12月12日 vs. 12月21日

もう一年も「終わり」が近づいていますが、12月21日って、アメリカではちょっとした騒ぎでしたよ。

そう、古代マヤ暦が示す「世の終焉(しゅうえん)」だったそうで。

ま、みなさん本気で信じているというよりも、「あ~、世の終わりが金曜日で残念(せめて月曜日だったら、週末のあと会社に行かなくてもいいのに)・・・」と、ジョークが飛び交ったものでした。

メキシコやグアテマラに花開いた古代マヤ文明は、優れた天文学の知識で正確なカレンダーをつくりあげたことで有名ですので、彼らの暦が「終焉」を告げると、なんとなく不気味ではありましたよね。

(漫画は、向こう千年3012年までのマヤ暦を運ぶサンタさん。Cartoon by Tom Toles / Washington Post on Christmas Day, 2012)


おかげで、12月12日なんて「みそっかす」!

そう、2012年12月12日というと、12/12/12 と「12」がゾロ目になる、おめでたい日。(米語の表記だと、12/12/’12 となり、月・日付のあと最後の12が年数を表します)

もともと「12」という数字はおめでたい数だそうですが、それがゾロ目でもっとめでたい。

ま、世の中、結婚式が増えたり、帝王切開で赤ちゃんを産む数が増えたりと、なんとなく騒がしい日ではありました。

こちらの写真は、12月12日、シリコンバレー・サンタクララ郡の役所で開かれた合同結婚式(a mass wedding)。
 手前は、ブライアンさんとニコルさんの幸せカップルですが、このホールでは60組が、役所のチャペルでは34組が結婚式を挙げたそうです。

普段は、役所のチャペルで17組というのが平均だそうですよ。
(Photo by Lipo Ching, the San Jose Mercury News, December 13th, 2012)

以前も「今日は11月11日」というお話を書いたことがありますが、ゾロ目の日には、縁起をかついで結婚式や出産が増えるんですよね。

それでも、前回のゾロ目だった2011年11月11日よりは、注目度は低かった!

なぜなら、みなさん、マヤ暦の12月21日に気を取られていたから!

次回のゾロ目は、2022年2月2日(2/2/22)まで来ないというのに。

そして、純粋な同じ数のゾロ目というと、2101年1月1日(1/1/1)まで来ないのに・・・。

まあ、21世紀に入ると、毎年ゾロ目がやってきましたよね。
 2001年1月1日(1/1/1
 2002年2月2日(2/2/2)に始まって
 昨年の2011年11月11日(11/11/11
 今年の2012年12月12日(12/12/12) と続きました

こんな風に、ずっと甘やかされてきたことも良くなかったのでしょうね。そう、「毎年ゾロ目はやって来るさ」と慣らされてしまった・・・。

(写真は、12月12日、サンノゼ・マーキュリー新聞の一面に載った記事の見出し。マヤ暦の騒ぎのおかげで、おめでたい「12」という数がほとんど無視されていた、という内容です)


というわけで、マヤ暦の「終焉」だろうが何だろうが、12月21日の金曜日は、商売人にとっては、とっても大事な日でした。

なぜって、クリスマスを控える最後の週末だったから。

たとえば、デパートのMacy’s(メイシーズ)では、12月21日の早朝から24日のイヴの夜まで、ずう~っと店を開けっ放しにしていました。

そう、真夜中も開いている、80時間以上の「マラソン営業」!

アメリカって、日本のように「コンビニ(convenience store)」のシステムが広まっていないので、真夜中に営業しているお店って珍しいんですよね。しかも、デパートが開いているなんて、もっと珍しい。

Macy’sだけではなくて、おもちゃ専門店のToys “R” Us(トイザラス)も、負けずに88時間のマラソン営業を繰り広げました。

あいにく、シリコンバレーは雨が降り続く悪天候でしたが、最後の最後までクリスマスプレゼントを先延ばしにしていた人たちにとっては、ありがたい真夜中のショッピングとなりました。


そして、クリスマスが開けたら、またまたセールの日々がやって来るのです。

だって、気に入らないクリスマスプレゼントを返却(return)したり、他の品に交換(exchange)したり、いただいたギフトカードを使ったりって、お店に足を運ぶ人も多いでしょう。店舗にとっては、絶好のチャンスなのです。

さすがにクリスマスの日は、どこもお休みですが、次の「the day after Christmas(クリスマスの翌日)」からは、またまたセール解禁!

After Christmas Sale(アフタークリスマス・セール)
 Christmas Clearance(クリスマス・クリアランス)
 Year-end Clearance & Sale(年末クリアランス・セール)

などと、いろんな名前が付いていますが、結局のところ、お店の生き残りをかけた「歳末商戦」の真剣勝負!

近頃は、ヨーロッパ文化の影響なのか、アメリカの商品もすっかりオシャレになっています。
 ですから、そんな色とりどりの品々を見ているだけでも、ちょっとした気分転換にはなるでしょうか。


そんなわけで、まあ、商魂たくましいアメリカのお店ではありますが、クリスマスが開けて、サンフランシスコの街を歩いてみることにしました。

この時期、街はクリスマス休暇を利用した観光客であふれるのですが、ユニオンスクウェアのショッピングエリアは、地元の買い物客も詰めかけて、ちょっとした渋滞でした。

なにやら、みなさん大きくふくれた紙袋を持っていらっしゃいますが、「クリスマスのあとのセールは、ブラックフライデー(黒い金曜日)以上の特価なのよ!」 って、よくご存知なんでしょうね。

そうそう、10月からは、サンフランシスコのお店の紙袋が有料になりましたので、10セントを払いたくない方は「マイ・エコバッグ」をお持ちになってくださいね。

そして、ユニオンスクウェア脇のパウウェル通り(Powell Street)には、有名なケーブルカーも走っていますので、こちらも、みなさんのお目当てですね。

鈴なりに乗客がぶら下がって、ちょっと危なっかしい感じもしますが、「これをやってみたかった!」という方もたくさんいらっしゃるのでしょう。

これも休暇中のちょっとした「冒険」だとは思いますが、みなさん、どうぞお気をつけて!

オバマ家のお気に入り

アメリカでは、クリスマスには何かしらプレゼントをあげたり、もらったりするのが習慣となっています。

もちろん、「クリスマス=プレゼント」という構図は、日本でも多くの方が連想されることだと思います。

というわけで、今日の話題は「オバマ家のお気に入り」。

いえ、オバマ大統領ご夫妻にお会いしたことはないので、クリスマスプレゼントにご夫妻が欲していらっしゃったのではないか、と想像するモノです。

まずは、大統領ご自身。

今年は大統領選挙もありましたので、テレビにも大統領や共和党挑戦者ミット・ロムニー候補のパロディーがさんざん流れました。

そんな中、大統領ご自身がお気に入りなのは、『Key & Peele(キー&ピール)』というコメディー番組。

キーガン-マイケル・キーさんとジョーダン・ピールさんというコメディアン二人組の番組で、ケーブルテレビ局コメディー・セントラルが放映しています。

二人が登場する2、3分の短いスキットで構成されていて、テンポの速い、30分番組となっています。

今年1月にデビューしたわりに、9月には第2シーズン、11月末には第3シーズンが始まった人気番組ですが、何がそんなに受けているのかというと、「オバマ大統領の怒りの代弁者」というキャラクター。

英語で「anger translator(怒りの通訳)」と呼ばれる「Luther(ルーサー)」というキャラクターなのですが、ピールさん扮する(とっても冷静な)オバマ大統領の後ろに「背後霊」のように立ち、オバマ大統領のホンネを粗暴な言葉で代弁してあげる役なのです。

いつもオバマ大統領って冷静な感じがするではありませんか。でも、ホントは心の中で「毒づきたい」こともあるんじゃないの? と、キーさん扮する「ルーサー」が心の叫びを訴えてあげるんです。

ときにルーサーは飛び跳ねながら、意味不明なことを叫び、放送禁止用語(放映時にはピーッという音で消される)もどんどん飛び出してくるので、椅子に座って冷静沈着に物を語るオバマ大統領との対比が、ひどく滑稽なんですよ。

そして、オバマ大統領ご自身も気に入ってらっしゃる。

いえ、これはホントのお話です。だから、大統領ご自身が「ルーサー役」のキーさんに電話して、実際、ホワイトハウスに二人を招いて会われたそうなんです!!

大統領からの電話なんて、お二人もものすご~くびっくりしたそうですが、キーさんいわく「大統領は、テレビで見るよりも背が高く、クールでかっこ良かった」ということでした。

そんなわけで、今発売中の『キー&ピール』第1シーズンのDVDは、オバマ大統領だって欲しいと思っていらっしゃるんじゃないか、と勝手に想像してみたのでした。

(いえ、実は、わたし自身が欲しいんですけどね!)。


そして、奥方のミシェルさんといえば、実際にご所望の品があったのです。

いえ、クリスマスプレゼントだったかどうかはわかりませんが、11月中旬、ホワイトハウスから公共放送のPBS(Public Broadcasting Service)に電話があって、あるDVDをホワイトハウスにお届けしたそうですよ。

このミシェルさんご所望のDVDは、『Downton Abbey(ダウントン・アビー)』というイギリスのBBCが制作した歴史ドラマシリーズ。

20世紀初頭、イギリスの領主の館「ダウントン・アビー」で繰り広げられる、領主クラウリー家の人々と、館で働く方々のドラマです。

いわゆる、上階(upstairs)に住む一家と下の階(downstairs)で働く人々両方に焦点を当てた、「歴史小説」風のドラマなのです。

アメリカでは、本国イギリスにちょっと遅れて、2011年1月に放映が始まったのですが、今年(2012年)1月に第2シリーズが始まった頃には、かなりの人気となっていました。

登場人物が多いので、話に広がりがあるところも受けているのでしょう。

そして、間もなく1月から始まる第3シリーズを目前に、現在、話題沸騰中!

まあ、(真面目な番組の多い)公共放送の番組が、これほど話題になるとは誰も予想していなかったようですが、なにやら「ダウントン・アビーマニア」の間では、イギリスの上流階級をまねて「アフタヌーンティー・パーティー」も流行りつつあるとか!

イギリスの「お紅茶」とスコーンを片手に、レディーたちは何を語らうのでしょうか?


1912年、タイタニック号の沈没に端を発する「跡取り探し」から始まるオリジナルシリーズは、第2シリーズでは、第一次世界大戦やスペイン風邪の大流行(the 1918 Spanish flu pandemic)といった悲劇を乗り越え、これから身分制度の崩壊や女性の社会進出と、世の激変期へと発展していきます。

時代物が好きな人にも、恋愛物が好きな人にも、社会派が好きな人にも、かなり「噛みごたえ」のあるドラマとなっているのです。

何を隠そう、わたし自身もハマっていて、昨年初め、手術をして歩くのもままならない生活を送っていた頃から、「未知の世界」イギリスのお話に夢中になってしまったのでした。
(昨年11月にオリエント急行でイギリスに行くことになったのも、このドラマの影響なんです!!)

まあ、華やかな上階とは裏腹に、下の階で働かれる執事(butler)やハウスキーパー(housekeeper)、料理人やメイドさんといった方々は、とても大変だったんだなぁと実感できたりするんですよね(なにせ朝から晩まで働くメイドさんは、2週間に半日しかお休みがなかったらしいですよ!)。

そういう意味では、まるで自分がドラマの中で生きているような感じでしょうか。

今年2月に書いた「Butler’s Pantry(執事の配膳室)」という英語のお話も、実は、このドラマで疑似体験したことだったのでした。


というわけで、ミシェルさんがどうして『ダウントン・アビー』にハマったのかはわかりませんが、きっとお好きなキャラクターがいらっしゃるのかもしれませんね。

だから、1月までは待てずに、第3シリーズをPBSに届けてもらったようです。

いえ、庶民は、1月6日のシリーズ初回まで待たないといけないんですよ。でも、ファーストレディーには、ドラマを先取りする「権力」があるんですねぇ。

ずるい、ずるい!!

