、10時過ぎには、我が家にたどり着いたのでした。平和、平和。

それにしても、驚いたのは、レッドソックスのファンの多さ。だって、レッドソックスって、ボストンですよ! 東海岸のマサチューセッツ州のボストン!

まあ、考えてみると、カリフォルニアは東海岸から来た人が多いのは事実ですよね。お向かいさんもお隣さんもレッドソックスのファンですし・・・

そんなこんなで、気が付いてみると、わたしは A’s を応援していましたよ。3塁側の A’s 陣営席に座っていたこともありますけれど、やっぱり地元ですからね。
あれだけレッドソックスファンが多いとなると、「にわか A’s ファン」にならざるを得なかったですね。

さあ、次回の観戦は、サンフランシスコ・ジャイアンツ対、宿敵ロスアンジェルス・ドジャースかな!

特権階級のステッカー

この「ライフ in カリフォルニア」のコーナーでは、前回、空が白っぽいよというお話をいたしました。

この季節、海から霧が出やすく、内陸部を覆い隠すのだと。

でも、この空の白っぽさは、霧ばかりではないんじゃないでしょうか。なにせシリコンバレーは谷間ですから、盆地の底に汚れた空気がたまりやすいのですね。

たとえば、こちらの写真。

なんだか、モヤモヤしていて、すぐそばの家しか見えませんよね。

本来なら、これくらいスッキリ見えていないとおかしいのです。

(電線の先に見えているのは、サンノゼのダウンタウン。こうやって見ると、サンノゼもちょっと都会!)


一年ほど前、「空気を守る日」と題して、サンフランシスコ・ベイエリアの取り組みをご紹介いたしました。

夏に向けて大気の状態が悪くなってくると、注意報を出して、みんなに協力を求めるのです。車の運転を控え、公共の交通機関を利用してちょうだいと。

その「空気を守る日(Spare the Air Day)」の適用期間も、さっそく、6月の第一週から始まったそうです。

昨年は、キャンペーン促進のため、期間中に6日間だけ、ベイエリア中の交通機関がタダになりました。最初の3日間は、州の予算から。あとの3日は、追加として、国から特別にお金を出してもらいました。

今年は、州の予算を一日分増やして、4日間とするそうです。

まあ、昨年のように終日タダではなく、午後1時までだそうですが、それでも、行きのバスや電車にタダで乗れるのは、ありがたいことです。
 それだったら、車を家に置いて、電車で通勤してあげようか、という気にもなりますよね。

こんな風に、行政の側がしっかりと態度で示すのは、大事なことなのかもしれませんね。


アメリカでは長らく、「地球温暖化は科学者の妄想だ」という考えが幅を利かせていました。どんなに科学者が力説しても、ブッシュ大統領を始めとして、保守的な政治家が耳を貸さなかったのです。

バカな話、保守的な政治家たちは、ある小説家の「地球温暖化説は、政治的陰謀ともなりうる」というフィクションを、バイブルのようにあがめていたのです。実際、議会でも、この小説が証拠品として取り上げられたくらい(映画 『ジュラシック・パーク』 の原作者、マイケル・クライトンの 『恐怖の存在(Sate of Fear)』 という小説です)。

ま、科学者の苦言に耳を貸すと、都合が悪くなることもたくさんありますからね。

けれども、その後、映画 『不都合な真実(An Inconvenient Truth)』 の生みの親ともいえる、アル・ゴア元副大統領なんかの努力の甲斐あって、ようやく、人間の活動が、地球の状態を変えているのだと、多くの人が気付き始めたようです。

今となっては、“global warming (地球温暖化)”という言葉は、ちょっとした流行語にもなっています。

ま、もともと科学的な人が多いシリコンバレーでは、環境保護に熱心な人も多いものですから、ソーラーパネルだとか、ハイブリッド車なんかは、全米でも一番売れていた方なんですね。この辺の人が、新しいテクノロジー大好きってこともあるでしょうか。

ところが、ここに来て、地球温暖化が世の常識となってくると、街中では、もっともっとたくさんのハイブリッド車を見かけるようになりました。

折しも、ガソリン価格も、夏に向かって急に吊り上げられる時期です。タイミングとしては絶好なのですね。


たとえば、こちらの車。これは、ハイブリッドとしては一番売れ筋の、トヨタのプリウスです。今となっては、シリコンバレーではベストセラー車となっているのです。

でも、なにやら、車体に文字が書いてありますね。

VTA OUTREACH Paratransit」。

これは、シリコンバレーのサンタクララ郡で営業する、VTA と呼ばれる公共の交通機関が運営するプログラムなのです。

Outreach (手を伸ばす)」という名前で、普段、外に出難い人たちの所にまでも出向いてあげるよ、という送迎サービスなのです。体が不自由な人や高齢者を対象に、安い値段で、送り迎えをしてくれるのです。
 病院とか、デイケアセンターとか、定期的に通う場所って、誰にでもありますよね。そこに通う足がないと、困ってしまいますもの。いつも家族に頼るわけにもいかないですしね。

