Hanging around(ぶらぶらしている)

今日のお題は、Hanging around

動詞の hang around に「現在進行形の ~ ing」が付いています。

普通、hang というと、「~ を(壁に)かける」とか、「(雲が空に低く)たれこめる」とか、「(判断が)宙ぶらりん」だとか、そんな意味ですね。

でも、hang around となると、「とくに目的もなく、その場にいる」とか、「その辺でぶらぶらする」といった意味になります。

ですから、現在進行形の hanging around となると、「とくに何もしないで、ぶらぶらしている」といった感じ。

同じような言葉で、hang out というのもありますが、こちらは「友達と遊ぶ」とか、「異性の友達とつきあう」というような意味になります。

異性の友達といっても、date(デートをする)まではシリアスではなく、ちょっと一緒に出かけてみる、みたいなカジュアルな関係をさします。


それで、どうして hanging around(ぶらぶらしている)をご紹介しているのかといえば、サンフランシスコのあるイベントで、ふと頭に浮かんだ言葉だから。

先日、フォトギャラリーのコーナーでは『SFジャイアンツのファンフェスト』と題しまして、メジャーリーグ野球サンフランシスコ・ジャイアンツの「ファンフェスト」というイベントをご紹介いたしました。

毎年2月初め、春のキャンプが始まる前にホーム球場 AT&Tパークをファンに開放し、選手たちと触れ合ったり、フィールドで遊んだりと、「ジャイアンツファン」であることを楽しむ一日です。

今年のファンフェストは、途中で土砂降りの雨となった、あいにくのお天気。

例年より参加者は少なかったようですが、それでも、雨の間はスタンドで雨宿りしたり、フードスタンドで買ったポップコーンやホットドッグをほおばったりと、それなりに「球場」の雰囲気を楽しめるイベントなのでした。

ファンフェストでは、また、特別にダグアウトやフィールドにも入れてもらえるので、みなさん、憧れの選手たちがプレーするフィールドに足を踏み入れるのが、とっても嬉しいんですよね。

フィールドには、食べ物のテントや商品宣伝用のテントもたくさん設営されていて、それなりに楽しめるのですが、だいたいみなさん、広い芝生でキャッチボールをしたり、家族や友達と談笑したりと、なんとなく「ぶらぶらしている」んです。

ですから、「これこそ、アメリカらしいイベントだなぁ」と感じたのでした。

そう、ぶらぶらするのって、とってもアメリカらしいんですよね。

だって、こんな会話が聞こえてきそうではありませんか。

What’s up?
 何やってんの?

Oh, doing nothing, just hanging around
 べつに何もやってないよ、ぶらぶらしてるだけだよ

とくにせかせかと何をするでもなく、その辺でぶらぶらと時を過ごして

その場の雰囲気を体いっぱいに吸い込む。

これこそ、アメリカ人にとって、最高の時の過ごし方ではないでしょうか。

そういえば、アメリカでは、よく玄関前のポーチや階段(stoop)に腰掛けて、行き交う人々を眺めている方がいらっしゃいます。

きっと、これも hanging around の一種。

彼らにとっては、最高の時の過ごし方なんでしょう。


ところで、動詞 hang というと、他にもいろんな慣用句がありますね。

簡単な単語ほど、いろんな風に化けるのです。

たとえば、hang on といえば、「~にしっかりとつかまる」という意味。

具体的に「(モノに)つかまる」という意味もありますし、比喩的に「~を持ち続ける」という意味にもなります。

たとえば、

Hang on to the railing! というと、

誰かが屋上から落っこちそうになって、「手すりにしっかりとつかまれ!」と言いながら、その人を必死に助けている光景などを思い浮かべます。

一方、

Hang on to your dream というと、

「途中でくじけないで、あなたの夢を持ち続けてください」と、励ましている光景を思い浮かべます。

そう、「虹の向こうには、あなたの夢が待っている!」みたいな感じ。

それから、

Hang in there というのも、これに似ているでしょうか。

「(大変だろうけれど)今の調子で、ずっとがんばってね!」と励ましている感じです。

大学で統計のクラスを取っていたとき、その場でテストを採点してくれた先生が、Hang in there(その調子でがんばって)と言ってくれたのが、ひどく印象的でした。

いつもはちょっと怖い先生が、右手にグーを握りしめて「がんばれ」のサインを送ってくれたんですが、それがとっても嬉しかったのでした。


というわけで、今日のお題は Hanging around

球場のフィールドに出てみると、草が思いのほかフカフカしていて、ちょっと意外だったのでした。

これだったら、スニーカーがふわりふわりと宙に浮いて、速く走れるような気がするのです。

逆に、ときどき外野手が球を追って激突する壁のクッション。

こちらは、思いのほか固くって、こんなのにぶつかったら体を打撲してしまうだろうなと、外野手の方々に同情してしまったのでした。

こんな風に、ぶらぶらしながらも、いろんなことを実感できるイベント。

これが、球場を開放したファンフェスト

Hanging around の一日なのでした。

真冬ふたたび!?

先日「フォトギャラリー」のコーナーでは、『サンフランシスコ・ベイエリアは春本番!』と題して、春の陽光にあふれるベイエリアのお話をいたしました。

丘には黄色い菜の花が咲き乱れ、木々には梅や桃がきそって花開かせる。

まさに、「春本番」としか言いようのない、穏やかな日々なのでした。

すると、まるでそれをあざ笑うかのように、真冬が戻って来たのです。

2月の最終日、土曜日。

前日に降る予定の雨が、なかなか降ってくれないので、やっぱり「恵みの雨」は望めないなぁと思っていたのです。

そう、干ばつ(drought)に苦しむカリフォルニアですから、一滴の雨だって大歓迎なのです。

すると本日、土曜日。午後に入って急にモクモクと黒雲が空をおおい、バタバタと大きな音をたてて降ってきたのです。

窓に当たる音があまりに大きいので、おかしいなぁ? と思ってブラインドを開けると、

なんと「氷」!?

たぶん「雹(ひょう、hail)」なんだと思いますが、あれよ、あれよという間に地面にも降り積もり、道路も、中庭も、裏庭も、世界が真っ白になってしまったのでした。


その間、空には、ゴロゴロと鳴り響く雷の大音声。

これほど連続して雷が鳴るのは、まず聞いたことがありません。

一旦やんだかと思えば、また雷が鳴り響き、雹が降る。

それが小一時間ほど続いたでしょうか。

まるで「ノアの大洪水」が、雹に変身して空から降っているよう。

そうなってくると、辺りはまるで、雪国のような景色。

サンノゼに住んで20年になりますが、こんな風景は、一度も見たことがありません。

もう何年も前に、「サンノゼに雹が降った」とご紹介したことがありますが、そのときは、ほんのかわいらしいもの。こんなにひどくはありませんでした。


きっと、近頃、お天気がおかしくなってきているのはないでしょうか?

だって、通常は雨季の冬でも、ほとんど雨が降らないのです。

そんな「乾いた雨季」が、もう4年目に入っていて、1月は降雨量がゼロに近かったし、2月も3日ほど降っただけで、あとはカランカランのお天気。

すると、突然、今日みたいに「洪水級」に空から落ちてくる。

ひとり家にいたわたしは、勢いよく天から落ちてくる氷に、恐怖心すら抱いたのでした。

だって、真っ黒な空が、まるで怒っているようにも感じるのですから。

ゴロゴロという雷の爆音はすぐ近くに落ちてきそうですし、容赦なく叩きつける雹は屋根を壊しそうな勢いですし(いえ、実際、我が家の離れの天井には、小さな水漏れが・・・)。

けれども、ご近所さんの中には、「わ~い、雪だ!」と、わざと車で出かけたり、「わ~い、2月にクリスマスだぁ」と、たくさん写真を撮ったりする人もいたようです。

まったく、カリフォルニア人ときたら、雪や雹が珍しいので、子供のように大はしゃぎ。黒雲や雷も、ちょっとしたエンターテイメント!


というわけで、加減を知らない、近頃のお天気。

今日はポカポカお天気でも、明日は真冬に逆戻りするやもしれません。

小窓の外に、雹が降り積もっているのを見ていると、「蛍の光、窓の雪」という歌詞を思い出しました。

雪国に住んだ経験はありませんが、雪って、夜でもほっこりと明るいのでしょうね。

ご近所さんのスキャンダル

いえ、「スキャンダル」というほどのことではありませんが。

事の発端は、ご近所さんの「変化」にありました。

我が家よりもちょっと遅れて、十数年前に引っ越して来られたご夫婦。

子供さんはいないので、小さな犬数匹と一緒に暮らしていました。

テクノロジー企業で責任のあるポジションに就くダンナさまと、病院で検査技師をしている奥さま。

ダンナさまは、アイアンマンレースにも出場するほどのアスレティックな方で、アメリカじゅうを飛び回ってレースに出場し、そのたびに奥さまも仲良く同伴なさっていました。

ところが、あるときから、ダンナさまを見かけなくなったのです。

彼の車は、低いエンジン音を響かせるスポーツセダン。早朝出勤のエンジン音で、わたしも毎朝起こされていたのですが、あるときから、その低音を聞かなくなったのです。

出張かバケーションで家を空けているのかと思っていたのですが、どうやら、奥さまだけが家にいて、ダンナさまは、いつまでも家に戻って来ません。

そこで、数ヶ月経った頃には、「やっぱり、あそこは離婚なさったのねぇ」と、ご近所のコンセンサスを得ることになりました。

まあ、当の奥さまは、ダンナさまが出て行くとさっさと仕事を辞め、女性のルームメイトを招き入れ、悠々自適の生活をなさっていました。が、まさか「あなたは離婚されたのですか?」と聞くわけにもいかないし、事実は誰も把握していなかったのでした。


それで、みんなの心の中では、「どうして、あんなに良さそうな方と離婚なさったのだろう?」と、ずっと疑問が消えなかったのです。

が、先日、事の次第が明らかになったのでした。

そう、このご夫婦のお向かいさんが、謎を解き明かしてくれたのでした。

あら、わたしが聞いた話では、こんな感じなのよ。

ダンナさまは、体を鍛えるのが好きだったでしょ?