追記: イギリスの写真は、「マナーハウス(領主の館)」で有名なコッツウォルズ地方にある the Lords of the Manor(ローズ・オブ・ザ・マナー)というホテルです。

それから、「ダウントン・アビー」という名前ですが、どうして「アビー(修道院)」と呼ばれているのかな? と疑問に思われた方もいらっしゃることでしょう。
 なんでも、16世紀半ば(1530年代)、時のイギリス王ヘンリー8世が「修道院解散令(the Dissolution of the Monasteries)」なるものを発令し、イギリス、ウェールズ、アイルランドじゅうの修道院や尼僧院を解体し、建物は貴族たちに譲ったりしたそうです。それまでの国教ローマカトリックから決裂し、イギリス国教会を打ち立てたヘンリー8世の確固たる意思表示だったのでしょう。
 ですから、貴族の館の中には修道院だったものもたくさんあって、「~アビー」と呼ばれるようになったということです。

2012年:「今年のビジネスパーソン」と「今年の人」

Vol. 161

2012年:「今年のビジネスパーソン」と「今年の人」

12月21日、古代マヤ暦が示す「世の終焉」も過ぎ去り、何事もなかったように夜は明けました。
多くの人が「にわかマヤ人」になっていたのが興味深いところですが、そんな今月は、一年を振り返って、ビジネス界と政界のお話をいたしましょう。

<今年のビジネスパーソン>
今年のシリコンバレーは、比較的おとなしかったような気もします。それは、もしかすると、スティーヴ・ジョブス氏の逝去のような異変がなかったからかもしれません。

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ちょっとした「事件」といえば、5月にソーシャルネットワークのフェイスブックが株式公開(IPO、Initial Public Offering)を果たしたわりに、思うように株価が伸びなかったばかりか、直後に急落・低迷と、予想外の結果となったことがありました。
年末に近づき、株価は若干上がっていますが、公開価格の38ドルにはほど遠い状態が続いています(しょせん公開価格が高過ぎたのだ、と解釈する向きが多いですね)。

けれども、年末になって、フェイスブックCEO(最高経営責任者)のマーク・ザッカーバーグ氏が、地元シリコンバレーの慈善団体に自社株1800万株(時価5億ドル、およそ400億円)を寄付すると発表し、会社のイメージは一瞬上がりました。

それから、ポータルサイト・ヤフーの「CEO交代劇」も、ちょっとした事件だったでしょうか。

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今年1月、ヤフーの取締役会は、ペイパル(オンライン支払いサービス、世界最大のオークションサイト・イーベイ傘下)のプレジデント、スコット・トンプソン氏をCEOとして招いたのですが、CEO就任時に証券取引委員会に提出した情報に誤りがあったと指摘され、わずか4ヶ月でCEOの座を追われるのです。
なんでも、大学時代に取得した学位が「会計学とコンピュータサイエンス」とされていたのに、実際にはコンピュータサイエンスの学位は持っていないということでした。

まあ、世の中、学歴を詐称する人は多いものですが、さすがにCEOとなると、たとえそれが「スタッフの記入ミス」だったにしても、重大な問題となるわけですね。
結局、トンプソン氏は赤恥はかいたものの、4ヶ月で7百万ドル(6億円近く)の報酬をもらったし、今は別のオンラインサービス(年会費を払うと2日で商品の無料発送をしてくれるShopRunner(ショップランナー))のCEOとなっているし、そんなに悪くはないでしょう。

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ここで「次のCEOは誰だろう?」と模索するヤフー取締役会が選んだのが、グーグルの有名人マリッサ・メイヤー氏(英語の発音は「マイヤー」氏)。

グーグル社員番号No. 20で、同社初の女性エンジニアだった彼女は、めきめきと頭角を現し、お家芸の検索エンジンに加えて、グーグル「ニュース」や「マップ」といった新しいサービスにかかわってきたスター選手です。
ウィスコンシン出身の「アメリカンギャル」らしいハツラツとした容貌と、ハキハキと論理的に物をおっしゃる語り口に、「グーグルの顔」との印象を持つユーザも多いはずです。

が、近年はグーグル社内で浮いた存在にもお見受けしたので、ヤフーCEO就任は、ご本人にとっても、ヤフーにとっても、喜ばしいことではないかと思うのです。
CEO就任後、初めての赤ちゃんマカリスターくんも生まれ、きっと、ますます充実したキャリアを歩まれることでしょう。

そんなシリコンバレーからは遠く離れて、フォーチュン誌が「今年のビジネスパーソン(The 2012 Businessperson of the Year)」に選んだのが、オンラインショップ・アマゾンの創設者/CEOジェフ・ベィゾズ氏(英語の発音は「ベィゾゥズ」に近いので、ここでは「ベィゾズ」氏と表記)。


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ご存じのように、アマゾンは最初は本を売ることからスタートしたオンラインショップですが、今はおもちゃ、家電・コンピュータ、家庭用品、衣服や食品と、買えないモノの方が少ないかもしれません。
タブレット製品「キンドル(Kindle)」も、白黒版4機種、カラー版(アンドロイドOS搭載)4機種と充実のラインアップで、電子書籍の売上もこれから伸びていくことでしょう。
ビジネスに向けては「アマゾン・ウェブサービス(Amazon Web Services)」を提供し、低コストのクラウドコンピューティングを利用して、誰もが商売を始めやすい環境を構築しています。

今年は、業績にともない株価の伸びも順調で、年初から4割増(12月24日時点)という好成績も、「今年のビジネスパーソン」受賞の一因となりました。

そんなアマゾンは、ご存じのとおり、シリコンバレーではなくワシントン州(西海岸カリフォルニアのふたつ上の州)に本拠を構えていて、そんなところからも、創設者ベィゾズ氏のこだわりが見えるような気もするのです。

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大きな目を見開いて、いつもハッハッと高笑いしている(軽い)イメージのベィゾズ氏ですが、個人的には秘かに尊敬していて、それはどうしてかというと、彼という人物が、アメリカの独立精神の優れた産物だと思うからです。
自分の頭で考え、それを具現化し、並々ならぬ意志で納得のいくまでやり通す。そんなアメリカの独立独歩の精神を見事に体現していらっしゃるように感じるのです。

フォーチュン誌の栄誉を受けて、インタビュー番組でこんな話をされていたのが印象的でした(11月16日放映の『チャーリー・ローズ』より)。

今になって、アマゾンの軌跡を振り返ってみると、最初が一番大変だったと。

全米じゅうを駆け巡り、なんとか22人の投資家から100万ドル(およそ1億円)の起業資金を集め、1994年にアマゾンを立ち上げたが、当初2、3年は、まったく軌道に乗らなくて苦労した。
なにせ、その頃は、インターネットの黎明期。会う人ごとに「インターネットとは何か」という初歩的な説明から始めなくてはならなかったから(ましてや、一般消費者にオンラインショッピングの概念を伝えるのはもっと難しかった)。

それでも、名門プリンストン大学でコンピュータサイエンスを学び、卒業後はウォールストリートの金融機関で数値解析プログラムを書いていた彼には、インターネットが爆発することは見通せた。
だから、自分もその巨大なチャンスに懸けようと、仕事を辞め、アマゾンの構想プランをひっさげ、全米行脚の旅に出た。

その努力が実を結び始めたのは、1997年頃。それからは、年々事業は拡大していって、近年は会社の株も「うなぎのぼり」というわけです。

ベィゾズ氏は、たとえば慈善事業への寄付や政治活動の資金援助にしても、自分なりの考えを貫く思想的に独立した方なのですが、経営会議のやり方ひとつをとっても、独創的な発想をお持ちのようです。

たとえば、重役が集まる会議は、「沈黙(silence)」から始まる。

いえ、べつにお祈りをするわけではありません。会議が始まる前の30分間、出席者はおとなしくテーブルについて目の前に置かれた資料を黙読し、質問やアイディアが浮かべば余白にメモをして、討論に備えるのです。

これは、箇条書きに簡略化された(パワーポイントなどの)プレゼンテーションに代わる方式で、プレゼンテーターが準備するのは、社内で「物語(narratives)」と呼ばれる、6ページにまとめられた文章。
ベィゾズ氏がおっしゃるに、「文章にすることによって、書き手の頭の中の論理的な流れがすっきりする」「プレゼンテーション形式では往々にして出席者の茶々が入るが、みんなに文章を読ませておくと、書き手の意図が最初から最後まで完全に伝わる」しかも「書き手は(苦労してまとめた)資料が読まれる様子を目の当たりにして、満足感を得る」など、利点はたくさんあるそうです。

箇条書きのプレゼンテーションでは、キャッチフレーズを見てわかったような気になるけれど、その実、みんなが理解を共有するために無駄に時間を費やすことがある。
サイエンスフィクションを始めとして、本が大好きで、文章が大好きなベィゾズ氏ならでは、の主張なのです。

ともすると、故スティーヴ・ジョブス氏のように「ワンマン」な部分があると指摘されるベィゾズ氏ですが、アマゾンに関しては「派閥争い」や「重役の脱出」といったドロドロとしたスキャンダルが聞こえてこないのは、組織がうまくまわっている証拠なのかもしれません。
それは、「ひとりひとりが発明者(inventor)であり、探求者(explorer)であれ」という創設者のミッションが、組織全員の頭に深く刻まれているからかもしれません。

つまり、ひとりひとりが自分の頭でしっかりと考えなさい、というミッション。

そうやって、組織のミッションや存在意義がみんなに伝わっていれば、自分のやるべきことは明確に見えてきて、おのずと組織はうまくまわるものかもしれません。

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インターネットに関しても、ベィゾズ氏は独創的な世界観をお持ちです。それは、ネットはいまだ「第一日目(Day One)」であるという信念。

つまり、ネットは始まったばかり。これから、どんどん伸びていく。

彼の主張はこうなのです。「Day One(デイ・ワン)」には、ネットの変化の速度は速く、「Day Two(デイ・トゥー、第二日目)」になると、失速する。が、いまだ失速するどころか加速しているので、まだまだ第一日目。

彼は、この Day One という言葉が大好きで、ワシントン州シアトルにある本社ビルにも「Day One North(デイ・ワン北棟)」「Day One South(デイ・ワン南棟)」という名が付けられているとか。

まあ、世の中、ネットに関してはいろんなことを言う人がいますが、「ネットはまだ第一日目!」と主張する人は、そんなに多くはないでしょう。
けれども、そうやって考えてみると、モバイル環境も含めてネットで生息するいろんなサービスが苦労しているのも、納得できるような気がするのです。
端的に言って、みなさん、どうやったら人が集まるのか、どうやったらお金を稼げるのか、まったくわかっていないのです。だから、ときには人の真似をし、いろんな試行錯誤を繰り返して、全体的に見ると変化の速度は失速することがない。

ということは、誰にだってチャンスはある! ということなのでしょう。しかも、世界は決して「勝者総取り(winner takes all)」の方式ではなく、ベィゾズ氏の言葉を借りれば、いろんな人(製品、サービス、プラットフォーム)が共存(coexist)できるほど深淵である。

だからこそ、ベィゾズ氏は、次から次へと新しいことを考え、具体化し、失敗してもめげずに別のことを考える、そんな日々を続けているのです。


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「アマゾン・プライム(Amazon Prime)」なんて、いい例でしょう。年会費79ドルを払うと、米国内(アラスカとハワイを除く)は2日で無料発送をしてくれるというサービスですが、これにひっかかると、「年会費のモトを取ろう」と顧客は次々と商品を買おうとするでしょう!

そんな彼の「ひらめき」「悪あがき」「打たれ強さ」は、世の商売人すべてが見習うべきだと思っているのです。

(現に、冒頭で出てきた会費制サービスShopRunnerは、「アマゾン・プライム」にヒントを得たものですからね!)



<今年の総選挙>
というわけで、ビジネス界から政界に話題を移しましょう。

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今年は、4年に一回めぐってくる米大統領選挙がありました。言うまでもなく、オバマ大統領が再選されたわけですが、個人的には、これで国の崩壊が防げたと、胸をなで下ろしているところです。

いえ、べつにアメリカという国が無くなることを心配していたわけではなくて、国の文化や人々の心がすさむことを危惧していたのです。

(Official portrait of President Barack Obama from Wikipedia)

と、そんな難しい話は置いておいて、11月6日の「選挙の日(Election Day)」には、いろいろと面白いこともありましたが、中でもニュース専門局CNNの『大統領選開票速報』は面白かったですね。

アメリカは広い国ですので、国内で時差があるわけですが、東海岸から順繰りに午後8時になって投票所が閉められると、そこから順次、開票速報が始まります。


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ほとんどの州では、住民投票の得票数(popular votes)の多い大統領候補が州の選挙人票(electoral votes)をすべて持って行くことになっていますので、まずは、住民投票がどの候補者に傾いたか? が争点となるわけです。(写真は、シリコンバレーのあるサンタクララ郡の投票用紙「大統領・副大統領候補(全部で6組)」の欄。郡の有権者の7割が郵送で投票しますので、投票所が混むことはないようです)

アメリカは州だって広いので、決して一枚岩ではありません。たとえば、ヴァージニア州などは、わりと保守的な州とされていますが、北部の首都ワシントンD.C.に面した都市部と、それ以外(共和党支持4州に隣接した農業地帯)は、まったく考え方も投票の仕方も違います。

ですから、郡のレベルまで落とした緻密な分析と正確な速報がメディアには求められるわけですが、そんな緊張感みなぎる速報の中、西海岸が午後8時になると、その瞬間にCNNはこう発表したのでした。

「カリフォルニア州とワシントン州とハワイ州は、オバマ大統領が獲得!」

彼らは実際に秒読みをしていて、午後8時ちょうどに発表したのですが、8時って投票所が閉められた瞬間で、まだ開票なんかしてないんですよ!