このサービスは、サンタクララバレー中を網羅しているので、たくさんの車が必要です。だから、燃料代もバカになりません。そこで、燃費の悪い大型車から、こちらのプリウスに切り替え中なのです。環境にもやさしいですし、まさに一石二鳥です。

今はもう、街中で見かける Outreach の車は、ほとんどプリウスになってしまいました。

ただし、こういった車は、例外ですね。

車椅子を利用する人たちを、エレベーター式に乗せたり、降ろしたりするタイプの大型車。

残念ですが、こればっかりは、プリウスには難しいです。


ところで、以前、こんなこともご紹介いたしました。

カリフォルニアのハイウェイには、「ダイヤモンドレーン」なる名前の、特別な車線があって、朝夕の通勤時間帯は、ふたりとか3人以上乗っていないと、運転できなくなると。

でも、プリウスや、ホンダのシビック・ハイブリッドみたいな車には、特別な待遇があるのだと。
 州が認めたハイブリッド車だったら、このダイヤモンドレーンをひとりで走ってもいいという優遇措置が。

この場合、ドライバーは、特権を持っていることを証明するため、こんな風な黄色いステッカーを州の運輸局から発行してもらうことになっているのです。が、近頃、恐れていた事態が起き始めているのです。

そう、黄色いステッカーの盗難事件が起きているのです。

事の発端は、今年1月。ステッカーの応募者が、発行数8万5千人分を越えたときでした。もう応募資格人数を超えているので、条例を改正しない限り、新しいステッカーは発行されません(もともとは7万5千人分だった上限を、一度増やしているので、再度改定するのは難しいかもしれませんね)。

ということは、需要と供給の関係で、ステッカーの価値はどんどん上がる。だって、これがあると、フリーウェイのノロノロ運転を尻目に、スイスイと気持ちよく運転できるのですから。


そんなこんなで、「ダイヤモンドレーンの違反ですよ」と警官に止められるまで、自分のステッカーが盗まれているなんて、まったく気付いていないドライバーがちらほら現れているのです。

いや、このステッカーには、特殊加工がしてあるんですよ。盗まれないようにと、無理にはがした場合、黄色い表面部分がシワシワに縮むんだそうです。

それでも、オークションサイトなんかでは、高い値で売りに出されるステッカーが後を絶たないのです。どうやってくすねたのかは、不明ですけれど。

そういえば、こんなのを見たことがありますよ。表面の黄色いシールがなくなって、土台のグレー部分だけが残っているステッカーを。きっと誰かが盗もうとしたんでしょうね。

わたしは、最初にステッカー制度を耳にしたとき、自分だったら、大事な新車にステッカーなんか貼らないぞと思ったんです。きっと、マグネット式にして、取り外し可能にするだろうって。

でも、そんなのは、とんでもないですね。すぐに盗まれる・・・

わたしが甘かったんですね。

追記:実は、この黄色いステッカーは、車に付いたまま転売されるものなのだそうです。ドライバーに与えられたものではなく、お利口さんな車に与えられたという理由で。
 だから、はがす場合のことは、心配しなくていいのですね。

なんでも、ステッカーが付いていると、普通よりも4000ドル(約48万円)くらいは高く売れるという話もあるそうな。

一方、電気自動車と天然ガス自動車は、ステッカーがなくても、ダイヤモンドレーンをひとりで運転できるそうですよ。

それから、タイムリーに、こんな話題もありましたね。トヨタ・プリウスの累計販売台数が、世界で100万台を超えたと。
 日本では、10年前に売り出されたプリウス。北米とヨーロッパでは7年前に登場していますが、今では、アメリカ市場で売れるハイブリッド車の4割強がプリウスだそうです。
 プリウス強し!

