カニさん、カモ~ン!

「カニさん」というのは、サンフランシスコ・ベイエリアなど、西海岸で愛されているカニのこと。


 

 その名も、ダンジェネス・クラブ(Dungeness crab)です。

 

 昨年末にもご紹介しましたが、本来は、11月末の感謝祭(Thanksgiving)の食卓にのるところが、「カニ漁の禁止令」が出ていて、おあずけになっていたのでした。

 

 それが、この復活祭(Easter、イースター)を迎えるころになって、ようやくゴーサインが出たのです!

 


 いえ、騒ぎの発端は、夏の間に海水の温度が上がりすぎたこと。

 

 近年、もともと寒流のカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州沿いの水温が上がっていて、植物プランクトン(phytoplankton)が繁殖する原因にもなっています。

 

 昨年は、とくにエル・ニーニョ現象で記録的な水温の高さで、異常繁殖したプランクトンが赤潮や緑潮(algal blooms)にもなりました。

 

 もちろん、植物プランクトンすべてが生き物に害を与えるわけではありませんが、ごく一部の植物プランクトンが大量発生すると、貝やカニの体内に毒素が蓄えられます。

 

 この自然界の毒素(domoic acid、ドウモイ酸)を、アシカやラッコのような海洋生物や人間が食べたりすると食中毒を起こす場合があって、それで、カニ漁が解禁となる11月に「禁止令」が出たのです。

 

カニ漁の盛んな港では、ご覧のように、カニを捕獲するかごが積み上げられたまま・・・。

(写真は、サンフランシスコから南下したハーフムーンベイの近く: Photo by Karl Mondon / San Jose Mercury News Archives

 

 その後、水温がだいぶ下がった2月中旬、レクリエーションのカニ釣りは解禁となりましたが、肝心のお店で売るためのカニ漁は禁止されたままでした。

 


 そして、めでたく「来週からカニ漁に出てもいいよ!」と許可が出たのが、3月中旬。

 

 復活祭の前々日の金曜日(3月25日)、カニ漁のかごを海中に沈めることが許され、翌土曜日の零時をまわると、カニ漁に出てもいいことになりました。

 

これまで、お店に並んでいたカニは、カナダやワシントン州からの「輸入品」。ですから、「フレッシュなカニ」が解禁になるのは、喜ばしいことです。(Photo by John Green / San Jose Mercury News, February 12, 2016)

 

 けれども、「はい、そうですか」と、すぐには海に出られない事情もあるのです。

 

 ひとつに、仲買人がカニの値段を設定して、初めて漁師さんは海に出られるのですが、ここまで待った経験がないので、カニの質もわからないし、消費者や市場の動向もまったく読めずに、値段を付けるのに手こずっている。

 

 ですから、復活祭の週末にサンフランシスコとハーフムーンベイから「テスト漁船」が出て行って、彼らがとったカニの身を品定めして値段をつけることになりました。(1ポンド(454グラム)あたり、2ドル90セントに決定。市価は6ドルくらい)

 

 一方、ここまで漁に出られなくて収入がなかったので、今さら、損失を出してまで船を出したくない・・・という、漁師さんの心配もあるのです。

 

 だって、例年2月が「稼ぎ時」で、3月を過ぎるとカニ漁はしない漁師さんも多い。

 

 なぜなら、あとひと月もすると、カニさんの脱皮(molt)が始まって、甲羅もやわらかいし、身も美味しくない。

 

そんなわけで、こちらのジムさんみたいに「もう待ちきれないぜ!」という人と、

 「う~ん、どうしようかなぁ」と迷う人と、

 なかなか複雑な気持ちの漁師さんたちなのでした。

(Photo by John Green / San Jose Mercury News, March 28, 2016)

 


 たぶん、カニさんはいっぱい海にいるのでしょう。

 

 みんな立派に育っているんでしょう。

 

 レクリエーションで釣った方からは、「ぎっしりと身も詰まって、いいカニだよ」と、もれ聞きます。

 

 ところが、いろいろと諸事情があって、「カニ好き」たちの食卓からは遠ざかっている、そんな感じでしょうか。

 

たしかに、サンフランシスコ・ベイエリアでカニを食べたくなるのは、感謝祭やクリスマスの冬の時期。

 カニをフィーチャーしたディナーイベントが開かれるのも、この頃です。

 

 ですから、だんだんと暖かくなってくると、「カニ」って雰囲気じゃないかもしれませんねぇ・・・。

 

 

追記: ちなみに、カニ漁が解禁となったのは、メンドシーノ郡とソノマ郡の郡境(county line)から南の海域です。

レクリエーションのカニ釣りは、もっと南で許されていたのですが、漁師さんたちは豊かなソノマ沖の漁域が開放されるまで待ちたかったのでした。

 そう、ソノマ郡は、隣接するナパ郡と並んで、ワインの名産地でもありますね。
(Photo by John Green / San Jose Mercury News, March 28, 2016)

 

 それから、こちらの毒素(ドウモイ酸)の問題は、海水の「温度」の上昇に起因すると言われますが、これから年々水温が上昇する可能性を考えると、先が怖いのです。

 

 そして、もうひとつの海の問題として、海水の「酸性化(acidification)」というのもあります。

 

 空気中の二酸化炭素が海水に溶け込んで、海水の酸性度が高くなるのですが、そうなると、貝だとか、珊瑚だとか、酸に解けやすいカルシウムの殻で覆われている生き物に影響が出ると懸念されています。

 

 カニさんの甲羅もカルシウムがたくさん含まれますが、酸性化が進むと、脱皮直後の「ソフトシェル・クラブ(soft shell crab)」みたいに、フニャフニャのカニさんがいっぱい現れる、ということでしょうか??

 

今年は熱い!: 大統領と最高裁

Vol. 200

今年は熱い!: 大統領と最高裁

日本でも話題になっていますが、今年は大統領選挙の年。が、アメリカには、大統領選よりも重大なことがあるんです。

そんな二つのお話の前に、象さんなども登場します。

<インドで熱いスマートシティー> SEN Dugong App.png

先月号冒頭では、フィリピンのジュゴンを守ろうと、スマートフォンアプリが活用される例をご紹介しておりました。

イギリスのスマートアース・ネットワーク(Smart Earth Network)と現地のC3 という自然保護団体が開発した「ジュゴン・アプリ」と、Kii 株式会社のクラウドプラットフォームを活用するもの。

それで、スマートアース・ネットワークの新たな試みとして、「アフリカ大陸の象を救おう!」というプランもあるそうで、象さんにタグをつけて、生態観察に利用しようとしているとか。


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象さんの数が減っているのは、おもに人間のしわざ。ワシントン条約で取引が禁止されているにもかかわらず、象牙を求めて密猟(illegal poaching)は跡を絶ちません。
アフリカ象は、メスも牙を持つこと、そして赤ちゃんが生まれるまでに2年かかり、次世代が増えにくい種属でもあることも災いしています。
スマートタグを使って、象さんを守ることができれば、これほど有意義な使い方はありませんよね。

フィリピンからアフリカ大陸へ、そして世界へと「スマート利用」はどんどん広がっていますが、今度は、インドでこんなお話があるんだとか。

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カリフォルニア州と同じように、近年、インドでも干ばつ(drought)が深刻な問題となっていて、作物が順調に育たない被害が相次ぎます。
そこで、作物を植える土壌の水分検知センサーを活用するばかりではなく、作物が枯れたりした場合には、写真を専門家に送って診断してもらうシステムを構築したい。

さらには、近年、熱波(heat wave)が襲ってくるケースが増えているので、そこら中に温度センサーを張り巡らせてデータベースを構築し、熱波がやってくる前に住民に予報を出せるようにしたい。

そんなお話が、ハイデラバード(Hyderabad)の高官から Kii株式会社にあり、クラウドプラットフォームの提案を依頼されているそうですが、普段から「摂氏40度は当たり前」の国にとっては、センサー活用が問題対処の秘密兵器となるのかもしれません。

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なんでも、インドには、官民協力体制で国内100都市を「スマートシティー化」しようという、でっかいプランがあるそうで、プラン実現に向けて、ハイデラバードなどのテクノロジー都市が、ぐいぐいと牽引していくことでしょう。
(写真は、Kiiの現地パートナー、ideabytes ハイデラバード・オフィスのみなさん。手を振っていらっしゃるのが、KiiのCEO荒井 真成氏、右隣が最高製品責任者ファニ・パンドランギ氏)

というわけで、お次は、アメリカのお話です。



<微妙な大統領候補者レース>
変な話、アメリカに何十年住んでいても、いつまでも不思議なことがあるんです。

ひとつは、日本食といえば、寿司屋のカウンターでも、みそ汁を真っ先に食べること。みそ汁は「締め」ではなく、洋風コースのスープみたいに「お腹を温めるもの」と思っているようです。 CIMGf101-2235.jpg

ふたつ目は、太陽が雲間から顔を覗かせると、とたんに袖無しやタンクトップを着たがること。辺りはひんやりと真冬のような寒さでも、そんなことはお構いなし。お日様で暖めればいいや! とでも思っているのでしょうか。

今年は、またひとつ不思議なことが増えました。他でもない、11月の大統領選挙の「候補者レース」で見せる、ドナルド・トランプ氏の破竹の勢い。

昨年7月号第2話でもご紹介したように、トランプ氏は、まったく政治経験のない、不動産王であり、リアリティーテレビ番組のスター。
わたし自身も彼を知ったのは、究極の面接プロセスとも言える人気番組『アプレンティス(Apprentice)』。
各エピソードの終わりで放たれる「きみはクビだ(You’re fired!)」と、最終回で右腕となる部下を選ぶ「きみを採用するよ(You’re hired!)」は、名ゼリフとして人々の心に残りました。


現時点では、トランプ氏が、残るふたり(テキサス州選出のクルーズ上院議員とオハイオ州のケイシック知事)を大きくリードしていますが、ひとつに、「数のマジック」もあるのでしょうか。

数字の上で、ここまでトランプ氏が代議員を獲得しているのは、多くの州が、郡(county)単位で「勝者総取り(winner-take-all)」の方式を採用しているからで、このやり方だと、たとえ州全体に見て得票率が拮抗していても、郡ごとに勝者に与えられる代議員の数では、大きな差がでてくるのです(6月に行われるカリフォルニア州の共和党予備選挙でも、同様の方式を採用。一方、民主党は得票率で比例配分)。

その一方で、一部の有権者にとっては、これ以上あり得ないほどの「優れた候補者」でもあるのでしょう。

だいたい専門家が指摘するのは、支持者は「白人、男性、ブルーカラー、学歴が高卒以下」。
さらには、海沿いのリベラルな地域よりも、内陸部の保守的な地域、とくに「ラストベルト(Rust Belt)」と呼ばれる、製造業がさびれた中西部と南部で人気が高いでしょうか。

人気の背景には、トランプ氏の歯に衣着せぬストレートトークがあって、それが、ブルーカラー層の白人男性の「怒り(anger)」や「失望感(frustration)」と呼応し、得票に結びついているようです。

「移民をアメリカから締め出せ!」「国境に壁をつくってメキシコに支払わせろ!」「イスラム教徒は登録制にしろ!」「アメリカ人から職を奪う自由貿易なんて、ぶち壊せ!」

そんなシュプレヒコールが、トランプ氏から支持者へ、そして支持者から仲間へと広まっていって、あれよ、あれよと言う間に、候補者指名レースのトップに躍り出ています。
そう、今の時代、組合や団体の組織票よりも、どれほどメディアで知られるか、ネットを使ってどれほどわかりやすく個人に訴えかけられるか、どれほど人々の怒りと共鳴できるか、が得票の鍵となるようです。