まあ、この3州は、投票などしなくても最初からオバマ大統領みたいな民主党候補が勝つのはわかっているので、票を数えるのすら無駄と言えば、無駄なのかもしれません。が、それにしても、律儀に8時になるのを待っていた様子が、ひどく滑稽なのでした。

(ちなみに、1980年の大統領選では、西海岸がまだ投票している午後5時過ぎに、NBCが共和党挑戦者のロナルド・レーガン候補の勝利を宣言する異例の事態となったので、それ以降、せめて投票所が閉められるまで待つようにと報道規制ができたようです。このとき負けたジミー・カーター大統領も、西海岸7時前には敗戦スピーチをしているので、それほど大差はついていたのですが、それでも「カーター大統領に投票しようと思っていたのに!」との憤慨の声をカリフォルニアでたくさん聞いた記憶があります)

そんなわけで、言わずと知れた「リベラルな」カリフォルニアではありますが、今年の総選挙では、ますます、そのリベラルぶりを発揮しています。


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2年前(2010年)の中間選挙では、「反オバマ」の共和党ティーパーティー旋風が吹き荒れる中、カリフォルニア州の要職は、州知事、副知事から会計監査長官、公立教育長まで、すべて民主党候補が獲得していました(現在、州のトップは「元アクションスター」ではなく、ベテランのジェリー・ブラウン知事ですよ!)。
今年は、それに輪をかけて、州の上院も下院も、民主党が「スーパーマジョリティ」となりました。そう、両院とも3分の2の議席を占めているので、理論的には、対する共和党議員が何を言っても、まったく関係がないのです!

アメリカは移民の国ですので、たえず変化しています。今は「リベラル」な西海岸・東海岸、対する「保守派」の内陸部と両極化していますが、そのうちに変化の波も内陸まで伝播し、今までの常識が当たり前ではなくなっていくのでしょう。

というわけで、今年の総選挙。わたしにとって今年一番印象に残るスピーチは、輝かしく再選を果たしたオバマ大統領のものではなく、奥方のミシェルさんのスピーチなのでした。

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9月初頭、ノースキャロライナ州で開かれた民主党全米大会の冒頭を飾るスピーチでしたが、その晩、ご飯を食べながら耳を傾けていたわたしは、始まったときから、なにやら目がウルウルしていました。

スピーチが終わる頃には、ほほを伝わる涙を手でぬぐっていたのですが、ふと画面に映し出される聴衆を見てみると、女性参加者のほぼ全員が泣いているんですよ!

なんだ、泣いているのは自分だけじゃなかったのかとホッとしたわけですが、何がそんなに良かったのかと問われれば、答えるのは難しいです。

最初は、病気持ちのお父さんの話をされていて、ベッドから起きるのも辛い体調だったのに、毎朝、子供たちに笑顔を振りまいて明るく仕事場に向かった、というようなお話でした。
それから、夫のバラクは誠実な人間で、決して人を裏切らないという話に発展したんだと、うっすらと記憶に残っていますが、わたしにとって内容はあまり重要ではなかったのです。

強いて言えば、ミシェルさんのスピーチが「本物」だったということでしょうか。彼女の心の底からもれ出た、飾りの無い「本物の言葉」。人が生きることを知る方が語った本物の言葉。

その言葉の数々は、お父さんや娘たちや夫といった身内を描写していながら、見ず知らずの聴衆にも「あ、そうなのよね」と共感できるものだったのでしょう。それがじんわりと「暖かみ」としてみんなに伝わったのかもしれません。

最終日、民主党大統領候補の指名を受けるオバマ大統領のスピーチだって、アメリカ建国以来の歴史をドキュメンタリーで見ているような、素晴らしいスピーチではありました。が、それでも、わたしに言わせるとミシェルさんには負けますね。



来年1月からは二期目に入り、いよいよご自身のカラーを存分に発揮されることでしょう。そんな熱い期待感もあって、今月、オバマ大統領はタイム紙の「今年の人(2012 Person of the Year)」に選ばれています。

が、そんなことよりも何よりも、まずはミシェルさんに感謝すべきですね!

夏来 潤(なつき じゅん)

Lefty Loosey(左はゆるく)

英語って、日本語よりも音に敏感かな? と思うことがあるんです。

音というか、リズムとでもいいましょうか。

口に出して語呂(ごろ)がいい言葉が好きなんだなぁと思うんです。

そう、口の中でコロコロころがすような感じ。

たとえば、今日の表題になっている Lefty Loosey

これには続きがあって、Lefty Loosey, Righty Tighty といいます。

発音は「レフティー・ルーシー、ライティー・タイティー」となりますが、「左はゆるく、右はきつく」という意味です。

工具のドライバー(screwdriver)を手にしたとき、左にまわすとネジはゆるむし、右に回すと、かたく締まるでしょう。そんな右と左の方向を覚えるときの「かけ声」です。

Loosey は形容詞 loose(ゆるい)を、Tightytight(きつい)を、語尾に y をつけて変形したものです。そうすることで、言いやすくなるんですね。

Lefty というのは、「左利き」という意味もありますが、leftLefty(左に)、right Righty(右に)と、同じく語尾に y をつけて語呂を良くしたんだと思います。

いえ、なにもそんな覚え方をしなくても、ちゃんとわかるでしょ? と思われるでしょう。でも、アメリカ人って「右回し」か「左回し」かわからなくなることがあるみたいですよ。

だから、Lefty Loosey, Righty Tighty という表現が存在するのです!

よくスーパーマーケットで野菜を買ったりすると実感するのですが、野菜を束ねてある針金をどっちに回したらいいのか、わかってない人が多いみたいです。

わたし自身は左に回して、針金を取ろうと思うのですが、実は、右回しにしないと取れないことが多々あるんです。だから、近頃は、まず右回しにしてみるんです。

すると、フェイントをかけられて、左に回すと取れることがあって、あ、しまった! って思うんですけれど・・・。

ですから、みなさんに、ぜひ覚えておいてほしいなぁと思うんです。

Lefty Loosey, Righty Tighty と。

でも、アメリカばかりではなくて、日本から買って来てもらった食パンの袋が、逆向きに閉じられていたことがありましたっけ。

もしかすると、左利きの方だったのかもしれませんが、まあ、日本人で珍しい! と驚いたのでした。


というわけで、語呂のいい「かけ声」で何かを覚えるというお話でしたが、実は、わたしが最初に Lefty Loosey という言葉を聞いたとき、Loosey というのは、Lucy という女のコの名前なのかと勘違いしたのでした。

だって、耳で聞いていると、同じ音ですから。

そう、Lefty Lucy、さしずめ「左利きのルーシー」かと・・・。

ルーシーといえばポピュラーな名前ですが、スヌーピーの漫画でおなじみの Lucy van Pelt ちゃんが有名ですよね。
(Photo of Lucy and Linus from Wikipedia)

それに、英語には、人の名前が出てくる表現がたくさんあるんですよ!

たとえば、こちら。

Nervous Nellie, Negative Nancy(ナーヴァス・ネリー、ネガティヴ・ナンシー)

神経質でビクビクしているネリーさん(男性)と、何にでも否定的なナンシーさん(女性)という意味です。

たとえば、みんなで何かしようよ! と盛り上がっているときに、「だって、こんな心配があるよ」と水を差すようなことを言う人。

そんな「前向きでない、心配性の人」のことを Nervous Nellie とか、Negative Nancy と表現します。人名ではありますが、固有名詞というよりも、単なる名詞みたいに使います。

たとえば、こんな風に。

My friend is a Negative Nancy. She has nothing positive to say about her life.
(わたしの友達は、いつも否定的なんです。自分の生き方に対して、何も前向きなことを言わないんです)

ちなみに、まったく反対に、何も心配しないで「なるようになるさ!」という態度の人を happy-go-lucky(ハピー・ゴー・ラッキー)と言います。ハイフンでつながって長いですが、形容詞となります。

He has such a happy-go-lucky attitude that he’s merely concerned about his future.
(彼は、ほんとに極楽とんぼだから、将来のことなんてほとんど気にしていないんだよ)


それから、人名を使った表現には、Doubting Thomas(ダウティング・トーマス)というのもありますね。

疑いを持つ(doubting)トーマスさん、というわけです。

そう、懐疑心が強くて、自分が納得するような確固たる証拠がないと、何も信じようとしない人のことです。

実は、トーマスさんというのは、イエス・キリストの十二使徒のひとり「トマス」のことだそうです。
 十字架にかけられたイエスが復活しても、それを信じようとせず、イエスの姿を自分の目で確認し、深い傷に触れたときに初めて復活を認めた。だから、こんな表現ができあがったということです。
(写真は、13世紀のイタリアの画家ドゥッチオが描いたトマス。Photo of Thomas the Apostle by Duccio from Wikipedia)

たとえば、こんな風に使います。

She tried to explain her hypothesis thoroughly hoping to prove all those doubting Thomases wrong.
(彼女は、疑いの眼差しを向けている人々を納得させようと、自分の仮説をもれなく説明しようと努めた)


そして、人名が出てくる表現で一番有名なのは、Peeping Tom(ピーピング・トム)かもしれませんね。

あまり良い意味ではないですが、「覗き見をする人」のことです。

なんでも、この表現が生まれた背景には、11世紀初頭のイギリスにさかのぼる伝説があるそうです。

イギリスの首都ロンドンの北西にコヴェントリー(Coventry)という街があって、ここには、レディー・ゴダイヴァ(Lady Godiva)という方がいらっしゃいました。

彼女は、どうか民衆の税金を下げて欲しいと、領主であるご主人に訴えていらっしゃいましたが、「もしも税金を下げてくれるんだったら、裸で馬に乗り、街じゅうをねり歩くわ!」とまで宣言なさったそうです。

それで、約束どおり、彼女は裸で街をまわることになったのですが、前もって街の人には「どうか見ないでちょうだい」とお触れを出していたそうです。

でも、仕立て屋のトムだけは窓から「覗き見」してしまって、間もなく、無惨にも目が見えなくなってしまったとさ。

そんな風な、ちょっとコワい言い伝えだそうです。

(写真は、1949年コヴェントリーに寄贈されたレディー・ゴダイヴァの銅像。Photo of the Lady Godiva statue from Wikipedia)

歴史的には、Godiva ではなく、Godifu という名のレディーはいらっしゃったそうですが、「税金を下げるために、裸で馬に乗った」というのは伝説だろう、という説が濃厚だそうです。

それに、Peeping Tom(「覗き見」の仕立て屋トム)の話は、17世紀くらいになって付け加えられた逸話だろうということです。

けれども、美しく勇敢なレディー・ゴダイヴァのイメージは、西洋では根強く語り継がれていて、絵画や映画にも幾度となく取り上げられています。

そして、あのベルギーの有名なチョコレートGodiva(日本では「ゴディバ」)の名は、このレディー・ゴダイヴァからきているそうですよ!!

わたしも、このお話を書くまでは Peeping Tom の由来を知らなかったのですが、やはり、「不思議な言葉だな」と思うものには、何かしら深い事情があるんですねぇ。

追記: 人名を使った英語の表現に関しては、こちらにトップ10として紹介されています(Blog site ”Writing Revolution” by Carol Zombo)。

わたし自身の感じでは、こういった昔ながらの表現は人気を失いつつあるのではないかと思うのです。たぶん、若い人の中には、Nervous Nellie なんて聞いたこともない人が多いのではないでしょうか。

感謝祭にまつわる昔と今

11月の感謝祭も終わり、世の中がクリスマスに向けてエンジン全開! になっています。

そんなあわただしい日々の中、あれ? と思ったことがありました。

それは、「クリステン・スチュワートとロバート・パティンソンが、ロンドンで彼の家族とともに感謝祭を過ごした」という記事を読んだとき。

そう、あの映画『トワイライト』シリーズの主人公を演じ、個人生活でもカップルのふたりですね。

あれ? と思ったのは、彼女の浮気のあとヨリが戻ったの? という意外性もありました。かわいそうに、ロバートさんは、彼女の不用意な行動にショックを受け、一時期、俳優仲間のリース・ウィザースプーンさんの静かな農場に「おこもり」していたという話も耳にしましたので。

でも、そんなふたりのゴタゴタよりも、イギリスでも感謝祭を祝うの? と不思議に感じたのでした。

どうやら、イギリスには、アメリカやカナダのように感謝祭を祝日として祝う習慣はないようです。が、もともとアメリカ人が感謝祭をつくったのは、キリスト教国のイギリスの影響ですよね。

そう、17世紀、イギリス人がアメリカに渡って来たときに始まった習慣。

けれども、意外なことに、みんなが信じているような「メイフラワー号でアメリカにやって来た清教徒たち(Puritans)が始めた習慣」ではないらしいのです!