チェンバロの響き

お友達の娘さんが発表会だというので、聴かせていただこうと、パロアルトにある教会に出向きました。

娘さんは、チェンバロをなさっているのです。

ピアノを弾く人は多いけれど、チェンバロを弾く人って、珍しいですよね。わたしなどは、演奏を生で聴いた記憶はないし、楽器を近くで見たのも初めてです。

もちろん、CDなんかでチェンバロの音はよく知っていますが、生で聴くと、録音以上に美しい音色なのです。

もっと細やかな表情のある、繊細な音色。

それに、楽器自体が、芸術品のように美しい。


この演奏会は、もともとピアノの発表会。チェンバロ演奏なんて、このお友達の娘さんただひとりです。

会場の教会の講堂には、ピアノはあるけれど、チェンバロなんてありません。だから、お友達がわざわざ自宅から運んでくるのです。

普通、チェンバロという楽器は、ピアノを何年かやって、それから転向するものなんだそうです。でも、父親であるお友達がフルートの名士だったことと、彼の家にはチェンバロしかないということで、先生もチェンバロの弟子として採ってくれたそうなのです。

娘さんの発表会での演奏も、もう4回目だそうで、人前での演奏にも慣れているご様子。
 堂々とした演奏で、その品のいい音色と古式ゆかしい旋律を楽しませてもらいました。

とても心地いいので、できればもっと長い曲にしてほしいと思ったくらい。


他の生徒さんたちも、自分たちの演奏をとても楽しんでいたような印象でした。

みんな2週間前に曲目を決めたばかりで、必ずしも練習期間は充分ではなかったようですが、それでも、そんなことにはめげず、曲づくりがとてもお上手でした。

そう、アメリカ人の子供たちの演奏を聴いていると、いつも思うのです。

それは、日本人の子に比べて、ミスタッチは多いし、テンポも必ずしも正確ではありません。それでも、ちゃんと歌になっているのです。

自分はこう弾いてみたいっていう意志がはっきりわかる。だから、聴いている方も、気持ちよく、楽しく聴けるのかもしれません。

大きな子達は、お馴染みのクラシックの曲が多かったけれど、小さい子の中には、映画の主題歌、ヘンリー・マンシーニの「ピンク・パンサー」っていうのもありました。
 パンチの効いた低音で始まる曲、それが、なかなかさまになっているのです。

自分自身のことを振り返ってみると、子供の頃は、言われた通りに弾くのに必死でした。それに、課題の中には嫌いな曲もあるものだから、しぶしぶ弾いていた事もありました。そんなのでは、「歌う」って気持ちになれないですものね。

この小さな演奏家たちが集まる、マリオン先生の発表会。次回は、ロシア音楽を特集するそうです。


ところで、最近、ハーモニカを手に入れました。いえ、自分で買ったのではなく、連れ合いが景品でハーモニカを選んだのです。

でも、家に届くと、それはもうわたしの物。

ピッカピカのハーモニカ。

嬉しくなって、すぐに吹き始めました。

ハーモニカって、小学校の頃にやりましたよね。ぜんぜん覚えていないかと思ったのに、スラスラとハ長調の音階が吹けるのです。
 レとファとラとシは、息を吸うんですよ。覚えてますか?

すぐに何かを吹こうと思って、自然と出てきたのが「チューリップ」。そう、咲いた、咲いた、チューリップの花がという歌。

それから、「七つの子」。カ〜ラ〜ス、なぜなくの?っていう野口雨情の詞の歌。

そして、海は広いな、大きいなぁの「海」。

多分、小学校では、こういう曲目をやっていたのでしょうね。

もう長年やってないのに、どうして覚えてるんでしょうね。「三つ子の魂百まで」とか「スズメ百まで踊り忘れず」って、ほんとのことなんですね。


昔の歌集を引っ張り出して、ハ長調に変調しながら、次から次へと吹いてみましたよ。
 「花」、「夏の思い出」、「赤とんぼ」、それから「幸せなら手をたたこう」。
 音楽理論なんてまったくわからないのに、こういう変調はなぜかできるんですよね。