先日、友人とランチをしていたら、「あなたは、ヒラリー(クリントン前国務長官、民主党候補者トップ)を支持するでしょ?」と問うので、そうだと答えると、「わたしも、11月の総選挙では、絶対にヒラリーに投票するわ!」と言います。
彼女は、「共和党支持者」として有権者登録しているのですが、人の心に憎しみ(hatred)を植え付けるトランプ氏が、どうしても許せないとか。
6月の予備選では、候補者選びに参加しないのかと問えば、「だって、共和党に誰がいるっていうの?」と反語で返されました。

同様に、「トランプ氏に投票するくらいだったら、ヒラリーに投票するわ」という共和党関係者も現れていて、元ニュージャージー州知事で、ブッシュ政権下で環境保護庁長官を務めたクリスティーン・ホイットマンさんも、新聞インタビューでそう明言しています。


ニュージャージー州といえば、大統領候補からトランプ氏の支持者に鞍替えしたクリス・クリスティー氏は、現職の知事。それが余計に「知事のくせに、そんな暇はあるの?」と、元知事の反感を買ったのでした。

そして、ブッシュ前大統領のファーストレディー、ローラさんは、「もしも共和党がトランプ氏を指名したら、あなたは彼に一票を投じますか?」とCNNリポーターに問われると、「・・・」と絶句。
「答えられない」と取り繕ったものの、彼女の表情からは、嫌悪感(disgust)が読み取られました。

もちろん、体制側は、共和党を外から乗っ取ろうとしているトランプ氏を好むわけはありませんが、共和党内部からだけではなく、思想的に敵対するリベラル派からも、トランプ抗戦の動きが出ているのは事実のようです。

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たぶん、大票田のカリフォルニア州予備戦(6月7日)まで、共和党指名レースはもつれ込むと思われますが、得票数が規定に満たずに、7月18日から開かれる共和党全国大会では、大もめにもめることも懸念されています。
(写真左から3番目のマルコ・ルビオ上院議員は、地元フロリダ州を獲得できずにレース撤退を表明、上院の再選も目指さないと発表)

近所の不動産業の方が、「ここ3、4年は、2週間くらいしか先が読めない」とおっしゃっていましたが、不確実性(uncertainty)という点では政界も同じかもしれません。



<大統領選よりも大事なこと>
というわけで、万が一、大統領選で「変なおじさん」が選ばれたとしても、悪いことは永遠には続きません。なぜなら、大統領の任期は、米国憲法で「二期8年」と定められているから。 800px-President_Barack_Obama.jpg

そう、前大統領のブッシュ政権だって、2001年から8年続いた暗黒の時代は、オバマさんが選ばれたことによって、終止符を打ちました(ま、オバマさんの御代が、バラ色だとは言いませんが; Official White House Photo by Pete Souza

ところが、そう簡単に話が終わらないのが、アメリカの司法のトップ、連邦最高裁判所(the Supreme Court of the United States、略称 SCOTUS)。

2年ほど前にもご紹介しましたが、こちらの9人の裁判官は、ひとたび任命されると、終身制(life tenure)。つまり、自ら退任しない限り、「死」をもって職を去る。

それで、つい先日までは、5対4で保守派が勝っていたんです。が、「保守派のボス」とも言えるアントニン・スカリア判事が、先月ハンティング旅行先のテキサスで急逝したことによって、5対4でリベラル派に傾く可能性が出てきたのです。

なぜなら、連邦最高裁判事を指名するのは、大統領。これまで女性判事ふたり(ソニア・ソトマヨール判事とエレナ・ケイガン判事)を任命したリベラル派のオバマさんは、誰かもうひとりを指名し、連邦上院議会にお伺いをたてる権限があるのです。

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というわけで、たいそう不謹慎な話ではありますが、スカリア氏の訃報を受けて、リベラルなサンフランシスコの街角では、歓声が上がりました。
「よし、これで、5対4で最高裁を奪還できる!」と。
(こちらの3年前の風刺漫画では、左がスカリア判事、リベラル派の4人は、右から(任命順に)ルース・ギンズバーグ判事、スティーヴン・ブライヤー判事、ソトマヨール判事、ケイガン判事: Cartoon by Nick Anderson / Houston Chronicle, March 3, 2013)

ところが、「そんなことになったら、一大事!」と死に物狂いの抵抗をしているのが、共和党の上院議員。
「ふん、大統領が指名したって、絶対に承認公聴会なんて開かないもんね!」と、オバマ大統領の任期が終盤に入ったことを理由に、次期大統領にゆだねるべき、と主張します。

そんな中、3月16日オバマ大統領は、連邦控訴裁判所(首都ワシントンD.C.)のメリック・ガーランド裁判長を指名しました。
この方は、ユダヤ教徒の63歳。これまで、企業訴訟の弁護士、検察官を務め、クリントン政権下では司法次官補代理として司法省刑事局を任され、「オクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件」など大事件の捜査と訴追チームを指揮しています。

その後、クリントン大統領に「全米第二の裁判所」とも呼ばれるワシントン地区・連邦控訴裁の裁判長に任命されましたが、「穏健な中道派」と誰もが認める方のようです。
実際にそばで働いた方々も、「予断を持つことなく、案件ひとつひとつに真摯に、丁寧に向き合う法律家だ」と口々に褒めています。

リベラル陣営は「物足りない中道派」と難癖をつけるほどバランスの取れた御仁で、保守派にとっては「民主党大統領からは、これ以上あり得ないくらい絶好の指名」ではありますが、それでも、共和党上院議員の面々は、「誰が指名されようと、絶対に公聴会は開かないし、表決もしない!」と、あくまでも主張を曲げません。

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この背景には、失ったスカリア判事という、とにかくでっかい存在があるのです。最古参「保守派の司令塔」としての絶大な存在感が。(Photo by Franz Jentzen / U.S. Supreme Court)

わたし自身も、スカリア氏のご逝去を知って「よし!」と膝を打ったひとりではありますが、それは、ブッシュ政権下の副大統領ディック・チェイニー氏と親友だったから。

副大統領として関与したエネルギー政策が自然保護団体に情報開示を求められ、最高裁で決着をつける案件があったのですが、チェイニー氏にハンティング旅行に招待されたことのあるスカリア氏が、審理の忌避(辞退、recusal)を求められながらも、「そんなことはしない」と発した言葉が、こちら。

もしも最高裁判事がそんなに安く買えると思えるんだったら、この国は、わたしが想像していたよりももっと深刻な状態にある。
(2004年3月のスカリア氏の発言: 悔しかったので、いまだに新聞記事を持っています!)


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とは言うものの、だんだんとスカリア判事を知ってみると、彼の主張には、とにかく一貫性があって明快であることにも気づくのです。
それは、審議の内容が何であれ、「米国憲法は、書かれた当時の解釈にもとづくべきであって、『今の時代に当てはめると、こうであろう』などと勝手な解釈はしてはいけない」というもの。

この主張に賛同するかどうかは、意見が分かれるところですが、ご自身が判決(Opinion of the Court)に賛成(concur)であろうと、反対(dissent)であろうと、法律家が参考にしたい明瞭な見解を書かれる御仁ではありました。
そして、意外なことに、リベラル派をリードするギンズバーグ判事とも、バーベキューをする仲良しだったとか!

いずれにしても、連邦最高裁判所といえば、ときに大統領府よりも甚大な権限を持つ存在。

2000年の大統領選挙では、彼らの判決によって、「アル・ゴア大統領」ではなく、ブッシュ大統領が誕生しました。
米国内の住民全員に医療保険加入を義務化した、いわゆる「オバマケア」も、すでに口頭弁論が始まっています。
テクノロジー業界でも、「アップル対サムスン」を審議することが決まり、来期10月以降に「盗作」の問題に決着がつけられることになっています。

アメリカ社会を揺り動かす、重大な判事指名と任命ですので、今後の展開に乞うご期待!

追記: 蛇足ではありますが、実のところ、最高裁判事が任命後どのように「変身するのか?」は、まったく読めないケースもあるんです。

たとえば、もう退官なさいましたが、ブッシュ元大統領(父親の方)に任命されたデイヴィッド・スーター判事は、まるで民主党大統領に任命されたがごとく、多くの案件で「リベラル派」に賛同なさっていました(退官も、オバマ大統領のタイミング)。


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そして、最古参となったカリフォルニア出身のアンソニー・ケネディー判事は、「保守派」に数えられるものの「中道派」とも言え、多くのケースで審判を決する浮動票(swing vote)となっています。

ですから、オバマ大統領が指名したガーランド判事にしても、国のトップの法廷では、これまでの拘束(最高裁の前例など)から解き放たれ、どのように変化するかはわからないとも言われます。

「自然と誰かが中道になって、バランスを保つ」ようにと、最高裁も生き物のように変化するのかもしれません。

夏来 潤(なつき じゅん)



「りんちゃん」という先生

いつの間にやら、今年も、もう三月目。

 

 我が家の八重桜も、そろそろ濃いピンクの花を開かせています。

 

 三月は、日本では卒業式のシーズンのようですが、卒業というと「別れ」がさびしい季節でもあるでしょうか。

 

 そんな、ちょっとほろ苦いシーズン、インターネットを経由してNHKの早朝ニュースを観ていたら、こんな話題が紹介されていました。

 

 なんでも、高知県南国市にある農業高校には、犬の教員がいるそうな!

 

 その名も「りん」教諭。

 

 県立高知農業高校の畜産総合科に所属する「先生」で、職員室の片隅に席(座布団)を置き、生徒たちと接する合間は、こちらで休憩なさっているとか。

 

 休憩する合間にも、先生たちのお相手をして「癒し」効果をかもしていますが、卒業アルバムの職員欄や、PTA向けの職員紹介欄にも、立派に顔写真入りで紹介されるほどの公認の先生です。

 

 なんでも、13年前の2003年初夏、近くの舟入川で流されていたところを小学生に助けてもらって、農業高校に運ばれたのが、先生となるきっかけ。

 

 りん担当の畜産総合科、萩原 陽子教諭によると、最初は保健所に連れて行こうかと思っていたけれど、あまりに生徒たちがかいがいしく世話をするので、そのうちに情が移って、学校に住まわせることに。翌年には、晴れて「学校公認」となったとか。

 

 最初は、「捨てられた」ことにショックを受けていたようですが、学校で生徒や先生たちと接するうちに心を開いていって、今では、りん先生よりも在籍の長い人は、あまり見かけないほどのベテランとなりました。

 

運動会では、「動物 借り物競走」に出場して、かけっこをするし、学校で収穫した農作物を売り出す「高農ふれあい市」では、お客さまの「苦情係」を担当します。(写真、高知新聞)

 

 ま、けなげに働くりん先生が相手では、誰も苦情など言えるわけはありませんよね!