いえ、わたしもずっと、1620年、マサチューセッツにたどり着いた清教徒が感謝祭を始めたんだと思っていました。でも、先日、サンノゼ・マーキュリー新聞にこんな投書が載ったのでした。

「あなた方(新聞)は、社説で間違ったことを書いていたわ。アメリカの感謝祭といえば、1619年12月、ヴァージニア州のバークレー・プランテーション(農園)で祝われたのが最初なのよ。来年のために覚えておいてほしいわね!」

そんな内容の投書で、最初の感謝祭の名誉をマサチューセッツに持って行かれたことを、ひどく憤慨していらっしゃったようでした。もしかすると、ヴァージニア出身の方なのかもしれません。

まあ、歴史をひも解きますと、イギリス人がアメリカにたどり着いて、最初に住み始めた場所は、メイフラワー号が到着したマサチューセッツのプリマス(Plymouth)じゃないんですね。だいぶ南にあるヴァージニア州のジェームズタウン(Jamestown)というところです。


(地図では、紫色の印がプリマスで、がジェームズタウンです)

17世紀が明けた頃、イギリスはジェームズ1世の統治にあって、スペインとの平和交渉ののち、イギリスが新世界(アメリカ北東部)への切符を手に入れました。

これを機に、人口過密や農作物の不作などで悩むイギリスから、新世界への冒険に挑戦する人々が現れたのです。
 それと同時に、カトリックからイギリス国教会になったイギリスを逃れ、宗教の自由を求める人々も出てきました。

これが、イギリスからアメリカへと大西洋を越える幾多の船の旅となったわけですが、イギリス人が最初にジェームズタウンに住み着いたのは、1607年のことでした。

辺りは海沿いの湿地帯で、決して農業に向く土地ではありません。そんなわけで、食べるものも乏しく、460人の入植者のうち、最初の3年間を生き延びたのは60人だったそうです。

それから10年ほどたった1619年、ジェームズタウンの内陸に農園をつくる案が出て、ジェームズ1世からも許可が出ました。こちらの方が、作物を育てるのにずいぶんと適していたからです。

そこで、9月16日、イギリスのブリストル港からマーガレット号に乗船し、ウッドリーフ船長以下38名が航海に出たのです。

何度か嵐に遭う厳しい航海の末、11月28日、ようやくヴァージニア沿岸にたどり着いたのですが、ここでも嵐が行き過ぎるのを待ったりして、内陸部のバークレー農園予定地に碇(いかり)を下ろしたのは、12月4日のことでした。
(地図では、がジェームズタウン、がバークレー農園)

そして、この日、マーガレット号から小舟で陸に降り立った38名の男たちが、無事に新大陸に着いたことを神に感謝し、イギリスで指示された通りに祈ったのが、アメリカで最初の感謝祭(Thanksgiving)というわけです。

「この船の到着の日を、全知全能の神に感謝する神聖な日として、毎年、未来永劫、祝おうではないか」と。

“We ordaine that this day of our ships arrival, at the place assigned for plantacon (meaning plantation), in the land of Virginia, shall be yearly and perpetually kept holy as a day of Thanksgiving to Almighty God”


(Quoted from “History of the First Thanksgiving” by H. Graham Woodlief, posted on the Berkeley Plantation’s Web site こちらの記事は、ウッドリーフ船長の子孫にあたる方が書かれたものと思われます; Photo of the First Thanksgiving enactment also from their Web site) 

 そんなわけで、こちらの感謝祭は、神に感謝して祈りを捧げたという、厳密に宗教的な感謝祭なのでした。祈りのあと、みんなで食卓を囲むこともありませんでした。

ですから、マサチューセッツの感謝祭とは、まったく違ったものなのですね。あちらは、初めての収穫を神に感謝し、近隣の人々で食卓を囲んだというものですから。

ということは、どっちも「アメリカ最初の感謝祭」でいいのではないでしょうか?


ちなみに、どうしてヴァージニアの新しい入植地が「バークレー農園」という名前になったかというと、イギリスの羊毛業の街バークレー(Berkeley)に由来します。マーガレット号が出奔したブリストル港の近くです。

バークレーは、羊が群れる田園風景で有名なコッツウォルズ地方の南西にあって、1117年にできたバークレー城(Berkeley Castle、写真)で知られています。
 実は、このお城がマーガレット号の航海のスポンサーとなり、城主バークレー家のリチャード・バークレー卿も航海に参加したのでした。

17世紀といえば、羊毛業がイギリスでもっとも盛り上がった時期ですが、どうやらバークレー城のあたりはスランプだったようで、そんな背景もあって新大陸の冒険に出たようです。

だから、ヴァージニアの新しい農園は、スポンサーにちなんで名づけられたというわけです。

なんでも、かの有名なシェイクスピアの『真夏の夜の夢(Midsummer Night’s Dream)』は、このバークレー家の結婚式のために書かれたものなんですって!!

今でも、お城はバークレー家の方々が受け継いでいらっしゃいますが、庶民にも門戸を開いて、結婚式や披露宴もなさっているようです。今の時代、お城を受け継ぐのは財政的に厳しいようですが、結婚式プランとは、なかなかいいアイディアですよね!

(Photo of Berkeley Castle from the castle’s Web site


というわけで、今年は、感謝祭にまつわる歴史のお勉強をさせていただいたのですが、感謝祭の週末にスーパーマーケットに行ったら、お店の人から教えていただいたことがありました。

意外にも、この土曜日に七面鳥を買って行ったお客さんがいたそうです。そう、感謝祭は、とっくに終わっているのに!

どうやら、仕事の関係で木曜日は働かなくてはならなかったので、ちょっと遅れて、日曜日にみんなが集まって七面鳥のご馳走を食べるハメになったとか。

まあ、今は世の中が多様化して、いろんな人がいるのは確かですが、想像するに、この方は、感謝祭の夜はどこかのお店で働いていたのではないでしょうか。

そう、先日も英語のお話でご紹介したばかりですが、今年は、感謝祭の夜から金曜日にかけて営業していた大型店舗がたくさんあって、七面鳥でお腹いっぱいになったところで、みんなでショッピング! というのが話題となりました。

ま、感謝祭の夜中に営業というのは、お客さんにとっては嬉しいことかもしれませんが、働く人にとっては、祝日もゆっくり休めない、ということですよね。

せっかく今までは、感謝祭の日くらいは家族とゆっくりできたのに・・・。

近頃、アメリカの景気は少しずつ回復してきたので、店を早く開けて、長く営業しようということになったようですが、今年は、それが問題にもなったのでした。

「感謝祭の夜9時に店を開ける」と聞いたパートタイムの女性従業員が、大型量販店 Target(ターゲット)に対して、インターネットで反対運動を起こしたのです。
 「もともと従業員の就業時間は不規則なんだから、感謝祭の日くらい、ゆっくり家族と過ごさせてよ!」と。

サンフランシスコ・ベイエリア発信の抗議の声はまたたく間に全米に知れ渡り、一週間ほどで37万人がオンライン陳情書に署名したそうですが、そんな反対運動もむなしく、お店は予定通り午後9時に店を開けました。

この女のコの勇敢な行動に、「がんばれ!」という熱い声援もあったものの、中には「こんなご時勢で、仕事があるだけありがたいと思え!」という批判も向けられたとか・・・。

そして、Target の商売敵 Walmart(ウォールマート)でも、感謝祭の晩から翌日の金曜日(ブラックフライデー)にかけて、全米各地の店舗で、千人ほどが抗議行動に出ました。

入り口でプラカードを掲げて、労働条件の改善を訴えたり、お店の中で小さなデモ行進をくり広げたりと、大型店舗で働く厳しさを訴えたのですが、残念ながら、ショッピングに向かう人々には、あんまり関係なかったようですね・・・。

まあ、感謝祭の直前になると、新聞には驚くほどの広告の束が入るのですが、そんな広告の山を見ていると、こう思うんです。

なにをそんなに売るモノがあるんだろう? なにをそんなに買うモノがあるんだろう? と。

わたしが感謝祭のことを好んで書くのは、宗教的に始まった習慣であるわりに、宗教色が薄く、みんなが素直に感謝する気持ちになれるからなんです。

それが、感謝祭がショッピングの日になってしまったら、いったいいつ感謝する気になるのかなぁ? と、ちょっと不安になってしまうのでした・・・。

My sentiments exactly!(まったくその通り!)

My sentiments exactly!

これは、「まったくその通りよね!」という意味です。

誰かが何かを発言して、「わたしも、まったくそう思うわよ!」と同意をするときに使います。

直訳すると、「わたしの(my)感想(sentiments)そのもの(exactly)」というわけですが、「わたしもまったく同じように感じているわ」という意味になります。

似たような言い方で、My sentiments precisely! というのもあります。

最後の precisely は、「正確に」という副詞ですが、やはり「わたしの感じている通りよ!」という意味になりますね。

どちらも、「わたしたちは同じ思いを共有している」という表現ですので、互いに連帯感を生む相づちです。

首をたてに振りながら、おおげさに言ってみてもいいのではないでしょうか(だいたい、最後の exactlyprecisely を強調しますね)。


というわけで、My sentiments exactly! は、よく耳にする相づちではありますが、わたしがそう思ったのは、こちらの新聞記事を見たとき。

11月13日付のサンノゼ・マーキュリー新聞の一面ですが、こんな見出しが目立ちます。(From The San Jose Mercury News, Tuesday, November 13th, 2012)

Too red too soon?

赤くなるのが早すぎる?

このというのは、クリスマスシーズンの色を指します。

そう、サンタさんの服もですし、クリスマスには欠かせないポインセチアも。そして、クリスマスツリーのまわりにも赤い敷物が使われたりして、は、まさにクリスマスの色ですものね。

それにしたって、が目につくには早すぎるんじゃない? という訴えが、この見出しには込められているのです。

だって、11月13日といえば、まだ感謝祭の一週間前。普通は、オレンジ色の感謝祭の色が消えた頃に、ようやくクリスマスのが到来するのです。

それが、今年は、サンフランシスコ・ベイエリアのショッピングモールには、いつもよりも早くクリスマスの色がやって来たようです。

実は、この記事が載った11月13日、わたしもまったく同じ経験をしたのでした。

シリコンバレーの人気ショッピングモール、バレーフェア(Valley Fair)に行ってみたら、辺りはもう「クリスマス色」!

平日だったので、サンタさんこそ見かけませんでしたが、子供たちがサンタさんと写真を撮る場所も設置されていましたし、あちらこちらには、真っ赤なポインセチアの鉢が置かれているし、もう準備万端。

いつクリスマスが来ても大丈夫です!

まあ、感謝祭は、どちらかというと地味な祝日ですよね。だって、家族や親戚や友達が集まり、食事をしながら、お互いの無事に感謝するというものですから。

だから、ショッピングモールとしては、感謝祭の翌日から始まる歳末商戦(the holiday shopping season)に期待していて、そのためには、辺りを「クリスマス色」にして、みんなの購買意欲をそそる! というのが作戦なのです。


以前も何回かご紹介したことがありますが、感謝祭の翌日の金曜日には、特別な呼び名があるのです。

そう、Black Friday(ブラックフライデー)。

「黒い金曜日」という呼び名は、それまで赤字のお店でも「黒字」に転じるという、ありがたい様子からきています。

が、これから先は、Black Friday という呼び名はすたれるかもしれない、ともいわれています。

なぜなら、今年は、Black Thursday(ブラックサーズデー)という呼び名が登場したから。

そうなんです。感謝祭の翌日まで待てずに、感謝祭の当日からお店を開ける大型チェーンが出てきたのです。だから、「黒い金曜日」ではなく、「黒い木曜日」!!