そして、思いました。チェンバロしかり、ハーモニカしかり、新しい楽器もいいなって。

とくに、ハーモニカって簡単に持ち運べるでしょ。だから、外国に持って行って、日本の曲を吹いてあげられるかもって。

7月にトルコに行くんです。だから、そのときに、ハーモニカを持って行こうかな、とただいま思案中です。でも、その前に、ちょっと練習しなくちゃいけませんね。

空が白っぽいです

例年、5月末ともなると、シリコンバレーの雨季はようやく終わりを迎えます。

今年は、5月の初め頃には、雨がまったく降らなくなって、辺りはもう真っ茶色。

これから10月まで、一滴も雨の降らない乾季が続くのですね。


そんな季節の変わり目になると、そろそろ空の色が気になってきます。

今日も、こんな感じでした。

サンラクララバレーの盆地はかすんで見えないし、空も、いつものように真っ青ではありません。

日本では、最近、中国からの黄砂の影響で、空気が黄色くよどんでいると聞きました。でも、こちらシリコンバレーでは、霧のように、辺りが白っぽくなるのです。

そう、天気予報士の話によると、これは、霧のせいだそうです。

夜の間、海から押し寄せた霧が、内陸部まで覆い隠す。そして、昼間は、太陽の光で暖まってだんだんと晴れてくるけれど、夜になると、また霧が出てくる。

だから、日中、太陽が照り付けるわりに、気温が上がらない。まだまだ、真夏には遠いのですね。


でも、今日の空の白さには、別の理由も手伝っているみたいです。

それは、山火事。

雨季が終わると、途端に辺りは乾燥し、自然発火しやすくなるのですね。

今日の午後、この場所からは火の手は見えませんでしたが、消火ヘリコプターが飛んでいるのが見えました。

消防車にも何台も追い抜かれました。

こちらは、5月上旬に見かけた、我が家の近くの山火事です。

家の後ろから煙がモクモク上がっているので、最初は家が燃えているのかと思いました。(空がとても青く見えるのは、車のフロントガラスのせいです。)

高台から見下ろすと、住宅地の裏手の空き地が燃えているのが見えました。幸い、火の手は沈下し、煙ばかりになっています。

けれども、煙は住宅の裏庭に迫り、もう少しで、庭のフェンスを飛び越えそうです。
 この日は土曜日でしたので、家でのんびりしていた人たちは、さぞかしびっくりしたでしょうね。

この辺りは、昔は牛の放牧場だらけだった、とお話したことがありましたが、「草原が燃えると、そこは開発業者に売られて住宅地になる」のが、世の常なのです。

きっと、この黒焦げの部分は、来年あたりは家で埋め尽くされることでしょう。


ところで、カリフォルニアは山火事が多いことで有名ですよね。

実は、カリフォルニアの草地は始末が悪く、根っこが導火線のように、縦横無尽に地中に埋まっているのです。
 ひとたび、自然発火すると、この導火線を伝って、次から次へと枯れた草に引火する。だから、消し止めるのが非常に厄介なのですね。

こちらの写真は、5月上旬の南カリフォルニアの山火事です。このときは、ロスアンジェルスの街を見下ろす山手の公園が燃え続け、近くのロスアンジェルス動物園と天体観測所も閉鎖となったそうです。

同じ週、ロスアンジェルスの南の海に浮かぶ観光名所、サンタ・カタリナ島でも、大きな山火事がありました。幸い、歴史的な建物は無事だったそうですが、千世帯ほどが、数日間の避難生活を送ったそうです。

これを受けて、大手保険会社のオールステート(Allstate)は、カリフォルニアでの住宅保険の新規加入をストップしてしまいました。火事や地震が立て続けに起こると、保険会社の支出が増えるばっかりですからね。


なんでも、いかに乾燥したカリフォルニアでも、5月上旬に、こんなに大規模な山火事があることは珍しいそうです。今年は異常なのです。

それは、とりもなおさず、冬の間、雨がまったく足りなかったことを表しているんですね。
 水が足りないので、地べたがカンカンに乾いているのです(英語では、“bone dry” つまり 「骨のように乾いている」 という表現をするんですよ)。

しかも、今年は、シエラネバダ山脈などの高い山に雪が少なかったので、雪解け水も不足しています。だから、あちらこちらで水不足になることが予想されています。

そろそろ、海沿いの街サンタクルーズでは、日中に、庭の水撒きをしてはいけない規則ができあがっているはずです。昼間は水が蒸発しやすいので、水撒きをしても、無駄になるばかりですからね。

サンフランシスコなどでも、今年の夏は、給水制限があるだろうと言われています。


一方、シリコンバレーのあるサンタクララ郡では、そんなに簡単には、水不足にならないそうです。

それは、サンタクララ郡には、こんな風な貯水池がたくさんかるからなんです。

でも、これは、普通の水源地ではないんですよ。実は、水を地中に誘導するための池なんだそうです。

まあ、地面の下の地層に、水源地を作っているようなものなのですね。

この地中の水源地は、“groundwater basin (地下水の盆地)” とか “aquifer (帯水層)” とか呼ばれるそうですが、ラッキーなことに、サンタクララ郡は、ちょうど大きな「帯水層」の上に位置しているのです。

他の地域だと、固い岩盤だったり、帯水層があっても水質が悪かったりと、こんな絶好の条件は揃わないらしいです。


けれども、水の恩恵にあずかれるのは、自然の条件ばかりではないのですね。

ご存じのように、サンタクララ郡は、昔は農業で栄えた所です。そして、作物を育てるには、たくさんの水が必要です。
 その水を地下から汲み上げすぎて、20世紀初頭には、井戸水が枯れ、地盤沈下が見られるようになりました。

そこで、1930年代以降、計画的にダムを建設し、地下水を少しずつ貯め始め、そして、ようやく、今の状態にまでなったそうです。

そんなこんなで、今では、サンタクララ郡で使われる水の4割は、この地中の水源地から来ているそうです。
 だから、一年くらい雨が降らなくても、大丈夫なんですね。ありがたや、ありがたや。

自然の好条件と、先人の知恵のコンビネーション。

恵まれた環境ではありますが、やっぱり、水は大切に使わなければいけませんよね。

追記:ひとつ思い出したことがあります。

なんでも、シリコンバレーで一番大きな街サンノゼの年間平均降雨量は、モロッコと同じなんだそうです。

まあ、シリコンバレーが乾燥していることは確かですが、ちょっと驚きですよね!