 

 「借り物競走」では、一緒に出場した牛さんが怖くて、かけっこにならなかったそうですが、そんな愛くるしい弱点のあるりんちゃんは、やっぱり、学校の人気者。

 

 べつに当番を決めていなくても、放課後に入れ替わり立ち替わり生徒がやって来ては、散歩に連れ出してくれるし、好物の食べ物も持ってきてくれるそうです。

 

 「りんちゃんがいると癒される」「学校になくてはならない存在」とは、まわりのみなさんがおっしゃることですが、とくに畜産科のある農業高校ですから、生き物と接して、命の大切さを学ぶことは大事ですよね。

 


りんちゃんを見ていて、ふと思い出したのですが、そういえば小学校の頃、学校に犬がいたような気もするのです。

 

 ずっと前のことなので、おぼろげにしか覚えていませんが、用務員のおじさんが世話をしていた犬が、校庭を走り回っていたような・・・。

 

 わたしが通った小学校は、とっても大きくて、犬がいても親しく接する機会はなかったのですが、もしもそのときに犬と仲良く遊んでいたら、子供の頃の「犬恐怖症」も消えてなくなっていたのかもしれません。

 

 そう、何事も、実際に接してみると、それまで持っていた(否定的な)考えは、すぐに吹っ飛んでしまうものなのです。

 

 ちなみに、りん先生のいる高知農業高校は、1890年(明治23年)に創設された伝統校なんだとか。

 

 残念ながら、高知県を訪ねたことはありませんが、緑の平野にあって、農業・畜産業を学ぶには最適な環境なのだろう、と想像しております。

 

 そして、りんちゃんが助けられた舟入川というのは、1658年(江戸時代の万治元年)、新田開発のためにつくられた人工の川だそうです。

 

舟入川ができたことによって、土佐藩の中心部にある高知城(現在の高知市、南国市の左隣)とも鏡川を通して結ばれたので、農業用水路としてばかりではなく、高知城下との水運にも重宝されたということです。

(ウェブサイト『高知の河川』舟入川の項を参照。写真は、1936年に撮影された天守古写真、毎日新聞社所蔵)

 

 人気者のりん先生ゆかりの地って、由緒あるところなんですねぇ。

 

 そして、りん先生が送り出した生徒さんたちは、きっと高校時代のことを心の中に大切にしまって、荒波だって凛(りん)として乗り越えられることでしょう。

 

 

<追記>

 こちらの「りん先生」のお話は、3月15日早朝(日本時間)に放映されたNHKニュース『おはよう日本』で紹介されたものです。

 合わせて、高知新聞の紹介記事(1月27日付)も参考にさせていただきました。

 

 『おはよう日本』は、早朝4時半から8時までやっている全国ニュースで、日本にいると早すぎ(!)なんですが、アメリカ西海岸では、日本の午前4時半が昼ごろになるので、観やすい時間帯です。

 

 日本各地の話題が満載なので、海外在住者にとっては、ちょうど「寅さん」で有名な映画『男はつらいよ』みたいに、日本を感じる番組でしょうか。

 

 

2月の祭り:スーパーボウルのファンイベント

このページのエッセイへ


スーパーボウル(Super Bowl)は、アメリカンフットボールのチャンピオンを決める、全米最大のスポーツイベント。



やっぱり、アメフトの人気は絶大なものがありますので、毎年2月初めに開かれるスーパーボウルは、お祭り騒ぎとなるのです。



自分の街が開催地でなくても、友達を招いて自宅で観戦パーティーを開いたり、仲間とスポーツバーで観戦したりと、スーパーボウルの日曜日は、みなさんウキウキ、ドキドキ。



その一大イベントが、サンフランシスコ・ベイエリアにやってきたので、もう、大騒ぎとなりました。



なにせ、ベイエリアは、過去に一回しかスーパーボウル開催の経験がありません。しかも、今回は、「スーパーボウル50回目(Super Bowl 50)」と記念すべき大会。



ですから、「世界じゅうからお客様を招きながら、恥をかいてはいけない!」と、準備にもかなり慎重なのでした。



試合が開かれるのは、シリコンバレー・サンタクララ市にある、サンフランシスコ 49ers(フォーティーナイナーズ)のホームグラウンド、Levi’s(リーヴァイス)スタジアム。



一昨年にできたばかりの新しいホームグラウンドです。



けれども、ファンの方々を楽しませるイベント会場は、そのほとんどがサンフランシスコ市内につくられました。



やはり、サンフランシスコは、ずっと 49ersの地元でしたし、観光で訪問される方も多いので、「おもてなし」に慣れていることもあるのでしょう。



サンフランシスコの街では、たえず何かしらのイベントがあるので、警備にも慣れているし、大人数のお客様にも慣れているのです。



そんなわけで、一番大きなファンイベント会場「スーパーボウル・シティー」は、海沿いのフェリービル周辺につくられました。



ここは、入場無料なので、試合一週間前のオープンから、連日たくさんのファンたちが集いました。



会場にはスポンサー企業のブースやビールスタンドが並んだり、ちょっとしたゲームコーナーがあったり、大小二つあるステージでは、たくさんの無料コンサートが開かたりと、一大イベントの雰囲気を味わおうとファンたちが押し寄せました。



なにせ、試合前日の夜には、有名なシンガーソングライター、アリシア・キーズさんの無料コンサート(!)が開かれるとあって、この土曜日は、午後3時には一旦ゲートを閉めなくてはならないほどファンが殺到した、と報道されました(わたしも行きたかったのですが、行かなくてよかったかも・・・と、会場の映像を見ていました)。



一方、試合が開かれるスタジアムの周辺も、かなり大変だったとか。



スタジアムのまわりは静かな住宅街で、大きな道路を隔ててオフィスも立ち並ぶ地域ですが、周辺道路は閉鎖され、食べ物などの物資を運ぶトラックは、すべてトラック用のX線検査を受ける、という厳戒態勢。



生活道路が閉鎖されるのですから、住民は不便だったでしょうけれど、それよりも、空から警備をする軍のヘリコプターがうるさくてしょうがなかったそうです。



サンノゼの我が家の辺りでも、普段は見かけない(サンノゼ市警ではない)ヘリコプターを見かけましたが、ヘリコプターの羽音って、ほんとにうるさいですよね!



スタジアム周辺では、日に何回も飛び回るので、この騒音には閉口したようです。



スタジアム上空は「飛行禁止区域」になっていて、民間機やドローンは飛べませんが、プライベートジェットが4機「禁止ゾーン」に侵入したので、空軍の戦闘機が出動して追い払った、との連邦航空局の発表。



うち一機は、400キロも離れたサンルイスオビスポ(カリフォルニア州の真ん中)まで追い払われたそうですが、そこからどうやってベイエリアに戻ってきたのかはナゾのまま・・・。



試合の方は、AFCチャンピオンのデンヴァー・ブロンコスと、NFCチャンピオンのキャロライナ・パンサーズが戦いましたが、まあ、どちらも守り(ディフェンス)が異常に強くて、どちらかというと攻撃の歯が立たない、地味なゲーム展開だったでしょうか。



けれども、最終的には、ベテランQB(攻撃の司令塔となるクウォーターバック)ペイトン・マニング選手率いるブロンコスが競り勝って、チーム史上3度目のチャンピオンとなりました。



そんなわけで、ずっと大騒ぎしていたスーパーボウルが終わり、ようやく静けさが戻ったベイエリア。



ほんとは、地元の 49ers に地元で勝って欲しかった・・・というのが、ファンの正直な感想です。だって、1985年、スタンフォード大学スタジアムで開催されたときには、49ers が圧勝して、2度目のチャンピオンに輝いたのですから。



が、今シーズンは、初めっからダメなことはわかっていたので・・・。



代わりに、地元住民として「喜ばしい」ことと言えば、セレブが集う数々のパーティーで、地元の慈善団体のために1,300万ドル(約15億円)が寄付金として募られたことがあるでしょうか。



それから、身近なところでは、あちらこちらの落書きがペンキできれいに塗り直されたことと、幹線道路の「フリーウェイ101号線」が、サンフランシスコとサンタクララ間は美しくお掃除されたことでしょうか。



さすがに、「ゴミだらけ、落書きだらけ」と面目を失う(lose face)のは、許せなかったようですよ。



ま、普段は、車の窓からポイッとゴミを捨てる人も(車のナンバーが付きっぱなしのバンパーが落ちていることも)多いカリフォルニアですが、このときばかりは、「体面」が大事だったんでしょうねぇ。



スーパーボウル50: シリコンバレーが脚光を浴びた日

Vol. 199

スーパーボウル50: シリコンバレーが脚光を浴びた日

アメリカでは、6月まで続く「大統領候補者選び」の季節が始まりました。が、2月のシリコンバレーといえば、一番印象に残るのが、この「お祭り」。

というわけで、今月は、全米最大のスポーツイベント『スーパーボウル』を控える地元の様子をお伝えします。が、その前に、スマートフォンでできる自然保護の小話をどうぞ。

<スマートフォンアプリで自然保護>


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フィリピンの首都マニラから南西の方角に、ブスアンガ(Busuanga)という島があるそうな。南国の島らしく、海のきれいなところで、ジュゴン(dugong)でも知られるそうです。(Photo from “IoT to be used to save Sea Cows in the Philippines” by Colm Gorey, Silicon Republic, January 27, 2016)

ところが、近年、ジュゴンの数が減っていて保護が必要になっているのですが、その「保護活動」に現地の漁師さんが参加する、というプロジェクトが進行中。

イギリスのスマートアース・ネットワーク(Smart Earth Network)と現地のC3(Community Centered Conservation)という自然保護団体が開発した「ジュゴン・アプリ」を使い、クラウドプラットフォームは Kii株式会社が提供するというもの。

いったい、どうしてアプリが自然保護に貢献するの? と不思議に感じます。
 


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通常、海に棲むジュゴンの生態系は空から観察するものだそうですが、それだとお金がかかる。だから、海に出る漁師さんたちにスマートフォンを提供して、代わりに観察してもらうのです。

ジュゴンを見かけたら、「ジュゴン・アプリ」のアイコンを押してもらって写真を撮り、場所データと一緒にネットワークに送る、というもの。これで、ジュゴンの生息区域がわかるし、漁師さんの航路や漁場も正確にマッピングできます。(Photo from Smart Earth Network’s Website, “Dugong App a Success!”)

ジュゴンは哺乳類なので、呼吸をするために定期的に水面に出てきますが、そのときにボートのモーターで傷つけられたり、網にかかったりと、人間の活動がジュゴンの存在を脅かすことにもなっています。


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もともとジュゴンという名は、フィリピンのタガログ語の由来。ジュゴンは「海のレディー(lady of the sea)」として大事にされてきた生き物なので、現地の方々も喜んで協力してくれるそうです。(Photo from a crowdfunding project report, “Local Fishermen Engaged in Dugong Monitoring”, GlobalGiving UK)

現地の方々に海や陸上の在来種を観察してもらう保護活動は、今は世界中に広がっていて、蓄積したデータベースは科学的な分析に重宝されています。

こういった活動は、市民科学(citizen science)とも呼ばれ、誰もが気軽に使えるスマートフォンアプリの普及とともに急速に広まり、科学の前進にも貢献しているようです。

<スーパーボウルその1: 警察の品評会?>
というわけで、お次は舞台をシリコンバレーに移して、「スーパーボウル」開催にまつわる世間話をどうぞ。

2月7日の日曜日、シリコンバレー・サンタクララ市で開かれた『スーパーボウル50(Super Bowl 50)』。言わずと知れたアメリカンフットボールのチャンピオンを決める全米最大のスポーツイベントです。

毎年、開催地は全米を巡りますが、今年は、サンフランシスコ 49ers(フォーティーナイナーズ)の新しいホームグラウンド、Levi’s(リーヴァイス)スタジアムで開催。しかも、「50回記念」と、めでたいイベント。


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もしかしたら、地元での優勝も夢ではない! というファンの期待もむなしく打ち砕かれ、今シーズンの 49ersはメロメロ、プレーオフにすら残れない。

1985年、地元スタンフォード大学スタジアム開催の「スーパーボウルXIX」では、名将ビル・ウォルシュ監督(写真、故人)とQBジョー・モンタナ率いる 49ersが二度目の優勝を果たしたのに・・・。(Photo: Associated Press Archives)