以前は、感謝祭当日に何時間か店を開けるところはありました。けれども、今年のスゴいところは、感謝祭の晩から金曜日にかけてずっと営業していたことなのです。

たとえば、何でも売っている安売りチェーン Walmart(ウォールマート)や Sears(シアーズ)は、感謝祭の午後8時に店を開けました。おもちゃ専門店の Toys ”R” Us(トイザラス)もそうです。

Walmart の商売敵 Target(ターゲット)は、午後9時に開店しました。

ベイエリアの大型ショッピングモールの中では、ミルピータスにある Great Mall(グレートモール)と、つい先日できたばかりの大人気アウトレットモール Paragon(パラゴン)が、午後10時に営業開始です。

そして、真夜中になると、Macy’s(メイシーズ)などのデパートを始めとして、おもだったショッピングモールが営業開始となりました。

まあ、みなさん、このシーズンにまとめてクリスマスのプレゼントを買われるので、感謝祭の当日にお店を開けたとしても、「待ってました!」とばかりに、お客さんが殺到するようですよ。

そう、アメリカの場合、クリスマスのプレゼントは家族、親戚、友人と何十人分も買わないといけないので、この時期の「大安売り(door-buster discount)」は、大事なキーワードなんですね。

そう、みんながお店に殺到して、ドアが壊れるほどの最安値!


そして、Black ThursdayBlack Friday が終わったら、今度は土曜日です。

こちらは、Small Business Saturday と呼ばれています。

つまり、「小さなお店の土曜日」。

個人が経営しているような、小さなお店でショッピングをしましょう! という日です。ブラックフライデーでもうかる大型店舗に負けないように、個人経営のお店を応援しよう! という主旨で、3年前に始まったそうです。

今年は、オバマ大統領も、マリアちゃんとサーシャちゃんを連れて、近くの本屋さんに行きました。親戚の子供たちにあげるクリスマスプレゼントとして、15冊の子供向けの本をご購入だったとか。

小さな個人経営のお店は、mom-and-pop shops とも呼ばれますね。「お母ちゃんとお父ちゃんがやっているお店」という意味ですが、近頃は、ちょっと大型店舗に押され気味なのです。(上の写真は、イギリスのオックスフォードの本屋さんです)

そして、日曜日は飛ばして、次の月曜日は、Cyber Monday(サイバーマンデー)と呼ばれています。

以前もご紹介したことがありますが、cyber というのは「インターネット」のことで、つまり、オンラインショッピングをする日です。

感謝祭の週末には買えなかった品があるので、月曜日オフィスでこっそりとオンラインショッピングをする、という日ですね。今年は、そんな従業員を大目に見る企業も増えたようで、ショッピングサイトへのアクセスを禁止する会社がグンと減ったそうです。

さらに、サイバーマンデーの翌日の火曜日。この日は、Green Tuesday(グリーンテューズデー)だそうです。

なんでも、環境問題に取り組む非営利団体が名づけたものだそうですが、お買い物をするんだったら、環境にやさしく(eco-friendly)、しかも、つくっている方々のことも考えた商品(fair-trade products)を選びましょう、という日です。

できることなら、Green Tuesday は、12月いっぱい続けて欲しい、という願いも込められているそうです。

それから、蛇足ではありますが、感謝祭の前日の水曜日は、Blackout Wednesday(ブラックアウトウェンズデー)とも呼ばれています。

Blackout というのは、意識をなくすこと。つまり、感謝祭の前夜は、パーティーを開いてお酒をたくさん飲むので、意識を失うこともある。そんな困った状態をさしています。

ですから、当然のことながら、警察の取り締りだって厳しくなりますので、飲酒運転(drunk driving)は避けなければなりません。いえ、いつも避けなければならないことですが。


というわけで、感謝祭。

この日にまつわる呼び名を復習いたしますと、

感謝祭の前日は、酔っぱらうので Blackout Wednesday
 感謝祭は、おとなしくご馳走を食べる Thanksgiving
 だけど、夜中のショッピングで Black Thursday となる気配あり
 翌日の金曜日は、もちろん、Black Friday
 土曜日は、お母ちゃん、お父ちゃんを助ける Small Business Saturday
 日曜日は飛ばして、月曜日はネットで Cyber Monday
 火曜日は、地球を考える Green Tuesday

というわけです。

あ、そうそう、今日のお題目は、My sentiments exactly! でしたね。

Too red too soon?赤くなるのが早すぎる?)に対して、

My sentiments exactly! (まったくその通り!)なのでした。

感謝祭の日

今年は、11月22日が感謝祭でした。

感謝祭は、英語で Thanksgiving

この日は、 give thanks をして、be thankful になる日。

つまり、感謝をする日。

家族や親戚や友達が一堂に会し、みんなが無事に一年を過ごしたことを感謝する日。

そして、七面鳥を始めとして、ご馳走(Thanksgiving dinner)を食べながら、のんびりと過ごす日でもあります。

今年のシリコンバレーの感謝祭は、それまでの曇天がウソみたいに、よく晴れ渡った、すがすがしい一日となりました。


もともとの起源をたどると、1620年にメイフラワー号に乗ってアメリカにたどり着いた清教徒たちが、その翌年、初めての収穫を手にして、それを感謝したのが始まりとされています。

けれども、実際に「感謝祭」という国の祝日をつくるには、かなりの試行錯誤があったみたいですよ。

1789年、初代大統領のジョージ・ワシントンが11月26日を「感謝の日」としたそうですが、のちに第3代大統領となるトーマス・ジェファーソンは、「おろかなことだ!今まで耳にした中で一番馬鹿げている!」と憤慨したとか。

まあ、何かに感謝する日を特別に定めるというのは、ある意味、稚拙な感じはしますが、そういう日がないと、なかなか感謝しないのも人間の悪いクセかもしれませんよね。

そして、同じく「建国の父(Founding Fathers)」と呼ばれるベンジャミン・フランクリン。

以前も二度ほどご紹介したことがありますが、彼は、感謝祭にご馳走となる七面鳥こそが「国鳥」となり、国のシンボルとなるべきだ、という信念を持っていました。

七面鳥こそが気品のある鳥であり、真のアメリカ原産の鳥であると。

代わりにハクトウワシ(the Bold Eagle)が国鳥に定められたとき、彼は憤慨してこう書いたのでした。

「ハクトウワシは、モラルに欠ける鳥だ。正直に生きていない。彼は、勤勉なタカが魚を獲って、巣に持ち帰り家族を養おうとするところを見計らって、タカから魚を奪い取るのだ」

「それに比べて、七面鳥は、少々虚栄心と愚かさはあるが、勇敢な鳥である」と。

まあ、鳥に向かって「モラルに欠ける」と批判するのもおかしな話ですが、たしかに、わたし自身も、我が家のまわりの野生の七面鳥と接していて、なかなか賢い、美しい鳥なのかも・・・と、うなずけるところはありますね。


こちらのエッセイの後半部分で「美しい」七面鳥の話が出てきます。それから、ハクトウワシの写真は、ワイオミング州のグランドティートン国立公園で撮ったものです。感謝祭の歴史については、11月22日付けサンノゼ・マーキュリー新聞の社説を参考にさせていただきました。)


というわけで、感謝祭をめぐっては、いろいろと論争はあったようですが、1941年、正式に「11月の第4木曜日が感謝祭」と議会によって定められました。

そして、日頃のゴタゴタは脇に置いておいて、みんなで仲良く自分たちの暮らしを感謝するのが、この日の主旨。

それで、ふと思ったんですが、人が「幸せ」を感じるのって、どういうときだろう? と。

たとえば、国民総幸福量(Gross National Happiness)という言葉があるでしょう。

「国民全体がどれだけ幸福に感じているか」という小難しい指数ですが、仏教王国ブータンがトップに挙げられることで知られていますよね。

わたし自身はブータンには行ったことがありませんが、たぶん、ブータンに住んでいらっしゃる方々は、「幸せ」なんて考えたこともないと思うのです。

なぜなら、幸せ(happiness)という概念は、ひどく西洋的だから。

だったら、幸せの代わりに感じるものは何だろうというと、満足感(contentment)なのではないかと想像するのです。

なんとなく、生きていて満ち足りた感じ。とくに不満もないし、こんな感じでいいんじゃないか、という満足感。

先日、ドイツのDW-TV(Deutsche Welle)の英語番組を観ていたら、ブータンの人々にインタビューする番組があったんです。

「あなたは幸せについてどう思いますか?」という現地語の質問に対して、三者三様の答えが返ってきました。

ある青年は、こう答えます。「(幸せになるのに)お金なんていらないよね。だって、お金があると、他の人にねたまれたり、盗まれたりって、災難の種になるじゃないか。べつにそんなものは必要ないよね」と。

あるティーンエージャーに質問すると、彼はニコニコ笑いながらこう返します。「僕は、女の子のお尻を追っかけてる時が、一番楽しいよ」と。

そして、あるおばあちゃんは、こんな風に答えます。

「そうねぇ、幸せねぇ。たぶん、わたしが嬉しいのは、次に生まれてくるときに、また人間に生まれることかしらねぇ。もしも人間がダメだったら、猿でもいいけれど。ハッハッハッ!」

はあ、猿ですかぁと、聞いていたわたしは面食らってしまったのですが、なるほど、文化によって、人によって、感じ方はいろいろあるものですよねぇ。

ちなみに、わたし自身は、「幸せとは健康であること」というような気がしているんですけれど。

ま、明日になったら、気が変わっているかもしれませんけどね。

(Photo of the Buddhist Taktshan monastery from Wikipedia)

タブレット市場: マイクロソフトに勝ち目は?

Vol. 160

タブレット市場:マイクロソフトに勝ち目は?

もう11月後半になりましたが、今年の歳末商戦は、どうやらタブレットの戦いとなりそうです。そんなわけで、今月は、マイクロソフトのタブレット新製品に焦点を当ててみましょう。

<マイクロソフトの「Surface」って?>


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11月の第一週、我が家にマイクロソフトの新製品「Surface(サーフェス)」が届けられました。

先月号でもご紹介していますが、タブレットが話題をさらうパーソナルコンピュータ市場に一石を投じようと、マイクロソフトが10月26日に発売したタブレットの新製品です。
今のところ、米国市場向けにマイクロソフトストアとオンラインで販売されています(写真は、キーボードカバー「Touch Cover(タッチカバー)」が付く64GBモデル)。
 


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このSurfaceは、アップルのiPad(アイパッド、写真左)よりもちょっと大きな画面を持っていて、各タブレットメーカーの「小型化」に逆行したコンセプトとなっています。

マイクロソフトの新しいOS「Windows RT(Windows 8のモバイル版)」の魅力を最大限に引き出すためには、ある程度の大きさがないとダメ、という信念にもとづいています。
 


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なんといっても、Windows 8はマルチタッチ対応ですから、画面を触って操作するのが特長。
カラフルな「タイル」が出てくるスタート画面をタッチして、各機能を立ち上げるようになっています。

それで、Surfaceを触ってみた感じをひとことでまとめると、個人的には、こう表現したいと思うのです。

う〜ん、ちょっと難しい・・・。

これは、「扱うのが少々難しい」という意味と、「一般消費者に受け入れられるのは、ちょっと難しいだろう」という意味と、両方を兼ねています。

実は、先月号では、Surface発売前だったこともあり、タブレットにカチャッと取り付ける「キーボードカバー(Touch Cover、Type Coverの2種)」を取りあげてみました。
マイクロソフトは、どうしても「パソコンとキーボード」の既成概念から抜けきれないのだと。


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ところが、実際にキーボードカバーを使ってみると、これが意外と使い易いのに驚いてしまったのでした。薄いながらに、軽く触れただけで小気味よく反応してくれて、これなら、あった方がいいかなと。
キーに触れると、ポンポンと音が出るところもわかり易いです。

そして、コマーシャルを観ていて「なんだか不格好!」と思っていた裏側の「キックスタンド(Kickstand)」も、画面がタッチし易くなって、なかなか良い出来だと思うのです。

が、残念ながら、良いところは、ここまで。

いえ、決して悪口を言いたくて書いているわけではありません。そうではなくて、もしもSurfaceを一般消費者向けの製品と考えると、問題点がいくつかあると申し上げたいのです。

まず、Windows RTを触ってみると、その操作の難しさに戸惑いを感じます。画面の右を触ったり、左を触ったりと、どこに何が出てくるのかをマスターしなければならないのです。


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たとえば、画面の右端を内側に向かってドラッグする(引っ張る)と「スタート画面」「検索」「設定」などのメニューが出てきます。
左端をドラッグすると起動中のプログラムがひとつずつ出てきますが、その一方で、ドラッグした指をそのまま左端に戻すと、起動するプログラムの一覧が出てきます。
ある機能を使い終わったら、指を画面の上から下へと滑らせ、プログラムを閉じます。