アメリカの投資:お金の流れ先は?

Vol. 94

アメリカの投資:お金の流れ先は?

待ちに待った、5月末の「戦没者追悼記念日」の3連休も終わり、アメリカは夏に向かって、どんどん心が浮かれ立つ季節となりました。
そう、戦没者追悼記念日(メモリアルデー)は、バーベキューパーティーの始まりの日ともされています。もう雨季が終わってしまったシリコンバレーでも、あちらこちらでバーベキューの集いが催されます。

そんなウキウキモードの晩春ですが、今月は、ちょっとシビアに、投資のお話でもいたしましょうか。どこにいても、何をするにも、先立つものが必要ですね。そのお金が、アメリカではいったいどんなところに流れているのか、そんな風なお話です。

<お金持ちはだあれ?>
4月のある金曜日、こんなニュースが流れました。アメリカの電話会社としては最大手のAT&T(旧SBC)で、CEO兼取締役会会長のエドワード・ウィタカー氏が、6月3日付けで現職を退任すると。
まあ、大物の辞任はいつも話題となるものですが、それにも増して人々の興味を誘ったのは、退職金の額。まず、退職報酬として7千4百万ドル、年金の形で8千5百万ドルと、合計1億6千万ドル(約190億円)が保障されている上、生涯続く医療保険、住宅費・交通費支給、会社のジェット機を月に10時間使える権利など、いろんな特典も付いているそうです。

そこで、みんなの関心は、この一点に集中します。果たしてウィタカー氏は、これだけもらえる権利はあるのか?と。

そもそも、このウィタカー氏とは、何者でしょう?まあ、わたしは直接お会いしたこともありませんし、テキサス辺りのことはよくわかりません。が、いろんな話を聞くと、かなりの功績があったことは確かなのです。
ウィタカー氏は、現在、65歳。1963年に、中規模デパートのシアーズに施設技術者として入社した後、1988年、テキサスに本拠を置くサウスウェスタン・ベル(Southwestern Bell)に社長として招かれます。その2年後、CEO兼取締役会会長に就任して以来、ずっとこの会社でご奉公してきました。

1984年1月、全米を網羅するAT&Tが7つの地域電話会社に分割されときは、南西部を担当するサウスウェスタン・ベルは、一番規模が小さい地域電話サービスでした。
ところが、転機は1995年にやってきます。規制緩和も手伝い、アメリカ全土でのサービスを目指すサウスウェスタン・ベルは、この年、SBCと名前を変え、5年のうちに、西海岸のパシフィック・テレシス(パシフィック・ベル)、中部のアメリテックと、巨大な買収を繰り返します。
勢いに乗るSBCは、ついに一昨年、長距離電話に専念していた親方AT&Tを買収し、そして昨年末、南東部で営業するベルサウスの買収も完了しました。とくにベルサウスの買収は、860億ドル(約10兆円)と、テレコム業界でも特筆すべき巨額の吸収合併となっています。
名前も親しみ深いAT&Tと変更し、この新生AT&Tは、全米22州で6千7百万の顧客を持つ、最大の電話会社となったのでした。
ちなみに、現在、アメリカの電話会社には地域・長距離の区別はなく、東海岸のベル電話会社をベースとしたVerizon、中西部ベル会社をベースとしたQwest、そして新生AT&Tの3社に淘汰されています。

従来の電話サービスに留まらず、携帯電話サービスの方でも、SBCは頭角を現します。SBCとベルサウス2社が出資するCingular Wirelessは、3年前にAT&T Wirelessを買収し、全米最大の携帯電話会社となっていましたが、SBCのベルサウス買収に伴い、Cingularも正式にSBC(新生AT&T)の傘下となりました。名前もAT&Tと変更しています。
現在、新生AT&Tは、従来の電話サービス、携帯電話サービス、ブロードバンド、そして、”U-verse”と銘打ったIPテレビ(ネットテレビ)を提供する総合企業となっています(”U-verse”については、今年1月のCESレポートでご紹介しております)。