それで、奥さまも自分でワークアウトしようと思って、ジムに通っていたのよ。

そしたら、そこである女性に出会って、「あら、ダンナよりも彼女の方がいいわ」って思ったらしいのよ。

それで、ダンナさまに出て行ってもらって、彼女に家に来てもらったってわけ。

え、どうして、そんなこと知っているかって?

実は、うちに来てもらっている便利屋さん(handy man)が、彼らの家にも呼ばれていて、そこでダンナさまがグチったらしいのよ。「妻が女性と一緒になるために、僕は捨てられたのか?」って。

彼も便利屋さんも同じ祖国から来ているから、話しやすくって、ついグチったんじゃないの?

いえ、わたしは、なにも同性カップルに反対しているわけじゃないのよ。女性が女性と一緒にいようと、それは個人の問題よ。

でも、結婚してるんだったら、相手を裏切るような行為は絶対にすべきじゃないのよ。

わたしも、いつもダンナに言ってるの。わたしに飽きたって言うなら、いつでも出て行って結構よ。でも、もしも他の人に気を取られたんだったら、それは絶対に許さないからって。

だって、そうでしょ。結婚して相手があるのに、浮気(cheating)をするなんて、そんなのは言語道断よ!


というわけで、ご近所の間では、「ふたりはとっても似ているから、奥さまの妹かしら?」と噂されていたふたり。

でも、わたしはご本人から「彼女はお友達よ」と紹介されていたので、心の中でくすぶり続けていた謎も解けて、ホッとしたのでした。

そして、謎解きをしてくれたご近所さんには、「ダンナさまには、あなたの熱い想いは十分に伝わってますよ」と、お礼を申し上げたのでした。

ひと月ほど前、例の奥さまからは新しい女性のルームメイトを紹介されていたので、ということは、前のルームメイトの方とは別れて、新しい方を見つけたということなのかもしれません。

話しぶりから、ふたりが通っていた太極拳の道場で知り合ったようですが、前の方よりも年上で、落ち着いた感じの方ではありました。

そういえば、ふた月ほど前、「あそこは、今日お引っ越しみたいだよ」と耳にしていたので、きっとそのときに人の出入りがあったのでしょう。

わたし自身は、誰と誰が一緒になろうと、他人がとやかく言う類(たぐい)のことではないと思っています。

人が人を好きになることに、垣根はないのだろうと思うからです。

ですから、アメリカじゅうに同性結婚(same-sex marriage)が広まることは、とっても喜ばしいことですし、近所に男性カップルが引っ越して来られたときには、このコミュニティーも、だんだんと「普通」になってきたなと感じたことでした。

そう、誰と誰が一緒になろうと、何十年も添い遂げるカップルもあるし、残念ながら2、3年で別れてしまうカップルもある。

それは、もはや「性別」の問題ではなく、「人と人」「心と心」の問題なんでしょうね。

ウェアラブルとモノのインターネット: それって放送禁止用語?

Vol. 187

ウェアラブルとモノのインターネット: それって放送禁止用語?

今月は、今注目のキーワード「ウェアラブル」と「モノのインターネット」のお話をいたしましょう。

<モノのインターネットって放送禁止用語?>


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すでにご存じの方もいらっしゃるとは思いますが、先月中旬、NHKラジオ第一の『ちきゅうラジオ』という番組に生出演いたしました。

この番組は、日本国内と世界じゅうに散らばる日本人をラジオで結び、週末のひと時、一緒に楽しく過ごしましょうよ、という趣向。番組トップの『世界のイチメン』というコーナーでは、現地の新聞で紹介された「注目の一面」を紹介しています。
 


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10分弱の短いコーナーですが、わたしは先月号でもご紹介したラスヴェガスのコンスーマエレクトロニクスショー(CES)を取り上げ、どうしてカジノの街に一気に17万人も集うのか? というお話をいたしました。

ラジオというと、2年ほど前にも FM東京とJFN(ジャパンFMネットワーク)の番組に生出演して、アップルの6代目「iPhone 5」や発表直前の「iPad mini」にまつわる本国での熱狂ぶりをご紹介したことがあるのですが、なにせ、今回は NHK!
ヘマをしないようにと、口から心臓が飛び出すくらいに緊張してしまったのでした。

放送終了後、母や友人からは「わかりやすかったよ」「いつものあなたの声が聞けて嬉しかったよ」と優しい言葉をいただいたのですが、もしも「わかりやすい」と思ってくださったのなら、それは、ひとえに番組担当ディレクターのおかげなのです。

いえ、決してお世辞ではなく、幅広い視聴者に最新技術をわかりやすく伝えるのは、至難の技。文章で読んだり、テレビで観たりするのとは違って、ラジオは聴いているだけなので伝えにくいし、テクノロジーのお話となると、なおさらです。

さすがに NHKの場合は、みっちりと原稿が決まっていて、事前にディレクターの方と内容を煮詰めていったのですが、そのプロセスの中で、いくつか学んだことがありました。

まずは、放送禁止用語。べつに下品な言葉ではなくとも、放送では適切でない表現がかなり存在するようで、「テクノロジーのメッカ」は「テクノロジーの発信地」、「目抜き通り」は「メインストリート」と手直しされました。

そして、禁止ではないけれど避けた表現として、「インターネット」とか「モノのインターネット(Internet of Things)」がありました。

まだまだ発展途上の「モノのインターネット」は、「モノとモノが勝手にやり取りをして、人間のやりたいことを代わりにやってくれる」というのが基本概念。


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たとえば、人が外出したら室内の暖房を止めるとか、電気料金の一番安いときに洗濯機を回すとか、雨の日が続いたら芝生のスプリンクラーを止めるとか、事前に人が指示しておいたことを着実にこなしてくれる作業が該当します。
(写真は、サンフランシスコの高層マンションに設置されるグーグル『ネスト・サーモスタット(Nest Learning Thermostat)』。華氏72度に暖房中で、ライフスタイルに合わせて室内の温度調整が上手くなる機械)

ま、誰でもインターネットなら知っているけれど、「モノのインターネット」と聞くと、大きな疑問符が浮かびます。ですから、ラジオ放送の中では「遠隔操作で人間が指示したことを実行してくれる技術」という表現に大変身!
そう、「モノとモノがインターネットと近距離無線通信(Bluetooth、RFIDなど)を経由してやり取り」という部分が「遠隔操作」に化けています。

さらには、「ウェアラブル(wearable computing)」という言葉も避けましたが、わたし自身が提案した「身につけるコンピューティング」もダメで、「身につけるコンピュータ」となりました。
どうやら、「コンピュータ」は大丈夫でも、「コンピューティング」と言った途端に、頭の上を素通りしてしまう恐れがあるのでしょう。

そういった観点から考えると、普段、自分ではわかりやすく書いているつもりでも、なかなか業界の外の方には伝わらないのだなと、大いに反省したひと時なのでした。

<親しみやすいモノとは?>
そして、ラジオ出演を通して、もうひとつ痛感したことがありました。

それは、人にわかりやすく伝えることもさることながら、「モノ」自体が、もっともっと一般の消費者に親しみやすいものでなければならない、ということ。
 


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たとえば、「ウェアラブル」の分野で真っ先に頭に浮かぶのが、アクティヴィティ・トラッカー(活動量計)。
Fitbit(フィットビット)やJawbone(ジョーボーン)が先駆的存在ではありますが、万歩計機能だけではなく、カロリー消費量や睡眠時間・睡眠サイクル、フォーカス度やリラックス度といったメンタル面と、いろんな体の状態を分析してくれる便利なグッズです。
近頃は、データに基づいて「もうちょっと動こうよ」などと簡単なアドバイスもしてくれます。(写真は iFit(アイフィット)の製品各種)

ところが、活動量計を使い始めると、3ヶ月でギブアップしてしまう人がほとんどだとか!