そんなわけで、あまり気乗りのしない地元開催ですが、テレビでは連日スーパーボウルの話題を紹介しているし、サンフランシスコにもファンイベント会場が出来上がっていくにつれ、お祭り気分を味わってみたくもなるのです。
 


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街に繰り出すと、こんな垂れ幕が飾られるのですが、「あれ? 何か変だぞ」と違和感を覚えます。
そう、例年使われるローマ数字ではなく、アラビア数字が使われるのですが、どうして伝統に沿って『L』ではなく『50』の表記なのかと言うと、「L」だと空間が大きすぎて間伸びした感じだし、バランスが悪くロンバルディ杯とも合わないから。
 


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来年は、伝統を踏襲して『LI(51)』に戻るそうですが、49ersは、再び2022年のスーパーボウル開催地として名乗りを上げる、との噂もあります。なぜって、そのときは『LVI(56)』となって、Levi’s スタジアムとの語呂合わせがいいから。

まあ、オリンピックもローマ数字を使うので、ローマ数字には歴史の重みを感じるわけですが、スーパーボウル第一回目(1967年)と二回目(1968年)は、それぞれ『1』『2』と表記していたところ、あとになってNFL(フットボール協会)が『I』『II』と変更し体裁を整えたとか。

というわけで、サンフランシスコのマーケット通りをフェリービルに向かって歩いて行くと、海沿いの道路は通行止めでファンイベント会場(入場無料)に変身しています。試合前日には、アリシア・キーズの無料コンサート(!)というお楽しみも控えます。


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が、この「スーパーボウル・シティー」に入るときには、セキュリティゲートで荷物検査と金属探知機をくぐらなくてはなりません。

ゲートでは、勇ましく機関銃を持った警察官が目を光らせるのですが、いっぺんに何人も「お縄」にできるようにと、腰には簡易手錠のビニール紐を下げています。

この方は、サンフランシスコ市警のSWATチーム(特殊狙撃部隊)だと思いますが、マーケット通りやイベント会場では、犬を連れた二人組の警官も。こちらのワンちゃんは、爆弾を嗅ぎ分ける探知犬(bomb-sniffing dog)で、捜査犬チーム(K-9 または canine unit)に所属。
が、警官は、陸軍の戦闘服のような見慣れない制服を着ていて、腕章を見ると「ロスアンジェルス郡」と書いてありました。はるばる、南カリフォルニアの警察からもワンちゃんチームが出張して来てるんですねぇ(地元の爆弾探知犬では数が足りないのかも・・・)。

路上には、身軽なオフロードバイクの白バイ隊や、爆弾処理班(Bomb squad)のトラックも待機していて、このときばかりは、サンフランシスコは世界で一番安全な街でした。
 


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ファンに向けたイベント会場のあるサンフランシスコがこうなのですから、実際に開催地となる Levi’s スタジアム周辺は、もう厳戒態勢。
一週間前から周辺道路が閉鎖されたばかりではなく、スタジアムに物資を運ぶトラックはすべて(トラック用のでっかい)X線検査を通るという念の入れよう。

普段は、のんびりとしたサンノゼの我が家の上空にも、パタパタと見慣れない(地元警察ではない)ヘリコプターが飛び交うのですが、スタジアムの周辺住民は、道路閉鎖なんかよりも、このヘリコプターに閉口したそうです。
「もう、(軍の)ブラックホークがバタバタと頻繁に飛び回って、うるさくってしょうがないよ」と。
 


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その昔、「喜びの谷(the Valley of Heart’s Delight)」と呼ばれ、20年ほど前までは畑や果樹園が残ったサンタクララ。
この平和な街を手助けしようと、軍警察(Military Police)も派遣されたようですが、庶民としては、そこまでやる必要はあるの? と、大いに疑問に思うのでした(なにせ、地元警官、連邦捜査員、憲兵、民間警備員も合わせると、数千人が出動!)。

が、実際に「スタジアムに爆弾を仕掛けたぞ」という脅迫メールもあったんだとか。FBIの(どこに置かれたか秘密の)司令センターが調べてみると、出処は、遠くヨーロッパ。愉快犯の仕業だと断定されています。

<スーパーボウルその2: ジェット機と民泊>
今回のスーパーボウルは、地元チーム 49ers配分のチケットが抽選で外れて残念でしたが、もっと気の毒だったのが、マサチューセッツ州出身のお隣さん。
 


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試合には、ベテランQBペイトン・マニング(写真、18番)率いる AFCチャンピオンのデンヴァー・ブロンコスと、新星キャム・ニュートン率いる NFCチャンピオンのキャロライナ・パンサーズが出場。
が、「絶対に AFCタイトルを取る!」とお隣さん一族が信じていたのが、マサチューセッツ州の強豪ニューイングランド・ペイトリオッツ。一昨年のスーパーボウル覇者でもあります。

なんでも、もしもペイトリオッツが AFCを制したら、首都ワシントンD.C. に住む甥っ子がプライベートジェット機を操縦し、途中テキサス州ダラスに住む次男をピックアップして、観戦に来る予定だったとか。

お隣さんは、3年前に旦那さまを亡くした未亡人で、息子二人は遠くに住むので、なかなか孫とも会えない寂しい日々。ですから、ペイトリオッツが AFCチャンピオンシップでブロンコスに破れたことが、うらめしくもあるのです。
 


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そう、プライベートジェットは、スーパーボウルに向かう「粋な」道行きのようですが、だんだんと開催日が迫って来ると、ベイエリアの空港は、どこも満杯。
連邦航空局は、1,200機のプライベートジェットが飛来すると予想し、周辺の滑走路を配分する緻密な予定表を作成。

試合二日前にサンノゼ国際空港の近くを通ると、プライベートジェットの区域は、翼が触れ合うほどの混みようです。普段は、一日に90機のプライベート機発着が、倍の180機のペース。
そして、サンフランシスコ空港は150機分、オークランド空港は500機分のプライベート駐機場を確保したとか。
でっかい国際空港だけではなく、小さな地域空港も、リバモア市営空港のように滑走路を増設したり、ヘイワード空港のように試合日をはさんで6日間は24時間営業だったりと、近郊16の空港は、どこもフル稼働。
 


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もちろん、スタジアムの上空は「飛行禁止区域」になっていて、民間機もドローンも進入禁止。
が、「禁止ゾーン」に入ってきた民間小型機4機が、空軍の戦闘機に追われて、近隣空港に強制着陸。うち一機は、370キロも離れた街に追い払われたとか(そこからどうやって戻って来たんでしょう?)

一方、「100万人が集うぞ!」との予想に喜んだのが、民泊サービスの利用者。

ホテルは満杯になるだろうから、自宅を旅行者に開放しようと、Airbnb(エアビーアンドビー)などのプラットフォームでは、掲載物件が急増。Airbnbだけで、「スーパーボウル宿泊」物件は1万件!


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サンノゼの我が家から見える邸宅は、現在「売り」に出ているのですが、この家が「一泊1万ドル(約110万円)でAirbnbに出ている!」と、近所の噂になりました。近くには「一泊50万円」で自宅を貸し出す人もいましたが、誰も借りてくれないので取り下げたとか。

結局のところ、スーパーボウルの試合とイベントには110万人が集ったわりに、ベイエリア外部からやって来た訪問者は、およそ15万人。Airbnbの1万件の物件のうち、6割には借り手が付かなかったようです。
 


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スーパーボウルの名物でもある「ハーフタイムショー」では、イギリスのコールドプレイに加えて、ビヨンセさんとブルーノ・マーズさんが熱演しましたが、この出演のためにビヨンセ夫妻が宿泊したのが、シリコンバレー・ロスアルトスにある50億円の邸宅。
一泊100万円だったそうですが、彼女にとっては値段よりも「ゆっくり休めること」が重要だったのでしょう。(Phto by Jose Carlos Fajardo, San Jose Mercury News, February 9, 2016)

一方、ホテルは? と言うと、サンフランシスコのホテルは予約で満杯だけれど、スタジアム近郊では、「まだ空いてるよ」というホテルも多かったとか。
訪問者はベイエリアの地理関係がよくわからないので、「サンフランシスコに泊っておけば便利だろう」と、高をくくったのかもしれません。
でも実際は、サンフランシスコからサンタクララのスタジアムに行こうとすると、幹線道路「フリーウェイ101号線」が混んで大変なんですよねぇ。

というわけで、ようやく嵐が去ったベイエリア。
 


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地元民にとって嬉しかったことと言えば、近頃とみに増えたグラフィティ(スプレー缶の落書き)が、何事もなかったかのようにペンキで塗り直されたこと。
そして、日頃はゴミだらけの「101号線」が、サンフランシスコからサンタクララ間はきれいに掃除されたことでしょうか(写真は「命がけ」でフリーウェイからゴミを拾い上げる掃除隊)。

ま、それも、人の記憶と同じように、長くは保たれないことでしょうが。

夏来 潤(なつき じゅん)



Stupid(おバカな)

 今日のお題は、ずばり stupid

 

 よく耳にする形容詞で、「愚かな」という意味。

 

 誰かと言い争いをしているとき、

 

 You are stupid!

 あなたってバカね!

 

 と、言いたいことがあります。

 

 もっと強い口調で

 

 You are so stupid!

 あなたって、ほんとにバカね!

 

 と、言い放ちたいこともあります。

 

 あまり好ましくない形容詞ですが、stupid は、日常生活でよく使われる言葉です。

 

 どちらかと言うと、「深い思慮に欠けてしまって、論理的な思考や判断ができない」ことを表します。

 

 何かの原因で一時的に判断力がにぶり「愚かになっている」といった意味合いが強いでしょうか。

 

 You tend to make stupid decisions under stress

 ストレスを感じているときには、愚かな判断を下しやすいものです

 

 まあ、口喧嘩をしていて You are stupid! と叫ぶときには、「あなたって(生まれた時から)いつまでたってもおバカさんね」と言いたいこともあるのでしょうから、stupid には「生まれつき愚か」という意味合いも無くはないのでしょう。

 


 それで、日本の学校では、「愚か」を表す英単語として fool を習うかもしれません。

 

 形容詞は foolish ですが、こちらは「ばかばかしい、おかしなくらい馬鹿げている」といったニュアンスがあり、同じ「愚かしさ」を表す言葉であるわりには、stupid とは違った意味合いがあります。

 

 どちらかと言うと、「道化師の愚かしさ、軽々しさ」を思い浮かべるような言葉で、シェイクスピアに出てきそうな文語的な感じもするでしょうか。

 

ビートルズの有名な曲に The Fool on the Hill というのがあります。
(写真は、The Fool on the Hill が入っているアルバム Magical Mystery Tour

 

 『丘の上の馬鹿者』というわけですが、

 

 歌の冒頭は、

 

 Day after day

 Alone on a hill

 The man with a foolish grin is keeping perfectly still

 But nobody wants to know him, they can see that he’s just a fool

 

 「毎日、毎日、丘の上でひとり、愚かな笑みをたたえた男がじっとしている。でも、誰も彼を知りたくない、だって彼はただの愚か者だから」と、おかしな男性の描写で始まります。

 

 この場合の the man with a foolish grin や、he’s just a fool というのは、「誰にも理解できない、一般常識を超越した変なヤツ」といった感じ。

 

 ですから、stupid の表す「理屈が理解できない、思慮の浅い」といった意味とは、ちょっと異なるでしょうか。

 


それから、stupidfoolish と似た言葉には、

 

 silly という形容詞もあります。

 

 けれども、こちらは軽めのニュアンスでしょうか。

 

 たとえば、誰かが冗談めかしたことを言ったりすると、

 

 Oh, you’re silly

 もう、おバカさんなこと言ってぇ

 

 と、軽くあしらう感じでしょうか。

 

 「軽めに愚か」と言うと、goofy という形容詞もありますね。

 

 She looked goofy in that dress

 あのドレスを着た彼女って、変だったよねぇ

 

 といった風に使います。

 

 この goofy が「おかしな人」という名詞になると、

 

 goofball となります。

 

 どちらかというと、「コメディアン風のおかしな人」とか「努力を怠るなまけ者」といった感じのする言葉でしょうか。

 


 ところで、「愚か者」とか「おバカさん」と言えば、面白い表現もあります。

 

 たとえば、

 

 bonehead(頭が骨でできている人)

 bubblehead(頭がシャボン玉の人)

 airhead(頭の中が空っぽの人)

 

 いずれも名詞形ですが、悪口を言うときに使います。

 

 それから、

 

 moron(とってもおバカさん)というのもあります。

 

 Oh, I was such a moron

 もう、僕ってほんとにバカだねぇ

 

 などと、自分のミスに対して腹立たしいときにも使います。

 

 いずれにしても、自分自身に対して使うのはいいですが、誰かに対して使う場合は、くれぐれもご注意を!