そして、このSBCの急成長の影にあるのが、ウィタカー氏。技術者出身でありながら、優れた商才と展望を持つ御仁だったようです。SBCを語る上では、必ず名前が上がるほどの人物なのですね。だから、退職金も、奮発して190億円。

以前もお話いたしましたが、アメリカの企業では、規模の大小は問わず、有能な人は高いお金で繋ぎとめておきましょう、という根本思想があるのですね。「人に投資する」とでもいうのでしょうか。だから、引き抜きの場合は、目の飛び出るような高額のサラリーやストックオプションを保障するし、業績が上がれば、それだけの見返りは当たり前なわけです。その思想には、階級の違いはありません。
ところが、上に行けば行くほど、もともとのサラリーが高いものだから、特別報酬もぐんと額が上がるわけです。そして、世間の注目の的となる。これだけ一個人に払うのだったら、何万人という元AT&T(SBC)社員の退職年金の面倒が看られるんじゃないの?という批判が沸き起こる。

まあ、不平等を嫌うわたしとしては、個人的には、こう思うのです。充分に財産を持っている人に、それ以上お金を払うつもりがあったら、それを会社の設備投資にまわしたらどうですか?と。
だいたい、AT&Tは、東のVerizonに比べて、一般家庭への光ファイバーの敷設が驚くほど遅れているのです。ま、年間に1兆円以上というAT&Tの設備投資に比べれば、190億円は微々たる額かもしれません。けれども、せめて、ブロードバンドがのろいシリコンバレーに、転用してほしいなぁと思うのです。

<会社の持ち主ってだあれ?>
以前、こんなことを書きました。英語でも、単語を短く省略する習慣があるけれど、「PE」というと、3つくらいはすぐに思い付くよと。
まず、教育現場ではPhysical Education(体育)、医療現場ではPulmonary Embolism(肺の組織壊死)、そして、株式市場ではPrice Earnings ratio(株価収益率)。
その「PE」という略語に、近頃、もうひとつ有名なものが誕生しました。それは、Private Equity fund。訳して、投資ファンド。つまり、企業などに投資する基金のことですね(「投資ファンド」というと、かなり広い意味を含むので、限定して「プライベート・エクイティ・ファンド」と訳される場合もあるようです)。

普通、庶民の投資というと、銀行や証券会社を通して投資信託にお金を投じたり、株式市場に公開された会社の株をわずかに買って、やれ、株価が上がった、下がったと一喜一憂したりしているわけです。けれども、投資ファンドは、ちょっと敷居が高く、投資する側は、公的年金ファンドや企業年金ファンド、それから、個人の財団など、お金がうなっている団体が多いようです。
どうしてPrivate Equityと呼ばれているかというと、投資先としては、公開している”public”の企業よりも、非公開である”private”の企業体が圧倒的に多いからだそうです。起業されたばかりのベンチャー企業だとか、かなりの実績はあるけれど、公開前でお金が必要な企業だとか、そういった会社が投資の対象となっているのです。
この点では、ベンチャー企業を後押しする「ベンチャー・キャピタル」だとか、「エンジェル」と呼ばれる個人投資家たちも、広義のPrivate Equityの仲間とされています。
今年、アメリカ市場では、2000年にはじけたインターネットバブル以来、最大の株式公開(IPO)の年となるのではと期待されています。そういった「IPO風」の恩恵を、投資ファンドは充分に満喫することになるのかもしれません。

一方、ファンドの投資先は、企業のような半分無形のものばかりではありません。たとえば、魅力的な不動産だとか、著名な画家の絵画だとか、そんな有形のものも対象となっています。近頃、Sotheby’sとかChristie’sとか、有名なオークションの場では、ファンドの投資家たちの代理人がウヨウヨしているとか。 まあ、IPO株しかり、有名絵画しかり、いうなれば、一般人が近寄ることのできない「秘密の世界」でしょうか。

そして、プライベート・エクイティ・ファンドの投資先としては、有名企業というのもあります。「巨額の買収(mega buy-out)」とも呼ばれている分野の投資で、つい先日も、こんなファンドの名前を耳にしましたね。ダイムラー・クライスラーからクライスラー部門を買い取った、サーベラス・キャピタル・マネージメント。
サーベラスを率いるのは、元財務省長官のジョン・スノー氏。クライスラー(Chrysler)、ジープ(Jeep)、ドッジ(Dodge)という3つのブランドを持つクライスラーの、根本的な改革を目指します。
昨年は、全米の新車販売台数の13パーセントまでシェアが落ちたクライスラー。トヨタのような輸入車に押され気味のアメリカ市場で、苦戦を強いられています。現に、環境問題にうるさいシリコンバレーでは、わずか6パーセントのシェアと落ち込んでいるのですが、これが全米に波及しないとは言い切れません。
サーベラスがそのクライスラーに何を見出したのか、今後の方針転換に、大いに興味が湧くところです。