そう、「3ヶ月」というのが鬼門になっているわけですが、その多くは「めんどくさい」「効果が見えない」「がんばったって誰もほめてくれない」と、「どん詰まり感」を彷彿とさせるもの。
ですから、「どん詰まり感」を打破するためには、「こんなことができますよ」という機能の羅列だけではダメ。ユーザにとって何かしら嬉しい「特典」を提供して、「どうしても手放したくないモノ」に変身させなければなりません。
 


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たとえば、仲間内で一週間に歩いた距離を競って「自慢の種」にするのも一案でしょうし、グループ対抗にして、「競争心」をあおるのも一案でしょう。
今流行りの「トレッドミルデスク」(写真)なら、知らないうちに歩数もかさみます。

先月号でご紹介したKolibree(コリブリー)の電動歯ブラシとスマートフォン/タブレット「歯磨きチェックアプリ」のように、子供がちゃんと歯を磨いたら「集めたコインでゲームをゲット!」というのも一案でしょう。
 


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ここで思い出すのが、グーグル『グラス(Glass)』。ウェアラブルの期待の星として2年前に先行販売され、昨年一般販売となった製品ですが、先月中旬「販売中止」宣言がなされました。

販売直後から、サンフランシスコでは「グラス禁止令」が出ているバーやレストランもたくさんありましたし、実際に街中でグラスを装着する人を見かけたのは、個人的には一度きり。
先月、友人はCES会場でグラスを装着したグーグル創設者セルゲイ・ブリン氏のお忍び姿を見かけたそうですが、CES会場のように「ギーク」が集う場所でも、グラスの愛用者は数えるほどとお見受けします。

2年前の年末号でもご紹介した通り、類似する「メガネ型」ウェアラブル製品は、すでに1998年にIBMが発表していたのですが、そのときもダメで、今回もダメな理由は、どんなに技術的発想に優れていようとも「どうしても手放したくないモノ」ではなかったからでしょう。

「めんどくさい」「スマートフォンがあるからいい」さらには「(人に監視されているようで)不気味だ」と、不人気の理由はいくつかあるでしょうが、そういった不満材料を払拭するほど日常に不可欠なモノではなかったし、何かしら得する嬉しい特典もなかった、ということなのでしょう。

「不可欠なモノ」といえば、「陣痛アプリ」をつくった北海道の大学生がいらっしゃいました。


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『陣痛ダイアリー』というAndroidアプリですが、陣痛の間隔を計測・記録し、陣痛の間隔が狭まるに従って、冷静な対処をアドバイスしてくれたり、不安になったら病院に手軽に連絡できたりと、出産間近の妊婦さんにとっては、心強いアプリです。

釧路公立大学3年生の土田栞さんが、専攻する医療情報学の授業の延長でつくられたアプリだそうですが、彼女の出身地・白糠(しらぬか)町では、病院に行くのに一時間かかる患者さんも多いのが現状だとか。
そんな環境の中で、少しでも妊婦さんの不安を解消してあげられたら、という熱い想いがアプリ開発につながりました。

実際に、助産婦や看護師の方に意見を聞いて、アドバイスの内容を改善したり、妊婦さんに使ってもらって、改善点を指摘してもらったりと、まさに「草の根」活動によって誕生・成長したアプリなのです。(NHK札幌放送局制作『おはよう北海道』から1月26日全国ニュース『おはよう日本』が紹介)

たとえ特定の対象者であっても、こういったアプリは「手放したくないモノ」の条件を満たすものだろうし、「バージョン2.0」の噂のあるグーグル『グラス』だって、外科医にとっては「学びのツール」として手放せないモノだろうし、だとしたら、もうちょっと分野をフォーカスしてみたらいかがなものでしょうか?

<サンフランシスコからケーブルカーが消えた日!>
というわけで、『ちきゅうラジオ』出演をきっかけに、いろんなことを考えさせられたのですが、第一、自分自身がラジオファンになってしまったのでした。
だって音を聞いていると、だんだんと想像がふくらんできて、目に見えてくるようではありませんか。


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土日午後5時からの生放送は、真夜中のアメリカ西海岸で聴くのは難しいですが、録音はネットで聴けるので、近頃は律儀に毎週チェックしています。

すると、2月に入って、べつのディレクターの方からメールがあって、「アメリカらしい音を提案してください」という依頼でした。
土曜日の人気コーナーに『ちきゅう音クイズ』というのがあって、世界じゅうで集めた「音」がいったい何であるか、みんなで当てるクイズ形式になっているのです。

「アメリカらしい」と言われて、瞬間的に「サンフランシスコらしい音」をいくつか連想したので、まとめて4つ提案してみたのですが、そのうち2つについて、実際に音を取材して送ってみることになりました。

そこで、ある晴れた日、サンフランシスコの観光地をめぐろうと、名物のケーブルカーで出かけることになりました。


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ところが、普段はケーブルカーが往来するカリフォルニア通りでは、一両も見かけません!

いくら待っても来ないので、ネットで調べると「今日から3日間、ケーブルカーは一部しか運行しません」という異例のニュース。

「おかしいなぁ、線路(ケーブル)工事でもしてるのかなぁ?」と思いながら、べつの路線の始発地パウエル通りに行ってみました。


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ここにはケーブルカーの方向を換えるターンテーブルがあり、いつも観光客で賑わっていて、こっちならケーブルカーが発車するだろうと思ったのです。

が、ここにも乗客は人っ子ひとりいないので係員に聞いてみると、「シャトルバスに乗って、ずっと先でケーブルカーに乗りなさい」と教えてくれました。
仕方がないので、観光客の方々と一緒にシャトルバスに乗って、ぐるぐるとチャイナタウンの周辺を走り回ったのですが、瀟洒なホテルの建つノブヒル(Nob Hill)の丘に到達して、はたと事の次第を把握したのでした。

ノブヒルのメインストリート・カリフォルニア通りは、何台ものパトカーでブロックされていて、これでは、ケーブルカーは一両も通れないはず!

そうか、今日は、オバマ大統領がサンフランシスコに到着する日だった!

そうなんです、2月12日、民主党の資金調達と翌日スタンフォード大学で開かれるサイバーセキュリティサミットのため、オバマさんは、夕方5時半に専用機『エアフォースワン』でサンフランシスコ空港に着陸する予定だったのです。


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そして、ノブヒルに厳重な警戒態勢がしかれていたのは、ここの老舗ホテル・フェアモントに大統領が泊まるから。(写真は、ケーブルカーが通る普段のカリフォルニア通りとフェアモント)

それにしたって、今はまだ、午後2時。いくら大統領が来るからって、なんだってこんなに早くから「市民の大事な足」を止めてしまうのよ!!

と、ひどく憤りを覚えたものの、空は青いし、シャトルバスからはチャイナタウンの知らない表情を垣間見られたし、間もなく、観光客のみなさんと仲良くケーブルカーに乗り込んで、(短い)乗車を楽しんだのでした。
 


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ゴトゴトとハイド通りを登って、「クネクネ道」ロンバード通りを右手に超えると、丘を下って、間もなく終点フィッシャーマンズウォーフ(漁師の埠頭)です。
ここからは、映画『アルカトラズからの脱走』や『ザ・ロック』で知られるアルカトラズ島の牢獄も見えますし、サンフランシスコ湾をめぐる観光フェリーも出ています。

シーフードスタンドでカニやエビを買って食べ歩きしていると、カモメに狙われるので要注意地点でもあります。
 


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いえ、現地に住んでいると、なかなか名所に立ち寄ることもありませんので、たまには観光気分で街を眺めたり、裏通りをめぐったりするも楽しいものですね。

夏来 潤(なつき じゅん)

 

サンフランシスコ・ベイエリアは春本番!

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ニュースでお聞きになっているとは思いますが、今カリフォルニア州は、干ばつ(drought)で困っています。

そうなんです、雨が降ってくれないのです!

カリフォルニア州は地中海性気候ですので、雨季と乾季がはっきりと分かれていて、だいたい10月から3月、4月までが雨季。

その時期に雨が降ってくれないと、水源地はカラカラになってしまいます。

毎年10月1日に始まる「降雨年(water year)」は、すでに2011~12年には「干ばつ」と宣言され、昨年(2014年)9月に終わった降雨年で、三年目の干ばつとなりました。

なんでも、昨年度は、過去120年の州の降雨記録の中で、3番目に雨の少ない年。そして、記録上、もっとも暖かかった年だとか。

ですから、「雨季」である今、ちゃんと雨が降ってくれないと、今年の夏は厳しい給水制限が待っているかもしれません・・・

けれども、今期も、なんとなく期待薄ではあるんです。

だって、サンフランシスコ市内では、1月の降雨量は「0」。これは、150年の市の観測史上、初めてのことだそうです!