そういったひとつひとつの動作が、一般ユーザには難し過ぎる気がするのです。そう、「直感的(intuitive)」ではなく、頭の中でこねくりまわしたような、頭でっかちの方式に思えるのです。

ま、そんなことは慣れればいいでしょう。けれども、もっと悪いことに、Surfaceを触っていてもウキウキしないのです。

もちろん、メールもできるし、スカイプ(Skype、インターネット電話)もできます。あまり解像度は良くないですが写真だって撮れるし、ソーシャルネットワークのフィード(最新情報)もリアルタイムで見られます。
でも、「他には?」と、物足りなさを感じるのです。
 


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たとえば、iPadを触ると、あんなこともできる、こんなこともできる! と、次から次へと新しいことにチャレンジしてみたくなるでしょう。
それは、たぶん扱い易さでもあり、アプリの豊富さでもあるでしょう。世の中に27万以上のiPadアプリが存在するとなると、「There’s an app for that(それにもアプリがありますよ)」というキャッチフレーズにも、説得力があるのです。

ところが、Surfaceの場合は、娯楽分野ひとつ取っても、レパートリーが乏しいのです。だったら、Surfaceは何に使ったらいいの? と、多くの人が首をかしげることでしょう。

さらに悪いことには、Surfaceを買う必然性が見当たらないのです。

たとえば、アップルの戦略を考えてみましょう。アップルの製品を買い続けるのは、
「アップルでなければならない」必然性があるからです。


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だって、11年前にアップルがiPod(アイポッド)というメディアプレーヤを出して、その一年半後にiTunes(アイテューンズ)ストアが始まると、多くの人がここ(ネット経由のバーチュアル・アップルストア)で音楽を買うようになったでしょう。

最初は音楽から始まったけれど、そのうちにミュージックビデオなど映像を買うようにもなったでしょう。
当時は、ネットで「違法コピー」が横行する混沌とした時代でしたが、iTunesストアが商売として成り立つことがわかると、音楽・テレビ・映画業界のパートナーもどんどん増えて、それと同時にユーザもどんどん増えていきました。

そして、5年前にiPhone(アイフォーン)というスマートフォンが出てくると、iPodからデータを移して、電話で音楽や映像を持ち歩くようになったでしょう。
さらには、ゲームを始めとして、いろんな機能のソフトウェアを買うようになって、「アプリ」という概念がすっかり巷(ちまた)に浸透するようになったでしょう。

それで、2年半前にタブレットのiPadが出てくると、もうiPadでなければならない環境ができあがっていたのです。だって今まで蓄積した音楽やら、アプリやら、iPhoneで撮った写真をタブレットで持ち歩こうとすると、iPadじゃないといけないでしょう。
すると、今度は、手持ちの膨大なライブラリを保管してあげましょうと、iCloud(アイクラウド)というサービスまで始まりました。
こうなってくると、次に何かしら新しいコンセプトの製品が出てきたにしても、アップルのiOS製品じゃないといけないでしょう。


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そして、いつの間にやら、世の中全体がそんな風潮になっているのです。
新聞や雑誌を読むのも、旅先でテレビの留守録を予約するのもiOS製品。レストランのワインメニューだって、銀行のオンライン口座だって、国際紛争の調停者が重宝するアプリだってiOS向けにつくられています。

そんな風に、知らないうちに、iOS製品とiTunesという「クモの巣」に捕らえられていたわけです。
そう、相手はクレジットカード番号を握っていますので、その「ネバネバ性」はクモの巣以上かもしれません。


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そういう点では、アマゾン(Amazon.com)だって同じでしょう。タブレットKindle(キンドル)を買った人は、アマゾンで電子書籍を買い、さらには服や家庭用品も買う、という構図。
そうなると、たとえばカリフォルニアのように、アマゾンに対して州の消費税(state sales tax)が課せられるようになったって、顧客は逃げたりしないのです。

アマゾンの創設者/CEOジェフ・ベィゾズ氏は、こう断言しています。
「みんなはガジェットが欲しいんじゃない。サービスが欲しいんだ。(中略)秘密のソースは、Kindleというデバイスをアマゾンのエコシステム(お金を生む環境)にうまくつなげることだよ」と。11月16日放映のインタビュー番組『チャーリー・ローズ』より。この週には、フォーチュン誌の「今年のビジネスパーソン」に選ばれ、第2世代のKindle Fire(8.9インチ型Kindle Fire HD)も販売開始)

けれども、そんな必然性は、マイクロソフトには無いでしょう。そう、Surfaceに移して持ち歩きたいライブラリはありませんし、彼らのサービスにがっちりとカード番号を握られているわけでもありません。
べつにSurfaceでなくても、何でもいいのです。

そんなわけで、Surfaceというタブレットひとつを取ってみると、ヒットしない可能性は大きいような気がしています。


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もしかすると、マイクロソフトが6年前に出したメディアプレーヤ Zune(ズーン、写真)や、ハードウェアは日本のシャープが担当したスマートフォン Kin(キン、2年半前に発売となり、残念ながら2ヶ月で販売停止)と同じように、「失敗例」に名を連ねるかもしれません。

が、マイクロソフトは(今のところ)ソフトウェア会社です。Windows 8をハードウェアメーカーに提供して、ロイヤリティ(ソフトウェア使用料)をもらって食べていければいいのでしょう。

<タブレット市場って?>
というわけで、先月、今月とタブレットのことを書いてきましたが、ここまでタブレットにこだわっている理由は、モノとしておもしろいばかりではなく、他のモバイル製品よりも市場の「立ち上がり(ramp up)」が早いからです。
 


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こちらのグラフでもわかるように、フィーチャーフォン(俗にガラケー)、スマートフォン、ノートブックパソコン、ネットブックパソコン、メディアプレーヤ、電子書籍と、あらゆるモバイル製品と比べても、タブレットの需要の伸びが著しいのです
(タブレットの創世をiPad発売の2010年4月と定義。各製品の市場初登場から、当初5年間の累積販売台数(予測を含む)を比較。Gartner社、IDC社のデータをもとにモルガン・スタンレーが今年5月に分析)

そして、来年2013年には、パーソナルコンピュータ(デスクトップとノートブック)の出荷台数をタブレットが追い抜くとも予測されています。(上記モルガン・スタンレーの世界市場分析とCEA(全米家電協会)の米市場動向を参照)

今のところ、大部分のタブレット製品は教育分野や娯楽の用途で使われているようですが、企業でもタブレットの導入が進んだり、「BYOD(Bring Your Own Device、個人端末の業務活用)」のコンセプトが広まったりすることが予想されるのです。
とくにセールス担当者や医療従事者と、前線で働く人にとっては、タブレットはありがたいフォームファクタ(形状)ですから。

このように市場の立ち上がりが早いということは、「早くしないと、置いてきぼりになる」ということでもあります。

現在、世界のタブレット市場を見渡すと、アップルが6割から7割のシェアを握っているとされています。
巨大市場・中国では、アップルブランドが強く、8割(79%)のシェアともいわれています。(Umeng友盟 Analytic Platformの分析)

そんな中、OS(基本ソフト)の分類から考えられるシナリオは、ふたつ。
「現状通り、アップルのiOSとグーグルのアンドロイドが主流のまま」というものと、「マイクロソフトのWindowsがアンドロイドを追い抜き、2番手のタブレットプラットフォームになる」というもの。
 


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もちろん、マイクロソフトは後者のシナリオを思い描いてSurfaceタブレットとWindows 8(モバイル版Windows RT)を投入したはずなのですが、この第一手は、ポシャる可能性だってあります。

しかも、タブレットをつくるメーカーにしてみれば、Windowsを採用するには高いロイヤリティを払わなくてはなりません。「だったら、無料のアンドロイドで結構」というメーカーも出てくるでしょう。

少なくとも、アメリカ市場を考えると、来年あたりが「タブレット戦争」の山場となることでしょう。

だとすると、Surfaceの次の一手を打つにしても、パートナーのお尻をたたくにしても、マイクロソフトは急がないと・・・。

<こぼれ話:マイクロソフトストア>


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いえ、まったくの蛇足ではありますが、実は、Surfaceを使うにあたって、マイクロソフトストアに足を運んだのでした。
画面の右だの、左だのを触っていると、いろんなものがヒョコッと出てくるのですが、「もしかすると、まだ発見してない触り方があるに違いない」と思ったからです。

ここは、シリコンバレーの人気ショッピングモール・バレーフェア(Valley Fair)にあるマイクロソフトストアで、なんと、先に出店していたアップルストアの斜め前に出現した店舗です。いえ、ほんとに斜め前なんですよ!

入り口を入ると、若い担当者がにこやかにハ〜イと声をかけてくれるのですが、平日だったこともあり、お客よりも、色とりどりのTシャツを着たスタッフの方が多いくらい。
壁際のWindows 8のコーナーに向かうと、すかさず女性担当者がアプローチしてきて、さっそくWindows 8のデモをしていただくことになりました。中国系だし、なんとなくエンジニアっぽい方です。

そこで「伝授」していただいたのは、上でもご紹介したように、画面の左端をドラッグした指をそのまま左に戻すと、起動中のプログラムの一覧が出てくるというもの。こればっかりは、自分で「発見」するには、ちょっと複雑でした。
それから、プログラムを閉じるには、画面の上から下へとスーッと指を滑らしますが、大画面パソコンを使っていたからか、これが、なかなかうまく作動しなかったですね。
 


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というわけで、店舗に足を運んだ甲斐はありましたが、お店の前のソファーに腰掛けていると、アップルストアから出てきたお客さんが目の前を通り過ぎて行きました。
青いTシャツのスタッフに、大きなiMac(アイマック、アップルのデスクトップコンピュータ)を運んでもらっています(しかも、これ見よがしにマイクロソフトストアの真ん前を通過・・・)。

そうなんです、ここはアップル本社のお膝元。世界で一番、アップルファンが密集する場所なのかもしれません。それが証拠に、アップルストアは(平日だって)いつもお客で満杯です。

そんな競合に負けないように、マイクロソフトさんに、ひとつご提案があります。ご自分ではあまり気にしていらっしゃらないようですが、タブレットSurfaceにはWi-Fi接続だけではなく、携帯ネットワーク接続モデルも追加すべきです。

今どき、iPad mini(アイパッド・ミニ)だって、LTE(第3.9世代の携帯ネットワーク)につながるのです。公園のベンチで音楽も買えないとなると、ちょっと寂しいではありませんか。
 


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それに、第一、広いキャンパスの中庭で撮ったコマーシャルが、ウソくさく感じられますよ。だって、あの設定でWi-Fi接続は厳しいでしょう?

そんなわけで、次回の参考にしていただければ嬉しい限りなのです。

夏来 潤(なつき じゅん)

 

11月の「選挙の日(Election Day)」

今回は、毎年11月最初の火曜日にやってくる「選挙の日(Election Day)」のお話をいたしましょう。

この日は、全米で総選挙(General Election)が開かれる日ですが、今年は11月6日が「選挙の日」でした。

もちろん、今年の目玉は4年に一回めぐってくる大統領選挙(Presidential Election)でしたが、決めるのは大統領ばかりではありません。

国の上院議員(U.S. Senator)や下院議員(U.S. Representative)を決めたりもします。

連邦議会の選挙は、2年に一回(偶数の年)めぐってきますが、大統領選挙のない年には、中間選挙(Midterm Election)などと呼ばれますね。

大統領や国の議員ばかりではなく、総選挙では、州知事(governor)、州上院議員(state senator)、州下院議員(state assembly member)を選んだりもします。

それから、市長(mayor)や市議会議員(city council member)を決めたり、もっとコミュニティーに密着した代表者、たとえば学区(school district)の役員を決めたりする日でもあります。

そう、ある公職の任期(term)が終わりそうになると、現職の人を再選したり(re-elect an incumbent)、次の人を選んだりと、それが「選挙の日」というわけです。

11月の総選挙は、誰かが公職に当選する大きな選挙となりますが、6月には予備選挙(Primary Election)が開かれ、事前に候補者を絞り込んでおきます。

アメリカは二大政党の形式(two-party system)をとっていますので、ひとつの政党からたくさんの候補者が出ないように、予備選挙で各政党から人気の高い人を選んでおくのですね。


というわけで、今年の総選挙は、なんといっても、大統領選挙。

4年に一度めぐってくる、お祭りのような騒ぎです。

ご存じのように、現職のオバマ大統領の再選が決まり、来年1月から二期目に入ることになりました。

大統領の任期は、「最大二期8年」と米国憲法(修正第21条)で定められています。

ですから、2016年末までは、オバマ大統領が国の舵取りをします。

きっと、2016年11月の大統領選挙は、またまた大騒ぎになることでしょう。


(Official portrait of President Obama from Wikipedia)

ちなみに、アメリカは有権者ひとりひとりが大統領候補に票を入れるわりに、最終的には、選挙人が票を投じるという「選挙人団(Electoral College)」の制度を持っていますね。

なんとなく奇妙な制度ではありますが、これは、18世紀末、米国憲法をみんなで決めるときに、大きな州と小さな州が仲たがいしてしまって、これを仲介しようとしてできた苦肉の策なんです。

各州の選挙人(elector)の数は、各々の州に割り当てられた連邦議員(上院議員と下院議員)の数となっていますが、下院議員が州の人口に比例するのに対し、上院議員の方は、各州から公平に2人ずつ出すことになっています。

そういう意味で、必ずしも州の大きさには比例しない、折衷案というわけです。

それで、一部の州を除くと、住民投票で得票数の多い候補者に対して、州の選挙人がまとめてどっと票を投じることになっています。ですから、大統領選というのは、どうしても「州取り合戦」になってしまうのですね。

最終的には、大統領に当選するためには、全米538の選挙人から、270の選挙人票を獲得すればいいということになっています。

(上の写真は、シリコンバレー・サンタクララ郡の投票用紙です。真ん中に写っているのは、大統領候補の欄ですが、大統領・副大統領候補が6組もいたんですね!)