ところで、近頃、アメリカでは、このような投資ファンドによる企業買収が相次いでいるのです。とくに食品業界は、ファンドの侵食が激しい分野のようですが、有名なところでは、ダンキン・ドーナッツ(Dunkin’ Donuts)というのがあります。
そして、現在、身売りを考えている中には、ファストフードレストランのウェンディーズ(Wendy’s International)や、アウトバックス・ステーキハウスを持つOSI Restaurant Partnersがあります。
一方、日本では長蛇の列ができるアイスクリーム屋さんコールドストーン(Cold Stone)は、身売りするよりも、ステーキハウスやサンドイッチチェーンを持つカハラ(Kahala)と合併し、もっともっとフランチャイズを増やしていく計画のようです。
けれども、こういった独立性を守る企業は、ファンドの巨大な貯金箱を相手に、ある意味、時代に真っ向から挑戦することになるのかもしれません。

そんな潮流を見ていると、ふと、大きな疑問が湧きませんか。投資ファンドが企業の持ち主になるって、いったいどういうこと?と。

だいたい、企業というものは、ある特定の分野で、利益を目的に営業する団体ですから、「営利目的」という点では、投資ファンドの目指すところと合致しているわけです。でも、ここで大きな違いがありますよね。
企業は、配当や株価の高騰という形で、投資家へ利益の還元を行うわけですが、頭にあるのは、投資家のことばかりではありません。従業員だって、会社にしてみれば、立派な家族みたいなものです。経営者と従業員が一丸となって、目標に向かってまい進する、それが今までの企業の理念でした。
勿論、従業員にとっても、会社は、生活の母体のようなものです。自分の時間のほとんどを会社で過ごすわけですし、仕事というものが、ある種、自分のアイデンティティーとか存在価値ともなり得るわけです。
けれども、一般的に投資ファンドは、投資家への見返りを第一に考えているはずです。そうなってくると、会社は単なる営利の道具であって、製品の質や誇りだとか、従業員への配慮だとか、企業人としての社会責任だとか、そんなものは二の次となって来るのではないでしょうか。

実は、アメリカでも、近頃、この問題が取り沙汰されてきました。投資ファンドが社会に与える影響はどんなものなのだろうと。
ある人は、企業業績が安定するなら、それは従業員にとっても喜ばしいことだと言い、ある人は、投資ファンドの目は投資家ばかりに向いていて、従業員のことは頭にないと言い、ある人は、誰が企業の持ち主であろうと、そんなことは関係がないと言い放ちます。
けれども、個人的には、従業員の会社に対する忠誠心や、将来的な雇用安定といった要因に、大きく影響が出てくるのではないかと思うのです。

先述のコールドストーン・アイスクリームのCEOダグ・ドゥーシー氏は、自分たちには、投資ファンドに比べて強みがあると言います。なぜなら、「我々は、自分たちのブランドを愛している」と。

利益を追求するのが、資本主義(capitalism)の原点。その資本主義のお里で、「労働」の意味合いが、本質的に変わりつつあるように思えるのです。

<スパイはだあれ?>
先日、地元紙マーキュリー新聞のビジネス欄の片隅に、ちょっと目を引く見出しが載っていました。「スプリント・ネクステルが、政府のテレコム契約からシャットアウトされた」と。

まあ、これだけ読んでいると、普通の契約の話かなと思うわけです。提示価格が他社よりも高かったので、もっと安い会社が選ばれたのかなと。
でも、中身を読んでいくと、これはちょっと怪しいぞと、頭の中で警戒警報が高らかに鳴らされるのです。

そもそも、この契約とは、国土安全保障省や財務省といった巨大な政府機関のコミュニケーションインフラを、10年がかりで総とっかえするもの。”Networx Universal”と銘打たれ、すべてが完了すると、480億ドル(約6兆円)の規模ともなります。
契約を担当する政府機関の発表では、スプリント・ネクステルが締め出しを食らい、AT&T、Verizon、Qwestの3社が、巨大なぼた餅を分け合うこととなりました。

締め出されたスプリント・ネクステル(Sprint Nextel)は、3年前にSprintとNextelという2社が合併してできた電話会社で、携帯キャリアとしてはAT&T、Verizon Wirelessに次ぐ3番手という、れっきとした会社なのです。
母体となるSprintは、AT&Tの対抗馬として1899年に設立された由緒正しい電話会社で、政府関連事業も、過去20年に渡って無難にこなしてきた実績があるのです。

どうして、そのスプリント・ネクステルが外されたのか?政府の担当部署は、理由は明らかにしてはいませんが、個人的には、こう勘ぐっているのです。政府のスパイ活動への協力に難色を示したからではないかと。