そんなわけで、暖かくって雨が少ない、今日この頃。

2月の第一週、どかっと雨が降ったあとは、2月14日のバレンタインデー・ウィークエンドには、もう春景色となりました。

そう、「春のきざし」とか「春の予感」を通り越して、まさに「春爛漫」なんです。

海は青く、風は暖かく、木々には桃や桜が咲きほこる

花々には小鳥たちが集まり、陽光の中、嬉々として春の歌を奏でている

そんなサンフランシスコ・ベイエリアの2月なのです。

今、マサチューセッツ州ボストンの辺りは、記録的な豪雪に見舞われ、街じゅうが凍てついています。

なんでも、摂氏マイナス30度くらいだそうで、「2月にクリスマスの天気が戻ってきた!」と、みなさん毎週のように襲ってくる豪雪にうんざり。

けれども、こちらベイエリアでは、23、4度の春本番の陽気。

まあ、天気がいいのは嬉しいけれど、「もうちょっと雨が降ってくれないと困るよ」というのが、大部分のカリフォルニア人の本音ではあります。

それに、あんまり暖かいと、花や小鳥たちも季節がわからなくなって、自然の摂理だって乱れそうではありますし・・・

SFジャイアンツのファンフェスト

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先日の土曜日(2月7日)、サンフランシスコの球場 AT&Tパークでは、ファンフェスト(Fanfest)と呼ばれるイベントが開かれました。

今年で22回目となるそうですが、サンフランシスコ・ジャイアンツのホーム球場にファンを招いて、選手と触れ合ったり、ファンとしてのプライドを盛り上げたりと、ファンサービスのための無料イベントです。

サンフランシスコ・ジャイアンツは、昨年10月にカンザスシティー・ロイヤルズを破って、ワールドシリーズ覇者となりました。

2010年、2012年、2014年と、過去5年で3回ワールドチャンピオンになった勢いのあるチームです。

ですから、ジャイアンツファンの士気も十分に上がっているのですが、なにせ、この日は、あいにくの雨。例年よりは、ちょっと人出が少なかったようです。

午前10時から開かれるイベントは、最初のうちは晴れていたものの、午後1時をまわると強い雨が降り出しました。

わたしがAT&Tパークに向かったときには、傘をさして家路に着くファンたちと次々とすれ違いました。でも、そんな雨も、球場に着く頃には小降りになったのでした。

そんなわけで、ファンフェストではいったい何をするのかって、まずは、お目当ての選手のサインがもらえるのが嬉しいのです。

広い球場のあちらこちらでは、人気選手がファンにサインをしてあげたり、一言二言声をかけてあげたりと、なかなかのサービスぶり。ですから、選手が座るテーブル前の長蛇の列も、遅々として進みません。

わたしも「あわよくばサインを!」と思っていましたが、とってもそんな状態ではありません。

それで、実際に選手を見られたのは、ラジオの壇上トークショーをやっていた舞台。

こちらにもファンたちが群がっていて、ティム・ハドソン投手やジェレミー・アフェルト投手、バスター・ポウジー捕手やショートのブランドン・クロフォード選手と、人気選手が何かしら面白いことを言うたびに、熱い声援が飛ぶのです。

なんでも、ハドソン投手のオフシーズンの楽しみは、自分の農場で作物をつくること、クロフォード選手は、ふたりの女の子のベビーシッターをして過ごすのがお気に入りだとか。

そして、ファンフェストのもうひとつの楽しみは、大好きな選手たちがプレーするフィールドに入れることでしょうか。

こればかりはファンフェストのときにしか体験できませんので、子供から大人まで、フィールドでキャッチボールをしたり、バットを振ってみたりと、ボールで楽しんでいる方々もたくさんいらっしゃいました。

フィールドには、食べ物を売るテントだとか、商品宣伝用のテントだとか、そんなものもたくさんあって、「さすが、商魂たくましいアメリカだな!」と感じるのです。

ポテトチップスやスポーツドリンクのサンプルを配っているテントもあって、きっと宣伝効果は抜群なんでしょう。

それから、食べ物と言えば、スタジアムの中にあるフードスタンドも人気なのです。

まあ、雨宿りの意味もあって、スタジアムの中に入りたかったのでしょうけれど、やっぱり、アメリカ人は「食べる」ことが大好き!

そう、ポップコーンやフレンチフライ、ホットドッグは、野球観戦の「必需品」ですよね!

そんなわけで、初めて参加してみたファンフェストでしたが、とにかくフィールドに入れたのが嬉しかったですし、最上階の座席からの眺望は、とっても印象的でした。

ここからは試合の全貌も把握しやすいし、球場の向こうには、サンフランシスコ湾が広がっています。雨が上がると、虹も見えます。

急な階段を登るのはちょっと怖いけれど、次回は、スタンドの上の方から観戦してみたいな! と思ったのでした。

三つ星よりおいしい(?)二つ星 Quince

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前回、前々回と、こちらのフォトギャラリーでは、サンフランシスコに誕生した三つ星レストランを二軒ご紹介しました。

「和と仏」が融合したセゾン(Saison)と、「韓・中・仏」のブレンドとなるベニュー(Benu)です。

それまで「ミシュラン三つ星レストラン」というと、サンフランシスコ・ベイエリアでは、ワインの産地として名高いナパバレーに二軒あるだけでした。

ひとつは、ヨーントヴィル(Yountville)のフレンチランドリー(The French Laundry)、もうひとつは、セントヘリーナ(St. Helena)にあるメドウッド(The Restaurant at Meadowood)。

前者は、アメリカで最も著名なフレンチシェフ、トーマス・ケラー氏の伝統的なフレンチ、後者は、豊かな自然で育つ野生の作物も取り入れたモダンアメリカンのレストランです。

この2軒に、昨年10月「三つ星」に昇格したサンフランシスコのセゾンとベニューが加わり、ベイエリアの「三つ星」は4軒になりました。

そして、「ミシュラン二つ星」とされるレストランがサンフランシスコ市内には4軒あって、その中の一軒が、今回ご紹介したクインス(Quince)です。

サンフランシスコの金融街のはずれにあって、有名な三角ビル「トランズアメリカ」から二本北に行ったパシフィック通り(Pacific Avenue)にあります。

この辺りは、ジャクソンスクエア(Jackson Square)という地区で、昔サンフランシスコが街となった頃には、船着き場だったところです。ですから、レンガ造りのビルが残る歴史地区となっていて、クインスも、1907年に建った古いビルを改造してレストランにしています。

こちらのクインスが気に入った理由は、まず、最初のアミューズ(付け出し)にありました。

本格的なコース料理の前に出てくるアミューズが3品あって、各々のアミューズにも、たくさんの素材が使われていたのですが、何かひとつの食材が勝ち誇っているわけでもなく、まとまりがあって、複雑なことをしているはずなのに、単純に「あ~、おいしいねぇ」と、ため息がもれるような感じ。

すっかり目移りしてしまったので、食材すべてを覚えているわけではありませんが、どれもかわいくて、おいしかったのはよく覚えています。

クインスは「イタリアン フレンチ」と呼ばれるレストラン。

メニューは、野菜を中心としたおまかせコースと、シーフードとお肉を中心としたおまかせコースの2種類です。

オーナーシェフのマイケル・タスクさんは、ニューヨークの料理学校を卒業したあと、フランスとイタリアで修行を積み、アメリカに戻ってからはヌーベルキュイジーヌの先駆的存在バークレーのシェパニーズ(Chez Panisse)で働き、またフランスへと修行に旅立ちます。

その後、ベイエリアの有名イタリアン店などでシェフを務めながら、自分の店を持つプランを育み、ついに2003年、サンフランシスコ市内のべつの場所でクインスを開きます。その6年後、現在の場所に移転して「二つ星」の栄誉に輝きます。

もちろん、アミューズばかりではなく、そのあとのコース料理はどれもおいしかったのですが、わたし自身の印象は、決して奇をてらうことなく、基本に忠実で、なおかつ斬新さも取り入れた繊細なお料理、といった感じでしょうか。

やっぱり、何事も基本があって、その上に自分なりの応用が花開くのでしょう。

オーナーシェフのマイケルさんは、大学で美術史を学んでいたときに料理の世界にひかれたそうですが、そのせいか、プレゼンテーションもひと味違った印象です。

それから、ワインペアリング。最初のシャンペンは「アメリカではここだけ」という珍しいものでしたし、イタリア・トスカーナ地方のシエナ豚に合わせたフランス・ローヌ地方のシラーは、この2006年ヴィンテージのあとワインメーカーが辞めてしまったので「2007年は存在しない」という希少価値のあるものでした。

ワインはよくわかりませんが、このスパイスの効いたシラーが、豚料理にはよく合っていました。とくに、「角煮風」の脂ののったひと口サイズには、最高のマッチングでした!

そして、ワイングラスも、すべて形が微妙に繊細に違っていたのが印象的。ワイナリー製作の白ワイングラスなんて、細長いステムが20センチくらいあって、「どうやって洗うんだろう?」と、いらぬ心配をしてしまいました!

というわけで、「イタリアンとフレンチ」が融合したクインス。

もしかすると「三つ星」よりもおいしいんじゃないかな? と思える「二つ星」レストランなのでした。

まあ、食べ物もワインも、自分の好きなものが「一番良いもの」。星が何個ついていようと、あんまり大差はないのでしょう。

クインスのお隣には、シェフ・マイケルさんのもうひとつのお店、田舎風イタリアンのコトーナ(Cotogna)があるそうな!

近いうちに、こちらにも足を運びたいと思っています。

Just married!(新婚さん)

今日のお題は、Just married!

We are just married を略したもので、

わたしたち、結婚しました! という意味。

アメリカでは、よく教会の前で目にする言葉ですね。

教会の結婚式に集まってくれた人だけでなくて、世の中みんなに知らせたい!