 


 というわけで、奥が深い stupid

 

 どうして藪から棒に stupid の話をしているのかというと、先日、大好きなイギリスのドラマを観ていて、二日続けてこんな表現が出てきたからでした。

 

 You are a stupid woman!

 お前は、愚かな女だよ!

 

 いえ、二つ違うドラマだったのですが、連チャンで stupid が登場したので、イギリスの「おじさま」って紳士のはずなのに、奥さまに対して、こんな悪口を言うんだぁ、と驚いたのでした。

 

 けれども、stupid と言われた奥さまだって、黙っているわけではありません!

 

 最初のドラマでは、You are a stupid woman! と言われた瞬間に、荷物をまとめて家から出て行きました。

 

 その直後、息子は殺人で逮捕されるし、「愚かなお前にはわからないさ」と言っていた高尚なビジネスは、戦時下の敵国との違法取引と暴露されるし、おじさまは、絶望の果てにピストル自殺を図るのです。

 

 次のドラマでは、おじさまが標的となり裏庭で殺されそうになるのですが、犯人に二階の窓辺に連れて行かれた車椅子の奥さまに対して、おじさまがこう叫ぶのです。

 

 Do something! Call the police!

 お前、(黙って見てないで)なんとかしろよ! 警察に通報しろ!

 

 それに対して、奥さまは何もしないどころか、犯人に「こうしたら?」などと助言をしているので、

 

 You are a stupid woman!

 お前は、なんて愚かな女なんだ!

 

 と叫びながらも、間もなく息絶えるのです。

 

 翌朝の事情聴取では、「今まで何年も連れ添ってきたから、半分くらいは悲しいけれど、正直に言って、あの人がいなくなって半分はすっきりしたわ」と、率直に述べる奥さまでした。

 

 そう、stupid という言葉を浴びせるということは、日頃から尊敬の念(respect)が足りないってこと。

 

 そんな風に stupid などと言われたら、その反動は怖いんですよね!

 

 


蛇足ではありますが:

 大好きなイギリスのドラマというのは、こちらの二つです。

 

 ひとつ目は、『Foyle’s War(邦題:刑事フォイル)』シリーズ2、第3話「War Games(作戦演習)」。

 

第二次世界大戦下のヘイスティングス(Hastings)を舞台とした刑事物で、主人公はベテラン警視正であるわりに「私は警察官だ(I’m a police officer)」と名乗る、物静かなクリストファー・フォイル。

 当時、イギリスには敵国との商取引を禁止した法律が布かれていたが、作戦演習が行われた大邸宅では・・・。

 

 二つ目は、『Midsomer Murders(邦題:バーナビー警部)』シリーズ8、第6話「Hidden Depths(蔵の中)」。

 

 こちらは、現代の架空の田舎町ミッドサマーが舞台。のんびりとした田園風景で起きる殺人事件を、バーナビー警部と部下のコンビが次々と解決する刑事物。

 「蔵の中」とは、ワインを貯蔵する蔵のことですが、ニセのフレンチワインが仕込まれ・・・。

 

 日頃から、イギリス人と日本人は似ているところが多く、そのまま日本人が演じても、立派にストーリーは成り立つんじゃないかと思っていて、それが、イギリスのドラマにひかれる理由かもしれません。

 

 原語で鑑賞されることがあったら、ぜひ stupid の箇所をお楽しみくださいませ。

 

桟橋の向こう

 桟橋(さんばし)は、船に乗ったり、上陸したりするときに使う、海に突き出た橋のこと。

 

 海沿いの街や集落には、なくてはならないものですね。

 

 いろんな場所に、いろんな桟橋があって、形も大きさも十人十色。

 

こちらは、竹富島(たけとみじま)の西桟橋です。

 

(Photo of “Taketomi island – West jetty" by maru0522 – originally posted to Flickr as 20071002_06. Licensed under Fair use via Wikimedia Commons)

 

 竹富島は、沖縄から南西にある八重山(やえやま)列島のひとつで、一番近いのが石垣島。

 

 赤瓦の平屋建てと、家をぐるりと取り囲む真っ黒な(珊瑚石灰岩の)石垣で有名な、静かな観光の島です。

 

そんなに大きくはないので、島を散策するには、もっぱら水牛車か自転車を使います。

 

 あせらず、急(せ)かず、水牛の歩みでのんびり行くのも楽しいものです。

 わたしがお世話になった水牛は、頭に赤いハイビスカスをさした女のコ(「花子ちゃん」だったかなぁ、「さくらちゃん」だったかなぁ)。

 

それで、島に出入りするには船を使いますが、現在の高速船は、西桟橋ではなく、島の北東にある竹富東港に発着します。

 

 近くの石垣島からは、高速船で約10分。あっと言う間に到着です。

 

 そんなわけで、船の発着には使われなくなった西桟橋。が、ここからの夕陽はバツグンなので、今となっては観光名所となっています。

 

けれども、西桟橋から舟が出入りしていた時期があったそうで、その頃は、「イタフニ」と呼ばれる松の木をくり抜いた舟や帆船が使われていたとか。

 

 西桟橋の先端は海に沈んでいて、そのまます~っと船出できそうな感じですが、「イタフニ」の行き先は、竹富の西にある西表島(いりおもてじま)。

 

 なんでも、沖縄がアメリカから日本に返還される(1972年5月)までは、竹富島で稲作が困難だったので、わざわざ「イタフニ」で西表島に渡って、田を耕していたそうです。

 

 けれども、西表島には、第二次世界大戦の頃までマラリアの風土病があったので、田を耕す間は、対岸の小さな由布島(ゆぶじま)に田小屋をつくり、そこに寝泊りしながら、稲作に従事されていたとか。(環境省『西表石垣国立公園:西桟橋』の看板より)

 

由布島には、マラリアを媒介する蚊がいなかったし、地下から真水が湧き出て生活用水を確保できたので、田小屋をつくって寝泊りするようになったようです。
(『村影 弥太郎の集落紀行』より「由布(ゆぶ)」の項を参照)

 

 由布島は、潮が引くと遠浅になるので、西表からは水牛車や徒歩でも渡れます。

 

今では、西表から水牛車で行く「植物園見学ツアー」が大人気。

 わたしの乗った水牛車では、「おばあ」が水牛をあやつりながら、三線(さんしん)を奏でて美声を聞かせてくれました。

 歌うは、竹富に伝わる『安里屋(あさとや)ユンタ』。

 

 時代は流れ、観光が資源の八重山列島ですが、その昔、由布島の田小屋で寝起きしたということは、竹富島からは何ヶ月も離れて暮らしていた、ということでしょうか。

 

 「竹富は5寸掘れば珊瑚礁、米はできん。だから西表や由布島にいって田んぼを作った。田小屋をつくっていったら泊まりきりで田植えをしたり、田草をとったり。食べ物は粟(あわ)を炊いたり、サツマイモの団子くらいだった。大変だったさ

 

 と、編集者の森まゆみ氏が、現地の長老の語りをつづっていらっしゃいます。

 

(『森まゆみのブログ くまのかたこと』2011年8月13日掲載「震災日録 8月12日 昔は茅葺きだった。」より引用)

 

 農作業にも、当時の茅葺(かやぶき)屋根の修理にも、助け合いが必要だったはずですから、きっと近所の方たちと一斉に「イタフニ」で海を渡っていらっしゃったことでしょう。

 


竹富の西桟橋に立つと、桟橋の南側には、コンドイビーチの真っ白な砂浜が広がっているのが見えます。

 

 ここは、砂つぶが細やかでやわらかいし、沖のほうまで遠浅なので、子供たちも安心して海水浴できるビーチです。

 

 大人たちにとっても、透けるような水と白く輝く砂は、うれしい遊び場。

 

遠浅の先端まで散策するカップルもいて、まるで海の中に人が浮かんでいるような、不思議な光景でもあります。

 

 ここからくるっと岬を回ると、「星砂」で知られる皆治(カイジ)浜も広がります。

 

 そして、西桟橋からまっすぐ先を眺めると、

 

 海原の向こうに見えるのが、小浜島

 

 その先が、大きな西表島。

 

 竹富は、土地の言葉で「テードゥン」と呼ぶそうですが、「イタフニ」で西表に渡ったことや、石垣島から海底送水の水道が引かれるまでは島内の井戸が枯れて大変だったこと、そして「ゆいまーる」で密に助け合っていたことなど、昔を知る人は少なくなっているのかもしれません。

 

竹富を訪れたのは、6年も前のこと。

 

 ふと見返した写真で「西桟橋」の歴史を再認識したときから、

 

 桟橋の向こうに乗り出す舟が、気になっているのでした。

 

 

追記:

 本文でも書いていますが、こぢんまりとした竹富島は、水牛車と自転車で散策するのが一番です。

けれども、わたしは何年も自転車に乗っていなかったで、舗装されていない小道を行くのが、かなり怖かったです(でこぼこの自然の氷でアイススケートをする感じでしょうか)。

 

「きっと、竹富島の有史以来、一番ヘタクソな自転車乗りだろうなぁ」と思いながら、おっかなびっくりで島を散策しましたが、それも今となっては、いい思い出ですね!