というわけで、11月6日。

実際に選挙が終わってみると、国民の投票数(popular votes)でも、選挙人の数(electoral votes)でも、オバマ大統領が共和党挑戦者のミット・ロムニー候補を上回る結果となったので、「堂々の勝利」といえるでしょうか。

そうなんです。一部の専門家は、国民の投票数と選挙人の数で、各々の勝者が分かれるのではないかと予想していたくらいなので、もっと接戦になると考えられていたのです。

選挙の日、午後8時になると、東の州から順繰りに投票所が閉められ開票にとりかかるわけですが、この晩、東海岸の午後11時18分(西海岸8時18分)には、メディアがさっさとオバマ大統領の勝利を宣言してしまったのでした。

そう、オバマ支持者にしても、ロムニー支持者にしても、徹夜だって覚悟していたので、実にあっけない結末。

けれども、どうしてもあきらめきれないロムニー陣営は、オバマ大統領が獲得した激戦州オハイオについて、「まだわからない!」とねばり続けました。

その結果、自分の負けを認め、敗戦スピーチ(concession speech)をしたのは、「オバマ当確」から2時間近くたった、午前1時(東海岸時間)。

そう、負けた側が相手を祝福して初めて、勝利者が支持者に感謝し、国民に向かって「一緒にがんばっていこう!」と勝利宣言ができるのです。

オバマ大統領が勝利スピーチ(victory speech)をしたのは、ロムニー候補のスピーチの30分後。
 終わった頃には、東海岸は午前2時をまわっていました。

それでも、マンハッタンの広場などには、オバマ大統領の支持者がたくさん集まり、熱心にスピーチに耳を傾けていましたよ。

寒空のもと、大変だったとは思いますが、やっぱり、熱く燃える若者が多かったみたいですね(そう、オバマ大統領は、若い層に大人気!)。

(Photo of President’s family by Win McNamee / Getty Images; photo of Mr. Romney by Don Emmert / Agence France-Presse via Getty Images; photo of President’s victory speech from ABC broadcast)


というわけで、大統領選挙は国の大騒ぎではあるのですが、カリフォルニアでは、あんまり話題にならないんです。

なぜって、最初からカリフォルニアでは、オバマ大統領みたいな民主党候補(Democratic Presidential Nominee)が勝つと決まっているから。

ですから、大統領候補者のテレビコマーシャルだって、目にすることはほとんどありません。何回かオバマ大統領のコマーシャルを観ましたが、それだって、お金の無駄だったかもしれませんね。

そうそう、この晩、ニュース専門局 CNNの開票速報を観ていると、おかしなことが起きました。

カリフォルニアなど西海岸が午後8時になると、その瞬間に「カリフォルニア州とワシントン州とハワイ州はオバマ大統領が獲得!」と宣言したのです。

いえ、まだ一票も数えていないのに、ですよ!

そして、そのわずか18分後には、「オバマ大統領の再選確実!」と報じたのでした。

そう、カリフォルニアは、リベラルな州。そして、大票田。アメリカで一番大きな州ですので、選挙人を55も持っています。

ですから、カリフォルニアみたいな大きな州を獲得できれば、大統領の座がぐんと近づくのですね。

今回は、オバマ大統領が順調に各州を獲得してきたので、カリフォルニアが午後8時になったとたんに、「当確」が色濃くなったというわけでした。

とにかく、おめでとうございました、オバマさん!

きっと、アメリカ自身よりも、世界がもっと喜んでいることでしょう。

追記:最後の写真は「どうしてここに?」と思われた方も多いでしょうが、胸にくっついている「I Voted」というシールがミソなのです。
 投票所に来た人には、このシールが配られ、「ちゃんと投票したぞ!」とアピールできるようになっています。

ちなみに、アメリカでは、市民権(citizenship)を持たないと投票はできませんが、それだけではなくて、自分で有権者登録(voter registration)をしなければ、投票の権利が与えられません。
 日本のように「住民登録(resident registration)」という制度がないので、自動的には選挙案内が来ないのです。

それから、蛇足ではありますが、上に出てきた選挙人団の538という数は、このように決められています。
 文中にもあったように、50州から選出される上院議員数100と、下院議員数435を足して、これに、首都ワシントンD.C.に割り当てられた3を加えたものとなります(100 + 435 + 3 = 538)。

そう、首都(the District of Columbia または Washington, D.C.)は州ではありませんので、連邦議会に議員を選出することはできません(ちゃんと住民は住んでいるのですが)。ですから、特別に大統領選挙人として3票が割り当てられているのですね。

サンフランシスコのジャイアンツ・フィーバー!

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前回のフォトギャラリーは、10月28日にワールドシリーズ制覇を果たした、サンフランシスコ・ジャイアンツのお話でした。

今回は、優勝に向けてだんだんと盛り上がっていく街の興奮を、ほんの少しご紹介したいなと思いました。

たとえば、街を歩いていると、ビルの窓には Go Giants!(がんばれ、ジャイアンツ!)の張り紙をたくさん見かけました。みなさん、思い思いにお手製のサインをつくって、チームへの愛情をアピールです。

球場で黄色い声援を送るのと同じように、これも大事な自己表現なんでしょうね。

お店だって、負けてはいません。

ショーウィンドウに Go Giants! の文字を入れるだけではなく、マネキンにジャイアンツの帽子をかぶせたり、オレンジ色の服を着せたりと、それぞれの店舗の工夫が光ります。

ホールフーズ(Whole Foods)というオーガニックのスーパーマーケットでは、お肉売り場で Go Giants!! の文字を見つけてびっくり。

「みんなで観戦パーティーを開いて、ハンバーガーを食べましょう!」というプロモーションみたいで、ハンバーガーのパテ(beef patties、牛ひき肉をハンバーグ型にしたもの)が安売りだったみたいです。

お祭り騒ぎが大好きなアメリカ人ですので、「チャンスがあれば、何でも楽しみの材料にしちゃいましょう。それには、まず食べ物を確保しなくっちゃね!」という発想なんでしょう。

そうそう、ピーナッツがいっぱい入った袋にも、地元チームのロゴが入っていました。ジャイアンツのロゴはもちろんのこと、対岸のオークランドA’s(アスレチックス)のロゴ入りもありましたよ。

サンフランシスコとオークランドは、ベイブリッジ(Bay Bridge)一本で結ばれているので近いです。ですから、サンフランシスコにA’sのファンがいたり、オークランドにジャイアンツファンがいたりと、入り混じっているのです。

リーグが違うので、あんまり対戦することはありませんので、両方応援している人もたくさんいるみたいです。A’sだって、1968年にオークランドに移ってきて以来、4回もワールドシリーズに勝っている由緒正しいチームですからね。

残念ながら、今シーズンA’sはプレーオフ途中で破れてしまいましたが、きっとA’sファンだって、ジャイアンツの応援にまわっていたことでしょう。

そう、ジャイアンツの優勝に向けては、一般市民ばかりではなく、公職に就く方々だって熱心に応援していらっしゃいました。

とくに消防士さんのノリの良さには感心してしまいましたね。

優勝を決めた日曜日の晩、消防署の前を通りかかると、入り口には大きなジャイアンツの旗が掲げてあって、消防士さんたちが道行く人に笑顔を振りまいていました。

入り口に立って談笑をしながら、ただ街の人たちと喜びを分かち合いたかったみたいです。

プレーオフの期間中、サンフランシスコの消防車には、すべてジャイアンツの旗が掲げられていたみたいですよ。

やっぱり消防士さんって、地元コミュニティーに対する愛情が深い方々なのでしょう。そうでなければ、消火・救助活動なんて大変なお仕事はできないものです。

それから、チームワークとか仲間意識も強いんでしょうね。たとえば、9月の同時多発テロ記念日の頃には、サンフランシスコの消防車に「FDNY(ニューヨーク市消防署)」という文字が誇らしげに書かれていたのですが、これは「僕たち消防士仲間」という仲間意識の表れなのでしょう。

そんな消防士さんにとっては、「この街に住む仲間」だって、とっても大事。だから、地元チームはしっかりと応援しなくちゃ! と燃えるんでしょうね。

ま、それに比べると、お巡りさんは実にクールなものでしたよ。

もちろん、お巡りさんはファンの大騒ぎをおさめる側ですので、自分たちが一緒になって興奮してはいけません。

それでも、たとえばジャイアンツの帽子をかぶるとか、オレンジのものを身につけるとか、もうちょっと「かわいげ」があってもいいのになぁと、個人的には思った次第です。はい。

そんなわけで、お巡りさんだけはノリが悪かったんですが、街じゅうの人たちがジャイアンツに燃え上がったのは、単に地元チームを応援したかっただけではなくて、みんなとつながりたい! って気持ちも強かったんだと思いますよ。

世の中は、11月6日の「選挙の日(Election Day)」に向けて、やれブルー(民主党支持)だ、やれレッド(共和党支持)だと、ふたつに分かれているでしょう。そんな中で、たったひとつみんなをまとめることができるといえば、地元チームしかないと思うんですよ。

そう、スポーツと政治どちらを取るか? と問われれば、今年のサンフランシスコは、「スポーツ」だったのではないでしょうか。

10月22日、リーグ優勝をかけた大事な試合(NLCS最終戦)がありましたが、この晩は、大統領候補者の最終討論会もありました。でも、ほとんどの人は、夕方5時からの試合を応援していて、6時からの討論会なんて、頭にはなかったことでしょう。

ま、どちらも「勝敗を決めるゲーム」みたいなものではありますが、この一戦で勝ち負けが決まるとなると、やっぱり野球の試合を観たいですよね!

というわけで、サンフランシスコ・ベイエリアは、ジャイアンツの優勝に向けて、みんなでワイワイとオレンジに沸き立つ日々を送っていたのでした。

追記: ちなみに、サンフランシスコの南に位置するシリコンバレーは、ジャイアンツが「領土権(territorial rights)」を持っています。だから、自然とジャイアンツファンが多くなるみたいです。

一方、オークランドA’sは、オークランド市のあるアラメダ郡と、その北のコントラコスタ郡に領土権を持っています。

その他のサンフランシスコ・ベイエリアはジャイアンツの領土となりますが、ですから、たとえば A’sがシリコンバレーにスタジアムをつくる話が浮上しても、「人の領土に踏み込むな!」と、なかなかスムーズにはいかないのです・・・(お願いだから、みんなで仲良くしましょうよぉ!)。

おめでとう、サンフランシスコ・ジャイアンツ!