そんな幸せメッセージ Just married! を、車の窓ガラスに書いておくんです。

車の後ろには空き缶をくっつけたりして、Just married! のメッセージとともに、カランコロンと幸せなカップルが車で新婚旅行に出かけていく

そんな様子を思い描くのです。


それで、今日のお題のきっかけは、お友達に選んだ結婚祝いのカードでした。

息子たちも、もう独り立ちしたので、思いきって再婚しました、という彼女。

カードの表にある Just married は、「結婚しました!」という新婚さんの気分になって、「良かったねぇ、おめでとう!」を表現したもの。

Just married が、砂に描いた、幸せカップルのメッセージのようでもありますよね。

カードの中には、こんな言葉も添えられています

Wishing all the best to the wonderful newlyweds!
 素敵な新婚さんに、幸せがたくさん訪れますように!

Wishing ~ というのは、お祝いの言葉を述べるときの慣用句。

結婚式のときだけではなくて、たとえば、クリスマスカードにも、こんな風に書いたりしますね。

Wishing you and loved ones happiness and prosperity!
 あなたとご家族に幸福と繁栄が訪れますように!

(この場合の loved ones というのは、あなたが愛している人たち、つまり「ご家族」とか「身内の方」という意味ですね)

こんな風に書いたりもするでしょうか。

Wishing you all the happiness, health and continued success throughout the New Year!
 新しい年に、ご多幸、ご健勝、そして変わらぬ(事業)成功が訪れますように!

こういった祝辞の場合、「あなたに対して、わたしが願っているもの」は、何でも OKですね。たとえば、

all the best(ご多幸)
 all the happiness(ご多幸)
 good health(ご健勝)
 prosperity(繁栄)
 success(成功)
 continued success(これまでと変わらぬ成功)
 peace(平和)

と、自分が書きたいものを、自分なりに表現すればいいのです。ですから、お祝いを述べるときに、厳しいルールなんてありません。

お誕生日カードのときには、こんな慣用句もありますね。

Wishing you many happy returns!
 いいことがいっぱいありますように!

けれども、こちらはちょっと古くさい感じもするので、今の時代、ユーモアを交えて自分なりに表現した方が、相手にも好まれるのではないか、と個人的には思っています。


それで、新婚のお友達にカードを買おうと、サンフランシスコのグリーティングカード屋さんに立ち寄ったのですが、

そこで、まあ、びっくり!

こんな結婚祝いのカードがあったんです!

そう、ご結婚なさるのは、男性ふたり。

黄色いバラを胸ポケットにおさめたスーツが2着、パリッとハンガーにかかっています。
(よく見ると、スーツの柄がちょっとずつ違ってるんですよ!)

表のメッセージは、On Your Wedding Day(あなた方のご結婚の日に)

カードの中には、

Wishing you a wonderful day and a lifetime of love and happiness
 素晴らしい一日と、末永い(一生涯の)愛と幸福を願っております

と、素敵なメッセージが書かれています。

そして、こちらは、女性ふたりの結婚式!

表には、Mrs. & Mrs.(ミセスとミセス)と書かれています。

普通、夫婦には Mr. & Mrs.(ミスターとミセス)という表現を使いますが、ふたりとも女性なので、ミセスとミセス。

ウェディングヴェールがふたつ並んで、とってもかわいらしいですよね!

というわけで、カードを三枚、お店のカウンターに差し出したんですが、店員さんが、こう尋ねるんですよ。

「これって、女性ふたり用だって、お気づきになっています?」って。

もちろん、こちらは承知しているので、「あんまりステキだから、将来に備えて、買っておこうと思って(I thought it’s so cool, and just wanted to buy it in advance)」と答えておきました。

なんでも、「女性ふたり」とか「男性ふたり」と気づかずに買って、返品しに来るお客さんもいるから、事前に確認しておこうと思ったんだそうです!

ふ~ん、サンフランシスコは、女性同士、男性同士のカップルが多いことで有名な街なのに、気づかないで、買っちゃう人がいるのかなぁ?

CESの裏方さん

クリスマスの翌日に日本から戻ってきたあと、お正月は、サンノゼの我が家で静かに過ごしました。

でも、アメリカは、いきなり1月2日が「仕事始め」。ですから、あんまりのんびりともしていられません。

さすがに、今年は2日が金曜日だったので、5日の月曜日から始動した人が多かったですが、わたし自身も、5日には出張のため飛行機に乗り込みました。

出張先は、ネヴァダ州ラスヴェガス(Las Vegas)。

ラスヴェガスといえば、カジノで有名な街ではありますが、毎年、年が明けた第一週、テクノロジー業界の人たちが、わんさと集まってくるのです。

目的は、「コンスーマ エレクトロニクス ショー」という製品展示会。

英語では Consumer Electronics Show 、頭文字を取って CES(シーイーエス)とも呼ばれています。

コンスーマ エレクトロニクスとは、ずばり、家電のことですね。

もともとは「家電」の展示会だったとはいえ、年々「テクノロジー業界」が幅を利かせています。

今では、目新しいテクノロジーや試作品なんかが、所狭しと並べられる展示会になっています。

今年は、1月6日~9日の4日間で、出展社数は3600社、参加者は17万人(!)。まさに、世界最大級のイベントなのです。


それで、題名になっている『CESの裏方さん』ですが、展示会でブースを出展している会社の裏方さんのことではありません。

もっともっと「裏方さん」の方々をご紹介したいと思ったのでした。

とくに、わたしの印象に残っている裏方さんが3人いらっしゃるのですが、まずは、滞在先のホテルのスタッフ。

このホテルでは、眺めのいいラウンジで朝ごはんを食べられるようになっていたのですが、そこで働いていた黒人の男性スタッフ。

朝ごはんは「バイキング形式(buffet、バッフェ)」なので、自分たちで好きなものを選んで、好きなテーブルで食べるスタイル。ですから、フロア係とはいえ、サービス料としてティップ(心づけ)をいただけるわけではありません。

けれども、このスタッフが、なんとも、にこやかな方なんですよ。

大きな体なのに、実にかいがいしく動き回り、朝ごはんが終わる10時が近づいてくると、ジュースの入ったガラス容器や、パンが詰まった容器を片付けたと思ったら、今度は、お昼に向けてティータイムの準備を始める。

まあ、こちょこちょと、コーヒーカップなんかを上手に積み上げていくのです。

ちょうど出口に近い場所で作業をなさっていたので、わたしも何かお礼を言わなくっちゃと思って「どうもありがとうございました(Thank you very much)」と声をかけたんですよ。

すると、まあ、こちらが恐縮するくらいに感謝なさって、「わざわざ親切な言葉をかけてくれて、ありがとうございました。どうか今日も良い一日をお過ごしくださいね」と、バリトンの響きで、ていねいに返してくれたのです。

ですから、こちらも「あなたも良い一日にしてね(Have a nice day to you too!)」と言いながら、バイバイの手を振りました。

普段は、「ありがとう」と声をかける人も少ないので、ていねいに答えてくれたのでしょうか。

彼の満面の笑みのおかげで、「よしっ、今日もがんばってくるか!」と元気が湧いてきたのでした。


2人目の裏方さんは、展示会場のお掃除係の女性。

近頃、CES は、街の北側にあるコンベンションセンターでは収まらなくなって、ホテルのイベントホールやスイートルームも展示会場となっているのですが、滞在先のホテルのイベントホールでの出来事。

こちらは、最近とみに流行っている最新テクノロジーの展示会場。

たとえば、身につけていると歩数やカロリー消費量、睡眠パターンなんかを分析してくれる「おしゃれなペンダント」(写真)だとか、いろんなモノにセンサーを付けておくとインターネットを通して遠隔操作できるようになる装置だとか、そんなホットな展示物のオンパレード。

「3Dプリンタ(立体印刷)」を使って、洋服や靴をつくり、ファッションショーも開かれていました。

この分野では、小さな会社が多いので、でっかいイベントホールには展示社数も多く、見学者も多い。ですから、狭い通路では人とぶつかりそうになるし、展示ブースにも人だかり。

座る場所もありませんので、仮設スタンドで昼ごはんを買っても、みなさん、床に座ってぱくついていらっしゃいました。

わたしにとっても、唯一の息抜きはトイレに行くときくらいでしたが、トイレに入って、ちょっとびっくり!