 

この石垣竹富西表の旅で買った三線(さんしん)には、近ごろすっかりご無沙汰しているので、また弾いてみようかなと思っています。

 

 愛嬌のあるシーサーたちを思い出しながら。

 

カリフォルニア・ローリング

 カリフォルニア・ローリングって、食べ物じゃないですよ。

 

あのアヴォカドとカニ身のマヨネーズ和えを海苔で巻いた、アメリカで一番人気の海苔巻きのことではありません。

 

 あちらは、カリフォルニア・ロール(California roll)。

 

 こちらは、カリフォルニア・ローリング

 

 正式には、カリフォルニア・ローリングストップ(California rolling stop)と言います。

 

車が停止(stop)しなければならない場所で、完全には止まらずに、徐行をしながらノロノロと停止線を超えてしまう、交通違反のことです。

 

 たぶん、rolling というのは、タイヤが回っている様子を表しているのでしょう。

 

 「止まれ(Stop)」の看板の前で、タイヤが回っていては、立派な違反ですね。

 

 それで、どうしてこれが California rolling stop と呼ばれるかと言うと、カリフォルニアでは、こういう止まり方をする人が多いからなんです。

 

 あまりに普通に行われているので、ローリングなんて付けずに「カリフォルニア・ストップ」と言っただけで、何のことかわかってしまうくらい。

 

一説には、東海岸ロードアイランド州の「ロードアイランド・ロール(Rhode Island roll)」でも通じるとか。
 でも、「カリフォルニア」が採用された背景には、やっぱり、せかせかと忙しい人が多いし、どこも道が混んでいるので、ドライバー自身に余裕がないことがあるんでしょうね。

 

 わたしは早く前に進みたいのよ! きちっと止まってられないわ! と、そんな気持ちの表れなんでしょう。

 

 でも、どんな事情があったにしても、交通違反に州の名前がつくなんて、あんまり名誉なことではありませんよね。

 


 それで、「止まれ」の場所であっても、注意を払いながら徐行するなら、そんなに大問題にはならないような気にもなります。

 

 少なくとも、まっすぐ進む場合には、自分の車線の前方や対向車線は良く見えているので、そんなに大事故にはつながらないかもしれません。

 

 が、とくに、赤信号で右折するときには、きちんと止まらないと、歩行者や自転車を巻き込んでしまう恐れも出てきます。

 

 そう、右側通行のアメリカでは、「赤信号・右折禁止No right turn on red)」の看板がない限り、直進が赤でも右折は許されます。

 

こちらの写真では、一番手前の車線から赤信号で右折することは可能ですが、なにぶん街の真ん中で、人通りも自転車も(ローラーボードも)多いので、完全に停止して左右をキョロキョロと見渡す必要がありますよね。

 

 そんなわけなので、「止まれ」でストップしなかったり、赤信号で右折するときに、一旦停止しなかったりすると、警察に見つかれば怒られるし、運転免許を取ろうとしているときは、試験官にその場で「失格」と言われます。

 

 そう、カリフォルニア・ローリングストップって、響きはかわいいですが、結構重大な違反なんですよね!

 


 ところで、昨年8月、サンフランシスコ市内の交通ルールが変わったお話をいたしました。

 

 市内のメインストリート、マーケット通り(Market Street)では、ダウンタウン地区の3番通り(3rd Street)から8番通り(8th Street)までは、自家用車では走れないルールになりました。

 

そのときに、「バスとタクシーのみ(Bus and Taxi only)」の赤い車線もご紹介しておりました。

 

 これが、だんだんと市内に広がっていって、こちらも気をつけた方が良い存在となっています。

 

 そう、この赤い車線は、自家用車だけではなく、自家用車を利用した乗車シェアサービス Uber(ウーバー)や Lyft(リフト)も、乗り入れ禁止。

 

 ダウンタウン地区では、たとえばケーブルカーが通るパウウェル通り(Powell Street)が有名でしょうか。ショッピングエリアのユニオンスクエア(Union Square)の近くです。

 

昨年の夏でしたか、ここは観光客が多いという理由で、「ユニクロ」の前あたり(パウウェル通り上、マーケットとオファーレルの間)は、歩道が広がったのと同時に、車道が真っ赤になりました。

 

 つまり、ケーブルカー、バス、タクシーと配達のトラックは走れるけれど、その他の一般車両は、通行禁止。

 

 なんでも、市バス(Muni bus)の前方部分には、違反者をとらえるカメラが付いていて、これで違反した車のナンバープレートを読んで、違反チケットを送りつけてくる、とか!

 

 ですから、どんなに道が混んでいたにしても、この赤い車線だけは避けた方が良いようですよ。

 


 というわけで、現在、サンフランシスコ市内は、お祭りの準備で大騒ぎ!

 

 何のお祭りかと言うと、アメリカンフットボールのチャンピオンを決める『スーパーボウル(Super Bowl)』。

 

 2月7日(日)、キャロライナ・パンサーズとデンヴァー・ブロンコスの試合が開かれるのは、シリコンバレー・サンタクララ市の Levi's Stadium(リーヴァイス・スタジアム)。

 

でも、サンフランシスコの海沿いでは、大きなファンイベントが一週間にわたって開かれるのです。

 

 今年はスーパーボウル50回記念と、おめでたいし、全米からファンが集うので、恥ずかしいおもてなしはできないのです!

 

 そんなわけで、今は、フェリービル(Ferry Building)の周辺は、イベントの準備で通行止め。普段から渋滞するサンフランシスコの街は、いつにも増して渋滞がひどいのでした。

 

そんな人間の右往左往を、カモメさんが面白そうに眺めています。

 

 ふ~ん、地元のチームは出場しないのに、そんなに騒ぐ必要はあるのかなぁ? と、冷ややかに見つめられている感じもするのですが・・・。

 

Whitespace(ホワイトスペース)

 まあ、世の中には、次から次へと新しい言葉が生まれるものですねぇ。

 

 本日のお題 whitespace も、新しい言葉でしょうか。

 

 意味は、「自分のための時間」。

 

 つまり、仕事をするとか、家事をするとか、なんとなくテレビを観るとかじゃなくて、自分のためだけに空けておく「至福の時間」とでも言いましょうか。

 

ヨガや座禅が好きな方なら、頭を空っぽにする時間でしょうし、パッチワークとか編み物が好きな方なら、あぁでもない、こぉでもない、と作品に没頭する時間。

 

 また、ある人にとっては、青空を眺めてボ~ッとする時間。

 

 とにかく、日常のゴタゴタを忘れて、ほっとする合間が whitespace と呼ばれるとか。

 

 普通、white space と言えば、なんとなく想像はつきますよね。

 

 キャンヴァスに、わざと絵の具を塗らない、白っぽい部分を残してある、みたいな感じ。

 

 「余白」とでも言うのでしょうか。何らかの理由で空けてあるスペースのことです。

 

 それが、whitespace とひとつの単語になると、微妙に意味が変わって「自分のための至福の時」となるようです。

 

 たぶん、whitespace をつなげることで、本来は色の名前だった white が「白」の意味を失い、「空けてある」という含蓄を持つようになったのだと思います。

 

 以前から、white noise(ホワイトノイズ)という言葉があって、「背景の騒音を消すために使われるノイズ」という意味でしたが、white には、何かを「消す」「白塗りにする(white out)」という意味合いがあるのでしょう。

 

 ですから、whitespace は、さしずめ「雑念を消す間合い」といったところでしょうか。

 


それで、どこでそんな言葉に出会ったかと言うと、「新年を幸せに過ごす6つの簡単なアイディア」という記事でした。

 

 以下に、箇条書きにいたしましょうか。

 

  1. Make sleep a priority(寝ることを最優先に)
  2. Make more time for family(家族のためにもっと時間を空けよう)
  3. Carve out whitespace(自分のための時間を捻出しよう)
  4. Achieve work-life balance(仕事とプライベートをバンランスよく)
  5. Fuel happiness from within(栄養をたっぷり摂取して、体の中から幸せを育もう)
  6. Embrace gratitude(感謝する気持ちを日常の習慣に)

 

(“Six simple ideas for living happier in 2016” by Brandpoint, from San Jose Mercury News, page CR20, Saturday, January 23, 2016)

 

 最後の「感謝する気持ちを日常の習慣に」というのは、こういった意味でしょうか。

 

 日頃、仕事や家事に忙殺されると、ついつい感謝する気持ち(gratitude)を忘れがち。自分が健康で暮らすのは当たり前になっているし、ほんとは家族とか、友人とか、身近にいる人たちに一番感謝しなければならないのに、「感謝しよう」と思い立つのは、その人が遠くへ行って(逝って)しまったとき。

 

 だから、日頃の健康に感謝したり、身近な人に感謝の気持ちを伝えたり、というのを日課として日々の生活に取り込んだらいかがですか? という提案です。

 

 あれもない、これもないの「ないない尽くし」ではなくて、「あ~、今のわたしで良かったぁ」みたいな感じでしょうか。
 


そして、3番目に出てきているのが、今日のお題 whitespace

 

 Carve out whitespace(自分のための時間を捻出しよう)ということですが、

 

 Whitespace でリラックスできたあとは、「よし、体にいいものを食べて、また頑張ろう!」と元気も出てくるし、「あなたがいてくれて、ほんとに良かったわぁ」と感謝しやすいのかもしれませんね。

 

 ということは、whitespace は、元気の源なのかも。

 

ハッピーニューイヤー! とブラウニー

 Happy New Year!

 

 新しい年も明けて、もう3週間。

 

 近頃は、次から次へといろんな事が起きるので、月日が経つのが早く感じますよねぇ。

 

こちらサンフランシスコ・ベイエリアでは、雨季(rainy season)も本番。

 

 おかげさまで、順調に雨が降っています。

 

 雨の合間は、まぶしいくらいの緑。太陽の光は、年が明けてだんだんと強くなってきたので、緑の丘は、まるで蛍光色。

 


 そう、昨年はカリフォルニア州の干ばつ(drought)も4年目に入り、今シーズン雨が降らなければ、これから先どうなってしまうんだろう? と、頭を抱えていたところでした。

 

 それが、1月に雨が降った日数は、1月22日現在で、14日

 

 昨年は、1月から4月の4ヶ月間に、たった10日しか雨が降らなかったので、それを考えれば、大いに嬉しい雨季のシーズンとなっています。

 

 普段は雨が降ると、やれ川が氾濫したとか、崖崩れの心配があるとか、雨を疎(うと)んじる報道が目立ちますが、今年は雨の予報にも、「まあ、雨が降って嬉しいわねぇ」と、ニュースキャスターたちも微笑むのです。

 


 そんな新しい年が明けてすぐ、ご近所さんがあいさつにいらっしゃいました。

 

 ドアを開けると、二軒隣のご近所さんで、

 

Happy New Year! と言いながら、こちらのビン詰めを手渡してくれました。

 

 両手に抱えたタンボール箱には、あと二ビンしか残っていませんでしたので、どうやら、ご近所じゅうをあいさつに回っていらっしゃったのでしょう。

 

 この界隈では、クリスマスカードのやり取りはするものの、新年パーティーとか謹賀新年のあいさつとかはやらないので、あら、珍しいと思ったのでした。

 

 ずしりと重い頂き物は、メイソンジャー(Mason jar)に詰められたもので、なんだか綺麗なので、テレビ棚の上に飾って、眺めておりました。

 

 ホットココア(hot chocolate)の材料かな? と思いつつ。

 

それで、つい先日、手作りカードの中を覗いてみたら、レシピが印刷されていて、どうやらジャーの中身は、ブラウニー(brownie)をつくる材料だったんです!

 

 ご存じの方も多いことと思いますが、ブラウニーというのは、いかにもアメリカ人が好きそうな、チョコレートを混ぜ込んだ、まったりとしたお菓子です。

 

いえ、わたしにしてみたら、あまりに甘いので、一口かじって止めてしまうのですが、まあ、みなさん、嬉々としてブラウニーを召し上がるんですよ。

 

 ですから、生粋のアメリカ人のご近所さんとしては、「誰にでも受ける」と思われたのでしょうねぇ。

(Photo of chocolate brownie by Ɱ – from Wikimedia Commons)

 


 まあ、自分でブラウニーをつくるかどうかは別として、「お菓子の材料をメイソンジャーに入れて配るなんて、オシャレなアイディアねぇ」と感心していたんです。

 

でも、実は、自家製クッキーを焼いて差し上げるのではなく、「材料をジャーに詰めて差し上げる」というのは、近頃の流行りだそうですよ!