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先日、エッセイ「スウィープ!(SWEEP!)」でもご紹介したように、サンフランシスコ・ジャイアンツ(the San Francisco Giants)がワールドシリーズ覇者となりました。

そう、野球の世界一!(ま、いちおう「ワールドシリーズ」という名前ですから、「アメリカ一」ではなく「世界一」と言っておきましょう)

10月中旬、日本から戻ってくると、なんだかジャイアンツがプレーオフに勝ち残っているみたいです。

これから、ナショナルリーグのチャンピオンを目指すんだ! というのですが、どうやら、聞いてみると、それまでの試合はハラハラものだったとか。

地区プレーオフでは、いきなりホーム球場 AT&T Park で2連敗して「崖っぷち」に立たされたと思ったら、敵地シンシナティでレッズ(the Cincinnati Reds)に3連勝して、地区優勝を決める。

ナショナルリーグのチャンピオンシップシリーズでも、最初の4試合で1勝3敗と「背水の陣」に追い込まれたあと、3連勝を果たして、お相手のセントルイス・カーディナルズ(the St. Louis Cardinals)をひっくり返す。

そんな逆転劇を繰り広げてきたジャイアンツですが、本命のワールドシリーズになると、もうモタモタしていません。

お相手のデトロイト・タイガーズ(the Detroit Tigers)を4連勝で駆逐して、すんなりとワールドチャンピオンとなるのです。

ナショナルリーグシリーズの3連勝から数えると、実に7連勝という快挙!

いえ、地区やリーグを勝ち進んできた強豪を相手にしているのですから、7連勝なんて、そんなに簡単にできることではありません。だって、デトロイト・タイガーズなんて、あのニューヨーク・ヤンキーズを破って勝ち進んだチームですものね。

というわけで、とにかくおめでたいことではありますが、実は、サンフランシスコ・ジャイアンツがワールドチャンピオンとなるのは、おととしの初優勝から二度目のこと。

残念ながら、おととしは優勝パレードをこの目で見ることができなかったので、いったいどんなものかしら? と、今年はサンフランシスコの街に繰り出すことにいたしました。

ちょうどハロウィーンの日がパレードとなりましたが、ハロウィーンの黒とオレンジは、ジャイアンツカラーの黒とオレンジに見事にマッチ。「どうしてハロウィーンの日にパレードなの?」という一部の批判も、なんのその。

今年のパレードは、目抜き通りマーケットストリートをまっすぐに進んで、そのまま市役所前広場で開かれる式典に移動するということ。それで、マーケットストリートでパレードを見学することにしたのですが、これが、まあ大変!

午前11時からのパレードには、前夜から待つ人もいるくらいですので、とっても前列になんて並べません。ですから、幾重にも並ぶ人々の後ろに立つことになり、選手なんてほとんど見えません。だって、アメリカ人って背が高いでしょう。

ですから、前列の人が高く掲げるカメラやスマートフォンの画面を見ながら、どんな乗り物が来たかを知り、まわりの人たちの「解説」を聞いて、初めて誰が乗っているかがわかる・・・といった始末でした。

そう、最近は、みなさんデジカメやスマホでうれしい瞬間をキャッチ! というのが常識でしょ。ですから、こんなところで、みなさんの画面が役に立つんですよね。

パレードに参加している方々だって、「この晴れの瞬間を永遠に保存したい!」というわけで、アップルのiPad(アイパッド)で映像を撮っている人を何人も見かけましたよ。そう、あの大きなタブレットを掲げてるんですよ。

そんなわけで、肉眼では優勝パレードはよく見えなかったですが、それでも、まあ、みなさんの熱気と、パレードの雰囲気はひしひしと伝わってきました。

なるほど、パレードに参加している人たちも、沿道で黄色い声援を送っている人も、お互いに手を振り合って、ニコニコ笑い合って、楽しく過ごしましょうよ! というのが、本質のようですね。

そして、みなさん、楽しむことをよく知っていらっしゃる。

午前11時に始まったパレードは、最初の1時間ほどは、チームのスタッフやスポンサー、コーチ陣、家族といった「縁の下の力持ち」が参加なさるのですが、彼らが沿道にまくキャンディーやグッズをキャッチしたり、その裏では「あなたたちって、いったい誰よ(Who are you, people?)」と陰口をたたいたりするのが、とっても楽しいらしいんですね。

それでも、やっぱりチームの選手たちが出てくると、もう大騒ぎ。

選手たちの名前やあだ名を叫んだり、大きな拍手を送ったりと、彼らをたたえることを忘れていません。

だって、みなさん、選手たちを褒めたたえるために、ここにやって来たんですものね。

わたし自身は、自分の目でじかに選手を見られなかったので、あとでカメラに写っている姿を吟味したわけですが、それでも、優勝パレードに行ってみたり、プレーオフの試合をバーで観戦したりと、今シーズンはチームを身近に感じることができました。

スーパースターはいない代わりに、みんなお互いを信頼し、エゴを捨てて助け合う。きっと、お父さんみたいなボウチー監督のもとでまとまる、仲良しの若いチームだからこそ、ここ3年で2度目の優勝を果たすことができたのでしょう。

その昔、ジャイアンツがキャンドルスティック・パークをホーム球場としている頃は、よく試合を観に行ったものでした。ライバルのロスアンジェルス・ドジャーズとの「しのぎ合い」を観るのが楽しかったんです。

でも、海沿いの美しい AT&T Park に引っ越したあとは、なぜかしら一回しか観に行っていません。対岸のオークランド A’s(アスレチックス)には、日本人大リーガーを応援しようと足しげく通ったんですけどね。

そろそろ、AT&T Park にもせっせと通う時期でしょうか!

こんなことを言うと鬼が笑いますが、

来シーズンも、Go Giants!がんばれ、ジャイアンツ!

追記: ちなみに、ジャイアンツのマスコットは、Lou Seal (ルー・シール)という名前のアザラシくん。

彼の素性については、ジャイアンツのウェブサイトにインタビュー記事が載っています。
サンフランシスコ沖のファラロン島(the Farallon Islands)で生まれ、サンフランシスコで育った彼は、ジャイアンツのマスコットとして有名になると、「チケット分けてちょうだいよ」と、会ったこともない親戚が次々と名乗りを上げているそうです。
ご両親からは、「小魚じゃなくって、ちゃんとしたサラリーをもらうなんて、あんたも立派になったものよねぇ」と、えらく褒められているとか。

そんなご両親や親戚が海の中から観戦したり、自分の活躍ぶりを見られるようにって、AT&T Park脇の海に水中テレビを設置して欲しいと、ジャイアンツには頼んでいるそうです(いまだ実現してないようですが)。

もちろん、代々ジャイアンツファンの血筋で、曾祖父の時代には、サンフランシスコのマイナーリーグ・チームは、サンフランシスコ・シールズ(アザラシ)という名前でした。
元祖オーナーが「名前は何にしようかな?」と考えながら23番埠頭を歩いていると、一陣の風が帽子を海に吹き飛ばし、それを曾祖父が拾ってあげたことがきっかけとなって、「シールズ」という名になったとか。

英語のインタビュー記事ですが、なかなかおもしろいので、ここにご紹介いたしました。

スウィープ!(SWEEP!)

こちらは、10月29日のサンノゼ・マーキュリー新聞、第一面。

でっかい文字 SWEEP! は、「完全優勝」を意味します。

そう、メジャーリーグ野球のワールドシリーズで、サンフランシスコ・ジャイアンツ(the San Francisco Giants)が優勝したんです。しかも、最短の4連勝で!

(Photo from the San Jose Mercury News, October 29th, 2012)

先に4勝した方が勝つというワールドシリーズで、さっさと4勝してしまった「負けなしの完全優勝」。それが、「ほうきでサッサと掃く」ように相手を片づけたというので、Sweep

まさに、うれしい「ほうきでサッサ」なのです。

しかも、おととし2010年に引き続き、二度目の優勝。これが若いチームの底力!

選手たちも輪になって、歓喜の雄叫びをあげます。(Photos by Gary Reyes, San Jose Mercury)

まあ、お相手のデトロイト・タイガーズ(the Detroit Tigers)には申し訳ないですが、サンフランシスコを応援する者にとっては、なんとも言えない優勝の喜び。

優勝は、敵地デトロイトで決まりましたが、タイガーズのスタジアムには、こんなジャイアンツファンも。

そう、サンフランシスコの「完全優勝」を見越して、スタジアムに「ほうき」を持って行った人が!

よかった、よかった。わざわざ持って行った甲斐がありましたね!


これで優勝が決まるかもしれない! という28日の日曜日。我が家は、テレビで優勝の瞬間を見届けたのですが、そのあとサンフランシスコの街に繰り出してみると、ものすごい騒ぎ。

サンフランシスコの市役所前広場では、市が巨大なテレビを準備し、1万人が参加する観戦イベント(viewing party)が開かれました。

そして、ジャイアンツのホーム球場 AT&T Park にも、自然にファンが集まり、みんなで優勝の瞬間を待ち望んでいました。

そんな何千人、何万人というファンたちが、優勝が決まった瞬間に街じゅうにあふれ出したから、さあ、大変。

大声で叫んだり、すれ違いざまに手をたたきあったり(high-fiving)、知らない人だって、もう立派なお友達。
 みんな「ジャイアンツファン」という共通項でしっかりと結ばれているのです。

道行く車も、クラクションを鳴らし、喜びをいっぱいに表現するのですが、そのうちにこちらも耳をつんざくような騒音にも慣れ、「うるさいなあ」という感覚も消えて行くのです。

こちらは、目抜き通りのマーケットストリート。バスがすっかりファンたちに取り囲まれていますが、いつの間にか、何人かがバスの上に乗っかって大騒ぎ。

ひとりが乗っかると、そのあと3人が真似をして、バスの天井でボンボンとジャンプ。が、間もなく近づいてきた警察官になだめられ、おとなしく「舞台」から降りてきました。

警官がうまく交通整理をしていたので、マーケットストリートは比較的おとなしいファンたちでいっぱいでしたが、サンフランシスコのミッション地区では、道路でたき火(bonfire)が燃え上がったり、車がひっくり返されたりと、ちょっとした騒ぎになったようです。

それでも、サンフランシスコの人たちはお行儀が良いので、大混乱にはなりませんでした。

だって、優勝のお祝いが暴動になったら、何のためにお祝いしているのかわかりませんものね。


翌日の月曜日。わたしも優勝グッズが欲しいと思って、お出かけしました。

歩いていると、ビールの空き瓶や、グラスの破片と、あちらこちらに前夜のお祝いの残骸がありました。

さすがに道に捨てるのは悪いと思ったのか、こちらのビール瓶は、消火栓の上に置き去りです。

ま、お祝いですから、それもしょうがないでしょうか。

抜けるような青空のもと、向かった先は、ジャイアンツのホーム球場 AT&T Park。ここなら、グッズを売るスタンドがあるに違いないと思ったからです。

入り口前には、特設スタンドができていて、まだまだグッズも豊富に残っています。
 めでたく、優勝記念のTシャツと帽子、そしてジャイアンツのチームカラー、黒とオレンジの帽子をゲット!

親切なことに、Tシャツも帽子も女性用の小さいサイズが揃っていて、小さな体にもちゃんとフィットします。

優勝記念Tシャツと帽子には女性用の「S、M、L」があり、チームの帽子は「サイズ7」とか、ひとつずつサイズを選ぶようになっています。もしかすると、カリフォルニアにはアジア系の人が多いから、小さいものもたくさん売っているのでしょうか?

と、球場の左側を眺めると、なにやらファンがたくさん集まっています。

何かを心待ちにしているようなのですが、どうやら、AT&T Park に戻ってくる選手たちを歓迎しようと、熱烈なファン(die-hard fans)が集まっているようです。

「選手たちのバスは3時に到着する予定だったのに、かなり遅れてるよ」と誰かが言っていたので、みなさん、長い間待ちぼうけなのでしょう。

わたしは待つ時間がなかったので、仕方なくその場を離れたのですが、あとで新聞を読んでみてびっくり。近くに車を停めて、前の晩から車に泊まっていた女性ファンもいたそうですよ!

「彼らを歓迎するためだったら、迷わず、もう一度やってあげるわ(I would do it again in a heartbeat just to welcome them home)」とのことでした。

子供ふたりを連れていた彼女は、学校はちゃっかりと休ませたみたいですよ!

まあ、球場の辺りは、そんなに危険な場所ではないので、子連れでこういうことだってできるのでしょうね。

この日の午後、デトロイトから戻ったチャーター便は、サンフランシスコ空港で消防車の歓迎の放水を浴びたそうです。
 ここ AT&T Park のファンたちだって、負けないくらいの歓迎の叫びを浴びせたことでしょう。

実は、この日は、わたしの誕生日でもありました。

サンフランシスコ・ジャイアンツの優勝は、なによりも素敵なプレゼントなのでした。

後日談: フォトギャラリーのセクションでは、サンフランシスコ・ジャイアンツを応援する街の様子を掲載してみました。
 街の人たちと一緒に、消防士さんたちのノリが良かったわりに、警察官のノリが悪いのが目立ったでしょうか・・・。そんなお話も付いています。

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