お掃除係の女性が、洗面所で目をまっ赤にして泣いていて、それを見た参加者の女性が、懸命になぐさめているのです。

離れたところで話を聞いていると、どうやら、お掃除係の中で彼女だけが出身地が違っていて、それが災いのもと。

彼女はフィリピンの出身ですが、他の方はメキシコ出身の方がほとんど。だから、スペイン語の会話にも溶け込めないし、「あの人は働かないで、なまけている」と、上司にも告げ口をされたんだとか。

それが悔しくてトイレで泣いていたようですが、まあ、そこは、優しいアメリカ人。悲しんでいる人を見ると、知らんぷりの傍観者(bystander)にはなれません。

「そんなの気にしないでいいわよ。悪口を言う人なんて、ろくな人間じゃないんだから、あなたが気にするだけ損よ!」と、力強くはげましています。

そのやり取りを聞いていた別の女性も、「気にしちゃダメよ(Never mind)」と、温かいはげましの言葉をかけています。

わたしとしましては、これ以上、口をはさむのもイヤですし、かといって、同じアジア人としては何かしてあげたいし・・・ですから、ちょっと微笑んで「良い一日になりますように(Have a nice day)」と声をかけて出てきました。

それにしても、表舞台から離れたトイレって、結構ドラマが生まれる場所ではありますよね。

でも、お掃除の方が泣いていらっしゃったのは初めての経験だったので、「世の中って、いろいろあるものだなぁ」と痛感。

それでも、みんなが味方についてくれたので、彼女の涙もじきに乾いたみたいですよ。


そして、3人目の裏方さんは、白人の青年。

ラスヴェガスからサンノゼに戻る朝、ホテルから空港に向かうタクシーの運転手。

青年は「以前は、よく CES に行ったものだよ」と言うので、テクノロジー製品が好きなのね? と尋ねると、「いや、前はテクノロジーの会社で働いていたんだ」と答えるのです。

そう、ラスヴェガスやサンフランシスコでタクシーに乗ると、ときどき「僕もテクノロジー業界で働いていたよ」という方に出会うのですが、こちらの青年は、昨年11月まで製品検査のエンジニアをやっていた方。

なんでも、会社がなくなったので、エンジニアを辞め、タクシー運転手に鞍替えしたとか。

「エンジニアの前は、ミュージシャンだったんだ。そこから、エンジニアに転職して、今はタクシー運転手さ。でも、窓もないビルで9時から5時まで働くよりも、タクシーを運転していた方が、気楽で、いろいろあって楽しいよ」とのこと。

時間も不規則だろうし、(ラスヴェガスという場所柄)ときには変な客もいるだろうし、大変なお仕事だろうと思うのです。

それでも、ミュージシャンからエンジニア、はたまたタクシー運転手と、転機を迎えても、怖がらずにチャレンジに立ち向かう。

まあ、はたから見ると「ちょっと無計画じゃない?」と映る人生かもしれませんが、わたしには立派な人生に映ったのでした。

ラスヴェガスは、世界じゅうから人が集まってくる「砂漠の蜃気楼」。

ですから、いろんな人に出会うのです。

Salt and pepper shakers(塩とコショウ入れ)

今日の話題は、食卓には欠かせない、塩とコショウ入れです。

だいたい、塩とコショウのペアになっていますが、

Salt and pepper shakers といいます。

アメリカをドライブしていて、ちょっと疲れたから、その辺のダイナー(ファミレスっぽいレストラン)に入ってみると、必ずテーブルに置いてあるもの。

そんな「食卓の必需品」ですね。

シャカシャカっと振って、塩やコショウをかけるので、shaker(振るモノ)といいます。

Shaker だけでは、お酒や氷を入れてシャカシャカとカクテルをつくる「カクテルシェイカー」を指しますので、塩とコショウ入れは、salt and pepper shakers といいます。

(写真は、Wikipediaより。Salt and pepper shakers の後ろにあるのは sugar dispenser、つまり「砂糖入れ」です。こちらもダイナーではよく見かけますが、塩・コショウよりも、かなりでっかいのです!)


西洋の食卓では、塩とコショウは欠かせませんので、入れ物にも、いろいろと凝った工夫が見られますね。

こちらは、母に贈った塩とコショウのペア。

かわいらしい小鳥のつがいになっています。

サンフランシスコの小店で見つけたものですが、母が「40年近く過ごした一軒家からマンションに引っ越そう!」と決心したのを記念して、早々とマンションが建つ前に購入しておきました。

いよいよ新居に移った晩、「小さいけれど、引っ越しのお祝いよ」と、母に手渡したのでした。

まあ、引っ越し祝いにしては、ちょっと小さいですが、こちらも引っ越しのために何度かサンノゼからお手伝いに通った(!)経緯があるので、その労働力で許してもらったのでした。


それで、shaker という言葉には、ちょっと違った意味もあって、たとえば、こんな風にも使われます。

Movers and shakers 。(発音は、ムーヴァーズ・アンド・シャイカーズ)

最初の mover という言葉には、文字通り「(モノを運ぶ)引っ越し屋さん」という意味もあります

でも、この場合の movers は、「世の中を動かす人々」という意味です。

そして、shakers にも、「世の中をゆさぶる人々」という意味があります。

つまり、movers and shakers は、「政界やビジネス界をリードし、世の中をどんどん変えていく人たち」という意味になります。

斬新なアイディアがあって、しかも、他人の目を臆することなく、次々とアイディアを実行していく。

まさに、知能と実行力が備わった人物という、とっても良い意味で使われます。

「今年のビジネス界の movers and shakers は、こんな人々でした」と、注目の人々を紹介するときに使う言葉です。

そして、日本の明治維新に活躍した偉人たちも、movers and shakers (時代をゆさぶった人々)と表現してもいいのではないでしょうか。

大海を渡って、新しいものを思いっきり吸収し、祖国に戻ってきて、世の中の根幹をゆるがした人たち。

そういった人々が、movers and shakers なのです。

というわけで、今日のお題は、salt and pepper shakers

movers and shakers

響きは似ていますが、かなり違った意味を持つ言葉なのでした。

ホーム スイート ホーム

12月に3週間ほど東京に滞在して、クリスマスの翌日にサンノゼの我が家に戻ってきました。

以前は、日本からはサンフランシスコに戻っていたのですが、最近は ANAの直行便が出ているので、サンノゼ空港に戻るようにしています。

サンノゼ空港(正式名称ノーマン・ミネタ サンノゼ国際空港、略称 SJCは、我が家から15分ほどの距離。小一時間離れているサンフランシスコ空港よりも、ずいぶんと便利になりました。

でも、「国際空港」とはいえ、この空港の国際線は「おまけ」みたいなもの。どことなく農村っぽい、のどかな雰囲気が漂います。
 こちらの写真では、左側の小さなビルが国際線ターミナルで、右側の立派なビルが国内線ターミナル。ぜんぜん「立派さ」が違うのです。

そうなんです、「のどかな空港」の国際線ターミナルに降り立って、入国管理と税関検査を抜けると、そこは、いきなりビルの外!

扉を出ると、そこには迎えの人たちが集まっていて、今か、今かと家族や友人が出てくるのを待っています。

12月とは思えないほどの、まぶしい陽光。

あ~、サンノゼに帰ってきた! と実感するのです。


そんな明るい陽光の中、ひとりのレディーが近づいてきて「あなたが乗ってきたのは、日本からの飛行機?」と尋ねます。

なんでも、息子さん一家が沖縄に駐屯していて、クリスマス休暇に成田経由でサンノゼに戻ってくるとのこと。

「飛行機では、金髪の双子を見かけなかった? あの子たちがうるさく騒いでいなかったかしら?」と、孫に会えるのが待ち遠しそうなご様子。

そのレディーが、突然「あなたにとって、ここはホーム?(Is this home for you?)」と尋ねるのです。

「ホーム」とは「住んでいるの?」といった意味ですが、きっと、日本人に見えるけれど、サンノゼに住んでいるのだろうと思ったのでしょう。

ですから、そうよと答えると、「ウェルカム ホーム(Welcome home! おかえりなさい)」と笑顔で返してくれました。

ただそれだけのことなんですが、この白っぽくなったブロンドのレディーとの触れ合いが、ずっと心に残っているのです。


英語では、home(ホーム)という言葉には特別な響きがあります。

単に「家」という意味ではなくて、「住み慣れた我が家」「故郷」「近隣コミュニティー」「自慢の我が街」と、いろんな含蓄があるのです。

ですから、Is this home for you? には、「この街を故郷としているの?」といった深い意味があります。

そして、Welcome home! という挨拶には、「わたしたちの街に、ようこそおかえりなさい」といった同胞の連帯感もあります。

ちょっと意外ではありますが、英語では house(家)と home(我が家)は意味がまるっきり違います。

そう、「家(house)」を「我が家(home)」に変えるには、それなりの年月や努力、家族の歴史なんかが必要なんですね。

「街」という意味の home も同じことでしょうか。

最初は、イヤだな、前に住んでいた街に戻りたいなと思っていても、いつの間にか、離れるのが辛くなるくらいに、住み慣れた街になっている。

日本語にも「住めば都」という言葉がありますが、住み慣れると「家」は「我が家」にもなるし、「見知らぬ他人の街」は「我が街」にもなっていく。

引っ越してきたときには、「サンノゼなんて田舎っぽくて嫌い!」と明言していたのに、いつの間にか「ここはホームです」と言うようになっている。

そんな心境の変化に自分でもびっくりではありますが、

とにもかくにも、戻ってくればホッとする、ホーム スイート ホーム(Home Sweet Home)なのでした。

今年のCES: 車のセンシング、ウェアラブル、モノのインターネット

Vol. 186

今年のCES: 車のセンシング、ウェアラブル、モノのインターネット

 


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年が明けると、テクノロジー業界はいきなり忙しくなります。そう、毎年、新年第一週に開かれるコンスーマエレクトロニクスショーのためにラスヴェガスに集結するのです。

というわけで、今月は、1月6日〜9日の4日間、ネヴァダ州ラスヴェガスで開かれたCES(Consumer Electronics Show、通称「シーイーエス」)のお話をいたしましょう。

第1話は「車のセンシング技術」、第2話と第3話は「ウェアラブル」、第4話は「モノのインターネット」と盛りだくさんなので、お好きなものからどうぞ。

<自動運転への掛橋、センシング技術>
昨年と同様、メイン会場のコンベンションセンターで真っ先に向かったのが、セントラルホールの北にある「ノースホール」。ここでは、アウディ、フォルクスワーゲン、メルセデスベンツ、トヨタ、ヒュンダイ(現代)、フォードと、車メーカーが幅を利かせています。
 


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昨年は、車が自分で走る自動運転車(autonomous carself-driving car)に興味を持っていたところ、トヨタの次世代技術、水素で走る燃料電池車(hydrogen fuel-cell car)を目の当たりにして、すっかり頭が吹っ飛んでしまったのでした。
まさか、12年前に科学雑誌で読んだ「未来の技術」が、ここまで進んでいるとは!!