 

 ブラウニーの他にも、ジンジャーブレッドクッキー(gingerbread cookies)、チョコチップクッキー(chocolate chip cookies)、オートミールピーナッツクッキー(oatmeal peanut cookies)と、アイディアはいろいろ。

 

 色とりどりの材料は、ていねいに平たく詰めるのがコツだとか。

 

 昨年5月にもご紹介していたように、メイソンジャーにサラダを詰める「メイソンジャーサラダ」が流行りましたが、その頃から、いろんなものを詰めちゃいましょう! と、クッキーの材料にまで派生したんでしょうね。

 

 自分の家で焼き上げると、オーブンから出したばかりのアツアツのクッキーが食べられること。

 

 そして、少なくとも自分で材料から焼いているので、変な混入物はないことがわかること、などが人気の理由かもしれません(この場合は、材料を詰めてくれた相手を信用するしかありませんけれどね)。

 

 というわけで、ご近所さんから頂いたジャーには、下から順に以下の材料が詰められています。

 

1カップの小麦粉、1/3カップのお菓子用ココア、小さじ1/2の塩を混ぜたもの

2/3カップの白砂糖

2/3カップのブラウンシュガー

1/2カップのセミスイートのチョコチップ

1/2カップのヴァニラチップ

1/2カップの砕いたピーカンナッツ

 

 自分で用意するものは、卵3つ、2/3カップのカノーラ油、小さじ1のヴァニラエッセンス。(2/3の表記は、「3分の2」を表します)

 

 ジャーの中身と上の材料を混ぜ合わせ、30センチ四方のベーキングトレイに広げて、180度に熱したオーブンで25分から30分焼くと、できあがり!

 

 爪楊枝をさしてみて中心部が焼けていたら完成ですが、焼き過ぎないのがコツだとか。焼き上がったあとは、ラックの上で冷ましましょう、とのことです。

 

ちなみに、こんなにステキな「メイソンジャー」と、細やかなレシピをくださったのは、男性の方なんです。

 

 二軒隣には、何年か前に男性カップルが引っ越して来られたのですが、新年のあいさつに来られたのが、大きな銀行の近所の支店長さん。

 

 パートナーの方は、めったに見かけませんが、テクノロジー企業にお勤めとか。

 

 ご結婚されているかどうかは不明ですが、今年の暮れは、失礼のないようにクリスマスカードを差し上げようと思います。

 

昔の映画って面白い!

 いえ、たいしたお話ではないんですが

 

 先日、テレビで観た映画が面白かったんです。

 

 タイトルは、『The Taking of Pelham One Two Three』。

 

 1974年リリースの、ニューヨーク市の地下鉄を舞台にした映画です。

 

 Pelham 123(ペルハム・ワントゥースリー)は、地下鉄の列車の名前。

 

 The Taking of というのは、その列車を乗っ取ったという意味。

 

そう、四人組の強盗が、飛行機ジャックならぬ、地下鉄ジャックを起こして、身代金を要求する、という奇想天外なお話です。

 

 先頭の一両だけ「人質」にして、17人の乗客とひとりの新米車掌さんが巻き込まれるのですが、「これから、いったいどうなるのよぉ?」と、手に汗握るアップテンポなストーリー展開になっています。

 

 主人公は、強盗ではなく、地下鉄を取り締まる鉄道警察(Transit Police)のガーバー警部。

 

 普段は喜劇俳優のウォルター・マッソーさんが、味のある刑事役をこなしています。

 

(邦題は『サブウェイ123 激突』というそうですが、「激突」は当たってないのかも;Original film poster of "Taking of Pelham One Two Three (1974 film)" by Source. Licensed under Fair use via Wikipedia)

 


 まあ、地下鉄を乗っ取るなんて、発想がはちゃめちゃですが、強盗さんたちの格好も、トレンチコートに中折れ帽をかぶり、黒縁眼鏡とヒゲで変装と、ヘンテコリンなんです。

 

 そして、お互いを「ミスター・ブルー」「ミスター・グリーン」と、コードネームで紳士的に呼び合うのです。

 

 冷血でイギリスなまりの「ブルーさん」が親玉で、「グリーンさん」が列車の運転を担当する元・地下鉄運転手。それに、ちょっと凶暴な「グレーさん」と、一番下っ端の「ブラウンさん」が加わります。

 

 気短かな、危ない「グレーさん」の役には、『Princess Diary(邦題プリティ・プリンセス)』や『Pretty Woman(プリティ・ウーマン)』などで、とっても味のある「おじさま」役を務めたヘクター・エリゾンドさんが演じています。

 

 若い頃から、髪は薄かったようですが(失礼!)、昔は、嫌なヤツも演じていらっしゃったんですねぇ(そう、ほんとに粗暴な感じの強盗で、それが、あとで災いするんですけれどね)。

 

 この映画を見始めたのは、土曜日の真夜中。

 

 「やめよう、やめよう」と思いながら、ついついテレビを消せなくて、ようやく中休みに入った午前2時、録画をしてベッドにもぐり込みました(それでも、その先が気になって、なかなか寝つけず・・・)。

 

 きっと、ものすごくヒットした映画なんでしょうね。

 

2009年に、同名のリメーク作品が上映されたようですよ。

 

 こちらは、デンゼル・ワシントンさん主演ですが、強盗と知恵比べするのは、彼にはぴったりの役柄かもしれませんね。

 

 対する強盗の親玉は、ジョン・トラボルタさんが演じていらっしゃるとか。

 

(Theatrical release poster, "Taking of Pelham 123 (2009 film)" by Source. Licensed under Fair use via Wikipedia)

 


 ストーリーはあえて書きませんが、いくつか興味深い場面もありました。

 

 そう、1974年というと、アメリカでは、まだまだ人種融合の過渡期。

 

 ですから、「有色人種」が戯画的に描かれる場面も目立ちます。

 

たとえば、映画の冒頭では、鉄道管理システムを視察に来た日本人の四人組が出てくるのですが、みなさんスーツにネクタイで、黒縁眼鏡をかけていて、ひとりは首からカメラを下げ、パシャパシャと何でも写真に撮る、といった具合。

 

 ガーバー警部が施設内を案内しながら説明をつくしても、四人組からは何の反応もないので、「英語がまったくわからない」と勘違いするのです。

 

 が、乗っ取り事件が起きて、「この猿たち(monkeys)をどこかに連れて行ってくれよ!」と警部が叫ぶと、流暢な英語で「心配しなくても結構ですよ、自分たちで出口はわかりますから」と、お辞儀をしながら、その場を去っていくのです。

 

 昔は、「日本人はいつもスーツにネクタイで、眼鏡をかけて、首からカメラを下げている」というのは、戯画的なステレオタイプでしたねぇ。

 

 あまり反応がないので、「こっちの言ってることは、ちゃんとわかっているのかなぁ?」というのも、多くのアメリカ人が抱いていた印象だったのかもしれません。

 

 それから、ミスター・ブルーと同じ駅から乗り込んだ、黒人の若者。

 

 オレンジ色のとっくりセーターに茶色の革コートをまとって、帽子を斜めにかぶるオシャレな男性ですが、彼の「アフロヘア」は、当時アフリカン・アメリカンの間で流行っていた髪型でしょうか。

 

 オシャレだし、頭の回転が速くておしゃべりだし、目立つのが災いして、ミスター・グレーに銃で殴られて血を流す、という損な役回りです。

 

アフロヘアといえば、この頃から「ディスコ(disco)」というジャンルが大ヒットして、オシャレな若者たちが、ビートに合わせてダンスするようになったのでしょう。

 

 『ソウル・トレイン(Soul Train)』というダンスの長寿番組が始まったのも同じ頃で、アメリカ全土が、ファンキーな音楽に包まれていた時代です。

 

(写真は、『ソウル・トレイン』に登場したステープル・シンガーズ。右奥の男性が、番組の制作者で司会役のドン・コーネリアス氏;Photo from Wikimedia Commons)

 


なにせ、この映画は、ニューヨークの地下鉄が舞台。

 

 この街を熟知する方だったら、駅の名前が出てきても、手に取るように地理関係がわかるのでしょう。

 

 わたしは、何番街の駅がどこかもわかりませんし、第一、主人公の「ガーバー警部(Lieutenant Garber)」が、「ガバ」としか聞こえませんでした。

 

 いつか、マンハッタンに旅をして、「君の英語は、カリフォルニアなまりだねぇ」と言われてビックリしたことがありましたが、ニューヨークの言葉は、ボストン周辺の言葉と同様、「Rのない方言(R-less dialects)」と呼ばれているそうな。

 

 そう、ついつい「R」の音をはしょってしまう。

 

 だから、GarberGabaに聞こえても、不思議はないのかも。

 

 というわけで、とりとめもないお話になってしまいましたが、とにかく、この映画は面白い!

 

 機会があったら、ぜひ(昔のオリジナル版を)ご覧になることをお勧めいたします。
 


蛇足ではありますが:

 文中に出てきた、昔のステレオタイプのお話ですが、どうやら今でも「東洋人」というイメージは、こんな感じなのでしょうか?

 

こちらは、イタリアのAlessiという、キッチン商品の有名ブランドが出すエッグスタンド。頭の中に塩が入るようになっていて、スプーンも付いて、現在、オンラインで販売中。

 

 台湾の国立故宮博物院(National Palace Museum)から依頼されて、ステファノ・ジョヴァンノーニさんがデザインされたもので、その名も『ミスター・チン(Mr. Chin)』。

 

 アメリカでは、その昔、アジア系住民のことを「東洋人(Orientals)」と言っていましたが、1960年代から「アジア人(Asians)」と改名する動きが広まって、今では、人を表す「オリエンタル」という言葉は死語になっています。(当初の掲載では、自分の感覚で「1990年代から」と書いておりましたが、「1960年代の市民権運動の時代」というのが正しいようです;参考文献:Lan Cao and Himilce Novas, Everything You Need to Know about Asian American History, New York: Penguin Books USA, 1996, page xiv, Introduction)

 

 まあ、「オリエント」や「アジア」といえば、ヨーロッパ人からすると「中近東」をイメージする言葉のようで、たとえば、「トルコがヨーロッパとアジアの中間地点」と言う場合、「アジア」とは、シリアやイラク、イランを指す言葉ですものね。

 

 その昔、日本人の友人がカリフォルニアからメイン州に引っ越したら、「チャイナマン」と呼ばれたそうですが、Alessiの『ミスター・チン』は、その頃を彷彿とさせる時代錯誤な感じもしますよねぇ(アメリカで販売したら、問題になるのでは?)。

 

CES: なんだか、欲しいモノがいっぱい!

Vol. 198

CES: なんだか、欲しいモノがいっぱい!