ま、これは、あくまでも個人の勝手な想像であり、確たる証拠はありませんが、スプリント・ネクステルは、国民のプライバシーと人権を守る立場から、政府の望むようなネットワーク構築の提案をしなかったのではないでしょうか。
他の3社は、以前、USA Today紙にもすっぱ抜かれたように、国の諜報機関に対し、契約者の情報を進んで開示しているようなのです。国内外を問わず、誰が、どこに、どの頻度でコンタクトしているかなどは、筒抜けなのですね。合わせて、盗聴もなされているのかもしれません。

もっと空恐ろしい話があります。現在、サンフランシスコの連邦裁判所に出されている、元AT&T社員の提訴の内容です。
彼は、ネットワーク担当の技術者だったのですが、勤めていたサンフランシスコのAT&Tビルの中には秘密の扉があって、防衛省の諜報機関NSAから許可された、ごく一部の人間しか中に入れないといいます。
この「641A」号室は、NSAの盗聴ルームになっていて、インターネットのライブトラフィックが逐一解析されているそうです。メール、ネットサーフィン、金融機関の報告書、ビデオ、IP電話など、インターネットで行う処理のすべてがNSAに監視されているというのです。
なんでも、AT&Tのネットワークケーブルにはスプリッターが施され、真っ二つに分かれた一本はみんなのネットワークへ、もう一本は641A号室に引き込まれているのだとか。

こういった話はAT&Tに留まらず、昨年以降、似たような諜報活動の疑いのため、ベルサウス(現AT&T)、MCI(現Verizon)、Verizonの3社が法廷で訴えられているそうです。

現在、米国内の諜報活動は、外国のテロリストと関係を持つ者のみを対象とすると、FISA(ファイザ)という法律で厳しく制限されています。しかも、FISA裁判所の令状がなければ、盗聴は行えない原則です(FISAとは、1978年に制定されたForeign Intelligence Surveillance Actの略です)。
しかし、令状なしの盗聴が行われてきたのは周知の事実ですし、これに対し、ホワイトハウスは、FISAを改定し、国内のスパイ活動をやり易くしようと画策中です。

2001年の同時テロ以降、「テロ対策」という大義名分のもと、国内外でいろんな活動がなされてきました。その陰で、充分に潤ってきた企業や個人がいることを思うと、まあ、アメリカという国は、ファンドの投資先みたいなものでしょうか。
ファンドを率いるのは、ホワイトハウス。恩恵にあずかる投資家は、もろもろの企業。そして、アメリカという会社であくせく働く従業員は、国民といったところでしょうか。

<おまけのお話:お金はいったいどこへ?>
世の中には、不思議な投資があるものですよ。ごく最近知ったのですが、こんな金儲けがあるんです。
不動産や絵画、それから家畜なんかを売って、儲けが出たとしますよね。普通は、この儲けに税金がかかります。でも、180日以内に、売ったお金で似たような資産を購入すると、儲けた分に税金がかからないらしいのです。これを繰り返すと、税金なしで、資産がどんどん大きくなっていきますよね。
これは立派に合法的な金儲けの方法でして、アメリカの税金法の条項を取って、”1031 exchange”と呼ばれているそうです。ひとつの資産を売って、また同種の資産を買うのだから、これは”exchange(交換)”なのだと定義されているようです。

ただし、税金がかからないので、税務署も「わしゃ知らん」といった態度。だから、誰もこの業界を取り締まっていない。そこで、問題が起きてしまうのです。

そもそも、不動産や絵画のような高額の取引には、第三者の金融機関が一時的にお金を預かる規則になっていて、すべての書類手続きが完了しないと、売主もお金に手を付けてはいけない仕組みになっています。
通常の高額取引だと、銀行や権利会社(title company)と呼ばれる金融機関が、責任を持ってお金を預かります。ところが、この”1031 exchange”の場合、取締りがない分、誰でも仲介金融業者になり易く、しかも、手数料が安いことを理由に、利用する売主も多い。

そんな中、ベイエリアで、こんなことが起きてしまいました。”1031 exchange”の仕組みを利用し、不動産を売った人たちのお金が、仲介業者の倒産と同時に、どこかへごっそりと消えてしまった・・・

被害に遭った人は、だいたいお金持ちが多いようで、被害額も億単位。けれども、中には、50年も前に買った不動産を元手にビルを買おうとした全額がドロンしてしまった人もいたようです。

まあ、アメリカという国は、何でもありの自由の国。でも、その一方で、何が起こるかわからない、空恐ろしい国でもありますね。

夏来 潤(なつき じゅん)

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