今年(上の写真)もトヨタのブースでは、12月に日本市場に登場した『ミライ(Mirai)』が3台展示され、見学者の注目を集めます。


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ブース内では、フランスに本社のあるエア・リキード(Air Liquide)の水素ステーションを紹介したり、災害時に電力供給源となる燃料電池車の可能性を示唆したりと、「水素社会(Hydrogen Society)の到来」を前面に打ち出しています。

が、惜しむらくは、「ミライは日本で販売されている」というメッセージが伝わっていないのか、「へぇ、もう売られてるんだぁ」と驚く見学者もいるようでした。

そして、昨年花盛りだった「ジェスチャーコントロール」は、今年は影を潜めた様子。
 


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昨年は、運転中いかに車内の操作を簡素化するかと、さまざまな工夫が登場。手をかざして音楽をスタートしたり(ハンドジェスチャー)、指で頭文字をなぞって近くのガソリンスタンドを探したり(手書き文字認識)と、涙ぐましい努力が見られました。
今年は、フォルクスワーゲンがハンドジェスチャー機能を出展していて、指先を上下に動かして音楽や地図を選んだり、手のひらを左右に振って選曲したりと、新しい試みを展示(写真では、画面の青い部分が「手の動き」を示す)

が、説明員も白状していたように、「なかなかうまく動かない」とか。
 


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そんなジェスチャーコントロールに代わって、今年は「賢い車」が盛り上がりを見せています。

そう、車が周辺の状況を判断して、ドライバーがより安全に運転できる工夫です。

たとえば、ヒュンダイ(現代)で展示されていた『ジェネシス(Genesis)』は、車の周りを察知するセンシング(sensing)機能を搭載。隣で展示されていたヒュンダイの燃料電池車『トゥーソン(Tucson)』よりも、こちらがメインの展示物になっていました。
 


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ジェネシスのフロントグラスにはカメラが搭載され、これで車線や速度規制などの道路標識を認識。車の前方と斜め後方には「ミリ波レーダ」が設置され、前方・後方の障害物を察知します。さらに障害物の大きさやスピード、距離の割り出しはカメラが担当と、二人三脚の構えです。

たとえば、車線からずれたり、前の車に近づき過ぎたり、二輪車や歩行者を察知すると、ドライバーに音や画面表示で警告を出します。
交差点で曲がる際、急に直進してきた車を回避したり、スピードを出すハイウェイでも安全な車間距離を保てたりと、便利なアシスト機能です。

同種の安全支援機能は、ホンダが昨年11月にフルモデルチェンジした『レジェンド(Legend)』にも搭載されているそうですが、将来的には、信号機や救急車などの緊急車両を検知して、信号が黄色から赤に変わるタイミングで自動的にブレーキをかけたり、緊急車両が近づいてきたら車線変更をしたりと、可能性はふくらみます。(この場合、信号機や緊急車両から情報発信するインフラが必要となりますが、緊急車両を無視するドライバーが多いアメリカでは、有意義なインフラ整備ではないかとも思えます)

この手の車のセンシング技術は、車メーカーだけではなく、部品供給する側も熱心に取り組んでいます。

たとえば、CESの展示会場で目立ったのは、携帯電話用チップで有名なクアルコム(Qualcomm)。現在、同社はモノとモノをつなぐ「モノのインターネット(Internet of Things、通称 IoT:アイオウティー)」に注力していて、その一環としてブース内には車も展示。


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こちらの写真は、車と歩行者の通信の一例ですが、車が歩行者を検知すると、運転席の画面に黄色の歩行者の絵が出てきて、さらに近づくと、歩行者が赤(写真奥の画面上)に変わって注意を促します。
同時に、歩行者が持つスマートフォンには、車が近づくと車の絵が出てきて、さらに接近すると「Watch out(危ない!)」という警告が出るようになっています。

こういった車と人との通信(vehicle-to-pedestrian communication)は、広く携帯電話に搭載される同社の通信用チップセットを改良すれば可能だし、車と車の車両間通信(vehicle-to-vehicle communication)は、同社の高速プロセッサ『スナップドラゴン(Snapdragon)』で実現できるとのことで、スマートフォンやタブレットだけではなく、車にスナップドラゴンが載る日も近いのかもしれません。

さらに、車両用の無線通信規格802.11p(5.9GHz帯)も、現在アメリカ政府が検討中とのことで、国がゴーサインを出せば、一気にインフラ整備が進むことでしょう。

ここに来て、グンと加速を見せる車のテクノロジーですが、一連のセンシング・通信技術は、現行の「人が運転する車」から、「車が自分で走る自動運転車」への掛橋となるのでしょう。
 


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自動運転機能といえば、今年 BMWは、「スマートフォンで車を呼べますよ」というデモを行っていました。

ちょっと先に止まっている電気自動車(EVElectric Vehicle)をスマートフォンの指示で目の前に呼び寄せるという、わずかな距離の自動走行ですが、運転席が空のままで車が動くというのは、実に奇妙な光景ではありました。
 


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そして、メルセデスベンツは、『F015』というコンセプト車を展示。高級感あふれる移動リビングルーム(mobile living space)と銘打って、広々とした後部座席を強調します。
まるで居間でくつろぐように、座席を向かい合わせて対話できるようになっていて、車が勝手に走っている間、どうぞ後部座席でリラックスなさってください、というコンセプトです。

現在、フリーウェイの走行は、ほとんど問題のない段階まで来ている自動運転車。

今後は、「車や人であふれる街中の運転をうまくこなせるか?」といった技術的な課題や、「もしも事故が起きたら誰が責任を負うのか?」といった法整備の課題、はたまた「目の前の車を避けるためには、右の自転車か左の歩行者に向かってハンドルを切るのか?」といった道義的な課題が残されています。

<おしゃれなソリューション>


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昨年のCESでは、「3D(立体)プリンタ」が注目の的となっていました。

今年も脚光を浴びる分野ではありましたが、一年でそれなりの進化が感じられ、「3Dプリンタでつくった服や靴を身につけよう!」といった目新しい展示も見られました。
展示物の中には、すでに市販されている小物や靴のデザインもあって、実用性を猛アピールしています。(ピンク色の服の女性は、黒いハイヒールも3Dプリンタ製)

そして、昨年花盛りだった「ウェアラブル(wearable computing)」は、今年も健在。

コンピューティングを身につける「ウェアラブル」の分野は、従来の「メガネ型」や「フィットネス用の腕時計型」から脱却を見せていて、何かしら新しい形、新しい使われ方はないのだろうか? といった模索の跡が感じられます。
 


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こちらは、「リング型」の試作機。Mota(モゥタ)という会社の「スマートリング」。
いまだ完成には遠いですが、小さな表示画面に文字が出てきて、誰からの電話か知らせてくれるし、いち早くメッセージが読める、という製品。

表示画面を内側(手のひら側)にしてリングをはめれば、他人に盗み見されることがないし、第一、メッセージをチェックしているとは人には知られないで良いとか。
けれども、そうまでして緊急に読みたいメッセージやメールなど、世の中にはそう存在しないのでは? と、意地悪な感想も持ったのでした。
 


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一方こちらは、「ペンダント型」のアクティヴィティ・トラッカー(活動量計)。
何が目を引いたかって、この可愛らしいデザイン! 木の葉の優しいデザインのペンダント式になっていて、首から下げられるし、ブレスレットのように腕にも巻けるし、こちらの写真のように、ブローチ風にもはめられます。
『リーフ(木の葉)』というネーミングで、3種類の葉っぱのデザインがあります。

万歩計やカロリー消費量の表示はもちろん、「今日は良く活動しているわね」「今日はちょっと座りすぎよ」と励ましのコメントをくれたり、睡眠パターンを分析して、眠りの質を報告するとともに、目覚めやすいタイミングで優しく起こしてくれたりと、なかなか嬉しいアクセサリ型の活動量計なのです(『リーフ』とつなげたスマートフォン画面にデータやコメントが出てきます)

シルバーの葉っぱの裏側は、木でできたおしゃれなケーシングになっていて、この中に動きを察知するアクセレロメータ、電池、メモリー、スマートフォンとの通信用Bluetooth(近距離無線規格)が収まっています。
これだけ入っているので、ペンダントとしてはちょっと大型ではありますが、女性の心をくすぐるおしゃれなデザインが光ります。
 