 


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毎年、年が明けるとすぐにラスヴェガスで開催される、CES(シーイーエス)。

今年からは、「CES」というのが正式名称。主催者も家電協会からテクノロジー協会(the Consumer Technology Association)と名称変更し、「家電の祭典」から離脱を図っています。

今年は、VR(バーチュアルリアリティ)ヘッドセット、ドローン、車のセンシング技術と注目分野はたくさんありましたが、ここでは生活に密着した3つの話題にしぼりましょう。

<身の回りのセンサー>
CESに関しては、すでにいろんな情報がお耳に入っていることと思いますが、個人的に印象深かったのが、いわゆる「モノのインターネット(the Internet of Things:略称 IoT、アイオーティー)」と呼ばれる分野。

IoTのメイン会場であるテックウェスト(Sandsホテル周辺)を訪れると、昨年よりももっと「形になっている」のが印象的でした。
そう、「モノのインターネット」という漠然とした概念が、具体的な製品となって現れていて、しかも、ありとあらゆる場面に登場している、といった感じ。
 


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まあ、だいたい「モノのインターネット」というのはマズいネーミングでして、とってもわかりにくく、人によって思い描くことが異なります。
が、要するに、いろんなモノにセンサーが付くことによって、スマートフォンを使ってネット経由で遠隔操作できたり、データの蓄積によってシステムが自動的にモノを制御したりと、便利にモノを使いこなしたり、人が介在する場面を減らしたりする工夫を指しますね。

たとえば、歩数、血圧、カロリー消費量、睡眠パターン、ストレス度を計測するアクティビティ・トラッカー(活動量計)に代表される「ウェアラブル(Wearable)」製品も、広義の「モノのインターネット」に入るでしょうか。


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身につけるすべてのモノにセンサーが付き、頭のてっぺんからつま先まで、常にモニターされます。
標準値から外れると警告を発してくれたり、「体脂肪を減らす」などの目標を設定しておくと、励ましの言葉をかけてくれたりと、健康志向の方々には強い味方です。
スポーツ選手でなくとも、ソックスやスポーツウェアにセンサーを! というのは、常識になりつつあるでしょうか。

フィットネス志向のウェアラブルに並んで、赤ちゃんの体温を24時間モニターする絆創膏なども登場し、健康(health & wellness)もキーワードとなっています。

そして、近頃は、心電図(ECG、EKG、electrocardiography)にも流行の兆し。

胸のあたりに小型の心電図モニターをまとって、定期的に心電図を取り、異常があれば、データファイルを主治医に送る、というもの。


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こちらの XYZという会社は、医療用の小型心電図モニター(写真左端の白い機器)と健康用のカラフルなアクティビティ・トラッカーを紹介していて、専用のスポーツウェアも販売しています(モニターは胸のあたりに当てるので、落っこちないように、ホックでウェアに留めるようになっている)。


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スマートフォンやタブレットに出てくる画面もわかりやすいです。
アクティビティ・トラッカーは、馬やアヒルといった動物のイラストで活動量を示してくれますし、心電図の波形は、正常だと緑の波形、異常だと赤の波形になるそうです。
赤の異常が見つかると、PDFファイルにして主治医に送り、診断を仰げるようになっています。

心拍計と言えば、近頃は手首に付ける活動量計にも取り込まれていて、たとえば、アクティビティ・トラッカーの大御所 FitBit(フィットビット)は、「チャージHR(Heart Rate)」を販売し、健康な人でも常に心拍数を測ることを奨励しています。
心臓のあたりに付けなくても、手首からのデータをどれほど正確に補完できるか、というアルゴリズムの問題になっているのでしょう。

そして、身につける「ウェアラブル」のもうひとつの流行りは、ベッドや枕が賢くなっていること。
 


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こちらは、韓国の Coway(コウウェイ)という会社が出品するベッドで、マットレスの中のセンサー装置(ベッド奥の白い装置)が、睡眠の長さやパターン、呼吸数、心拍数を計測することで、睡眠に「67点」とスコアを付けてくれたり、「ディナー後に散歩すると、良く眠れますよ」とアドバイスしてくれたりと、より良い眠りをサポートします。
手元のスマートフォンに点数やアドバイスを出してくれるわけですが、睡眠パターン、心拍数、呼吸数が、わかりやすくグラフ化されています。

さらには、マットレスの中には、マッサージチェアみたいな振動装置も付いていて、寝入り時のリラックス効果や、飛行機の微振動みたいな「ゆりかご効果」も演出してくれます(飛行機で良く眠れる人って多いですよね)。
センサー装置は、ひとり一台、振動器は、ひとり4つマットレスの中に埋め込まれています。

微振動と言えば、「賢い枕」と「賢いマットレス」を販売している会社(ずばり SleepSmart(賢く眠る)という会社名)もあって、安眠をサポートするマットレスだけではなく、いびきをかき始めると、枕の振動でいびきを抑える、といった機能も登場しています。
 


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上記Cowayは、韓国では浄水器、空気清浄機、トイレのビデ機能(TOTOのウォシュレットみたいな装置)のトップ企業ですが、間もなく、賢いベッドも国内販売するそうです。
「ウォシュレット」製品は、単なるビデ機能だけではなく、脱水症状(dehydration)の検知機能も付いているとか!

アメリカでは、ビデ機能だけでは売れないので、何かプラスアルファがあれば、飛ぶように売れるかも。

<賢い生活、スマートホーム>
一方、家のまわりの「モノのインターネット」。日常生活では、それこそ星の数ほど応用が考えられますので、近頃は「スマートホーム(Smart Home)」と呼ばれる分野が確立しています。
昨年よりも、アイディアや製品に具体性が出てきたので、見ていて楽しくなっています。
 


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たとえば、玄関の呼び鈴。こちらの「リング(Ring)」という呼び鈴にはカメラが付いていて、ベルが押されると、スマートフォンの映像で来訪者がわかるだけでなく、自宅から離れたカフェにいたとしても、まるで家の中にいるようにスマホ経由で来訪者に話しかけることができます。
これで、押し売りや空き巣狙いなども、撃退可能!
モーションセンサーも付いているので、たとえば前庭の芝生を荒らす犯人(犯犬)が誰なのか?を、証拠ビデオにしてスマホに送ってくれたりもします。

「リング」単体でも利用できますが、ADTという警備会社(日本のSECOMみたいな会社)の警報システムと一緒に利用すると、ドアの施錠や照明の点灯・消灯も遠隔地から可能になるようです。
類似の警備システムは、ケーブルテレビ配信会社のコムキャスト(Comcast)なども熱心に展開しています。やはりホームセキュリティは、スイートスポットでしょうか。
 


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こちらは、「我が家に欲しい!」と思ったアイディア商品で、水漏れ探知機(water leak detector)。
アメリカの家庭は、瞬間湯沸かし器ではなく、ガレージにでっかい温水器(water heater)を置くのが普通ですが、たとえば、この大きなタンクが水漏れを起こしたら、「水漏れしてますよ」と教えてくれる、ありがたい装置。
被害が甚大になる前に、手を打つことができます。

これは、iDevices(アイデバイス)という会社の製品で、iPhoneで照明や冷房・暖房を操作するシステム(センサー付きのソケット、コンセント、サーモスタットと制御ソフト)を提供しています。

実は、「水漏れ探知機」というのは、人気の機能のようでして、フロアを歩いていると、複数の会社が出品していました。


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こちらは、Fibaro(フィバロ)というポーランドの会社が販売している探知機セット。水漏れに加えて、煙、明るさ、扉の開閉、モーション探知機が入っていて、500ユーロほどで販売されているとか(手前の丸いのが水漏れ探知機。モーションセンサーには、動き、傾き、光、温度センサー機能が含まれる)。

ブース担当者は、「わたしはキッチンの流し台の下や冷蔵庫の後ろに水漏れセンサーを置いているわ」とおっしゃっていたので、「水漏れ」というのは、アメリカだけではなく、ヨーロッパでも頭の痛い問題なのでしょう(冷蔵庫には製氷用の送水線を取り付けるため、ここから水漏れすることも多い)。
 


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一方、昨年ご紹介した会社も、健在でした。モーションセンサー付き電動歯ブラシを出す Kolibree(コリブリー)や、何でも屋のお人形「Mother(マザー)」ハブを出すSen.se(センス)と、懐かしい面々がブースを出します。

今年は、「Peanut(ピーナッツ)」センサーも登場し、「温度」「お薬」「保管庫」「紛失防止」など場面に特化した、カラフルなセンサーを提供しています。
「子供部屋の温度が低すぎますよ」「お薬を飲むのを忘れていますよ」「誰かが宝石箱に触りましたよ」「鍵は棚の上ですよ」などと、ちょっとした日々の手助けをしてくれます(今春、ひとつ30ドル弱で発売)。

<日本の会社がんばる!>
実は、IoT会場「テックウェスト」の一番人気は、日本の会社でした。

「洗濯物をたたんでくれる、スゴいロボットがいるらしいよ!」と友人に教えてもらって、あちこちを探し回ると、なんだか黒山の人だかり。


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そう、こちらがロボットをつくっている Seven Dreamers(セブンドリーマーズ)という会社です。
見かけは洋服ダンスのようですが、一番下の引き出しに乾かした洗濯物をごそっと入れておくと、ひとつずつ折りたたんでくれて、色や種類別に真ん中の台に重ねてくれる、というスゴいロボット。その名も「Laundroid(ランドロイド)」。

残念ながら、こちらはモックアップ(模型)ですが、昨年10月のCEATEC(シーテック)では実際にたたむ場面を製品デモしたんだとか。
洗濯物が何であるかを画像解析して、器用に折りたたむロボット技術を駆使する、驚きのマシーンなのです。


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何年か前、カリフォルニア大学バークレー校が開発した「洗濯物折りたたみロボット(laundry-folding robot)」のビデオを見たことがあって、二本の腕が器用にシャツをたたんでいくのが感動的でしたが、中身はどうなっているのか見てみたいものです。

Seven Dreamers社は、「発明家のおじさん」が設立した会社で、すでにシリーズAとして15億円の資金を調達されているとか。
家電のPanasonicや住宅メーカーの大和ハウスとパートナーを組み、来年の製品発売を目標とするとともに、将来的には、洗濯・乾燥・折りたたみ総合機を実現し、新築住宅に装備しようというプランもあるとか。
折りたたみ機単体では高価になりがちですが、住宅ローンに入ってしまえば、値段はあまり気になりませんものね。

教えてくれた友人と同様、わたしも家事の中で「洗濯物の折りたたみ」が一番嫌いなので(もっとも時間の無駄に感じる)、早くランドロイドくんが登場することを願っています。
欲を言えば、人によって折りたたみ法は異なるので、最初に「こうやってちょうだいね」と、ロボットを教育できるといいですよね!

一方、テクノロジー業界の大御所、ソニー。こちらの展示会場でも、気に入ったものがありました。


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こちらは、「MESH(メッシュ)」というブロック状の電子タグで、見かけは、単なる長方形の小さな積み木。
けれども、これに温度・湿度、明るさ、人や物の動きといった各種センサーが付いていて、ブロックを組み合わせることによって、自分なりの使い方ができる、という遊び感覚の商品。
たとえば、子供が部屋に戻ってきたら、椅子に座っているクマさんが動き出すとか、キッチンで料理中のお母さんが壁をたたくと、2階の勉強部屋のLEDタグが光って息子を呼べるとか、使い方は無限に考えられるのです。
 


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「積み木」が面白いだけではなくて、「設計」が簡単なところもスゴいです。スマートフォンやタブレットの画面で電子タグのアイコンをつなげるだけで、設計図が完了。専門知識がなくても、自由な発想で「開発」できるのです。

この夢のある「積み木」は、すでに日本とアメリカで販売されていますが、惜しむらくは、ひとつ6,980円と高いこと。
子供に与えて、考えさせるのに最適な商品と思われますので、「学校割引」があると教育現場でも使いやすいことでしょう。

というわけで、世の中がどんどんセンサーでつなげられ、モノとモノが会話するようになった今日この頃。


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これまで「モノのインターネット」と言うと、制御装置となる「ハブ」とモノをつなげにくかったり、手元のスマートフォンから指示を出しにくかったりと、うまく作動しないケースが多かったことも否めません。

これから様々な製品が市場に登場し、消費者に試してもらうことで「自然淘汰」され、ほんとに日常生活に必要な、使いやすいアイディア商品が出回ることが期待されます。

夏来 潤(なつき じゅん)

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