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こちらのベラビート(Bellabeat)という会社は、他に2つの製品を展示。妊娠中のお母さんが胎児の心臓音を聞いたり、胎児に音楽を聴かせたりするスピーカ『シェル(貝がら)』(写真)
そして、お腹の赤ちゃんや生まれたての赤ちゃんと一緒に体重を計れる『バランス』と、いずれも、木でできたオモチャ感覚の優しいデザインが目を引きます。
赤ちゃんが生まれたあとは、『シェル』はベビーモニタとして赤ん坊の泣き声を知らせたり、録音装置としてお母さんの子守唄を再生してあげたりと、シンプルな見かけによらず、芸達者なのです。
 


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体組成計の『バランス』は、もちろん男性でも使えるわけではありますが、驚くのは、数値を表示する画面が一切無いこと! そう、見かけは、ただの白木のブロック。
体重、体脂肪、BMIなどの数値は、グラフとなってスマートフォンに出てくるのですが、大事なのは絶対値ではなく、時間を経た「推移」。目標を設定しておくと、どうやったら目標達成できるのかと簡単なアドバイスもしてくれるとか。

そう、日頃、活動量計や体組成計を愛用するのは、何かしら目的があるから。途中でめげないように、「もうちょっとがんばって歩こうよ!」と励ましの言葉をもらえると、たとえ相手が機械でも嬉しいものかもしれません。

というわけで、『リーフ』も『バランス』も「おしゃれ度・シンプル度」の高い製品。だからベラビートはヨーロッパの会社と思いきや、インキュベーション(起業支援)で有名なY Combinator(ワイ・コンビネータ)から生まれた、サンフランシスコの会社だとか。男性の説明員にはヨーロッパ訛りがあったので、欧州出身のスタッフも多いのかもしれません。
 


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驚いたことに、今年はオーストリアのクリスタルメーカー、スワロフスキー(Swarovski)も活動量計を出展!

さすがに、キラキラと輝くアクセサリ型になっていますが、ちょっと見にはペンダントやブレスレットが、勤務時間やワークアウト、睡眠中と、一日の行動をしっかりと把握してくれるのです。
サファイア・ブルーのクリスタルは、太陽電池式の試作品だそうで、美を追求しながらも、機能重視となっています。(写真では、展示者の右腕にあるのが市販の「スポーツ」「レジャー」2タイプ。展示物が太陽電池型の試作品)

ともすると、男性志向のゴッツいテクノロジー製品。世の中、半分は女性なわけですので、その半分の市場に照準を合わせた、おしゃれなソリューションなのでした。

<マッチョマンのためには>
「おしゃれ」とは対照的に、筋肉を誇る「マッチョマン」のために、こんな面白いデバイスがありました。ジムに通いながら「なんとなく筋肉がついてきたかな?」なんてアバウトな自己判断ではなく、バッチリ数値で表示してあげましょう、というもの。
 


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間もなくスカルプト(Skulpt)が発売する『エイム(Aim:狙う)』は、体を動かす筋肉グループ(筋群)を測り、「体脂肪」と「筋肉の質」の数値でシビアに表す装置。
体をつくるためには、単に脂肪を落とすだけではダメで、上腕筋や腹筋などの筋群が「最適の状態」でなければならない。だから、毎日『エイム』で筋肉を測定し、スマートフォンにつなげてデータの推移を分析することで、より効率的に「いい体」をつくることができる、そんな意図で生まれた製品です。

筋肉というと、どうしても男性を思い浮かべますが、毎日ランニングやヨガを続ける女性フィットネス愛好家も、お尻やお腹と気になる場所を測定し、集中的にトレーニングができるのです。
 


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一方、ヘルスケアで有名な日本のオムロンも、体全体の「3Dスキャン装置(3D Style System)」を展示していました。
体じゅうの体脂肪を瞬時に測って、三次元のイメージで画面に表すことで、「ここは多少問題ありなので、がんばって減らしましょう」と本人にメッセージを伝え、経過観察ができる、という狙い。
が、いかんせん大掛かりな装置なので一般家庭では買えず、病院やジムに行った時にしか測れない、という制限があります。

もしも腹部の「シックスパック(彫りの深い腹直筋)」を目指しているなら、『エイム』の方が手っ取り早い、マッチョのためのソリューションかもしれません。

<モノとモノがごしょごしょと>
今年のCESでは、昨年に引き続き「モノのインターネット(Internet of Things、通称 IoT)」が注目のキーワードとなっていました。

2年ほど前から脚光を浴び始めた「モノのインターネット」ですが、モノとモノがインターネットや近距離無線通信でつながって、人間が指示したことを着実に実行してくれる、といった定義になるでしょうか。

「モノとモノがつながる」という意味では、スマートフォンとつながる活動量計も広義の「モノのインターネット」に入るのかもしれませんが、一応、ここでは身につけるモノとは区別してお話ししましょう。
 


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この分野ですでに市販されているものといえば、玄関の鍵だとか、LED電球だとか、セキュリティ用のウェブカム(ネット接続カメラ)だとか、そんなものが代表格でしょうか。
外出時にかけ忘れた鍵をかけたり、家のライトを点けたりするだけではなく、帰宅する前に暖房をつけておきましょう、オーブンを温めておきましょう、といった芸当も可能になります。
(写真は、我が家に設置したLED電球を紫色に設定したところ。色や点灯時間など細かく設定可能。左端に小さく見えている白いウェブカムは、室内の動きを察知するようセキュリティ用に設置)
 


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多くの場合、インターネットに接続したハブステーション(写真の丸い装置)が中心的存在となり、鍵や電球やウェブカムといった「モノ」と近距離無線で情報交換をします。
ユーザはスマートフォンやタブレットから「電気点けてよ」などと、ネット経由でハブに向かって指示を出す形式になります。ネット経由なので、どこにいてもOKです。

新しい動きとしては、グーグル『ネスト(Nest)』のようなスマートホーム装置とオーブンのようなモノが直接会話をするという、「ハブ抜き」の形式も出てきているようです。
 


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CES会場では、それこそ数えきれないほどのアイディアが出展されていましたが、今年はさらに日常生活に浸透。

中でも、こちらは、かなりの妙案かもしれません。何かというと、「電動歯ブラシ」で歯磨きをしているところ。

アメリカでは電動歯ブラシを利用する人も多いですが、電動歯ブラシがスマートフォンと情報交換をして、ちゃんと歯が磨けているかを知らせてくれる仕組み。
たとえば、大人だと「2分間しっかり磨いたかな?」「奥歯もちゃんと磨けたかな?」と、画面に表示されるようになっています。磨き足りないと、歯が赤くなって表示されるなど、一目瞭然。
そして、子供にはゲーム形式の画面が出てきて、ちゃんと歯を磨けば、冒険ゲームの主人公が先に進み「コイン」を集められるようになっています(集めたコインは、ゲームと交換できるとか!)

こちらのモーションセンサ付き電動歯ブラシとスマートフォン/タブレットアプリは、コリブリー(Kolibree)という会社の製品。
子供から大人まで歯磨きが嫌いな人が多い中、知らないうちに、楽しみながら歯を磨く習慣がつけられる、という嬉しいソリューションなのです。
 


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そして、こちらは「何でも屋さん」のお人形。センス(Sen.se)という会社の『マザー(Mother)』というハブです。
「お母さん」とはヘンテコリンな名前のハブですが、『クッキー(Cookies)』と呼ばれるセンサをいろんなモノにくっつけておくと、「お母さん」がモノと会話してくれて、とっても便利なのです。(写真では、「お母さん」ハブの下に並ぶのが「クッキー」センサ)

たとえば、「今週は観葉植物に水をやってないよ」「今日はまだ薬を飲んでないよ」「今日はクッキーを食べ過ぎてるんじゃない?」と、スマートフォンやタブレットにお知らせが出てくるのです。


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種明かしをすると、ジョウロ、薬のビン、クッキーの箱にセンサ(モーション/温度センサ)を取り付けておいて、「水は一週間に一回」「薬は一日に3回」「クッキーは一日に一回だけ」などと、スマートフォン画面から設定しておきます。すると、薬のビンを開けた形跡がない(センサが動きを察知しない)と、「薬はまだ飲んでないよ」と警告が出る仕組みになっています。(写真では、タブレットの隣にあるピルケースにセンサが付いています)

他にも、子供が学校から戻ってきたら知らせてもらったり、子供部屋が快適な温度かどうかチェックしたり、猫ちゃんが餌を食べ過ぎていないか見張ったり、誰かが宝石箱を触ったら警告が送られたりと、考えられるシナリオは尽きません。

個人的には、ひとり暮らしのおじいちゃんが薬を飲み忘れたら、お知らせが来るというのは、優れた使用例ではないかと思ったのでした。

昨年のCESでデビューした『マザー』ハブと『クッキー』センサは、「人形の目が光って見張られてるみたいで、なんとなく不気味だ」という批評もあったようです。が、わたし自身は「かわいい」「使ってみたい」という感想を持ちました。

「モノのインターネット」と聞くと、いかにも技術が先行する感じがしますが、ここで大事なのは、使い手が知らない間にモノがインターネットにつながって、こちらが忘れていても便利なことを着実にこなしてくれる、ということ。

「かわいい」とか「シンプル」であること、そして「常にちゃんと動く」ことは、誰もが利用するためには不可欠ではないかと痛感した次第です。

夏来 潤(なつき じゅん)

 

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